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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.2.01 自らに問う
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85.略奪系能力

 さて、ひとしきり騒いで落ち着いた後、改めて八束さんに自己紹介をする。


「三木充です。よろしくお願いします!」

「お、おぅ…」


 尊敬の眼差しを向けると、ちょっと照れたように視線をそらす人狼。

 そのまま誤魔化すように話を続けてきた。


「で、略奪系の能力についてのコツって話だったが……どのへんから始めりゃいいんだ?」

「さっぱりなので出来れば始めからでお願いします!!」

「……えぇと、そうだな。とりあえず、何か聞いていることもあるかもしれないが、おさらいも予て基本的なところからいくか。

 まず略奪系の能力といっても実際はいくつか種類がある。大まかに言えば対象、条件、手段、反映の4つ。これらを尺度にすれば大体の違いはわかる」


 ふむふむ。


「まず一つ目の対象。略奪出来る相手に対しての制限がどれくらいあるか。例えばそのへんに落ちている道端の石っコロからでも奪えるのか、それとも生きている奴じゃないとダメなのか、逆に実体を持っていない相手じゃないとダメ、なんてのもあるかもしれない。

 例えばオレの“餓狼”だと相手の実体あるなしに関しては関係ないが、無機物は無理だ。もっとも無機物に何か力が取り付いてれば、そっちを奪うことはできるがな。無機物そのものの特性だけを奪うことは出来ない」


 なるほどねぇ…。

 伊達のスマートフォン掴んだ後、ステータスが見れるようになったのは、スマートフォンそのものからステータス機能を奪ったのか、それとも伊達からステータスを見れる能力を奪ったのか、どっちだったんだろうか。

 それによって、この対象も大きく違うわけだ。

 モーガンさんの使い魔の狼から支配権だけ奪えたあたり、形のないものでも大丈夫そうかな?


「二つ目の条件。これは発動における前提と言えばいいか。

 意志だけでOKなものもありゃ、何か特殊な儀式しなきゃいけないとか、魔力が一定以上ないとダメとか、月齢が特定の時期じゃないとダメってのまで色々ある」


 発動のための前提条件。

 オレの場合でいうと、起動を意識すること、だけかな。今のところ。

 ああ、でも使用に関して何か魔力とか霊力的なものを使ってる可能性も否定できないから、もうちょっと回数使ってみないとなんとも言えないな。


「んで次が手段。こりゃもうそのまんま、どうやるか、だ。

 触るだけ、視界に捉える、声を聴かせる、などなど。条件が満たされて能力が発動した状態で、どのように相手にアプローチすれば奪えるのかって話」


 これもわかりやすい。

 左手で触れるか、そこから発生した赤黒い気流で捉えるか。


「最後の反映、これは言わば咀嚼すんのか丸呑みするのか的なトコだ。

 奪った能力についてそのまんま自分が使うのか、自分が使えれば使うのか、それともその能力の特性を加工して使うのか。例えば空を飛ぶ能力を奪いました。でも自分には羽がない。このときに、自分の体から羽を生やすのか、羽がないので活かせないのか、飛ぶという特性そのものを抽出して羽が無くても飛べるようになるのか。

 以上、この4つの尺度が基準になる。もしお前が自分の能力について調べるっていうなら、この4つがわかるように検証するのが近道だ」


 うん、わかりやすい。

 例えば最初の対象についてだったら、コンピューターに使ってみるとか、幽霊とかに使ってみるとかしていけば特定することは可能だろう。

 同じようにこういう基準であれば検証すべきことが具体的に浮かんでくるな。


「まぁ充はステータス画面とやらをチェック出来るからねぇ。その気になって集中すりゃ検証も比較的スムーズに済むだろうさ」

「……え゛?」


 横から一言挟んだモーガンさんに、八束さんは心底嫌な顔を見せた。


「何、こいつ、主人公プレイヤーなわけ?」

「ああ、そういやアンタはアイツら嫌いだったねぇ。

 安心しな、充はひょんなことから能力手に入れちまっただけの一般人だから」


 それを聞くと険しかった八束さんの顔は見る見るうちに和んだ。


「………そんなに主人公プレイヤーのこと、嫌いなんですか?」

「そりゃそうだろ。ゲームだかなんだか知らねぇけど、あいつら現場をぐっちゃぐちゃに掻き回していきやがるからな。

 おまけに人のことを“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”だかなんだかわけのわからん名前で呼びやがって、『イベントモンスターキター!』とか言いながら仕事中に横あいから攻撃仕掛けてきやがったり。

 好きでいられるわけがないだろうが」


 うーん。

 返す言葉もない。

 コンピューターゲームの中にちゃんと世界があったら向こうの人からはこんな風に見えるんだろうか。確かにゲームによっては、勝手に人の家に入って壷を投げて割ったり箪笥の中のものを持っていったりするからなぁ。迷惑なのは間違いない。

 ん?

 ってことは…?


「八束さんって“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”だったんですか!」

「不本意だけどそう呼ばれてるみたいだな」

「おぉー……!!」


 エッセから説明を聞いていたときは、なんかこう神話の神様とかもっと次元の違う存在かと思ったけど、こんな身近にいるんだなぁ。個人的には天狗とか鬼が魔物扱いで人狼が“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”っていうあたりの違いがわからないけど。


「驚くのも無理はないさ。普通ただの人狼は“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”とまではいかない。ただこの子は予め………っと。ここから先は本人がいいと言わないと教えるわけにはいかなかったねぇ」


 魔女は何かを言いかけて、人狼の視線に気づいて口を閉じた。


「いえ、単純に驚いたってのとは少し違うんです。とりあえず詳しいことはわかりませんけど、八束さんが“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”って言われると凄く納得しちゃって、感心してしまったと言いますか…」

「…? なんで納得してんだよ?」

「いや、実は以前知り合いから“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”って、特定の人に能力をくれる存在だって聞いてたんです。

 で、今オレは八束さんに自分の能力の使い方について色々教えてもらってるわけじゃないですか?

 単純に能力をもらう、ってのとはちょっと違いますけど、これも広い意味では能力を与えられているってことなんじゃないかな、と」

「あー、まぁそういう見方もあるか」


 ぽりぽりと頭を掻きながら八束な頷く。

 そしてモーガンのほうを示して、


「でもな、その原因はあの魔女だぞ?」

「へ?」

「そもそも“天賦能力ダートゥム・ファクルタース”なんてのが言われるようになった理由の大半がそこで笑ってる女の仕業なんだっての」


 …え? そうなの?

 オレは今度は本当に驚いた。


「ってか、そもそもだぞ?

 何が悲しくてわざわざ自分の能力を誰かにくれてやらないといけないんだ?」

「それもそうですが…」

「逆に聞くけども、そんなんでもらった棚ぼたの能力、嬉しい・・・か?」


 人狼は力の入った瞳でオレを見据えた。


「勿論生まれは選べないから、生まれ持ったものについては仕方ない。オレだって人狼ってことでこと戦闘とかにかけちゃ一般人よりは恵まれてるしな。

 だからって、その後にまで誰かにおんぶに抱っこで能力もらって、それのどこが楽しいんだ。どうせなら自分の力で勝ち取ったもののほうが価値があるし、自信にも繋がる。

 簡単に得たものは簡単に失うって言葉もあるしな。自分以外の誰かに自分の能力の与奪を任せて悦に入るような雑魚の相手なんざ、こっちから願い下げだね」


 その目に宿る光は確固たる自信。

 自らで力を勝ち取ってきた者だけが誇る揺るぎのない自負。

 確かにその通りだ。

 勉強になるなぁ。


「それに最後の最後、本当に拮抗した勝負になったときに勝敗を分けるのは―――」


 どん、と軽く胸を小突かれた。


「―――ここだろ」


 確信に満ちたいい笑顔で告げられた。

 やべぇ、カッコよすぎる。

 兄貴とか呼びたい。


「……ああ、それでか。なんでも我流で失敗して覚えるぜ!的なことでそんなにちまちまやってるから、未だにあの女へのアプローチが日の目を見ていないわけだね」

「うるせぇ。これからもっとイイ男になるんだよ」


 にやにやしながら魔女が茶々を入れてきた。 


「充もそう思わないか?」

「確かに仰る通りですね、ああ、でも……」

「…?」

「……八束さんが“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”であろうとなかろうと、お世話になってることに違いはないですから、感謝の気持ちは変わらないですけどね」


 その言葉に意表を突かれたように、八束さんは目を丸くした。


「なんつーのか…調子狂うなぁ。お前が結構イイ奴過ぎて」

「思わぬ拾い物だねぇ」

「だねぇ、じゃねぇよ。あんたは少し反省しろって。そもそもあんたが、ちょっと才能が無くて困ってる奴見つけたら、ほぃほぃ力貸してやってたのが、“天賦能力ダートゥム・ファクルタース”くれるとかいう話になった原因だろうが」

「心外なことを言う。誰にでも、というわけではないし、そもそも困っている者を助けるのは美徳でこそあれ、そのように責められるもんでもないだろう?」

「むしろ普通に手助けしてやれよ! なんで本人が使い方誤って破滅しかねないような能力ばっかり与えてるんだよ!?」

「ほれ、そこはそれ。大は小を兼ねる、とかいう諺がこの国にもあったはずだしねぇ」

「その理屈はわからんでもないが、あんたの行動に当てはめると20メートルくらいの幅の川を渡るのに使う渡し舟が欲しいとかいってる相手に、空母あげるみたいなもんだぞ。ンな結果ぐちゃぐちゃになるようなことするから魔女呼ばわりされてるんだろ!?」

「なんだい、アンタ。アタシが魔女呼ばわりされてることについて、実は気にかけてくれてたのかい。なかなか優しいんだねぇ」

「馬…ッ、違ぇし!」

「ふふふ…まぁ、騙されてやるのもイイ女の条件のひとつ、とでも言っておこうかねぇ」

「うわぁ、殴りてぇ」

「へぇ…女を殴るのかい? 本当に出来るのかなぁ?」

「………うぐぐぐ」


 なんという掛け合いか。

 魔女と人狼のコントだと思うとこれはこれで貴重だなぁ。


「そんな甘いこと言ってるからだぞ。いつだったか弟子入りした奴に一週間で備品持ち逃げされたりしたんじゃねぇか。確か名前が―――」

「心配はわかったけど、それ以上は無粋だよ。それに今はアタシの話じゃなくて、充の能力の話だろう」


 モーガンはぴしゃりと会話を遮った。

 不承不承、八束さんは話題を戻す。


「ったく……で、さっき分類するのに4つの基準があるところまでは話したよな?

 ここからはステップ2、いわゆる戦う相手との相性についてだ」


 八束さん曰く。

 略奪系の能力に関しては相性が悪い相手が3つあるらしい。正確には相性が悪いというよりも警戒が必要な相手らしいが。


「まず1つ目が圧倒的強者。これはわかりやすい。自分が1の耐久力しかないときに、10の攻撃力を持つ相手の攻撃を受けたら能力を吸収するまでもなく殺される。違う例でいえば、能力が発動するまで1秒かかるとして、その1秒かからない時間で切り殺すだけの技能を持った剣の使い手とか。

 まぁ戦いなんて基本自分より弱い奴にしか勝てないんだけどな。だがオレたちは多少の差ならひっくり返すことが出来る。能力を略奪できるチャンスは戦いが長ければそれだけ増えるんだからな。

 要は彼我の戦力差に圧倒的な差がある強者が相手だとその隙を作れない可能性があるってことだ」

 

 あー、確かに。羅腕童子のときも結構な破壊力だったけど、“簒奪公デートラヘレ・ドゥクス”発動した後受けた攻撃が腕一本のダメージではなくて、例えば伊達の一撃みたいに腕ごとオレの上半身を消滅させるくらいの攻撃だったら終わってたかもしれん。


「2つ目が一発屋。これにはオレたち自身も含まれるかもな。

 要は特化した能力はそれだけハマると強い。だからもし相手も何かしらの能力を持っていて、それが特定状況下で必殺になりうるものの場合は危険だ。略奪能力じゃなく基礎身体に関する能力とかなら、さっきの強者の場合含め攻撃そのものを避けることだって出来るだろうが、能力に頼りっきりだと吸収しきれない攻撃が来たらおしまいだ」


 これも1と同じ理屈。

 能力を略奪する能力、というのは突き詰めれば吸収する前はいたって普通であり、単純な能力に勝てない可能性がある。その略奪の間を与えずに必殺できる相手には分が悪い。


「で、そして最後のひとつが侵食系の能力の使い手」

「侵食系、ですか?」

「わかりやすく言うと、相手に入りこんで力を奪う能力だ。略奪系とは似て非ってとこか。略奪系が店からごっそり物を取ってくるとするなら、侵食系は店を自分のものにする感じになる。

 もし侵食系の能力をこっちが略奪した場合、相手によって内部からこっちを逆に支配して吸収しようとする可能性がある。

 こうなると後は本人と能力の強度によって、どっちが主導権を握るかの戦いになるわけだ。能力をせっかく奪っても油断してると、いつの間にか相手に奪われる。

 そういった意味で危険って話な」


 ふむ…。

 そんな奴もいるのか。

 どこかで会うかもしれない、と頭の隅には留めておくとしよう。


「ってことで、これで基礎知識は終了だな」

「あ、ありがとうございました」


 色々と覚えることは多かったけど、収穫もまた多かった。

 だが礼を言ったオレに対して、


「いや、まだ礼は早ぇよ」


 人狼はにやりと口の端を歪めた。

 不敵なその笑みのまま、言葉を続ける。



「まだ、実践・・が残ってるだろ?」




 会話回でした。

 説明が多くてなかなか話が進みませんね。

 次回はもうちょっと動きますので、もうすこしお付き合い下さい。



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