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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.2.01 自らに問う
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83.取引内容確認

 新しい朝が来た。

 希望の朝だ。

 喜びに胸を開―――


「――-いや、それラジオ体操だよッ!?」


 がば、っと上半身を起こす。


「…………あれ?」


 もう最近何度も言ってるような気がするが、目に入ったのはやっぱり見知らぬ天井。

 確か―――そう、あのモーガンさんと夕食を食べてそのまま意識を失ったんだった。周囲を見回すとそこは寝室のようだ。ふかふかのベッドに寝かされていたらしい。


「あれ、なんで―――」


 どうしてベッドに運ばれていたのか、と言いかけて身じろぎした瞬間。

 まるで思い出したかのように全身を激痛が襲った。


「~~~~ッ!!??」


 体の関節を伸ばそうとする度にギチギチと筋肉が悲鳴をあげる。

 無理に動かそうとすればツってしまいそうなくらい不協和音を奏でる。時間をかけてゆっくり動かせば動かすことは出来そうだが、まるで全身の神経に麻酔でも打ち込まれているかのように反応が鈍く、返ってくるのは痛みばかりであることに違いはない。

 心当たりはなくもない。

 対抗戦から羅腕童子戦まで無茶をした日曜日の反動か。

 通常翌日か、遅くても翌々日には筋肉痛は出ていたものだが、あれほど酷使した上にそのままネットカフェでカップ麺やら、路上で夜明かしとか、ロクに休息を取っていないのだ。十分過ぎるほど美味い料理と柔らかいベッドで熟睡した結果、一気に溜まっていた疲労とかダメージが出たとしてもおかしくない。


「~~~~~ッ」

「くぅん…」


 だが理由がわかったからといって、この全身の苦痛が和らぐわけでもない。すこし動かす度に脂汗を流すオレの顔を、小さな鳴き声と共に何かが舐めた。

 見ると、心配そうな感じで煙狼がこちらを見ている。


「あー…まぁ、大丈夫…だから」


 心配かけないように頭を撫でてやる。

 たったそれだけのことで気を失いたくなるくらいの痛みが襲う。

 とはいえ、このまま一日ベッドで過ごすわけにもいかない。痛みになんとか耐えてある程度体を動かしておく必要がある。動ける体勢になれば痛みも落ち着くだろう。


「ああ、起きたのかい?」


 モーガンさんが部屋に入ってきてオレに声をかけた。


「あ、おはようござい………ま、す…?」


 そちらに向き直って朝の挨拶をしようとした絶句した。

 何せ湯上りらしいモーガンさんはその美しい裸身にバスタオルを巻いただけの姿だったからだ。


「な、な、な……なんて格好してるんですかッ!!?」


 こりゃまた眼福―――、いやいや、そうじゃない。

 なんでこの人こんな格好でうろちょろしてるんだ!?


「ん? 何を慌てているのさ。別に驚くようなことは何も……」

「いやいやいや! 服! 服着てくださいよ!」


 なんとかガン見したい欲求を堪えて視線を逸らす。

 その上で至極まっとうなことを言ったつもりだったんだが、どうやらそれはとんだ悪手だったようだ。何せ目の前の魔女は小さなことから全てを見通すだけの人物なのだから。


「ははぁン?…ふふふ」


 何か悪巧みを思いついたかのような笑みを浮かべる。

 正に魔女としか言いようのない艶のある微笑み。


「昨夜はあんなに積極的に求めあったというのに、何を今更恥ずかしがることがあるのさ」

「ぶっ!!?」


 爆弾が投下された。

 思わず逸らしていた視線をそっちに向ける。


「な、な、な…ッ、なななな、な…ッ」


 顔が熱くなっているのがわかる。

 だがあまりのことに、空気の足りない魚のように口をぱくぱくとさせるのが精一杯。


「まったく、若いのをいいことに勢いばかりで、もうちょっと腰の使い方に技巧が必要ね。また今夜も教えてあげましょうか」

「~~~ッ!!?」


 そんな記憶はない!

 ……はず!

 まぁ、酔ってて覚えてないんで自信ないんですけども。

 でも、もしかして……!? いや、さすがにそんな大事なこと(女の子とお付き合いしたこともないオレにとっては大事なことですよ!?)があったら覚えてるはずだし……。

 うーん。

 悩んでるオレを見てモーガンさんはさらに続ける。


「そんなにシラを切ってもダメよ。だってキスマークが…」

「うっそぉ!?」


 思わず叫んでしまったオレ。

 その隙を見逃さず、


「嘘だと思うなら見てみるといいさ、ほら」

「っ!!?」


 はらり、とはだけるバスタオル。

 咄嗟のことで視線を逸らすことができず、白磁もかくやというような肌やなだらかな曲線を描く女性特有のボディラインを含め、紛うことなく一糸まとわぬ姿を見てしまった。

 な、なんて破壊力だ……ッ!? 胸の大きさは服の上からでもわかっていたはずなのに、それでも尚こんなインパクトが…ッ!? 


「~~~ッ!!?」


 や、やばい。

 鼻血出そうな…。 

 大慌てしつつも、なんとか視線を逸らす。


「ふふふ……スレてない少年をからかうのは楽しくていいねぇ」


 魔女はあっさりとそんなことを言って、バスタオルをまとい直した。

 やっぱりかわかわれてただけか……安心したような、残念なような…いや、まぁアレですよ、なんか色々と得したような気しかしてませんけどね!!

 さすがに刺激がちょっと強すぎではあったけども。


「アタシが使ったのはもうひとつの寝室だから、心配するようなことは何もしてやしないさ。

 アンタをベッドにまで運んだのはそっちの使い魔だし。

 さぁ! もうすでに8時回ってるから、さっさと起きて朝食食べな。それが終わったら、今度こそ色々と話してもらわないといけないしねぇ」


 魔女が立ち去る。

 その後ろ姿を見送り、盛大に息をついた。


「……………確かに、あの人をおちょくる態度は魔女なのかも」


 その後、多大な労苦を払ってベッドから体を引き剥がした。




 再びルームサービスを取り朝食を済ませた。

 朝だけにイングリッシュマフィンとサラダにフレッシュジュースという軽めのメニューだったけど、これまた美味かったので満足だ。

 食事を終えて少ししたところで、テーブルごしに本題に入る。

 あ、勿論モーガンさんは朝食のときからすでに服を着てましたからね?


「えと…じゃあ、モーガンさんが気になっている、そこの狼をどうやって懐柔したかについてですね」

「懐柔というよりも略奪だけどね。続けて」

「オレの能力、って言っていいのかな。そういうのがありまして―――」


 “簒奪公デートラヘレ・ドゥクス”の説明をする。

 触れた対象から能力を奪うことが出来る能力。とはいえ、あまり使ってみたことが多いわけでもなく検証も進んでないため、わかってることは少ない。


「説明を聞いてると、その左手を使ったのだから本来煙狼そのものの能力である、煙化とか奪えていないとおかしいように聞こえるのだけどねぇ」

「あー、それは多分オレが酔ってたからじゃないかなー、と…どうもこの能力、オレの意志が駆動のキーになってるようなんで」


 ふむふむ、とモーガンさんは頷く。


「で、なんでそれが困り事の内容と関わってくるんだい?」

「この能力をくれた相手、ああ、名前はエッセというんですが―――」


 そこからさらに話は続く。

 オレとエッセとの出会い。

 約束。

 そしてこの前の羅腕童子との戦い。

 エッセがいなくなり家族から記憶が消えたこと。


「―――というわけです。ですから……」

「アンタにとっては、周囲から記憶が消えているのが困り事、ってわけだ」


 何かを考えるように魔女は少し沈黙する。


「まぁどちらも検証が必要なのは間違いないねぇ。

 まずアンタの“簒奪公デートラヘレ・ドゥクス”とかいった能力。これが“魂源アニマ・ゲネシス”だっていうんなら、まぁうちの使い魔を支配しちまったのもわからなくもない。

 そもそも魔術ってのは積み上げ式のものさ。1を知り2を知り、そして次に3に至る。才能次第で積み上げる速度に差こそあれ、やることは変わらない」


 まぁアレか。

 夏休みの宿題をコツコツやる的な感じだろうか。

 え? 違う?


「反対に“魂源アニマ・ゲネシス”ってのは生まれ持った資質。突然30になる奴もいれば、50になる奴もいる。ただしこれはあくまでも突然変異的に一極として発言するに過ぎないから、30になったからといって1から29まではわからない。

 積み上げがないから、単一以外の汎用性に欠ける。逆に特定の用途については魔術を上回ることがある。それが“魂源アニマ・ゲネシス”というものさ。

 だから生半可な魔術師じゃどうにもできない、アタシの煙狼も“魂源アニマ・ゲネシス”に基づく能力にならどうにかされちまってもおかしくないって結論になるわけだ」


 なるほどねぇ。

 モーガンさんの魔術みたいに転移とかワインの瓶浮かせるとかなんでも出来るわけじゃないけども、こと奪うことに関してはそれを凌ぐ可能性がある、と。


「ただ問題は奪ったそれをどれだけ有効利用出来る能力なのか、さ。

 例えばアンタが奪ったのが鬼の膂力だからまだ良いとして、例えばそれが触覚で感知する能力だとしたら触覚が生えてくるのか、それとも無い器官の能力だから使えないのか、それによって全然意味合いが変わってくる」 


 そこまで告げて静かに紅茶のカップを傾ける。


「……こんなに面白いことに偶然出会えるとはアタシも中々運がいい」

「はぁ……?」


 うぅ…なんかその笑みを見てるとちょっと嫌な予感しかしてこないんですが…。

 心底楽しくて仕方ない、という雰囲気がひしひしと伝わってくる。

 もっと言うなら色々引っかき回しそうな愉快犯的気配も。


「で、アンタの困り事についてだけど、こっちも検証が必要だね。さっきアンタが説明した中じゃ確認したのは、家族とそのジョーって子だけなんだろう?」

「そうですけど……」

「じゃあまるっきり足りないよ。アンタが言うところの一般NPCモブのデータは取れたとしても、肝心要の重要NPCと主人公プレイヤーが抜けてるじゃないか」

「!!!」

「一般NPCと重要NPC及び主人公プレイヤーの間には大きな違いがあるんだろう? なら、アンタの記憶の消去がどこまで影響を及ぼしているか、それをまず確定させなきゃ話が進まないよ。

 確かに忘れられてたときのショックを考えたら、逃げ出したくなった気持ちもわからないじゃないがね。推測に頼るのは他に方法がないときにすべきさ。ちょっと実験してみりゃ済むことを勝手な推測で判断して済ますことは検証とは言わない」


 ………いちいちごもっともで。

 確かに出雲と綾に直接確認することはしていなかった。

 それはモーガンさんの言うとおり恐怖ゆえ、か。あれだけ仲が良かったジョーですらオレのことを覚えていない、その上でさらに親友や初恋の相手にまで完全に忘れられているという事実を確定させることが怖かったのだろう。


「まぁいいさ。解決するのに手助けをしてやるって約束だからねぇ、そのためにもそっちの確認はしてもらうよ。ただ、まず先にやってもらいたいのはその“簒奪公デートラヘレ・ドゥクス”の検証からだ」

「???」


 まだまだ使い方とか未知の部分が多い“簒奪公デートラヘレ・ドゥクス”。

 確かに検証してもらえるなら助かるけど…なんでだろう?

 疑問が顔に出ていたのだろう。

 モーガンさんは言った。


「だってそうだろう? 本当にその腕でそんなことができるのか、後はどれほどのことができるのか、それがわからなけりゃ、アンタの言ってることがどこまで本当なのか客観的に判断できないじゃない。

 安心しな。能力を奪う系統の能力を見たのはアンタが初めてじゃないからさ」

「本当ですか!」

「当たり前だろう? アタシを誰だと思ってるんだい。

 モーガン・ル・フェイ。星の数如き知識と万の魔術を操る世界最高にして稀代の魔女なんだよ?

 そのアタシの辞書に知らないなんて文字はほんのちょっとしか載ってないんだ。だから大箒に乗ったつもりでいな」


 おぉ…たのもしい。

 まぁ知らないこともないことはないみたいだけど。

 そして大船じゃなく大箒なのは魔女だからだろうか? 思わずツッコミを入れて聞いてみたい衝動に駆られるが、なんとか我慢。

 そうこうしているうちに紅茶を飲み干したモーガンさんが立ち上がった。


「じゃあ早速行くとしようか」

「え? どちらへ?」

「アンタと同系統の能力を持ってる奴のところへ、さ。

 ひとつひとつ実験ってのも面白そうだけど、まず確実な情報から集めないとねぇ」


 あまりの急展開に混乱しつつ、オレも立ち上がる。

 同系統の能力の持ち主が、いきなり行けるような距離にいるとするなら世間は随分狭いなぁ。アポなしで行けるような相手ってことは、結構親しい人なんだろうか?



「まぁちょっと性悪な“狼”だけどねぇ」



 魔女はそう言って、何度目かわからない悪戯っぽい笑顔を見せた。



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