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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.01 全てのはじまり
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7.響くは月の音

「ホント正直ここまで面白いとは思わなかったよ」

「せやろ? でもまぁハマりすぎには注意やで? 大変なことになるからな」

「例えば?」

「そうやなぁ…このマシンにハマりすぎて、オンラインゲームの世界から戻ってこれへんようになった話があってな……今もその子の霊が校舎をさ迷い歩いて…」

「…それ、なんか怪談混じってないか? というか戻ってこれないはずなのに、なんでそいつの霊がこっち来てるんだ」

「あー、それもそやな。まぁ部に代々伝わる都市伝説とかこんなもんやろ」

「伝わってんのかよ」


 などなど。

 驚きの初体験となったオンラインゲームを終え、その後は他の部員たちの自己紹介を聞いたり、逆に自分の自己紹介をしたり、雑談をしたりで、なんやかんやであっという間に時間は過ぎていった。

 時刻は午後5時頃。

 今日は機械のメンテなどがあることから、すこし早めではあるが解散になった。


「ミッキーはこの後どないするん?」

「いや、帰るだけだよ」

「そやったら一緒に帰らへんか。駅の側にえらい安い回転焼きの店見つけてん。ああ、こっちやったら回転焼きやのうて大判焼きやったか。なにがもうえらい安いかって普通1個100円前後のとこが、あそこやったら普通より一回りデカいサイズで80円ねんで。味も結構イケてるし」

「へー、そりゃちょっと興味あるな」


 こういった買い食いも高校生になった醍醐味だ。

 小学校、中学校じゃあ私立にでもいかない限り家から近いところになるわけで、買い食いするのにも通学路の店は教師にバレて面倒なことになるしね。


「やろ? もうひとりボクシング部の奴連れていくさかい、入口で待っとってや」

「りょーかい」


 ボクシング部と聞いて、一瞬怖い奴じゃないといいなぁと内心身構えてしまったが、そこはジョーがいれば初対面でもなんとかなるだろうと割り切ることにした。

 そのまま部室を出て、ふと思い出して階段を登っていった。

 まだ夕日が落ちきるには時間がある。前に出雲からここの屋上から見る夕暮れが結構綺麗らしいと聞いていたので、せっかくなので見ていくとしよう。

 中の階数表示を見るに5階建て、オンラインゲーム部は3階。つまるところ屋上まで3階分登る必要があるわけだ。

 タンタンタン…ッ。

 気合を入れて一段飛ばしで階段を登っていく。

 途中、おそらく他の部の部員だろうと思しき人たちと何度かすれ違いつつ屋上へと向かう。オーソドックスな校舎の例に漏れず、5階から上に登る階段の突き当たりに屋上への扉はあった。

 よし、と気合を入れてドアノブを捻る。

 ガチッ。


「…………うっそぉ」


 鍵がかかっていた。

 念のため何度か捻ってみるが、ガチャガチャと無情な音を立てただけだった。


「くたびれもうけかよ、うわぁ…ツイてない」


 思わず愚痴を言ってしまうが、開かないものは仕方ない。

 鉄製の扉は多少衝撃を与えたくらいで開くようには見えないし、例えそれで開くとしても後日扉を壊したとかで教師に呼び出しを食うのもイヤだ。

 失意のまま、階段を降りていく。

 と、5階まで降りてきたとき、偶然教室から廊下に人が出てきたのを見た。


「…………」


 その娘を見た瞬間、思わず立ち止まる。


 長身の美女、といった表現がぴたりと当てはまるようなシルエット。おそらく身長は170はあるのではないだろうか。整った顔立ちはもとよりただ歩くだけの立ち振る舞いが流麗だった。

 おそらく欧米の血が入っているのは間違いない日本人離れした見事なプロポーションと、それを肯定するかのようなポニーテールに結えられた金髪。生半可な女優などではとてもじゃないけど勝負にならないんじゃないか、というほどの美しさだった。

 美形にはそれなりに耐性があるはずのオレも、彼女がこちらに気づいて瞳を向けるまで、阿呆のようにただただ見蕩れてしまっていた。


「…どうかなさいましたか?」

「い、いえ、別に!」


 かけられた声も期待を裏切らない音色。

 対してかろうじて喉から絞り出したのは上ずった声。

 向けられた視線に耐えられず、こちらはすぐに視線を外す。

 バカ正直に見蕩れていました、なんて言えるわけもない。 


 ザザ…ッ


「……ッ!?」


 再び彼女の後ろの扉が開いた瞬間、鈍い頭痛が走る。

 少しだけ顔を伏せて軽く頭を押さえると、一瞬のことだったのかすぐに頭痛は引いていた。

 顔をあげると、彼女の後ろにもうひとり男子生徒の姿があった。

 シャープなメガネをかけている、これまた細面の美形。こちらも身長が高く180センチ近いが割と細身であり、二つに分けた長髪とも相まって線の細い書生風の印象を与える。インテリ系、という言葉がこれほどぴったりくる相手もいないだろう。

 先ほどの女性も、彼も制服を着ているので同じ学生の身分ではあるようだが、入っているラインの色を見るに2年生のようだ。

 出てきた男子生徒は女子生徒に何か声をかける。若干距離があるのでさすがに聞き取れないが、美形同士だけあって悔しいが絵になる光景である。

 それに対して女子生徒はそちらに一瞬だけ視線をやって一言だけ短く答えてから、再びこちらに視線を戻した。

 それに対してオレは慌てて会釈した。

 その仕草でこちらが特に用があるわけでもないのを感じたのだろう。女子生徒は応じるように軽く会釈をしてから、そのまま先導する形で廊下の反対側のほうへと行ってしまった。

 男子生徒のほうはというと、一瞬凄い睨みつけるような目をこちらに向けてきた後、すぐに女子生徒を追っていってしまった。


「……怖っ、なんで睨まれたんだろ」


 思わず呟く。

 多分初対面だったと思うんだが………?

 何か腑に落ちないものを感じつつ、また階段を降りることにしたところで思わず立ち止まる。

 先ほど二人が出てきた扉に妙な違和感を覚える。


「…………???」


 生徒会室、と書かれたその扉。

 しばらく立ち止まって考えるが答えは出ない。

 答えが出ないならその程度のことだったんだろう、そう結論づけて待ち合わせをしている入口へ向かうべく階段を降りていった。


 ■ □ ■


 入口ではすでにジョーと、おそらく先ほど言っていたボクシング部の部員と思しきひとりの男子生徒が待っていた。オレと同じくらいの身長で、体格も細いもののボクサーなので多分脱いだら凄いタイプなんだろうな、と思う。

 体育会系にしては落ち着いた柔らかそうな物腰なので、あまりビビらずに済んだ。


「遅いで~」

「ごめんごめん」

「んで、こっちがボクシング部の 佐々木ササキ 俊彦トシヒコ。略してトピーな。こっちは同じ部の略してミッキー、本名は……なんやったっけ?」

「わざとやってるだろ!?」

「さすがミッキー! ツッコミありがとう!」


 相変わらずのノリである。

 そのうち知らない間にコイツと漫才コンビとしてデビューさせられないよう、気をつけようとは思っていたりいなかったり。


「冗談はさておき、三木充や」

「佐々木俊彦だ。よろしく」

「あ、こちらこそよろし…くお願いします」


 紹介してもらって差し出された手と握手をする。

 手を見たときに制服の裾に入っているラインから2年生、つまり上級生であることに気づいて一応敬語にしてみた。

 体育会系は上下にうるさいかもしれないからねぇ。

 さっきのジョーの発言を聞いていると上下もへったくれもないかもしれないが。

 一通り自己紹介を終えると駅の方へ歩き出す。


「えぇと、佐々木さんはジ…丸塚とはいつからのお付き合いなんですか?」

「俊彦で構わないよ。そうだな…実はジョーとは隣りの中学でね。そのときからの知り合いだからまだ2年ほどかな」

「そそ、厳密にいうたら2年半くらいやな」

「むしろなんで先輩相手にそんな馴れ馴れしいんだ、ジョー…」

「えー? 友情に年の差なんてあらへんと固く思うとるだけやのにぃ」

「コイツは前はもっと適当というか無神経な感じだったからな、むしろ今の反応も大分マシになったくらいだよ。なにせ昔はあんなに……」

「トピーもいけずやねぇ~、若気のイタリアンのことは秘密にしたってぇなぁ」


 どすどすとジョーが佐々木先輩の脇に肘でツッコミをする。

 何やら知られざる過去があるらしい。

 そして、さすがにこの時間帯に会話にイタリアンとか出されるとお腹がすくので勘弁してください。


「あー、めっちゃ腹減ってきたわ。はよ回転焼き食いたいわぁ~。ちなみに売り切れてたら何か別の奢ってや、ミッキー」

「えー?」

「だってミッキーが遅いんが悪いんやもん。何してたん?」

「悪かったって。前に屋上に景色が凄いって聞いたことがあってさ、せっかくだからそっちを見に行ってたんだよ」

「確かに。あの景色は見ものだ。ただ前に屋上で花火をした馬鹿な奴がいたせいで、今は鍵がかけられているはずだが」

「そうなんですよねぇ、まったく残念です」


 なるほど、そのせいで施錠がしてあったわけか。

 そんな会話をしていると、ふとさっき見た女子生徒が頭をよぎった。


「で戻ってくる途中、5階で凄い綺麗な女の子と会ったんですよ」

「………もしかして、それは金髪の子かい?」


 おっと。

 佐々木先輩はご存知らしい。


「えー、うそーん!? マジなんか!? あの校内美人ランキング絶賛第1位、新聞部のこっそり写真に取りたいけどガードが固いランキング第1位、踏まれたいお姉さまランキング第2位の月音ツキネ様と会ったやてぇぇぇっ!!?」


 こっちも知っていたらしい、が。

 …ジョーよ、お前の交友関係には脱帽するが方向性が広すぎるぞ。

 とりあえず名前が月音さんなのがわかったのは感謝するが。


「ちなみに新入生の美人ランキングには綾ちゃんも入ってるぞ」

「そんな情報は要らん」

「ジョーの話はともかく、アーベントロート生徒会長に間違いないね」

「あー、なるほど」


 道理で初対面かどうか微妙な感覚だったはずだ。

 確か入学式で新入生代表と挨拶の交換をしていた生徒会長だ。むしろあんな特徴的な外見の人を忘れるとかオレの記憶力には軽く絶望である。


「月音・アーベントロートさんっていうんですか」

「いや、確かもっと長かったと思う。さすがに覚えていないが。多分生徒会からの掲示物に入っている会長のサインはフルネームだと思うから、興味があるなら見てみるがいい」

「ええなぁ~。生徒会長とはなかなか会えんのに~」

「? いつでも会いにいったらいいじゃないか」

「お前なぁ、用もないのに生徒会室とかひょぃひょぃいけるわけないやろ、敷居が高すぎるわ」

「そんなもんかなぁ」

「そんなもんやって。前も生徒会室にファンやいう連中が見に行って副会長のイケメンメガネにめっちゃ追い払われたりしとんのに」


 どうやらあのときに一緒にいた男子生徒は副会長らしい。


「ちなみにファンの半分はイケメンネガネ副会長目当ての女子やったっちゅう話や」

「うわぁ…」

「そのおかげでファンの間では『用があるときにはすぐに行けるのに、用がないときは見つからない生徒会室』とかいう標語もできとるくらいやで」


 そういう標語はともかくとして。

 過去にそういうことがあったなら、確かに敷居は高そうだ。


「でもまぁ気持ちはわからないでもないけど。月音さんみたいな美人が彼女だったらいいなぁ、ってオレも思うもん」

「お、生徒会長狙いかぁ? ミッキー、なかなかチャレンジャーやねぇ~。

 噂話だけでも両手両足じゃきかへんくらい玉砕しとる男がいるらしい難敵やで」

「そ、そんなんじゃないけどさ。憧れるくらいは別にいいだろっ」

「嘘かホントかは知らないが、生徒会長は副会長と付き合っているらしい、というのは聞いたことがあるぞ。真偽は定かじゃないとはいえ、それくらい二人でいるところを目撃されているのかもしれない」

「………所詮男は顔ですか」

「……イケメンは皆死んだらええんや」


 無情な佐々木先輩の爆弾に、心を折られる男が二人。

 そりゃもうこれ以上ないくらい心をバキバキに粉砕されたオレたち(厳密にはオレとジョーだけだが)は、溺れた犬のように切ない気分になりながら先を急ぐ。


 不幸中の幸いというかなんというか、お目当ての大判焼きは残っていたが、チーズ味が1個しかなくジョーと壮絶な奪い合いになったのは余談である。


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