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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.01 全てのはじまり
7/252

6.反省会とアリバイ工作

「いやー、ホンマ悪かったて!」


 平謝りするジョーに対し、オレはぶつけがたい不満をなんとか噛み殺す。

 勿論理由は先ほどまでやっていたオンラインゲームについての話だ。

 時間が来ても戻れないことにビビったオレは、そりゃあもう盛大にパニくった。1時間、といっていたところを2時間しても、うんともすんとも言わなくなったあたりからは特に。

 原因は単純。

 まず1つに、外の世界とゲームの中の時間が違っていた点だ。

 冷静に考えてみれば家庭用のゲーム機でも実際のリアルタイムとゲーム中の時間は違う。例えばRPGの主人公が宿に泊まるとして、本当に時間が連動していたら朝になるまで滅茶苦茶時間がかかってしまうだろうけれど、実際は一瞬で次の日の朝になる、という具合に。

 現在の装置の設定では1:5。つまり中で5時間遊んでも、戻ってくると1時間しか経っていない、という計算になる。ジョーの言っていた「1時間」は、彼にとってはいつも遊んでいる感覚で外の世界での1時間=5時間という意味だったのだが、逆にオレはゲーム中での世界での1時間と認識していた。そのことが認識のズレを生んでいたわけだ。

 もう1つの理由として、これは根本的な問題になるのだけど、ログアウトというゲームを終了させる処理をオレが知らなかったという点だ。勿論ステータス画面の項目を辿っていくと、いくつか経た後にログアウトがあった、というのは出てきてから知らされたが、聞いた当初はわかるかー!?と叫び出したい衝動にかられた。

 始める前に話していた通り、そもそもオンラインゲームが初めてなオレにとってログアウトなどという言葉はわかるはずもなく、電源ボタンを押さないと終われないのではとか、電源ボタンを押しても神殿だか王様のところだか何か特別な場所でデータをセーブしないと不具合が起きるのでは、くらいの発想しか出ないのだから。

 とはいえ、2つ目の理由はともかくとして、1つ目については冷静に考えればオレにも推測はできたはずで。それが今ひとつ怒りをぶつけられない理由、というわけだ。


「確かに色々トラブルはあったけど、結論としては面白かったしヨシとするけどもさ」

「お、さすがミッキー! そう言うてくれると助かるわ」


 ふぅ、と大げさにジョーは息をついた。


「やっぱり面白かったやろ? 実際ここの部にこいつがなかったら、この学校にわざわざ入ってへんかったからなぁ~」

「……確かに。中学は大阪のほうだっけ?」

「せやせや。しょーもない学校いくよりは、そこの学校でしかでけへんことやってみたいやないか。こないな凄いもんがあったら、例え家出てでも入学したるっちゅーもんや」


 ちなみにジョーは学校の近くに住んでいる親戚の家に下宿している。結構評判のいい洋菓子屋なので近くまで行くことがあれば是非オススメしたいお店である。

 イチオシはバウムクーヘンだ。


「しっかしゲームの中での5時間が、こっちでの1時間かぁ」

「実際のところはもっと長くできるらしいけどな。ほら、あかんときに浮かんでくる走馬灯とかあるやろ? あんな感じで脳が刺激されてる状態やったら体感時間は結構延ばせるみたいやし」

「でも前にテレビかなんかで、あれは錯覚とかやってなかったか?」

「それは俺も見とったよ。なんか吊り橋からバンジーさせてストップウォッチ止めるやつやろ。あんなん、対象の度胸がどんだけ据わっとるかとかにもよるし。そもそも本気で走馬灯出させたいんやったら、こっそり紐つけといたって、本人には紐無しバンジーや研究のために死んでくれ、いうて突き落とすくらいせな」

「想像するだけで怖いっつーの!?」


 脱ぎ終わったウェットスーツを畳んで片付ける。

 どうもこれも複数あり、一度使うごとに部屋の隅に置いてある特殊なクリーニング装置にかけるんだそうだ。道理で汗臭かったりしなかったワケだ。


「ただ時間を長く遊べるようにしたらその分だけ脳にも負荷かかるらしいしな。テストして安全やったんが5時間っちゅう話を聞いたことがあるわ」

「なるほどねぇ…そういやダメージって体感できるのな。あの鼠の突撃、結構痛かった」

「あの鼠…ああ、エフォチューか。せやな。脳の反応見ながらの刺激になるから本人に耐えられる安全レベルでの痛覚は勿論あるで。ただ必要以上に痛いのが伝わってまうと、ダメージ受けたら戦闘どころやのうなってまうから、そのへんはセーブしとるようやけど」

「だよなぁ~」


 リアルに死の痛みとかやられたら色々問題がありそうだし、そもそもどうやってそれを調べたのか色々問題になりそうではある。

 そうでなくても本人に耐えられるかを確認せずにリアルの痛みを味わわせたりしたら、最悪トラウマになってしまうかもしれないし。


「ちなみに、なんでエフォチュー? 確か…えーっと…、突撃鼠エフォドス・ポディキとかいう名前じゃなかったっけ?」

「そうなんやけどね。なんや長いし覚えづらいし、うちの部活の人間が呼ぶときは頭のエフォ、だけ取ってあとは鼠だからチューをつけて、エフォチュー言うてんねん」


 製作者の気合入れたネーミングが悪い方向に出たパターンだな。


「確かにカッコよさげな名前だけど呼びづらいよなぁ。何語?」

「ギリシャ語らしいで」

「ふ~ん…まぁネーミングはともかく、なんでチュートリアルからあんなヤバい魔物が相手なわけ?

 普通チュートリアルっていったら、もっとこうあんまり攻撃してこなくて攻撃の練習するのにちょうどいい相手にしとくもんだろ?

 そもそもご丁寧に直前に素振りしろっつったから、その攻撃が効果的なのかなってやってみたら突撃に吹き飛ばされるし!」

「そこはほら、チュートリアルにもあった通りリアルに生きている喜びを感じて欲しかったいうことにしといてや」

「あんなバランスだと下手すると、その前に挫折するプレイヤーだらけになるぞ!?」

「ん~? 最初は結構手応えのある魔物やけど、そないに言われるほどの相手やったかなぁ…」


 ジョーは腑に落ちない、とでもいうように少し首をかしげてから、何かに気づいたようで装置のほうを確認しに近づいてから戻ってきた。


「変なこと聞くけど、キャラクターメイキング、とかいう画面出た?」

「? なにそれ?」

「あちゃあ~」


 意味がわからずに聞き返すと、ジョーはやっちまった的な感じで肩を落とした。


「普通はキャラクター作成するねん。例えば作るときに種族、性別、外見、能力、適正、その他諸々決めて自分のキャラが出来るんや。

 ただ今設定見とったら、プレイヤー能力測定になっとってな。最初の時点でマシンがデータから推測される範囲でプレイヤーの能力そのまま写し取ったキャラを自動で作るようになってたと」

「……つまり?」

「普通自分好みに強化して作ったプレイヤーキャラを使って戦うはずが、ひ弱な現代人、それもさらに貧弱な帰宅部少年の運動神経そのままで戦ったから、余計危なかったんではないかと思……いやっ!? ごめんて! パイプ椅子持ち上げて投げようとせんといて!?」


 そりゃ難易度高いわけだ。

 つーか、むしろオンラインゲーム初体験がハンデ戦ってどういうことだよ。


「なんでそんなモードがあるんだ…需要なさそうなのに」

「違う自分になれるんがイイ、いう奴もおるやろけど、こう普通の自分でカッコよぅ活躍したい奴もいるかもしれへんやんか。それに体格とか変わると色々勝手が変わるから、自分の体ベースにしたほうが最初の感覚的な違和感もあらへんわけやし」

「……うぅん」


 理解はしたが、とりあえず納得は保留。

 ふと、浮かんだ質問をしてみた。


「確かに凄いゲーム機だけどさ。これ1台しかないんだろ?

 それじゃあせっかくのオンラインゲームも意味ないように思えるんだけど」


 同時にプレイできるのが一人では普通のオフラインと変わらないのでは?

 そんな疑問だ。


「そこは心配要らへんよ。確かに体感できるんはこれ一台しかあらへんけど、ゲームそのものは普通のオパソコンとかからも出来るわけやし。ゲーム自体はベータ版いうだけで限られとる人数やけど他にやっとる奴もおるよ」

「んー。つまりゲーム自体は開発中なだけの普通のオンラインゲームだけど、ヴァーチャルで体験できるのはこいつだけ、ってことか?」

「そうなるなぁ。さすがに一台だけしか使えへんゲームやと部員が皆でやることもでけへんし。普段はパソコン使てゲームしとるけど、一週間でローテーション組んで自分の番のときだけこのマシン使えるような感じになっとるな」


 横でうんうん、と頷いている部長。

 これ、本来は部長が説明することなんじゃなかろうか。


「で、どないする? 入る?」

「さすがにこれ体感したら大分入る気になった。なんかまんまと釣られた感じで悔しいけど」

「細かいこと気にしとったらハゲてまうで」


 笑いながらジョーは入部届けとペンを準備する。

 それを受け取りクラスと名前を記入していく。

 活動頻度としてはさっきジョーが言ったとおり別に毎日来てもいいし、週一でも構わないくらいの緩さらしい。生徒会やら他のところの監査が入るとか文化祭とか、特段の事情がある時期でなければ基本的にそのへんは自由なんだそうだ。

 入部届けを出すと室内にいた部員たちに拍手をもらったのには、ちょっと照れた。いい奴らだなぁ。

 うむ、これはなかなかの優良物件もとい優良部活になりそうな予感。

 おっと、いかん。忘れるところだった。


「なぁ、ジョー。ひとつだけ頼みがあるんだけど」

「水臭いでミッキー。友人で、これからは同じ部活の仲間やんか。そない謙虚そうにせんと言うてみ言うてみ」

「実は綾…あー、和家に茶道部に誘われててさ。それを断る口実で誘われてる部活がある~って言っちゃったわけですよ」

「…難儀やな、自分。ちゅうても確かに入りづらいわなぁ、それ」


 どこまで察しているのかわからないが、ジョーは訳知り顔で理解した!とばかりにサムズアップを返してきた。

 これでアリバイ工作は完璧。

 ひと安心だ。


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