表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.05 宣戦布告
64/252

62.豪傑河童

 わっしわし…。


 タオルで強引に髪を拭いた。

 着替えも無事に済んでなんとか人心地、といったところ。


 さて、河童の軟膏集めを再開するとしますか。

 目標数20個のうち、邪な河童を倒してゲットしたのはわずか7個。結構少ない。

 先週の日曜日は途中から隠身の指導による隠密トレーニングをしていたし、昨日の土曜日はオンラインゲーム部で地獄のボクシング練習25時間をやっていた。

 そのため、そもそも河童のいる狩場に来れていない。

 出来れば今日中に残り13個を手に入れてしまいたい。10日の期限のうち今日で9日目。明日には提出しないといけないから、期限としてはもうほとんど猶予がないのだ。

 このままでは店で買ってきて納品する羽目になる。


「もし尻子玉とかレアなやつが出てくるようなら、足りない分は店で買って納品してもお釣りがくるんだけども……」


 あと30で9級へ昇格できるかもしれないのだ。

 依頼を不成功にすることだけは避けなければならない。

 リミットを自覚して気合を入れてから再び狩場へ。邪な河童を探し始める。今度は単純に探すだけじゃなく周囲を警戒することも怠らない。

 獲物を狩るときが一番無防備だ、とかなんとか聞いたこともあるしな。


 そのあとは比較的順調だった。

 まず邪な河童を見つける→周囲を確認しながら忍び寄る→小太刀の練習もかねて攻撃、というある意味ルーチンワーク的な活動。

 小太刀の攻撃がなかなか難しく、近すぎてもダメ、遠すぎてもダメ、ということで最適な斬撃距離を把握するのに手間取った。勿論多少ズレていても使えるが、切り込みすぎると次の攻撃に移りづらいし、浅すぎるとダメージが軽くなる。

 どちらかというと微細な距離感が要らない突きのほうが使いやすい感じだ。


 5匹目の邪な河童を倒したあたりで入口まで戻って休憩。

 もしかしたら赤砂山の広場みたいに安全地帯があるのかもしれないが、こんな入口に近いところでウロウロしていては見つからないようだ。

 水を飲みつつ、用意した弁当をかきこむ。ちなみにメニューは近所のお弁当屋さんから買ったハンバーグ弁当である。

 合挽肉の牛の比率を多くすることで肉汁がジューシィになるようにしたハンバーグと、カリっと揚げられたカラアゲは冷めても旨く人気メニューである。

 野菜が少ないのでバランスはあまりよくないが、肉をがっつり食べたい男子にとっては大盛りしょうが焼き弁当と共に人気を二分するほどだ。


「…午前中の戦果としては倒した邪な河童の数が8匹で、ゲットした河童の軟膏が7と。総数としては10だな。先は長そうだわ」


 もぐもぐと頬張りつつため息をついた。

 依頼達成のためにはもう10手に入れなければならない。さすがにドロップ率が激低だけあって尻子玉とかは出ていないし。ただ午前中だけで8匹倒しているのだから、午後に10匹というのも決して無理な数ではないと自分を鼓舞した。


 弁当を食べ終わり多少休憩を挟んでから、狩場に戻る。


「さって…じゃあ次の河童を探そうかな…っと」


 きょろきょろしていると、目の前が暗くなった。

 あれ? なんでこんなところに緑色の壁があるのだろうか。


 ぽむぽむ。


 触って見ると結構な弾力。なんかごつごつしてるし。これってどっかで見覚えがあるような…ああ、そうだ、腹筋だ腹筋。前に出雲に見せてもらったシックスパックとかいう割れた腹筋だ。


「………ぇ?」


 視線を上げた。

 そこには身長2メートルをさらに超える緑色のマッチョがいた。


 ごぅんっ!!


「……がっ!!!?」


 咄嗟にガードしようと動けたのは本当にボクシングの御陰だ。

 頭部を守ろうと構えたところに凄い勢いがぶつかってきた。その衝撃を殺すことができず2メートルほど横に吹き飛んでしまった。


「……ッ~、…っ」


 なんとか倒れずに足を踏ん張る。

 何をされたかは簡単。

 張り手をくらったようだ。

 さっきまでオレがいた場所に相手が手のひらを振り切った体勢でいるのがわかる。


「あれってまさか…豪傑ごうけつ河童かっぱ?」


 のっしのっしと近づこうとしてくる相手から間合いを取りつつ、まじまじと観察する。

 身長は2メートルを超えている。多分2メートル10ちょいくらいだろうか。完全にオレよりも頭ひとつ半分違う。

 おまけに首も腕も丸太みたいに太くて凄くゴツい。まさにボディビルダーもびっくりなマッチョ具合である。あれが目の前50センチのところに出現したら、そりゃ壁だと思ってしまう。

 体は緑色で基本的な構成パーツは邪な河童と違わない。

 筋骨隆々具合と背中の甲羅の光沢が違うくらいだ。

 しかし…、


「確かに検索だと、河童属の中でも体格が大きく肉弾戦に重きを置く珍しい種類、とか言ってたけども、いくらなんでもデカすぎねぇッ!?」


 邪な河童なんかオレよりちょっと小さいくらいだったのに、まるで大人と子供くらいの違いがある。これなら確かに豪傑と言われるのも納得だ。

 槍毛長のボスも結構な鍛え具合だったがあっちが、どちらかというと力と動きの鋭さを兼ね備えたアスリート的なものだったのに対し、豪傑河童は純粋に力自慢な感じでダンプカー的な怖さがある。

 まぁ、わかりやすくいうと全然勝てる気がしねぇ、って話。


【たやすく諦めるでない、たわけ】


「そりゃそうなんだけど…っとぉっ…!!?」


 ぶぉんっ!!!


 エッセの声を聞きつつ、再び振り回してきた張り手をサイドステップで避ける。

 バックステップで避けるのは簡単なのだが、相手は相撲のような格闘ベースの相手。おそらくまっすぐ下がるとどんどん前に出てきていつか避けきれなくなってしまう。だから後ろに下がるだけじゃなく側面に回り込む動きも必要だ。


 ぶんっ!


 今度は蹴りを放ってきた。

 ローキックというよりは足を刈り取るような感じのものだったが、足先で蹴っているような射程の短いものだったので、張り手を軽快している距離感のまま避けることができた。


 うん、攻撃を避けることは出来る。

 見た通り典型的なパワーファイターだから、速度において優位に立つことは可能だ。それよりも問題なのはその体格差。相手の身長が高すぎる。


「たっ!!」


 乳切棒で相手の頭を打つ。

 相手も避けようとして少し動いたので首を打つような感じになった。衝撃が通った手応えはあったが、筋肉の弾力に結構弾かれている気がする。


「………くそぅ、皿が」


 そう、一番の弱点であるはずの皿に攻撃が届かないのだ。

 正確には届かせることは出来るのだが、角度的にどうしても強く打つことができない。思いっきり棒を振り上げて振り落としたとしても、皿よりもさきに額にあたってしまう。

 転ばせるか、より高い位置から攻撃する必要があったが、それは無理だ。

 相手を転ばせるためには体勢を崩させる必要があるが相撲ベースだけあって豪傑河童の構えは低い。重心が低すぎて転ばせるのが難しい。

 高い位置から攻撃、となるとジャンプでもするかという話になるが一撃を入れれば倒せるならともかく、そうでないのなら着地のタイミングで狙われる。そして一度捕まったらなんか殺される気がひしひしとして仕方ない。

 八方塞がり。

 ならば、やることはひとつ。


 ごぅんっ!!


 張り手を避けて、乳切棒を振るう。


 どむっ。


 そう、毎度お馴染みのチクチク戦法だ。

 強敵と出会った場合は状況が好転するか何か打開策が出るまで、武器のリーチ差を生かし相手と距離を保って攻撃を避けつつ、先端でちくちくダメージを与えていく。蜘蛛火のときにも使ったことがある有効な戦法である。

 さすがに豪傑とまでいわれる相手にちくちく攻撃したところで、どれくらい削れるのかはわからないがとりあえず先送りして時間を作れば打開策を考えることだってできるのだ。


 ぶぉんっ!

 どっ。


 ごぉぅっ!

 どふっ。


 ぶぅんっ!

 どずっ。


 ちまちま続けていく。

 うん、集中力も維持できているし、いい感じだ。

 むしろ前に蜘蛛火とやってたときよりも、色々戦いを経験しているし、ボクシングで日頃から見切りを鍛えている関係で、ずっとやりやすい。避けるにしてもステップワークも大分スムーズだから、次の動きにだって繋げやすい。

 …結構強くなってないか、オレ?


 どずむっ!!!


「……~~ッ!?」


 ぐぅっ!?

 ……いかんいかん。

 ちょっと調子に乗って集中力が一瞬切れたみたいだ。

 体重をかけた突進からの突っ張りを受けて吹き飛んだ。そのまま倒れる。ガード越しだったけど鼻血が出ているのを知って、もしガード出来ていなかったら、と背筋が凍った。

 ただ吹き飛んだおかげで3メートルほどの距離が出来ており、急いで立ち上がることは出来た。

 立ち上がり様に石を拾う。

 追撃しようと突進の準備に入った豪傑河童の顔に投げる。


 がんっ!


 的が大きいから外しようもない。

 それくらいで突進は止まらないものの、目の近くにヒットして多少たじろいだおかげで勢いが甘くなった。少し横に出て脇を抜けるような感じですれ違う。


「ギャワッ!!?」


 そのまま突進して2メートルほど行き過ぎた豪傑河童が苦痛の声をあげる。

 まぁわかりやすくいうとすれ違い様に脇腹を小太刀で切り裂いてやったのだ。

 リーチでは負けるものの、やはり単純なダメージという意味では刃がついているので乳切棒よりもいい感じだ。

 再び向かってくる豪傑河童。

 そこからは先程のチクチク戦法のやり直しだ。

 片手で乳切棒、片手で小太刀。

 連続攻撃を避けるときは遠間から乳切棒、突進を避けて隙が出来たらこっそり小太刀で切りつける。


 ただひたすらそれだけを続けていると、変化が訪れた。


「………ん?」


 時間にして20分ほどもしただろうか。

 さすがにこっちも疲労で体が重くなってきたところだ。豪傑河童の動きが見るからに悪くなってきていた。時折ちらちらと川のほうを向いたりもする。

 理由はわからないが、何かえらく消耗しているらしい。


 ―――チャンスッ!!


 視線が川のほうを向いた一瞬。

 決死の覚悟を決めて懐に飛び込んだ。

 突撃の全体重をかけて腰だめに構えた小太刀を突き出す。古いヤクザ映画なんかであるようなタマ取ったるわー的な感じだ。


 どずっ!!!


 小太刀が腹部に沈んでいく。30センチほど突き刺さったところで手を離してバックステップ!


 ぶぉんっ!!!


 オレを捕まえようと伸ばしてきた手が目の前を通過していく。

 だが腹部に刃物を突き刺されたまま動いたためか、勢い良く手を伸ばした勢いを踏ん張れず豪傑河童は前かがみになった。

 そう、念願の皿を攻撃しやすい高さまで頭を下げた。


「だぁぁぁっっ!!!」


 その隙を見逃さず一息で乳切棒を振り下ろす。


 がんっ!!


 そのまま何度も叩き下ろした。


 がんっ!! がんっ!!


 3発ほどで予想外に容易く皿が割れた。

 そのまま豪傑河童が倒れてきたので横に避ける。


 ずぅぅ…ん…。


 何度か棒の先でつんつんと生死を確認する。

 どうやら倒したらしい。


「っしゃぁっ!!」


 思わず拳を握った。

 見ると皿の割れ方がこれまでの邪な河童と違う。

 邪な河童は攻撃を受けて耐え切れなくなったところがビキっとヒビが入って割れていたんだけども、豪傑河童の皿は攻撃を受けた箇所から放射状にヒビが広がって全体的に割れている。

 うーん、いきなりオレの叩く力が上がったり、なんてことはないと思うんだけど。


【そうじゃな…どちらかというと豪傑河童の皿のほうが些か乾燥しておるようじゃが】


 そのエッセの言葉に納得する。

 そうか、なるほど…確かに河童は皿が乾くとマズいとかなんとかいう話があったな。

 途中から動きが鈍くなってきたのもそのせいなのかもしれない。その上で乾燥すると皿が脆くなっていたというのはありそうだ。

 見ていると、そのまま豪傑河童は消えてしまい、仄かに光るビー玉くらいの大きさの球体と、腹部に刺さっていた小太刀だけが遺された。


「おぉぉっ!!?」


 こ、これはまさか…そう、尻子玉っぽい!!!

 ひゃっほぅっ!!

 思わず手に取ろうと近寄ると…、


 がさり…ッ。


「………?」


 周囲の物音に気づく。見るとそこかしこの茂みから邪な河童が出てきていた。数にしておよそ5。その全ての視線が尻子玉と思しき球体を見ている。

 まるで大好物を見るかのような目だ。

 そこで尻子玉の説明を思い出す。


 “人間から採取された魂の一部。河童にとっては食料にもなる貴重なもの”


 なるほど。

 つまりコイツらはこれ幸いとばかりに横から尻子玉を掻っ攫おうという連中というわけか、うん。

 …………ひでぇ!?


「はっはっは、オレの1000Pを奪えるもんなら奪ってみやがれ!!」


 1対5とか普段なら心が折れてしまうが、今の欲に目がくらんでしまっているオレならば話は別だ。小太刀と尻子玉を回収して脱兎のごとく走り出した。




 かくして邪な河童とオレの盛大な追いかけっこが始まる。

 敵は数も多く、途中で豪傑河童も出てきて追いかけてくる始末。

 だが男には負けられない戦いがある。

 まぁ何が言いたいかというと―――



 ―――絶対尻子玉、持ち帰ってやるぅぅっ!!!



 こうして河童の軟膏を揃えられないまま、日曜が終わるのであった…なむ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ