54.ステータスチェッカー
「うぅ…酷い目にあった」
よろよろと道を歩いていく。
最初は死ぬんじゃないかと思った俊彦先輩による仮想現実での鍛錬をなんとか乗り越え、すっかり酷使して疲れきった頭を切り替え先を急ぐ。
ジョーと俊彦先輩とは諸事情により校門で分かれて今は独り。
【泣き言を言うでない。自分で選んだ道であろうが】
確かに自分で決めたけども。
よもや初日から15時間のトレーニングとか想像してるはずもない。
仮想現実の中での出来事のため、構えやパンチを出すときのフォーム、ステップの動きなどの感覚は生々しく残っているものの実際現実に戻ってきたときの疲労はそこまででもないのが救いではある。
が、反面頭を酷使しすぎたのだろうか、思考が随分と鈍くなっている気がする。
正直なところ、さっさと返って飯食って寝てしまいたい。
だがその前にやっておかなければならないことがあった。
そう、今日は6月4日なのである。
つまり以前受けた依頼の期限。
せっかく依頼を達成したというのに、報告の時間切れで全部おじゃんというのは勿体なすぎる。
そんなわけで、わざわざ友人たちには用事があると誤魔化して体に鞭打ってでも斡旋所を目指している。
……ホント、エッセと出会ってからまだ一月も経ってないんだよなぁ。こんなペースで色々あって長生き出来るんだろうか、と不安になりつつ、ようやく斡旋所に到着した。
来たのは3度目だが、もうすっかり馴染んだ感じでエレベーターに乗り込んだ。
ロビーに到着。壁にかかっている時計は七時を過ぎていた。依頼の制限時間が今日の9時までだから結構ギリギリだな、危なかった。
大急ぎで受付カウンターへと向かう。
「すみません。依頼が終わったんで報告したいんですが」
「かしこまりました。お手数ですが登録カードのほうを確認させて頂きます」
登録カードを取り出して提出。
カタカタと受付の人が端末を弄ることしばし、
「確認致しました。現在、充様がお受けしているのは『至高の茶釜を!』のみとなっておりますので、こちらの達成報告と認識させて頂きます。依頼目的物のほう、お出し頂けますか?」
「あ、はい」
カードを受け取って、持ってきた茶釜の欠片をじゃらじゃらとカウンターに置いた。
それについてすこし時間をかけて受付の人が確認していく。
……別にイカサマしてないから心配する必要はないんだけど、ドキドキするなぁ。
「はい、確かに」
問題なかったらしい。
無事に茶釜の欠片は受け取ってもらえた。
「では以前提示頂きましたP通貨カードのほうに報酬のほうは振り込んでおきます。
おつかれさまでした」
「どうも~」
よっしゃ、900Pゲット!
今のレートがいくらか知らないけど、多分日本円で20万円弱くらいかな?
これで大分借金が返せそうだ。
喜びを隠しつつ依頼参照用のタッチパネル端末のほうへ行く。
まだ2回目なのでおっかなびっくり操作すると、目的の依頼を発見。すぐに登録番号を入力して受理し、出てきたレシートを持って受付に戻っていく。
「すみません、これの受理をお願いします」
「はい、『蜘蛛火の討伐』ですね。期限は一ヶ月となりますので、7月4日の午後9時となりますがよろしいですか?」
「それなんですけど……」
蜘蛛火を倒すとドロップする蜘蛛糸をカウンターに置いた。
「すでに討伐済でしたか。では…」
先ほどと同じ要領で確認し問題なく依頼完遂となった。
これでさらに200Pゲットだ。
評価・貢献ポイントも合計で70になった。まだまだ低いがこうやってコツコツ積み上がっていくのを実感すると達成感あるよなぁ。
ふと、
「すみません。コレ、何に使うかわかります?」
無双の槍毛長が落とした謎の金属の塊を見せた。
「これは玉鋼ですね。レアドロップとして手に入る代物ですよ。手に入れた方はこれを職人さんに持ち込んで武具を作ってもらったりしています。そういった用途の代物ですから勿論買い手も多く現金化することが出来ますよ」
おぉぅ、そんなによさげなものだったのか。
確か玉鋼とかいうと和鉄の中でもかなりいいやつだったような…丁度乳切棒も折れちゃったことだし加能屋に武器を買いに行くついでに相談してみるとしよう。
いくら高く売れるといっても命には替えられないから武器にするのがいいだろう。
「ちなみにそのサイズですと買取り価格は2000Pになります」
ぐ……、ぶ…武器にするのがいいだろう……。
【……文字通り現金な奴じゃの、充】
借金持ちとしてはお金に敏感なのは仕方ないと思うんだ。
「あと、充様のカードを拝見した際、総合レベルが10を超えたのを確認致しました。つきましてはこちらの冊子をお読み下さい」
? なんか冊子を渡された。
結構読み応えありそうなので後で読んでみよう。
さて、なんとか無事に用事も終わったことだし、また新しい依頼を確認しますかねぇ。ボクシングのほうでトレーニングするのもいいけど、レベル上げのほうもやっとかないといけないし。
再び端末を操作し始める。
『ツチノコ捕獲』
推奨技能:隠蔽スキル
期限:10時間
報酬(P):1000
評価・貢献ポイント:80
狩り場に時折出現するツチノコを捕獲してもらいたい。出現ポイントは数箇所あるが、気配を察知すると出現しないため、隠蔽系のスキルが必要。
『飲食店の手伝い』
推奨技能:特になし
期限:1ヶ月
報酬(P):1日毎に20
評価・貢献ポイント:10
備考:女性限定
11時から3時間のランチタイムを手伝って下さるウェイトレスさん募集中です。期間は6月2日から1ヶ月、週4日以上出勤できる人、お待ちしております。
とりあえず、飲食店の依頼がまだあるな…どんだけ人気ないんだよ。
そしてツチノコ………本当にいたんだ。
『鬼首神社警護』
推奨技能:特になし
期限:7月1日~7月7日
報酬(P):1日毎に100
評価・貢献ポイント:70
鬼首神社において警備の仕事をやってもらいたい。例年七夕祭りまでの間、魔物が発生しやすいため戦闘が予想される。尚、戦った相手の戦利品は自由にしてよい。
うおぉぉ…。
鬼首神社って毎年そんな怖いことになってる神社だったのか……まぁ確かに羅腕童子が封じられてた段階でただの神社じゃないのは確かなんだけども。
『陰陽術師助手』
推奨技能:前衛技能
期限:1日
報酬(P):500
評価・貢献ポイント:40
陰陽術師の仕事の助手です。前に出て壁役になることが多いため前衛技能を推奨。
『小天狗の肝回収』
推奨技能:特になし
期限:10日
報酬(P):2000
評価・貢献ポイント:30
赤砂山に存在する小天狗が稀に落とす小天狗の肝を1つ手に入れてほしい。
可能なのはこのへんかな……。
レベルが上がったので難易度の高いのも結構出てきたな。
天狗とか、確か赤砂山の上のほうに出る相手だったはずだし、ちょっと様子見にしとこう。出雲の話だと赤砂山は麓部分を踏破したら次は音無川のほうが適正狩り場になる、とかだったし、
うーん、今ひとつどれがいいかわからん。
とりあえず保留にしとくか。
ちょっと落胆しつつ端末を後にする。
「はっはっは、やったぜ! ついに20レベルだ!」
近くでおそらくPTを組んでいたのだろう、3人ほどの主人公がスマートフォンを見ながら、大喜びしている。
あー、なるほど。通りすがりにチラっと見たところスマートフォンでステータスが表示されていた。
それを確認してレベルが上がってたのに気づいたのか。そりゃ嬉しいよなぁ…ああ、オレも早く20くらいになりたいよなぁ。
すれ違い様に槍術でレベル20と書いてあったのを見るだけで、まだまだ遠いなぁ…と遠い目をしたくなった。
…………
…ん?
レベルが見えた?
…………
…おぉぉぉ!!?
マジか!? なんでかわからんけど今さっき確かにステータスチェッカーの画面見れた!
一応念のため、さりげなく風を装ってもっかいすれ違ってみたけども間違いない。
なんでか理由はわからないけども!
ついに! ついにステータスが自分で見られるようになったッ!
そうとわかれば、やることはただひとつ!
オレは急いで斡旋所を後にした。
□ ■ □
息せき切って走る。
帰る足ももどかしく急いで帰宅。
そのまま自分の部屋に駆け込んだ。
荷物を置いて服を着替えると、買ってきた箱を開ける。
取り出したのはスマートフォン。
そう! ついにスマートフォンデビューなのである。
【わかったから少し落ち着くのじゃ。そわそわしすぎじゃぞ、おぬし】
そうは言っても……苦節一ヶ月!…いや、そういう言い方すると大したことないように聞こえるな。とりあえず色々不自由をしてたので、それが解消されるとなればテンションは上がってしまう。
スマートフォンを起動。
説明書を片手に基本操作を確認した後、出雲に勧められていたアプリをダウンロードする。
確かカンケル社の“オープン・ステータス”だったな。
お、あったあった。
無事にダウンロード終了。
さぁ、やるぞ!
アプリを起動。
自分のステータスを表示してみる。
ドキドキの一瞬。
おぉ、表示されたな。
どれどれ……、
三木 充
称号:な し
年齢:16
身長:169センチ
体重:62キロ
状態:良好
種別:???
属性:???/???/???/???
斡旋所ランク:10級
評価ポイント(貢献ポイント):70(70)/100
筋力:10
敏捷:9
巧緻:8
技術:7
極め:10
知力:7
生命:12
精神:10
運勢:0
所持金(P)/借金(P):1410/2700
総合Lv:10
所有職:
逸脱した者 LV.1
武芸者 Lv.10
技能:
杖 10.27
見切り 2.10
投擲 1.14
拳闘 0.98
武器: な し
防具:紫印の手甲 種別:手防具 使用条件:腕力4
:隠衣(弱) 種別:背装備 使用条件:な し
その他:河童の軟膏(1) 玉鋼(1) 抗魔の朱毛(5)
おぉぉ……。
なんか色々出てきたぞ。
武器の欄のなし、がちょっと切ないが気を取り直して詳しく見ていこう。
まず称号。何か特別な呼ばれ方とかあるんだろうか…もしかしたら上位者みたいに有名になると二つ名でも付くのかもしれないな。
名前、身長、体重はいいとして(体調も別段おかしくないので、状態が良好なのもヨシ)、種別がなんか謎なことになってるな…普通のNPCじゃなくなったってことなんだろうか。その下の属性についても表記されていないから保留。
斡旋所ランクは10級、その下の評価・貢献ポイントも字のごとくだな。今日の依頼達成分がちゃんと加算されている。ただその右に「/100」となってるのが気になるな。もしかして100になると9級になれるとか?
筋力、敏捷はいいとして、巧緻っていうのは…器用さ的なことか?
巧緻と技術がどう違うのかはわからないな。知力、生命、精神はいいとして、極め……? それぞれの数値もこれが一般的に見ていいのか悪いのかわからないし、一度出雲に聞いたほうがよさそうだ。
え? 運はどうしたって?
………………いや、もうなんか、ね…。
これを見てしまうと運がいいのか悪いのか、議論するのも馬鹿らしくなっちゃうワケです。
さて、所持金については、初めて斡旋所に行ったときに購入した上位者のDVD関係やら、スマートフォンを買うためにPを一部日本円決済したり、河童の軟膏使いまくってたせいで200ちょっと使ってたんで、残りとしては計算通り。
どうなることかと思ったけど借金はちゃんと返せそうで安心だ。
次の総合Lvはおそらく本人の一番Lvの高い職業のものが表記されるんだろう。問題はその職業のうち、なぜか逸脱した者が1上がっていることだ。
心あたりがあるとすれば……、
【伊達との戦いで、かの】
だろうなぁ……多分あのときの左手の赤黒いやつと関連してるんだろう。
後で説明しろよ? エッセ。
【うむ、任せるのじゃ】
杖術については無双の槍毛長の時点で4あがって、同時にあと2つ何かが上がっていた。と、すると見切りの2か投擲の1のどちらかは伊達との戦いのときに上がったんだろうか。
うーん、まぁわからんからおいとこう。
装備品や持ち物については特に問題なし、と。出来れば早めに玉鋼で武器作ってもらって、武器の欄もちゃんと入れておきたいが。
こうやってみると出雲から教えてもらっていた項目以外にも結構色々あるんだなぁ。
しみじみと感慨に耽る。
これから狩場に行くときはステータスを見れるし、ボクシングの練習やってても数値で成長が実感できるとなればモチベーションも大きく変わる。ステータスチェッカーを使うことが出来るようになったことは、大きな意味での前進だ。
「…………あれ?」
そこでふと気づいてしまった。
スマートフォンで主人公用のアプリが使えるということは、おそらくPT申請も出来るようになっているということ。
それはつまり、
「……この前も使わなかったし、連帯印買った意味、なくね……?」
思わず遠い目をしてしまった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
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