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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.05 宣戦布告
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50.拳闘部


 図書室から無事に教室に戻ったオレは、無事に2時限目の試験を受けることができた。

 途中から試験を受けるとか大丈夫なのかと心配していたんだけども、月音先輩に言われた通りに生徒会長の手伝いをしてましたー、と告げると怒られるどころか、むしろ褒められてしまった。

 さすが月音先輩。信頼が半端ないぜ、おそるべし。


 さて、2時限目の科目は現代文である。


 途中から受けたため時間が半分くらいしかないが、幸い得意科目だったので急げば全部の回答欄を埋めることくらいは出来た。正解率についてはわからないが、経験上全部埋まっていれば半分くらいは大丈夫な感じなので、赤点をくらう羽目にはなっていないはずだ。


 チャイムが鳴った。


「ふぅ~…」


 回収されていく解答用紙。

 それを横目で見ながら息を吐いた。


「ミッキー、どやった?」


 授業が終わるなりジョーが話しかけてくる。


「あー、まぁとりあえず赤点回避はできてるんじゃないかな」

「いやいや、そうやのうて」


 ……?

 違う違う、とばかりにジョーが手を振った。


「ほら、ミッキーが授業に遅刻してきたやろ。

 何しとんのやろか思てたんやけど、なかなか隅に置けへんやないか~」


 ぐぃぐぃと肘で突かれる。


「まぁさかミッキーがそないに積極的やったとはなぁ~。人は見かけによらへんわ、ホンマ。

 で、どうやったん? 月音先輩と会っとったんやろ?」


 うぐ、なんでそれを知っているッ!?

 ちゃんと担任に言ったときは出来るだけヒソヒソとやったはずなのに!


「ふっふっふ、遅刻耳のジョー君を舐めたらあかんで」

「地獄耳な」


 どっかに置き忘れてきたみたいな耳になってるそ、それ。


「そうとも言うな。ま、それはさておき、席が最前列やさかいな。こっそり内緒話しとるんも聞こえてたんや。所々やけどな。

 なんや、月音先輩が、とか一緒に、とかいう単語が聞こえたら、もう友人として色々と聞きとうなるんは仕方ないやないか、そやろ!?」


 いや、そんなに力説されても…。

 完全に聞こえていたわけじゃなく断片的なせいで結構色々勘違いされている。


「期待させちゃって悪いけども、そんなに浮いた話じゃないぞ? 単に廊下を歩いてたら2年の試験機材を探してた月音先輩に出くわして、探すの手伝っただけだし」

「おぉぅ!? それでも十分に凄いやん!

 なにせ月音先輩いうたら付き合い悪いちゅうのかなんちゅうのか、あんまり他人と関わりもたへん人みたいやし。そないな人に頼られただけでも、その他大勢から一段格上げされてると思わんと!」


 うーん、そんなもんかなぁ。

 でもまぁ、わざわざオレが起きるまで待っててくれていたわけだし、その他の有象無象な連中よりは親しみを感じてくれている、とかならいいんだけど。

 美形は綾で耐性が出来ているオレでも見蕩れるような美人さんなのだ。そんな人に好意的に見られるのは男として素直に嬉しいのは間違いない。


「しっかし、ミッキーは生徒会長狙いかぁ~。

 なかなか恋敵も多そうやけども、なんやミッキーなら突破できそうな気がするから不思議やな。付き合えたら是非紹介して」


 それ、絶対オレを過大評価しているぞ、ジョー。


「っていうか、オレと月音先輩とはまだそんな関係じゃないから。

 そんな噂立てられたら彼女にだって迷惑だろ」

「ほぉぅ」


 にやり、とジョーが口元を歪ませた。

 あれ? もしかしてなんか不味ったか?


「まだ、っちゅうことは将来的にそうなったらええな~くらいは確実に思とるワケやな。

 いやぁ、楽しみやなぁ。ちょう応援したるさかいな!」


 なんという墓穴。

 孔明の罠だ!とか言い出しちゃいそうなくらいだ。


「ああ、でもそうなるとミッキーの最初の彼女が略奪愛とかになる可能性もあるんか。なんちゅう昼ドラとかサスペンス劇場で刺されそうなポジション!」

「縁起でもないことを……」


 そこでふとジョーの発言に違和感を覚えた。


「略奪愛なの?」

「いや、ほれ。なんや詳しいことは知らへんけども、副生徒会長と付き合っとるとかいう噂がまことしやかに言われとるやろ。まぁ生徒会役員同士やっちゅうこともあって一緒におることが多いし、火のないところに煙は立たへんいう話もあるさかいな。

 もしそうやったら、彼氏からミッキーに心変わりさせて奪うしかないやん!」


 あー……。

 そういやそんな話もあったな。

 頭に伊達政次と月音先輩を思い浮かべる。

 あの二人付き合ってるのかな…確かに美形同士でお似合いなんだけど。


 でも付き合ってるとかとはちょっと違う気がするんだよなぁ。


 前に割り込んだ時の雰囲気とか会話から言っても、あの二人に流れている空気はそんな甘ったるいものじゃない。勿論恋人同士の痴話喧嘩という可能性もあるんだけども。

 ……痴話喧嘩だったりしたら割り込んだオレってアホだなぁと思わないでもないが、とりあえずその考えは頭から捨てる。


「さ、アホなこと言ってないで次の試験に集中しようぜ」

「次なんやったっけ?」

「哲学だな」

「あー!? アレ苦手やのにぃ!」


 おぉ、ジョーが頭を抱えだした。


「…確かにジョーって苦手そうだよな、そういうの」

「だって、他人の信念なんか聞いても全然おもろないやろ!? しかもええ年した大人が言葉遊びみたいなことばっかり言うとるし。もっとこう具体的に言え具体的に!とか思てまうやん」


 哲学を作った見知らぬ誰かにツッコむジョーを見守る。

 傍から見ている分には面白いなぁ。


 さて、そんなことをしていると先生が教室に入ってきた。

 どうやら休み時間は終わりらしい。

 引き続き試験を受ける。

 せっかくだから追試になる科目がないようにしないとな。



 □ ■ □



 集中して受けていると特に問題もなく1日の授業は終了。


「とりあえずこれで半分は終わり、か」


 安堵のため息。

 1年生の中間試験は今日明日の2日間(2、3年に関しては文系か理系か、あとはどんな科目を選ぶかで受ける科目数が違うので3日になったりする)だから、明日を乗り切ってしまえば晴れて自由の身になれる。

 とはいっても、ボクシング部の助っ人になったということで、翌日からは週末は狩り、平日はボクシングという過密スケジュールになるわけですが。


「随分疲れてるな、充」

「まぁ、ね。とりあえず筋肉痛もマシにはなってきたからちょっと安心した」

「あんまり無茶しちゃダメだよ?

 今回はちゃんとテスト対策したんだし今日はゆっくり休んでね」

「あいよー」


 いつもの幼馴染メンバーでそんなトークをしていると、


「ほれ、何しとんねんミッキー」

「…?」

「ボクシング部行くで、ボクシング部」


 何を言っているんだろうか、コイツは。


「いや、テスト期間中は部活動自粛だろ」

「確かに部活はしとらへんけどな。ミッキー、今朝入部届け出したやろ? とりあえず一度顔見せできるように部員を部室に集めてあんねん。せやから顔繋ぎだけしとこやないか」

「……マジ?」

「マジマジ。言うてもボクシング部のピンチに立ち上がってくれたトピーの友人、ちゅうことになっとるし警戒せんでも酷いことにはならへんて」


 いきなり言わないでほしいなぁ。

 とはいっても、集まってもらって今更挨拶しませんとか失礼だろうし。

 出雲と綾に向き直り、


「…まぁそんなことなんで、今日は二人でデートしつつ帰って下さい」

「いつも大変そうだな、充は」

「そっかぁ。でも無茶はしないようにね」


 帰る二人を見送る。


「……あれ、もしかして結構余計なことしてもうたか?」

「今更言うなよ……まぁ挨拶は一度はしておかないといけないしな」


 正確には一概に余計なこととも言えないんだけど。


 エッセ、月音先輩、水鈴、咲弥……。


 高校に入ってから可愛い女の子とは何人も知り合いになった。アレからもう1年以上しているのだから、そろそろオレも彼女を作ろうと思ってもいいはずだ。

 でもあまりそんな気にはなれない。

 理由はなんとなくわかっている。


 負い目、だろうか。


 他の誰かに対して、ではなくかつての自分自身に対しての。

 綾へ想いを寄せていたオレが、ダメだったからといってあっさり他の人に乗り換えていいのかという、そんな負い目が確かにある。

 勿論今更、綾とどうこうしたいという話でもない。

 今の出雲と一緒に幸せそうにしている彼女にオレは満足しているのは間違いないんだ。 

 ただそれとは別の次元で、すぐに他の人に乗り換えてしまうことがかつての綾への気持ちへの不義理になるんじゃないかと漠然と思っているのだろう。

 最近はマシになってきたからもう少しなんだろうけどな。


「んじゃ、行きますか」


 気合を入れて校舎を後にする。

 向かうは部活棟の1階、つまりボクシング部の部室である。

 扉の前まで来て一度深呼吸。

 意を決して扉を開いた。


 ガララ…ッ。


 汗とワセリンの匂い。

 なんという運動部のデフォルト。

 まぁ汗臭いのは運動部の宿命みたいなものだから仕方ない。


 まず目に飛び込んできたのは四角いリング。


 その脇にいくつか大きさの違うサンドバッグが吊るされており、他にもいくつかどう使うのかわからない器具が置いてあった。

 壁には大きな鏡が設けられており、多分これでフォームをチェックするんだろう。

 一応更衣室も設けられているようだ。


 そんな室内にいたのは7人の男子生徒。うちひとりは俊彦先輩だ。

 3年が2人、俊彦先輩を含めた2年が3人、残りの2人が1年。皆試験が終わって駆けつけたのか制服を着ているため学年はわかった。

 前に聞いた話の通り、2年生のうち一人が手首に包帯を巻いて固定していた。この人が怪我さえしていなければ……と、一瞬思ったけど考えても仕方ないことなのでやめておこう。


「あ…初めまして。三木……」

「いやぁ! 急な申し出ですまない! だが本当に助かったよ!」


 自己紹介の途中で、3年のうちひとりがいきなり前に進み出てガシっと腕を掴まれた。


「3年で主将キャプテンをしている比嘉ひがだ! 君たちの入部を大歓迎する!…とはいっても、対抗戦までの短い間かもしれないけれどもな! 勿論ボクシングの面白さを体感して、そのまま残ってくれても構わないぞ!」

「あ、はい。どうも…」


 ちょっと日に焼けすぎた感じの褐色の肌をしたこの人が主将らしい。えらくエネルギッシュな感じの人だなぁ…ついていけるかどうか不安だ。

 ……うん?


「………あれ? 君たち・・って……もしかしてジョーも入部したのか?」

「はっはっは、そうやけど?」

「いやいやいや! お前がイヤだって言うからオレが入ることになったんですけども!? なんでお前もボクシング部に来てるんだよっ!?」

「えー? 試合に出るのはなんやイヤやけども、友人の無謀な挑戦を近くで見守ってやりた……いやゴメンマジで! わかったから金的蹴り上げる練習するのやめて!?」

「何を言っているんだ、1個潰れても子孫繁栄には影響ないらしいぞ?」

「リアル過ぎて逆に怖いわッ!?…ちゅうか、子孫繁栄に影響あるとかないとかいう問題違うし!?

 ほんまに悪かったて! 堪忍!」


 なんてこった。

 ジョーが入るんなら、そもそも欠員問題とかなんとかでオレが入る必要なかったじゃないか。すげぇ騙された感が否めない。

 そして推薦した本人がさりげなく無謀言うな、無謀。

 そんなことオレが一番よくわかってるんだから。


 とりあえず全員の自己紹介を受けてひとりひとりと握手を交わした。

 すこし話しただけだけれど、基本的にみんないい奴だ。

 体育会系ではあるが上下関係が厳しい陰湿な感じではないのがありがたい。最低限の目上への礼儀だけしっかりしていれば、一年生が(例えば野球部なら球拾い的な)雑務ばっかりされたりとかではないらしい。人数が少ないせいもあるんだろうけどね。

 内容としては中間試験が終わった明日の放課後から試合までの間、練習をしに来ること、ジョーはあくまで補充要員扱いなので、試合に出るのはあくまでオレであることを確認した。


「ジョーは完全にボクシングよりも喧嘩ノールールのほうが得意だからな。試合に出すなら暴走する恐れのない充君のほうが助かるよ」


 とは俊彦先輩の弁である。

 ジョーは一体どんなヨゴレた過去を持っているんだ。

 一先ず確認すべきところを確認し終えた後、主将から伝言を受け取った。


「入部に関してなんだが! 君の入部届けの内容について生徒会から確認したいことがあるんだそうだ! ついては、すまないが生徒会室に顔を出して来て欲しい!!」

「あー、さよか。ほな行こかミッキー」

「いや! ジョー君については問題ないらしい! 呼ばれているのは充君ひとりだけだ!」


 思わず固まる。

 今回の対抗戦で決着をつけるのを提案したのが生徒会、というのは俊彦先輩から聞いていたから入部に関して生徒会がチェックとか何かで噛んでくる、というのはわからなくもない。

 ただ、だからといってオレが生徒会室に行くのは大きな問題がある。


 そう、伊達副生徒会長と顔をあわせることになるから、だ。


 いくらレベルが上がったとはいえ、こちらはまだ10レベル。

 相手の3分の1以下でしかない。

 魔物の適正レベルで考えれば、こちらのレベルが1とか2違うだけで、槍毛長やりけちょうか、虎隠良こいんりょうか、というくらいに敵の強さに違いが出てくる。

 それが20以上も違うのだ。

 純粋に戦うとすれば、もう絶望的でしかない戦力差なのは間違いない。

 それを承知の上で行かなければいけないことになる。


【仕方あるまい。虎穴に入らずんば虎子を得ずという格言もあるでな。

 おぬしがボクシング部の助っ人をすると決めた以上は逃げるわけにもいくまい】


 行かなかったことが原因で助っ人ができない、なんてことがあっては困る。

 そういった意味では確かにエッセの言った通り、避けることのできない問題ではあるのだ。ここは覚悟を決めて進むしかない。

 ポジティブに考えれば、どうせ会うなら今回のように学校で、というのは襲われないようにする上でかなりメリットもあることだし。


【いくらあやつが阿呆であっても、よもや昼日中の学校で同じ主人公プレイヤーを殺害しようとは思うまい。もしそこまでリスク管理のできない愚か者なら逆に組み易い】


 そういうこと。

 学校では他人の目もあるし証拠の隠滅も骨が折れる。

 正直なところ主人公プレイヤー補正を考えれば、ただの一般NPCであるオレを殺したところで問題ないんだけれど、今のところオレを主人公プレイヤーとして誤解したままなら、学校で襲うことを躊躇する可能性は十分ある。

 なにせ重要NPC以上を殺害する場合には主人公プレイヤー補正は働かないのだから。


「わかりました。じゃあこれから帰る前に行ってきます」

「大丈夫か?」

「問題ないよ。正直にボクシング部に入りたいですー!的なことを言えば問題ないと思うしさ。

 ジョーはここで待っててくれ。すぐに戻るよ」


 いくらなんでも巻き込むわけにもいかないので、ジョーにはボクシング部で待っていてもらうことにした。可能性として低いとはいえ襲われる可能性もあるわけだし。



 そのままボクシング部を後にしたオレは、部活棟にある生徒会室へと向かう。



 覚悟を決めても尚、心臓は早鐘のように鳴っていた。




 本当は節分くらいまでに、羅腕童子までやってしまいたかったんですけどね(節分にあわせて鬼退治的な)。色々思いつく度に話が長くなってしまって間に合いませんでした、残念。




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