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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.05 宣戦布告
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49.眠気の功名?

 今回からまた充視点での再開になります。

 さて、そんなこんなで無事に槍毛長を退治したオレは、こうして無事に月曜の学校にやってきたわけですが。


 ヤバい。

 ヤバいヤバい。

 めっさヤバい。


 何がヤバいかと聞かれれば全てがヤバいとしか言いようがない!


【……おぬし、さっきからヤバいヤバいと、それしか言っておらんではないか。

 それだけでは全く意味がわからぬぞ】


 うん、確かにエッセの言うことも最もなんだけどさ。

 実際ヤバすぎて説明する余裕もないわけよ。

 それでも何がと聞かれたら、この痛みが、としか言えない。

 全身の筋肉痛だけならまだしも、関節痛や偏頭痛も襲ってきているという三重苦である。


【まだ“蛮化バルバロティタ”の後遺症が抜けておらぬようじゃの】


 まぁ筋肉痛はわかるけど、なんで関節とか頭が痛いんだろうな。怪我は一応全部治してもらったはずなんだけど。


【そもそもあれは脳に作用する術だからの。無意識にかけている出力のセーブを取り去るため、脳の回路を一時的に活性化させるのだから終わったあとの反動で頭痛もするだろうし、逆に限界出力の衝撃を受け取ることになる関節にも負荷はかかっておろうよ】


 ………脳に、って。

 それ、寿命縮んだりしない?


【そのへんは心配あるまい。症状からして興奮系物質の過精製による後遺症はあるようじゃが、脳内麻薬の類は外部からの摂取と比較すれば許容範囲であれば自然に分解するからの】


 脳内麻薬というと、アドレナリンとかエンドルフィンとかそういう奴か。

 なんかの本で読んだ覚えがあるなぁ。


【そもそも機能としては元々人体に備わっている能力じゃからな。

 本来であれば意識して出すにはかなりの労苦を伴うステップを経ねばならぬが、その過程をすっとばすようにする術式だと思えばよい。

 今は無理に脳の作用を引き出したせいで、元の状態に戻ろうとしておるからこその痛みではないかの。おそらく1日前後で消えるはずじゃ】


 そういえば丸一日絶対安静、とか言ってたっけ。

 まさかそういう意味だとは……。


 がっくりして机に突っ伏す。


「普段ならそれで問題ないかもしれないが、何せ今日はテストなんだよなぁ…」


 思わず腕時計を見る。

 つい先ほど1時限目の数学 I A が終わったところだ。

 なんとか乗り越えることが出来たが、なかなかにキツかった…。

 テストの内容そのものの難易度については、授業中に気を付けて尚且つ勉強会もしたことでなんとか乗り切れそうだった。

 内容は別として頭がズキズキと不規則に痛むのがツラい。考え事をしなければいけないというのにいちいち頭痛がそれを邪魔しようとするのだ。

 おまけに全身を苛む痛みのせいで昨夜あまり眠れていない。その反動のせいか徐々にではあるが時間の経過と共に頭痛がマシになっていくに従って眠気も群れを成して襲ってくるという素敵具合だ。


 とりあえずどこかで仮眠取らないと本気で死ねる……。


 まだ1時限しか受けていないのにこの消耗では、とてもじゃないが今日1日を乗り越えられるとは思わない。下手な受け方をしてボロボロになるくらいならひとつくらい教科を捨ててでも仮眠を取るべきではないのか。

 追試も1つなのと、いくつもある場合では負担が全然違うだろうし。


「うん、仕方ないな」


 そんな風に結論づけて立ち上がる。

 そうと決まれば休み時間のうちにこっそりと眠れる場所を確保しなければならない。トイレにいくような感じでのんびりと教室を後にした。

 冷静に考えたら周りに何も告げずに教室を抜け出してどこかに消える、とか後々問題になるとわかりそうなものだが、このときのオレの頭は頭痛と眠気でよほど衰弱していたらしい。

 ただ短絡的に眠りだけを求めて行動をはじめていた。


 カッ、カッ、カッ…。


 廊下を歩いていく。

 足取りはなんとか保っているが気を抜くと少しフラつく。

 こっそり寝ていられる場所がないかきょろきょろと辺りを見回す。なんか物陰とかこっそり隠れられる場所があればいいんだけども。

 だが廊下なんかでそうそう都合のいい場所が見つかるわけもなし。


 当てもなくすこし歩いていると図書室の前まで来ていた。

 特に何も考えずに扉の取っ手に手をかけた。


 ………おや?


 珍しいことに鍵がかかっていない。

 授業中は締め切られていることが多いのに。


 ゆっくりと、すこしだけ扉を開く。そこから覗いて中に誰もいないことを確認する。

 うん、大丈夫みたいだ。

 そのまま図書室に入っていく。


 誰もいない静かな部屋。

 ここで寝てれば中々バレなそうだ。

 もしかして鍵を掛け忘れた先生とかが施錠しに来るかもしれないが、奥のほうで隠れていれば問題あるまい。鍵をかけられてもここの部屋の鍵は内側からなら開けられるからそれも心配なし。

 おぉ、まるでオレのために用意されたみたいにおあつらえ向きの場所だ。


 さて、そうと決まればサクっと寝るとしますか。


 図書室は入口から見てすぐの位置に受付兼貸出用のカウンター、勉強用の長テーブルと椅子のセットがいくつか。そして奥のほうにスチール製の立派な金属棚が並べられ、多少な本が収められている。

 あの本棚の奥あたりなら入り組んでいることだしパっと見たくらいじゃわからないだろう。


 そう考えて奥へと進んでいく。

 途中眠気のあまり意識が飛びそうになって、ふらっと体勢が崩れる。


 どん。


 本棚に体勢を預けるようにぶつかった。

 背の高い本棚の下の方にぶつかるとどうなるか。

 失敗しただるま落としを想像してもらえればいい。そう、上のほうから倒れてくるのだ。


「ぉ…おぉぉぉ…ッ!?」


 こちらに倒れ込んでこようとする本棚。

 慌ててなんとか押さえようと手を伸ばす。

 なんとか本棚を掴んで一瞬だけ止めることができたものの、


「…………ぁ」


 またも眠気で意識がトんだ。

 白んだ意識が手から力を奪う。

 やば、もうダメかも。


 そんなオレに本棚を押し戻すことなどできようもなかった。




  ………


  ……


  …




【…………ろ…ッ】


 ……?


【…い…減…、き…か……ッ】


 …ん~。

 なんだよ、まだ眠い……。


「ん………っ」


 もぞもぞと体勢を変えてさらに眠りを貪ろうと…、


【いい加減、起きぬか、このたわけッ!!】


 おぉぅ!?

 脳裏の響くエッセの声がオレの意識を覚醒させた。


 視界に広がるのは覚えのない天井。

 意味がわからず上半身を起こす。ギシリ、と筋肉痛に顔をしかめながらも半分だけ起き上がった状態で周囲をきょろきょろと確認する。


「…………あれ?」


 思わずそんな間抜けな声をあげてしまった。

 図書室だった。

 ……なんで、こんなトコにいるんだろう、オレ?


「おはようございます、充さん」


 澄んだ声がかけられた。

 思わず振り向くと、そこに美しい金髪の女子生徒がいた。絵になる立ち振る舞いをした綺麗なお姉さんがにっこりとこちらに微笑みかけてくれる。もしこれが夢だっていうんならいい夢だなぁ、なんて思ってしまうくらいだ。

 ………あれ? どっかで見た覚えがあるぞ、この美人さん。


「あ、はい…おはようございまふ…」


 軽く頭を下げる。

 ああ、そうだ。この人は生徒会長の月音先輩だ。

 前に会ったときにも思ったけど、やっぱ先輩の笑顔っていいよなぁ。なんか癒されるわぁ。

 と、そんなことを考えてからようやく事態に気づいた。


「……って、え……えぇぇぇぇぇっぇぇッ!!?」


 ど、ど、ど、どど、どうして、月音先輩がここに!?

 慌てて彼女から距離を取ろうとしたのだが、後ろに下がったらまたしても本棚にあたってしまった。

 一瞬グラつく本棚。

 もしも倒れたら大変と慌てて止めようとするも、なんとか本棚は元通りの位置で動きを止めたので一安心。


「………そんなに驚かれると少しショックなのですけれど」


 悲しそうに目を伏せる。

 うぐぐ…先輩みたいな美人がそういう仕草をするのは反則だと思いマスヨ!?

 ちょっとした罪悪感に苛まれつつ、


「い、いやいやいや。な、なんで月音先輩がここにッ!?」


 思いついた質問を口にした。

 ちなみに心臓はさっきから高鳴りっぱなしだ。

 きっと顔も赤いんだろうなぁ…変に思われてないといいんだけども…。

 対する月音先輩はその問いに一瞬きょとんとしてから切り返す。


「それを言うのなら、充さんこそどうしてここにいらっしゃるのでしょう? 今日は1年生も中間試験のはずなのですけれど」

「うぐ…ッ」


 確かにそれを言われると……。

 まさか前の日に脳を酷使して戦った反動で眠気がマックスだったから、2時限目をサボって図書室で寝てました、とか馬鹿正直に言えるはずもない。

 なんと答えたらいいのやら…。

 ただしそこはやはり月音先輩。

 こちらが答えに困っていると気を遣って、自分のことを話してくれた。


「わたしは二時限目のヒアリングに使う機材を取りに。

 そこで充さんが倒れてらっしゃいましたから機材を届けた後、様子を見ていた。わかりやすく説明するとそういうことになりますね」

「な、なるほど…それは、し、心配おかけ致しました」


 つまるところ、こんなところで寝ていたオレを心配してわざわざ居てくれた、と。

 なんというか申し訳ない気持ちになるのと同時に、こんな美人に心配されてたんだと思うとちょっとテンションあがってきちゃうなぁ。


【……わらわもいつも心配してやっておるではないか?】


 あー、ほら。

 エッセも美人だけど、月音先輩はそれとはまた違ったタイプの美人さんというか。

 男の子って哀しいよネ!


「それで充さんはここで何を?」

「……ぅ、ぁ…」


 内心でエッセのツッコミに返答していると、月音先輩から先程の問いが再度投げかけられた。


「そ、それ……い、言わないとダメですか?」

「わたしはちゃんと話しましたよ?」

「そ、そうですよね~」


 あははー、と笑って誤魔化す。

 だから上目遣いはやめてくださいって。

 破壊力は抜群だ!とか表示が出ちゃいそうですよ、ちくしょう!


「勿論何か事情があってのことで、それがお話しできないことであれば構いませんよ」


 そして押したあとに引く。

 これを確信犯でやってるなら、もう世の中のどんな男でもコロっといっちゃいそうだなぁ…。見てる限り本人意識してないんだろうけど。


 とりあえず、なんて可愛い生き物なんだ!と思わず拳を握ってみた。


 そういう行動されたら答えないわけにはいかないじゃないか。

 ひとまず即興でそれらしい言い訳を考え、


「あ、ぅ、いや、そ、そんな大層な事情じゃないんですけど……。

 実はちょっと諸般の事情により睡眠不足でして…あまりに眠いので、い、1時間だけフけて寝てようかな、と……いえ! ゴメンなさい! つ、つい魔が指したんですぅっ!

 ふ、フラフラしてて図書室の鍵があいてたもんで…」


 うん、嘘は言ってないな!


「いけませんね。学生たる者、勉強が本分。どのような事情があるかはわかりませんが、それに影響が出るようななら、その時間の使い方は間違っています。

 あまつさえ授業中に図書室で寝ているなど、貴方は学校という学び舎をなんと心得ているのですか」

「………うぅ」


 まるで世話の焼ける弟にでも諭すようにゆっくりとお説教をされてしまう。実際年下なんだけどね。男の兄弟しかいないオレはどう反応していいものかわからず黙るだけ。

 正論過ぎて何も言い返せやしない。


「―――と、普段なら言わないといけないのでしょうね」


 ふわり。

 そんな効果音がしっくりくるような微笑みが浮かぶ。

 お堅い上級生、といった感じから、茶目っ気たっぷりなイメージに包んでいる雰囲気が変わったことに驚きつつ固まるオレ。


「でもそうなると、すぐに起こしてあげられなかったわたしも同罪ということになってしまいます。

 それは困ります。わたしは生徒会長という立場がありますから、下級生が授業を抜けていることを見逃してあげた、というのは都合が悪いと思いませんか?」


 あー、前言撤回です。

 男兄弟しかいなくてもわかります。

 こんなお姉さんに説教されてからこんなこと言われたら、弟はシスコンになるしか道はないことが。


 彼女は人差し指を立てて口元に当てた。

 しー、とジェスチャーをしながら話を続ける。

 いちいち可愛いなぁ、もう。


「だからここでのことは内緒にしましょう。

 わたしはヒアリングの機材を取りに来ました。

 そこでたまたま・・・・図書室の前を通りがかった貴方にお願いして機材を探すのを手伝ってもらいました。でも不幸なことに予想外に時間がかかってしまい授業に遅れてしまいました」


 ちなみにこのジェスチャー、月音先輩の両親のお国でも共通なんだろうか?なんてことを思いついたけども聞いても仕方ないのでスルーしておく。


「……ということにしましょう。後でわたしから担任の先生のほうに連絡を入れておきますから、急いで教室に戻ってその旨をお伝え下さい。遅れはしても試験は受けさせてくれるはずですよ」

「……………」


 その提案はオレにとってまったく損のないものだったから拒絶する理由はなかった。むしろそんなことが出来るのかと内心感心した。

 さすが生徒会長の信用度は違う。


「わ、わかりました!」


 緊張しすぎてどうも噛んじゃうなぁ。

 とりあえず気合を入れて返事をしたのは伝わったのか、柔らかい微笑みを浮かべたまま、


「はい。ではわたしも戻りますから、充さんも急いで戻って下さい」

「りょ、了解です!」


 話しているだけで照れているのを誤魔化すように返事をして、一礼。

 急いでそのまま図書室を後にした。


 ヤバいなぁ。

 ホントにヤバい。

 さっきまでと全然違った意味でヤバい。


 印象がまるで違う。

 正直なところ、噂とかで聞いた生徒会長はもっと冷めていて高嶺の花過ぎてとっつきにくい、なんてイメージだった。前に会ったときもそれほど話さなかったのでそんなものかな、なんて思っていたけれど。


 あんなに楽しそうに笑う人だったんだなぁ。

 実際会話をしてみたらそんな印象はガラガラと崩れた。



「……月音先輩、結構好きだなぁ」



 小さく呟いてから廊下を急ぐ。



 仮眠が効いたのか、眠気も頭痛も大分マシになっていた。


 

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