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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.05 宣戦布告
50/252

48.生徒会長

 機材を届けてから、急に体調を崩した生徒を保健室に運ぶ旨を担任の先生に伝えました。

 試験については授業終了までに解答用紙が出来上がっていればよいとのことですから、終わる20分前までに戻ればよいでしょう。次の科目が英語なのが幸いしました。

 海外出身の父親のいる家庭環境に感謝します。


 図書室に戻ると、充君は戻る前と同じ場所に横たわっています。


 さて、どうやって連れていきましょうか。

 見たところ体格的には一般的な男子生徒と遜色ないようですが、やはり一人で連れていくとなると中々骨の折れる作業になります。

 そこまで考えた後、


「……寝ているだけでしたら、すこし待ってみるのも手ですね」


 そんなことを思いました。

 見たところ本棚の下敷きになって多少の擦り傷を作っているものの、他に目立った外傷はないようです。すこし待ってみて起きなければ起こす、ということで様子を見るとしましょう。

 本来であれば授業中。

 それも中間試験の最中です。

 すぐに起こしてあげるほうがよいのでしょうけれど……。


 あんなにいい顔をして寝られたら、ちょっと起こせないじゃないですか。


 さて、その間にわたしは本棚を直して先ほど急いで横にどけた本を取ります。これらをジャンルごとに分類しながらいくつかの山にしていくことにしましょう。

 普通に考えて図書委員でもない素人のわたしが分けるのは結構な労力に思えますが、実際には背表紙に貼られたラベルで大体の配置がわかりますから、そこまで難しい作業ではありません。

 事実手際よくやっていけば10分ほどで大きなカテゴリ分けは完了します。

 本棚の裏と表、どっちにあったのか、という大雑把な分け方ですので、時間がかかるのはここからです。おそらく授業中では時間が足りないでしょう。後で管理をしている人に話してやってもらうしかないところです。

 そう思いながら見ていると興味をひくタイトルのものがったので、思わず手にとってしまいました。


 竹取物語。


 原文と現代語訳を交えた単行本サイズの本。

 今朝のこともあってそれを手に取った瞬間、色々と思い出して気恥ずかしくなってしまいました。


「ん………っ」


 寝ていた充君が小さく声をあげました。

 思わずびっくりして手に取っていた本を落としそうになります。

 あぶないあぶない。

 本は大切に扱いませんと。


「…………あれ?」


 半分寝惚け眼で上半身を起こした彼はきょろきょろと周囲を確認しています。どうやらまだ頭が状況を把握していないようです。


「おはようございます、充さん」


 にっこりと笑って声をかけます。

 さっきびっくりしたせいか胸が早鐘のように鼓動しているのですが、ちゃんと笑顔が作れているでしょうか。生徒会長という役目柄(正確には副生徒会長が原因なのですが)内心を隠して相手に接することには慣れているつもりですが。

 そんなわたしに、


「あ、はい…おはようございまふ…」


 ぺこり、と首だけ軽く曲げて会釈をしてくれました。

 が、それも一瞬のこと。


「……って、え……えぇぇぇぇぇっぇぇッ!!?」


 いきなり何かに驚いて凄い勢いで後ずさります。

 ずざささッ!と擬音が背後に見えそうな見事な動きです。

 あ、でもそんなに勢い良く下がると…


 どんっ!


 充君は背中から別の本棚にぶつかります。

 結構な勢いでしたから、その衝撃にかすかにぐらっと揺れる本棚。

 幸い倒れるようなことはなかったのでほっと胸をなでおろします。


「………そんなに驚かれると少しショックなのですけれど」


 もしかして充君のほうは余りわたくしに対してあまりいい印象を持っていないのかもしれません。確かに以前初めて知り合ったとき、別れ際あまり関わりにならないように、などと偉そうに語ってしまいましたから当然だと仰られればその通りです。


「い、いやいやいや。な、なんで月音先輩がここにッ!?」


 確かにそれを知りたくなるのはわかりますが、授業中に図書室にいるのは充君だって同じ立場。そんなにわたしがここにいると不味いみたいな対応をされると困ります。

 ちょっと意地悪な心持ちで、


「それを言うのなら、充さんこそどうしてここにいらっしゃるのでしょう? 今日は1年生も中間試験のはずなのですけれど」

「うぐ…ッ」


 すこしバツが悪そうに頭を掻く少年。

 言葉に詰まったのか黙ってしまいます。

 ふふふ、ちょっと意地悪が過ぎてしまったやもしれません、反省しましょう。


「わたくしは二時限目のヒアリングに使う機材を取りに。

 そこで充さんが倒れてらっしゃいましたから機材を届けた後、様子を見ていた。わかりやすく説明するとそういうことになりますね」


 そういうことか、と納得してくれている様子。


「な、なるほど…それは、し、心配おかけ致しました」


 たださっきから言葉に詰まりがちなのが気になります。

 やはり生徒会長相手ということで緊張しているのでしょうか。緊張しているということはつまるところ身構えているということ。恩人でもあるわけですから、できればもっと気楽に話して頂けたら、なんて埒もないことを考えます。


「それで充さんはここで何を?」

「……ぅ、ぁ…」


 聞き返すとまた黙ってしまいました。

 正確には意図して沈黙しようとしているのではなく、言葉をどういう風にまとめようかと考えているように見受けられます。

 相手が自分なりのペースで話せるように、無理強いせずに静かに待つとしましょう。

 少しして落ち着いたのか、


「そ、それ……い、言わないとダメですか?」

「わたくしはちゃんと話しましたよ?」

「そ、そうですよね~」


 あはは、と笑いながら笑顔を浮かべる充君。

 すこし可哀想になってきましたので無理強いはしないことにしましょう。


「勿論何か事情があってのことで、それがお話しできないことであれば構いませんよ」

「あ、ぅ、いや、そ、そんな大層な事情じゃないんですけど……。

 実はちょっと諸般の事情により睡眠不足でして…あまりに眠いので、い、1時間だけフけて寝てようかな、と……いえ! ゴメンなさい! つ、つい魔が指したんですぅっ!

 ふ、フラフラしてて図書室の鍵があいてたもんで…」


 わたわたとしながらの弁明。

 もしかして中間試験のために徹夜で勉強でもしていたのでしょうか。

 話を総合すると偶然空いていた図書室に忍び込んだのはいいものの、隠れて寝ようと奥の方に行こうとして、そのまま意識を失って本棚に激突。今に至るようです。


「いけませんね。学生たる者、勉強が本分。どのような事情があるかはわかりませんが、それに影響が出るようななら、その時間の使い方は間違っています。

 あまつさえ授業中に図書室で寝ているなど、貴方は学校という学び舎をなんと心得ているのですか」

「………うぅ」


 生徒会長っぽく威厳があるように一言ずつ区切って短く注意する。

 ただ今は図書室で彼とわたし以外は誰もいない。あのどうしても好きになれない副生徒会長すらも!

 だからこれくらいはよいでしょう。


「―――と、普段なら言わないといけないのでしょうね」


 自然と微笑みをこぼしながら続けます。

 あ、きょとんとしている顔も可愛いですね。


「でもそうなると、すぐに起こしてあげられなかったわたしも同罪ということになってしまいます。

 それは困ります。わたくしは生徒会長という立場がありますから、下級生が授業を抜けていることを見逃してあげた、というのは都合が悪いと思いませんか?」


 コクコクと頷く少年。

 ただ意図が計りかねているのかすこし怪訝そうにも見える。

 わたしは人差し指を立てて自分の口の前に持っていき、ゆっくりジェスチャーをしました。


「だからここでのことは内緒にしましょう。

 わたくしはヒアリングの機材を取りに来ました。

 そこでたまたま・・・・図書室の前を通りがかった貴方にお願いして機材を探すのを手伝ってもらいました。でも不幸なことに予想外に時間がかかってしまい授業に遅れてしまいました」


 眠さの余り授業を抜ける。

 周囲に期待されるまま、模範的な生徒でいなければならないと考えていたわたしにとっては、とても縁遠い発想。ただそれに対して責めるというより、恩人のちょっとお茶目な面を見つけた楽しさのほうを強く覚えました。


「……ということにしましょう。後でわたくしから担任の先生のほうに連絡を入れておきますから、急いで教室に戻ってその旨をお伝え下さい。遅れはしても試験は受けさせてくれるはずですよ」


 だからこその提案。

 いつものわたくしを知っている人から見れば、わたしらしくないかもしれませんけれど、たまにはいいでしょう。 


「……………」


 ……?

 充君は無言のまま、何かを我慢するかのように視線を逸らしています。

 これは…もしかして呆れられているとか。

 やはり、慣れないことはしないほうがよかったかもしれません。


「わ、わかりました!」


 気持ちを切り替えたようで元気のいい返事が返ってきました。


「はい。ではわたくしも戻りますから、充さんも急いで戻って下さい」

「りょ、了解です!」


 図書室から急いで出ていく充君を見送ります。

 すこし柄にもないことをしてしまった感は否めませんが、ヨシとしましょう。

 ひとまず本棚の件は書置きを残しておきます。適当に理由をつけて本棚が倒れたことを記して詳細についてはわたし宛に問い合わせてもらえるように署名も入れておきました。

 時計を見ると2時限目が始まって18分。

 1時限は50分ですから移動の時間を含めて、もう5分くらいはここでのんびりしていても間に合う計算になります。さっきの充君の話を聞いたせいでしょうか。普段は思いついたりしないそんな考えが頭に浮かびます。


「ふふ」


 実際にそうするかどうか、とは別の話。

 でもそんなちょっと悪いことを考える余裕すら無くしていた自分に気づいて、思わず小さく笑ってしまいました。




 図書室を後にしたわたくしは無事に2年の教室に戻りました。

 幸い、といいますか副生徒会長とは教室が違いますから、さっきの件はわたしが隠しておけば充君に迷惑をかけることはないでしょう。

 



 そのまま時間が過ぎていき、無事に中間試験の初日が終わります。

 明日も試験があるため本日は部活動は全面的に休止。

 普段はしばらく残っているような生徒たちも帰宅していきました。

 ただ提出された書類に目を通したりといった実務があるため、生徒会活動だけは時間を短縮して行うようになっています。


「…………」


 思わずため息をつきそうになって堪えます。

 人目のあるところで弱音を吐くのはわたしらしくないですから。


 これからあの男・・・といつものように対峙しなければなりません。何をされても揺るがないよう強いわたしでなければ。


 そう思いながら校舎を抜けて部活棟へ足を向けます。

 そして生徒会室の前へ。


 いつもこの扉の前に立つと逃げ出したい気持ちに駆られます。

 どうしてわたくしが、と考えたことも一度や二度ではありません。それでもこれはわたくしが選んだ方法なのだから。 決意して取っ手に手をかけます。


「入りますよ」


 本来ならば、すでに中にいるかもしれないであろうあの男・・・に声をかけるなど髪の毛一本ほどにも嫌なのですが、他の生徒会役員がいる可能性もあるので仕方ありません。


 ガララ…ッ。


 扉を開くと室内にいたのは一番奥にある生徒会長席の隣に座っているひとりの男、そしてその脇に立っている一年生の女の子だけ。


 伊達だて政次まさつぐ副生徒会長。


 それが座っている彼の名前。

 憎むべき主人公プレイヤー。わたしの意思をねじ曲げるために全てを自分に都合のいいように作り替える最悪の男性。そのせいでわたしと恋仲だなんていう噂もあるけれど正直願い下げです。

 女子生徒の中には副生徒会長の整った顔立ちに熱をあげる方がいらっしゃるようですが、すくなくともわたくしにとっては好みでもなんでもありませんし。


「ああ、来たのか。月音くん」


 こちらを一瞥すると、彼は傍らに立っている女子生徒に声をかけます。

 あれは確か会計をやってもらっている天小―――


「話はここまでのようだね、天小園さん。続きはまた時間があるときにでも聞こう。

 今日のところは帰りたまえ」


 おそらく何か話をしていたのだろう。

 それを打ち切って副生徒会長は退出を促す。

 すれ違いざまにわたしに対して鋭い視線を向けながら、彼女は生徒会室を退出していきました。



 背後で扉が閉まる音がした。

 と、同時に室内に沈黙がやってくる。


 嫌な緊張感と視線に晒されながらも、平然を装って何事もなかったかのように会長席へと向かいます。



「月音くぅぅん?」



 ぞわり。

 全身におぞましい寒気。


 見ると伊達政次がゆっくりと立ち上がり、こちらに視線を向けていました。先ほどまでとはまるで違う狂った偏執が宿る瞳。

 底冷えするほど、鈍く、それでいて酷薄な光。

 視線に射すくめられたように全身が緊張し背中に冷たい汗が吹き出ます。

 彼はゆらり、と手を動かすと自分の机の上に置かれていた箱に手を置きました。コツコツ、と神経質そうに指で音を立てます。



「なぁ、月音くぅん? キミ、ボクに隠してることがあるだろぉ?」



 どんなかすかな反応もしないよう神経を総動員させます。

 例えどんな蟻の穴ほどの不自然であったとしても、隙を見せればこの男は自分が思った通りに動いてしまいますから。



「2時限…って言えばわかぁぁぁるかぁぁぁ?」



 底抜けの笑顔で告げられました。



「ああ、悲しいねぇ。そんなにボクは信用がないのかなぁ?

 こんなにも、そう、こぉぉんなにぃもっ!!! 愛してるというのに」


 だんっ!!


 箱に拳をぶつけました。

 変形する拳。


「まぁ、いいさ。ボクの愛は海よりも深ぁいから。

 たとえキミがどぉぉんな裏切りをしたって、ぜぇぇぇんぶ許してあげよう」


 ぬけぬけとそんなことを言う。


「ただ……理解はしてもらわないとねぇ」


 じわり…。

 かすかに箱の隅が赤く染まっていく。


「………ッ」


 まさか。

 そんな…ッ。

 最悪の想像に言葉が出ない。



「ボクの愛を受け入れなかったら……ああ、哀しいことしか起こらない、ってこと、さ」




 ゆっくりとその男が開けた箱に入っていたのは、血に塗れた仔猫・・




「……ああ、キミのその顔が見たかったんだ」



 悪魔が嗤う。

 何度も何度も。


 きっと、わたくしの悪夢は、終わらない。




 高校時代なんて随分と昔のことなので、時間割とか結構忘れてますね。幸い母校がHPで公開していたので、基本的にはそれを資料にしてやっています。


 ちょっと最近仕事で終電になっており、更新の時間がおそいです。もうちょっと早くしたいところですね。


 更新を続けられるのも見てくださる皆さんのお陰です。

 励みにもなりますので感想など、ございましたらどんどんお寄せ下さい。



 今後ともよろしくお願いいたします。


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