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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.03 進む道の先
41/252

39.丸塚 丈一

 夜の帳が全てを包む頃。


 河川敷。

 橋の下。


 目の前の学生服を着た男と対峙する。


「お前、うちの者を随分かわいごうてくれたらしいな」


 二人の背後には、それぞれ20人ほどの男子生徒の姿がある。

 どいつもこいつも腕に覚えのある血気盛んな連中ばかり。先頭に立つリーダーが押さえていなければ、すぐにでも目の前の相手に飛びかかっているであろうことは間違いない。


「それはこっちのセリフだ。貴様がやったことは度しがたい」


 ゴキンッ!

 片方の男が思わず指を鳴らす。


 ジャリッ…。

 対する男が脚に力を込める。


 互いの視線がかち合う。

 主張は平行線。

 一般であればどちらに非があるのか話し合うこともあるだろう。

 だが事ここに至っては最早言葉では決着はつかない。


 遺恨のない白黒の付け方。


 その方法だけが二人とも一致していた。

 互いの頭だけでの一対一。


 街の筋者ですら一目置く強者同士の激突。


 だんっ!!


 先に手を出したのは関西弁の男。

 力任せに振るった一撃を対する男は掌で打ち落とすと、同時にもう片方の手で反撃。

 顔に迫るその一撃を関西弁の男は勘だけで避ける。

 理論と野生。

 それぞれ種類の違うものに裏打ちされた攻防が続く。


 東中の丸塚丈一。


 西中の佐々木俊彦。

 

 二人の幾度にも渡る勝負のはじまりはこの時だった―――



 □ ■ □



「…-っ……」


 ………?


「…ョーッ……」


 ……???


「ジョー!」

「おぉぅっ!?」


 思わず頭をあげると、そこには見慣れた友人ことミッキーがおった。

 あかん、どうも机に突っ伏して寝とったらしい。


「あー、おはようさん」

「おはよう、じゃない。もう放課後だぞ」


 おぉぅ、昼前から記憶があらへんな。

 どうも熟睡しまくってもうたらしい。まぁ過ぎたことを気にしとってもしゃあないから気にせんようにしとこう。

 わざわざ起こしてくれるあたり、ミッキーはええ奴や。


「放課後かぁ。よっしゃ部活いこか」

「……中間近いのに大丈夫か? 真面目に授業受けてるからノートくらいは貸してやれるけど」


 うぅむ、ホンマにええ奴やな。


 今日は月曜日。

 ミッキーも部活に行く日やから一緒に部室へと急ぐ。


「まぁテストくらいなんとでもなるやろ」

「その前向きさは凄いけどな」


 どっちにしてもこの高校入るための受験勉強で、一生分!いうても過言じゃないくらいの勉強はしてもうたからな。しばらくは楽したい。

 個人的には留年にならんくらいの赤点ギリギリの成績でええと思てるから楽なもんや。


 オンラインゲーム部の部室にやってくる。

 先輩部員への挨拶もそこそこに部室の中にある大きな機械を見る。

 先週までと違い、そこにはオンラインゲームをリアルに体験できるヴァーチャル用の端末が2台。


 そう、ついに同時プレイが可能となったのだ。


「…2台で1憶6000万だと思うと、なんか金額が雲の上すぎて実感わかないよな」

「せやなぁ。まぁ学生はそないなせせこましいこと考えんと、大人しゅう楽しんどったらええと思うで」


 早速二人それぞれが体感用のスーツを着て機械を駆動させる。

 ちなみにヴァーチャルマシンの使用時間はこれまでが1年生が月曜日から木曜日。金曜日と土曜日が2年生、日曜日が3年生という割り振りになっとる。1年生が4人、2年生が3人、3年生が2人といったところやから1週間あたり1年生は3~4時間、2年生は6時間、3年生が6時間ほどの計算や。

 誰がどの時間に使うのかは学年毎に決めて、欠席などがあればその時間は同じ学年の人が優先的に使うようになっとる。

 2台目が入ったことにより同時プレイもできるようになるし、さらにこれらの使用可能時間も倍になるわけやから、マシンが増えることを歓迎しないはずあらへん。



 ヴヴヴ…。



 すこしすると視界が開ける。

 そこはプロトス村の広場やった。

 夜が明けたばかりらしく日の光が心地よい。

 先週ミッキーもプロトス村でログアウトしたさかい、すぐに目の前におる。


「おー、ミッキーのキャラてヴァーチャルで見るとこないに見えるんやなぁ」

「見えるもなにも、元の自分をそのまま登録しちゃったから同じようにしか見えないだろ」

「そこはあれや、気分的なもんやね。

 友人がゲームの中でまで同じ姿やとかちょっと感動せえへん?」

「わからないでもないが…それより、聞いていいか?」


 ……?

 ええよ、と先を促すと、


「…なんか先週よりもジョーは随分と装備がいいんだけども」

「あー」


 実は先週ミッキーと一緒に小赤鬼ゴブリン退治にいった後、パソコンを使って進めとったから装備はすでに鉄シリーズになっとる。鉄の鎧、鉄の小手、鉄の兜、鉄の盾などなど。


「さすがに週一でやっとるミッキーより時間はたっぷりあったさかいな。ちまちま進めとったんや。まぁ別にはよ進めるんがええわけちゃうし、せっかくのオンラインゲームなんやからのんびりやっていったら、おいおい装備も変えれるて」

「だな。せっかくマシンが2台になったことだし、もう1日くらい部に顔出すつもりだし」


 それからすこしミッキーと今後のことについて話す。


「とりあえずミッキーに出来るんは、この村にある3つのクエスト受けて皮装備充実させるか、もしくは狩りにいくか、くらいやな」

「おぉ、皮装備! 前にジョーが着てたやつだな」

「せやせや。3つのクエストでそれぞれ部位装備が2つずつもらえるさかい、それをこなすとアクセサリとかの特殊装備以外は一式揃うようになっとんねん」

「そりゃ魅力的だな…だけど、それだとジョーと一緒の意味あまりないだろ。ヴァーチャルで初めて一緒なんだから、そうじゃないとできないことしようぜ。

 やっぱ友人はツルんでナンボ、って感じだしさ」


 ……たまにこういうことをサラっというミッキーにはホンマ勝てんわ。


「それやったらラオグラフィアに行くっちゅうんはどうや?」

「ラオグラフィア?」

「ひらたく言うたら、この村の次の集落やな。そこそこ大きい町で、レベル20くらいまではしばらくはそこを基地にして動く奴が多い。何を隠そうこの鉄装備もそこで手に入れたもんやし」

「おー! いいね」


 そんなこんなで村を後にして街道を進んでいくことになった。


「あー、ちなみにラオグラフィア近辺の敵て基本的に小赤鬼の酋長ゴブリン・ロードクラスのが一番弱いレベルやから気ぃつけてな」

「出発してから言うな!?」


 ぎゃふん。

 相変わらずミッキーのツッコミは冴えとるで…。

 プロトス村からラオグラフィアの町まではそれほど遠くもない。パソコンのゲーム中で2時間ほどだから、ゲーム中の時間では10時間ほど。距離的には問題ないものの、敵のレベルが一段あがるのに加えて複数で出現することが多くなるわけやし、一般的には村で装備を整えてレベルを上げてからやないと無事にたどり着くのは難しい。

 とはいえ、俺は一度行っとる上に装備もレベルも十分。フォローさえしてやったらミッキーもラオグラフィアまで着けるやろ。

 

 村を出て30分。

 街道脇の茂みから何かが飛び出してきおった。

 飛び出してきたのは灰色の山猫リンクス

 山猫リンクスの中では最も弱い相手やけども、実際の強さは小赤鬼の酋長ゴブリン・ロードとほぼ互角。


「そりゃ山猫リンクスやな。爪で攻撃してくるだけのシンプルなやっちゃ。

 ただ動きが結構素早いから気ぃつけや」


 一匹しか出てこなかったのでアドバイスだけして見守る。

 なんだかんだ文句を言いながらもミッキーは剣を手に山猫リンクス相手に戦い始めた。


「おぉ、なかなか…」


 その様子を見つつ感心する。

 パソコンのゲーム画面では戦闘に関してここまで細しゅう見ることが出来ん。例えば攻撃した際に足の踏み込みの強さの加減とか指先の動きとかまではわからへん。ヴァーチャルマシンと比較するとどうしたって情報量に圧倒的な違いがあるわけやし仕方ないんやけども。

 せやからお互いヴァーチャルでやってみたとき、ミッキーの動きが予想を超えてたことを初めて理解したんや。


 ふとさっき放課後まで机の上で寝とったときに見てた夢を思い出す。

 中学時代の夢。

 トピーと初めてタイマン張ったときやったな、あれは。


 別に不良になっとるつもりはなかった。

 単に地元の小学校から中学校まで普通に通っとったから地元の友人が多かった。その友人がなんやモメて殴られたとかカツアゲにおうたとか、そういうんがある度に相手をシメにいっとったらいつの間にか番格みたいな扱いされとっただけや。


 そんな中、うちの生徒が殴って金取られた、いう話が出て西中の番はっとったトピーと一戦交える羽目になった。実際んとこは北中の番長いうんがズルい奴で、当時弱小やった自分とこの勢力のばすために、色々画策してトピーと俺を潰し合わせたかったらしいんやけども。

 とりあえずそんな策略にまんまとかかって、トピーと俺は互いに自分とこの生徒に危害加えた相手やと思いこんでしもたんやな。結果タイマンになってしもた。

 そのときは1時間くらい殴りあい続けたんやけど、結局勝負つかず。さらに4度くらいやったけど、2勝2敗でイーブン。


 そないなことしてるうちに、あれ?この相手がそないなことする奴か?いう疑問が出てきたんや。

 で、話を聞いてみたら、案の定互いに誤解しとったことが発覚。

 これて拳で語ったいうことになるんやろか? まぁええわ。


 そこから互角の相手として仲良うなった。ツルんでるうちに、トピーがボクシングやっとることがわかって推薦である高校いく、いうからそこ調べたら知り合いがいっとる高校やった。

 そのツテを頼って色々見てたらなんや凄いヴァーチャルマシンがあるいうやないか。それをやってみて感動した。

 以来、この部活目当てに受験してきて今に至る。


 そないな生活を送っとったさかい、正直殴り合いとかにはちぃと自信がある。

 その俺の目から見ても、目の前で山猫リンクス相手に格闘しとるミッキーはなかなかええ動きをしとった。

 始業式で話したときは、そないなイメージはなかった。

 いかにもシャバっぽい男子生徒やったはずや。


 地元では多少悪さしてしもたさかい悪名もあった。そのせいやろか、近づいてくる連中は盲目的に心酔しとったり暴力に恐怖したりしとる奴ばかり。普通の真面目な生徒は話しかけてきたりもせんかった。

 せやから、せっかく遠方の高校にきたっちゅうこともあって、普通に友人作ってみよ思た。関西弁のお喋りなキャラを自分で作ってみたり、結構我ながら涙ぐましい努力やなぁ。


 そう決意して初めて出来た友人がミッキー。

 三木充。

 まぁよくも悪くも普通や。

 別段勉強とか運動とか何かが得意なわけでもない。喧嘩も弱いやろな、と思とった。大体立ち振る舞いとかで強い奴いうんはそれらしい気配しとるもんやし。



 そこまで考えているとミッキーが山猫リンクス倒しよった。


「ジョー、終わ…ッ…うぉっ!!?」


 と、思たらまた横から山猫リンクスが出てきおった。

 まだしばらくかかりそうなので考え事を続行しとこ。 



 あー、どこまでいったやろか。

 そうや、特に喧嘩も強そうやなかった、ってトコまでやな。

 それがある日変わった。

 オンラインゲーム部に入った翌日に休んでから、ミッキーは何か不安いうんかちょっと恐怖しとるというんか、そないな感じをちょっと醸し出しとった。

 経験上、こないな感じがするんは大体が勝てへん相手がおってそいつから逃げられもせんときや。

 え? なんでわかるのかて? まぁ同級生がいつもカツアゲされとったときとか、そういう風になっとったさかいな。



 ちなみにミッキーが二匹目の山猫リンクスを倒しそうになったとき、また一匹飛び込んできた。

 ええ経験になりそうやから、危なくなるまでもうちょい見守ろか。

 あ、また一匹増えた。 



 さて、ミッキーの原因がカツアゲなんかイジメなんか。

 それはわからんけども相談しにくるようやったら助けたろとは思とった。

 付き合いは短いいうても友人は友人。ミッキーはああ見えて友人を大事にする奴やっちゅうのうはわかっとる。もし逆の立場やったらきっと俺を助けてくれるはずや。

 なら俺も同じようにするんが対等な友人関係やろ。


 でもそれをせんかった。

 土日を境にして徐々に何か気合が入ってきおった。

 腹が据わっとるいうんか、覚悟を決めた顔つきになっとったんや。

 立ち振る舞いもちょっとずつ良ぅなっていった。すこしやけど体つきも変わったし、日常生活のちょっとしたことでも反応が目に見えて違う。

 ヴァーチャルマシンで確かめたら、実際はそれ以上に強くなっとったさかい驚いたちゅうわけや。


 つまるところ自分で乗り越えていこ決めたんやろ。

 友人としては寂しいとこやけど、自分の友人を選ぶ目が確かやったちゅうことでもある。昔の俺はそこを失敗してしもた。勿論みんながみんな自分で強くなれるわけやないけど、自分でなんとかしよ思わん人間ばかりを友人にしてたんや。アホやった俺はそれを助けることが友情やと勘違いしとったんやな。

 一方的な依存関係やない。

 本当に苦しくなるまで歯を食いしばって、最後にだけ手を貸してもらう。それが対等な友人やと気づいたんはミッキーと出会ってから。


「せやからミッキーが本当に手を貸してほしいときまで、今は見守るとしよう」


 うんうん、と頷く。


「ば…っかっ!!? もうすでに本当に手を貸してほしいときだわ、バカ!!?」

 

 はっはっは、まだ山猫が4匹やないか。

 きっとミッキーやったら5匹はいけるはず!

 信じとるで!

 ニヤニヤしながら見守る。


「うぉ~~~!? これで死んだら覚えてろよ~~!?

 お前のキライなピーマン口にツッコんでやるからな~~っ!!?」


 ……あー、あかんかもしれん。

 急いで助けにいこか。



 関西弁の一人称はクドくなるのでムズかしいですね…。


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