34.斡旋所
やっと斡旋所が出てきました。
大分RPGっぽくなってきたかな?
加能屋を出たのは午後6時。
買ったのは連帯印と努力の指輪の2つ。
―――連帯印
以前に話していた通り、狩場でPTを組む際に使用するもので、見た目はメモ帳の束のようなものだ。ただしよく見ると紙の裏地には複雑な魔法陣っぽいものが刻まれている。
使い方としては同じページに名前を自筆するだけ。そのまま最大で10日経過するか、参加者が死亡するか、その紙を破るまでの間、PTとして登録される。もし一枚に名前を書き込んでいる間に、別の連帯印に書き込んでPTに参加した場合は後から書いたものが優先されるらしい。このへんは今後PTを組んで色々試してみるほうがわかりやすいかも。
1から10レベルまで対応した連帯印は10枚綴りで値段は200P。1回あたり20Pなので、はじめたての頃はともかく少し稼げるようになれば、PTを組むメリットと比較しても断然トクな金額だ。
ちなみに10レベルから20レベル、というように10刻みで連帯印のカテゴリが変わっており、値段もあがるらしい。
―――努力の指輪
名前通りの小さな指輪である。指輪には小さな石が嵌め込まれているのだが、これがレベルアップの際に光ることによって使用者に知らせる、という品である。
技能が上がったときは青く、職業が上がったときは緑に、それ以外では赤く光る。スマートフォンでステータスチェッカーが出る前は、これでレベルアップを確認後、斡旋所にある装置でステータスを確認しにいってたらしい。
「なんだけども……2000Pって、そりゃまた高すぎるだろ……」
ガックリと肩を落とす。
とりあえずしばらく出雲と買い物に来れなくなるかもしれないため、その間に何かあってもいいように金銭的な余裕を確保しておく必要がある。ということで前の土日で稼いだ分も返済には廻さず、借金は依然として500P。
そこに来て前述の2つを購入したことによって、ここで2200Pの借金が新たに発生。
合計借金が2700P。せっかく赤砂山で稼いで順調に減らしてきた借金がここで倍増、どころの話ではないくらい一気に増大である。
連帯印はともかく、努力の指輪の出費が痛すぎる。いつ主人公になれるかわからない現状では、レベルアップをひとりで確認できるかどうかというのは割りと重要だし、将来的にずっと使えると思えばそのうち元は取れるのだろうが、序盤でこの金額は本当にキツい。
乳切棒なんて50Pなのに!
なんと努力の指輪1個で乳切棒が40本も買えてしまうのだ!
余談だが店には会話に出てきた文印もあった。主人公が名前を記入すると自動的に書いた瞬間のステータスが浮かびあがる一品で、主に証明書に使うためのものだ。
今書いたらどうなるんだろう、と思ったが1枚100Pで高額だということ、出雲の家に以前買った余りがあるとのことなので購入は控えた。
「ほら、あまり気を落とすな。
装備を整えずに死ぬことを考えれば、借金をしてでも準備が出来るというのは幸せじゃないか」
「そりゃまぁ、そうだけどさ…」
「なら、そんなに覇気のない顔をするな。もうすぐ斡旋所だぞ」
おぉ、そうだった!
次は斡旋所!
俄然やる気の出てきたオレに出雲は苦笑する。
やってきたのはオフィスビル。
先ほどP通貨カードを発行したときに入った雑居ビルと違い、今度は建てて数年ほどの新しいビルのようだ。入口横の壁にある金属板には「人材派遣・紹介 コンクルシオー株式会社 斡旋センター」とある。
エントランスホールは約30坪ほどの大きさで、入口を入ってすぐ右手に受付カウンター、正面にエレベーターが2台、そしてエレベーターの手前には空港等で見るような金属で出来た柵とゲートがある。ゲートの手前と受付カウンターにはゴツい警備員が2人ずつ立っていた。
トイレ、守衛室、階段、エレベーター脇にある倉庫の入口扉が見える。
出雲は受付カウンターに向かうと、受付嬢らしきお姉さんが笑顔で対応してくれた。
「いらっしゃいませ、出雲様。本日はどようなご用件でしょうか?」
「こんばんは。友人が斡旋所登録をしに行くというから、同行させてもらってる。彼に説明をしてもらっても構わないか?」
「勿論です。本日は斡旋所へおいで頂きまして誠にありがとうございます。まずはこちらの書類にご記入下さいませ」
オレに渡されたのは登録申込書、と記された書類。
どうやらこれを記入して渡すらしい。申込書と一緒に渡された説明書によると、これを提出する際にスマートフォンによる認証か文印などの主人公身分を証明するものが必要らしい。
うーん、身分証明か…困ったな…さっきも文印が出せないのをゴリ押ししてなんとかしただけだし……ん?
よく見ると他にも身分証明として使えるものはあるらしい。
手早く申込書に記入し、
「書けました」
P通貨用のカードを添えて提出する。
どきどきするオレに気づかず、簡単な目通しだけして受付嬢は書類とカードを戻した。
「はい、証明書と申込書類はこれで大丈夫です。エレベーターにお乗り頂いて2階の新人受付カウンターで同じようにこれらを提出下されば登録が完了します」
にっこりと笑顔で言われて、ほっとひと安心。
なるほど、これがあったから出雲はすこし強引でも通貨用のカードを作らせたのか。確かに通常通貨用のカードは文印がないと出てこない。逆をいえば主人公としてしっかり証明が出来る相手でないと持てない、という意味では証明になる。
受付嬢は続ける。
「エレベーター手前のゲートを通過する際にこちらのカードをお持ち下さい。ゲスト用の来館カードになっております。登録を終えますと登録証がもらえます。登録証があればゲートを自由に出入りできるようになりますので、お帰りの際には必ず来館カードをお返し頂くようお願い申し上げます」
真っ白な金属のカードを手渡される。
そのまま出雲とゲートを潜る。
手荷物とかは一切ノーチェック。要はこのゲートは危険物を持っているかどうかをチェックするのではなく、単純に来館カードか登録証を持っていないと警報が鳴るだけの仕組みらしい。登録した主人公以外が勝手に出入りするのを防ぐためのものだろう。
エレベーターに乗って2階へ。
ごぅぅ…ぅん。
重低のモーター音と共に上がっていく。
扉が開く。
2階の広さはおよそ100坪ほどか。
結構な広さである。
手前3分の2ほどのところでカウンターによって区切られており、待合兼ロビーのような感じにソファや観葉植物などが設置されている。エレベーター横の壁には縦2メートル、横3メートルほどの大きな液晶掲示板が一枚立てられており、カウンターには受付の窓口が4つほど、それとは別にA4サイズのタッチパネルの端末が6台が置かれている。
他にも無料配布の小冊子が入ったラック、斡旋所で発行している有料の機関誌やDVDの見本が置かれたテーブルなど、色々と気になるものがたくさんあった。
窓口は1つが「新人受付」、2つが「依頼窓口」、残りが「賞金首及び討伐換金所」となっている。
室内には受付以外では4人ほど人がいた。それぞれ端末をいじったり依頼受付で会話をしているが、とりあえず気づいたのは美形率の高さである。
くそぅ!
相変わらず主人公の美形補正が羨ましいぜ!
「新人受付は新人の登録からアドバイス、斡旋所システムの説明などのフォローを行ってるところだ。斡旋所についてわからないことはここで聞くのが一般的だな。
とりあえず登録して来い。依頼などについてはそこで説明してくれるはずだ」
「りょーかい」
む…。
出雲の行動が微妙におかしい。
そわそわしているというのかなんというか。
本人は巧妙に隠しているつもりだろうが長い付き合いのオレにはわかる。
こう、どこかから気を逸らそうとしている感じだ。
……この位置だと…機関誌コーナーか?
まぁ後で確認するとしよう。
新人受付カウンターにいるお姉さんに声をかける。
さっきの受け付けにいた人もなかなか可愛いかったけど、この人はさらに美人だな。まぁここ数週間の高い美人遭遇率によって大分慣れていたので、アガったりはしなかったが。
登録をしにきたことを告げて、必要書類と通貨用カードを渡す。
それを見ながら何かを確認するように彼女はパソコンを操作し、
「必要書類を確認致しました。問題はないようですね。
これで貴方は斡旋所に登録されました。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「続いて今後の斡旋所利用の説明に入らせて頂きます。
登録後については当斡旋所の諸設備を利用することが出来ます。
依頼については、そこに6台あるタッチパネルを操作して依頼内容を確認。受けたいものがあれば、自分の登録証の番号を入力して受諾。依頼窓口で追加情報や受け取る物があればもらったりして、終わった後の報告も依頼窓口で行って頂きます。
エレベーター横の大きな掲示板には“名持ち”や特殊な魔物、指名手配犯などの情報が掲載されます。それらを倒して証拠品をお持ち頂きますと、賞金首及び討伐換金所で報酬を受け取ることが可能です」
貰った登録カードには「JPN-04142」と書かれている。
日本だからJPNはいいとして、ナンバーの縁起が悪すぎる………よし、気にしないでおこう。
あとは依頼についてはレベル帯や業績によって受けられるランクが決まっているとか、報酬は原則金銭(Pでも円でもドルでも、基本何でもいいらしい)だけども高ランクの依頼だと素材などの現物支給の場合もあるとか、別の階に情報屋がいるとか、色々説明を受けた。
ざっと聞いただけなので不鮮明なところもあるし、後日時間あるときに説明書を読んでから実際使ってみて覚えるとしよう。
さて、出雲が無料の雑誌のほうを見ている間に、こっそり機関誌コーナーにいってみる。
どうやら機関誌である「斡旋所通信」が毎月発行されているようだ。値段は5Pなので情報がほしいオレには手ごろな金額だ。ただ主人公の存在が一般のNPCにバレるとマズいというのに、雑誌とか発行するって大丈夫なんだろうかと思うんだが…。
まぁ何か仕掛けがあるのかもしれない。認識阻害的な何かとか。
その一角にあるものを見つけた。
“斡旋所編集 上位者特集DVD 第10版”
“始めたばかりの人も、すこし慣れた貴方も、そしてさらなる高みを目指す貴方にも! 是非オススメするのが国内最新の主人公格付けにおいて、上位10人に入った主人公を特集したこの1枚!
武器や戦い方など貴方の理想とするスタイルを構築するための参考にするもよし、単に趣味で集めるもよし、どう活かすかは貴方次第! 斡旋所監修の信用のおける一品、そんなDVDがなんとたったの20Pで手に入ります。”
「………」
あー、なるほど。
確か出雲は五位だったよな。
これを隠したかったのか。
オレは出雲にバレないようそっとDVDと機関誌を手に取って、カウンターへ。
ほら、上位者特集ってことは、当面の敵である伊達副生徒会長も入ってる可能性が高いわけですし? 今後のためには必要だよね。
決してDVDの出雲のシーンを見たいだけとかじゃありませんよ?
ウソジャナイデスヨ?
その後何食わぬ顔で出雲のほうへ戻る。
「無事に登録は終わったか?」
「ああ、出雲は何見てるんだ?」
「これか…昔からここにあるんでな。ちょっと懐かしくて読んでいた。よければ無料だから充も持って帰ったらどうだ?」
手にしていたのは「初めての依頼」と書かれた小冊子だ。
せっかくなのでありがたくもらっていくことにしよう。
「そういえばあっちに機関誌っぽいのがあったみたいだから、見ていってもいいか?」
「………ッ」
おぉ、出雲が見るからにドキっとした。
これはまた珍しい光景だ。
「…い、いや。充は門限もあることだし、もう帰った方がいいんじゃ…ないかな?」
「まだ大丈夫だって」
「……………」
「まぁまた時間あるときでもいいか。わかった、帰るよ」
ふっふっふ。
こっそりなつもりでも、安堵の息ついたのが見え見えですよ、出雲君?
まぁあまり苛めても仕方ない。
慌てる出雲が見れただけで満足だし。
入ってきたときと同様エレベーターでエントランスを経由して、斡旋所を後にした。
さて、これで色々と準備もできたことだし、明日から頑張るぞー!
ちなみにDVDは後でこっそり見ることにしよう。
かくして出雲君の黒歴史が明らかに……!
怠け癖のある筆者ですが、読んでくださる皆様のおかげで毎日更新ができています。
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