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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.02 プレイヤー
29/252

27.パーティーについて

 狩場を移ってすぐに次の相手が現れた。

 虎の毛皮に似た毛むくじゃらな体躯をした、人型の一つ目の怪物。頭には兜代わりなのか印籠を載せて紐で固定している。体の大きさそのものは先ほどの禅釜尚ぜんふしょうと変わらないが、手には先端に熊手のような爪のついた長い棒を持っている。


 そう、虎隠良こいんりょうである。


 一つ目のせいで視界が狭いのか、発見はこちらが先。

 先制攻撃として石を投げるのと同時に咲弥が“硬風ハード・ウィンド”を放ち両方命中、こちらに気づいた虎隠良こいんりょうが近寄ってくる間に、“対抗する加護カウンター・ガード”をオレにかけてもらう。


 ぶぉんっ!

 カンッ!


 思い切り振りかぶって来る一撃を棒で受け止める。結構重たい一撃だがさすがに棒が折れるほどの一撃ではない。虎隠良こいんりょうがさらに振りかぶって次の一撃を繰り出す。


 ぶぉんっ!

 カンッ!


 こっちは両手で棒の両端近くを持って交互に振り出して弾いて捌く。カヌーを漕ぐときに使うパドルのようなイメージで右、左、右、とリズミカルに。

 棒を敢えて短く使うことで小回りを利かせ、虎隠良こいんりょうが何度も繰り出す攻撃をシャットアウトしていく。


 カンッ!! カカカンッ!


 木と木がぶつかる音。

 と、突然別の音が混じる。


 ゴ…ッ。


 横合いから鎮馬のショルダータックルがヒット。

 おし、予定通り横からの攻撃だ。これで向こうに攻撃目標が切り替わったら、今度は鎮馬が防御になってオレが攻撃、と―――。


 ごっしゃっ!!!


 あ、3メートルくらい吹っ飛んでった……。

 そのまま動かなくなる。


「…………」

「うぉ、しまった!? やりすぎちまったぜ…」


 タックルの勢いに吹っ飛ばされて地面に叩きつけられ倒れてしまった虎隠良こいんりょう。勿論印籠はバキバキに壊れている。

 その体格からして只者じゃないと思ってましたが、なんだこの威力!?

 神官のレベルは低いって話だけども、組み技師グラップラーのレベルが相当高いせいかもしれない。レスラーとかのタックルって凄いって聞くし。

 おそるべし。


 虎隠良こいんりょうが消滅した後には小さな白い包みが落ちていた。

 ……薬包紙?

 見ている前で鎮馬が手に取る。


制氣薬せいきやく、だな。

 つまるところ魔術とか祈術を使うために使った気力を回復させる薬だ。75P程度の値段で回復量は大したもんじゃねぇが。印籠ぶっ壊しちまった割りにゃ、結構いいのが出たんじゃねぇか?」


 ふむ、どうやらMPを回復させる薬らしい。

 見てみるか?と鎮馬から手渡された。

 しかし薬包紙を折った包みに入った薬か……これ、いくつも持ってたら駅で警察に見つかった場合色々と勘違いされそうだよな。

 とりあえずオレが持ってても使い道がないので後衛に渡しておく。


【警察…? ああ、あの衛兵システムか。あれはそもそも主人公プレイヤーに対してとNPCに対してでは対応が違うからの。心配は要らんじゃろ】


 あれは衛兵システムだったのか……。

 そしてその発言からすると、NPCであるオレが持ってた際に見つかった場合については全然安心できないんですが。


「結構加減したつもりだが、なかなか難しいもんだなぁ」 


 とりあえず、アレでは互いの技能スキルレベルを上げるためにはならないので今後タックルは禁止になった。鎮馬には慣れない拳で殴ってもらうことに。


 気を取り直して虎隠良こいんりょうに再挑戦。


 石→“硬風ハード・ウィンド”→“対抗する加護カウンター・ガード”付与後に接近、までの手順をなぞるように繰り返す。


 カカカンッ!!


 オレが攻撃を受け持っている間に、横から鎮馬が拳でごすごすと殴る。顔はやめときな、ボディボディ!とか聞こえてきそうなくらい執拗に腹を殴る。

 すると溜まりかねたのか虎隠良こいんりょうは鎮馬のほうへ攻撃をする。避けている隣で今度はオレが攻撃をする。


 どッ! どッ! どッ!


 棒の先で何度も鳩尾を突く。

 なんで鳩尾を狙っているのかと言えば、単にそこが一番痛そうだと思ったからとしか言えないが。数発入れるとこちらに攻撃を再開。攻撃の隙を縫って今度は鎮馬が殴る。

 その間オレは頑張って攻撃を弾いたり避けたり。

 また鎮馬に攻撃目標が切り替わって、オレの攻撃の順番になった頃、


 どずっ!


 すこし手応えよく入った一撃の後、虎隠良こいんりょうはその場に崩れ落ちた。

 念のため、棒の先でツンツンしてみる。

 反応はない…うん、やっつけたな。


 虎隠良こいんりょうが消えると、今度は小さな袋が落ちている。中には例によって薬包紙に入った制氣薬が2つ。

 これで150Pか、うめぇ。

 3人で割っても一人あたり50Pになる計算だ。

 ………あれ? 50Pって…これだけで乳切棒一本分じゃないかッ!?

 自分が持っている初期装備の安さに思わず涙しそうになるが、逆に考えればそれだけ借金返済が近づいたということだ。


 問題なく倒せたということで、禅釜尚ぜんふしょうも混ぜつつ虎隠良こいんりょうメインで狩りを行っていく。

 そうするうちに色々とわかってきた。

 虎隠良こいんりょうのドロップアイテムはさっきの制氣薬で、ドロップする確率は30%前後。ただし印籠を壊さずに倒すとこの確率が80%近くまで上がり、10%くらいの確率で2個ドロップすることがある模様。


 1匹禅釜尚ぜんふしょうを挟んで、4匹目の虎隠良こいんりょうを狩ったあたりで、最初の休息地まで戻ってすこし休憩する。


「いっこ聞いても?」

「ん? いいぜ? おいらもちょいとばかし確認しときてぇことがあるしよ」


 そのへんに適当に腰掛けてペットボトルの水を飲む。

 あー、美味ぇ。

 思ったより緊張していた体をリラックスさせる。


「鎮馬っていくつなの?」

「今年で20だな。今は東雲しののめ大学で学生やってる」


 東雲しののめ総合大学。

 市内にある大学で結構なマンモス校だ。偏差値は学部によるのでなんともいえないが、国内の大学としての位置づけは中堅どころといったところか。

 うちの兄貴がラグビー推薦でいっているのもこの大学である。市内には他にも和魂にぎみたま医科大学などいくつかの大学があるが人数は東雲が圧倒的にリードしている。


「物腰が落ち着いてるんで、つい気になって」

「そうか? まぁさっきも言ったが別に年上だからって畏まるこたぁねぇよ。

 街とか表立った場所でならともかく、この狩場にいるときゃ同じ主人公プレイヤーって立場、いわば同志なんだからよ」


 いや、実は主人公プレイヤーじゃないもんで敬語使わせて下さい、とは言えない。

  

「それでよ、おいらが確認しときたいことなんだが。

 どうもお前に出したPTパーティー申請が受理されてないっぽいんだわ」

「…え?」


 ……えぇと、PT申請って、何?

 疑問符を浮かべていると、


「ミッキーちゃん、きっと初心者。組んだのも、初めて」

「あー、そういやぁそうだったか!?」


 咲弥の指摘に、抜かったぁとばかりに鎮馬が自分の額をぺちんと叩いた。


「もうちょい早くいっておけばよかったんだが…すまん。もしかしてお前PT申請の受理の仕方知らないのか?」 

「……ごめん。実は意味がわかってない」


 初心者とかそうでない以前の問題なんだけども。

 都合のいい勘違いをわざわざ訂正するつもりもなく頷いた。


「PT申請ってのはよ、集まって狩りをするときに仲間として登録しておくことなんだ。基本的には敵を倒したときにゃ倒すのに一番貢献した人間が経験値や技能熟練度を得るんだが、それだと前衛のほうが優遇されちまうのさ。例えば回復役は癒しで手いっぱいだったりすると敵にダメージ与えてないから、貢献なし、って具合にな。

 ところが申請してPTを組んでおくと、そのPTそのものがひとりの主人公プレイヤー扱いとして認識される。だからPTが敵を倒すと平等に分配されるワケだ」

「………」


 敵を倒すのに貢献した人が経験値を手に入れる、その場合の貢献した人=一番ダメージを与えた人、ということは考えられる。そうなると少なくとも直接攻撃してる回数がダントツに多いオレが得をしてた可能性が高い。

 他のメンバーがどれくらいダメージを与えていて貢献していたか細かい判定基準まではわからないので、単純計算はできないが最悪オレだけが独占してたのやも。


「…申し訳ない」

「あー、いや。おいらも確認してなかったから気にすんな。これを教訓に今後はおいらたち以外とPTを組むときも含め、仲間と狩りをするときにはPT申請を確認する癖をつけとけよ?」


 うう…。

 いい人だ…。


「もっかいPT申請しとくからよ。受理してくれや」

「…具体的には、どうすれば?」

「簡単簡単。おいらが今PT申請送ったから、ステータス画面に出るだろ、スマホの。それを受理するかどうか選択肢も一緒に出てるから、画面の受理ボタン押して受理してくれりゃいいんだよ」


 思わず固まった。

 おのれ、スマートフォンめ…。

 ここでもオレに立ちはだかるというのか…ッ!

 しかしこうなる可能性は昨日想定してある。主人公プレイヤーと一緒に狩りをする、という時点で避けることが出来ない問題なのだから。


「……持ってない」

「?」

「スマートフォン持ってないんだ……うちが貧乏で」


 その言葉に今度はオレ以外の二人が固まる。

 静寂が舞い降りる。

 どうだ、この考え抜いた切り返しは!


【浅知恵じゃの】


 ぎゃふん。

 とりあえずしくしくと泣き真似してみたりすると、鎮馬にガシっと肩を掴まれた。

 マ、マズったか…ぁ?


「わかった! そうだよな! 今までは狩りしてなかったんだもんな!

 通常プレイだったら、それ以外にもお金使うところ山ほどあるもんな! いいんだ、わかってっから! 大丈夫、貧乏がなんだ! おいらたちはそんなことくらいでお前を差別したりしないぞッ!」


 なんていい人だ…。

 うん、いい人なんだが……掴まれてる肩が痛ぇぇぇ!?

 折れるぅぅ!? ミシミシいってるしっ!?


「ギブ! ギブギブ!」

「おっといかん。すまん、つい感極まって」


 じたばたして、なんとか放してくれた。

 すると、横合いからクッキーが差し出された。


「貧乏、平気。大丈夫」


 ……すげぇ慰められてるのはわかるな。

 咲弥の手に乗ったクッキーを受け取った。


「そういうことなら仕方ねぇな。生憎スマホが出てからはそっちが便利になっちまって、連帯印ソキウス・シーグルムは持ってきてねぇし……」


 どうやら連帯印ソキウス・シーグルムとかいうのがあると、スマートフォンなくてもPTが組めるらしい。確かに歴史上でいえばスマートフォンが無かった時期のほうが長かったし、そもそもスマートフォン自体携帯電話が出来た後の代物。

 その前にどうしてたか考えれば何か別のやり方があるのは有りうる。


「貢献度はダメージが優先。優先する攻撃役を持ち回りを提案」

「おし、そいつでいこう!」


 咲弥の提案どおり、やり方を変えて狩りを続ける。

 石を投げる順番と攻撃の順序はオレと鎮馬で交互に、咲弥については自分が優先攻撃の順番が廻ってきたときに“硬風ハード・ウィンド”を何度も使い、それ以外のときは逆に温存する。

 要は1戦闘で経験値を独占する独りをローテーション組みましょう、ということだ。

 ちなみのそのとき知ったことだが、戦利品も基本的には貢献した人しか拾えないらしい。もしそれ以外の人が手に取ろうとしてもスカっと通り抜けてしまうそうな。

 そういえば鎮馬がタックルして倒したときは、オレは拾ってなかったからわからなかった。


 うーん、しかしPT申請とか全然知らなかったなぁ…。

 こりゃ出雲にそのへんのこと含めてまた色々聞いたほうがいいやもしれん。さっき話に出てきた連帯印ソキウス・シーグルムあたりのことも含めて。


 そこから虎隠良こいんりょう3匹と、禅釜尚1匹を狩って終了。

 日が暮れる前に山を下りる。

 PT申請の件含めて色々あったけども、オレは主人公プレイヤー二人とも知り合いになれたし予想以上に効率よく狩りもできたこともあり上機嫌だった。



 だから気づかなかったのだろう。

 山を降りるオレたちを見る、正確にはオレを観察するように見るその視線に。

 もしこのとき気づけていれば、きっとこの後の展開も違っていたかもしれないのに。



 □ ■ □



 さて、後日出雲のステータスチェッカーで見たところ、オレの土日の2日間の狩りの結果は以下のとおりになっていた。


三木みき みつる

 年齢:16

 身長:169センチ

 体重:62キロ

 所持金(P)/借金(P):10/500

 所有職キープ・ジョブ

  逸脱した者ハエレティクス LV.0 

  武芸者マーシャルアーティスト Lv.4

 技能スキル

  杖 4.30

  投擲 0.76


 倒した敵:

 黒羽鴉 ×  7

 蜘蛛火 ×  6

 禅釜尚 ×  4(ただし経験値は2匹分)

 虎隠良 ×  7(ただし経験値は3匹分)

 


 個人獲得物:

 黒の風切り羽 × 7

 蜘蛛糸 × 4


 PT獲得物(3人で分配する予定のもの):

 茶釜の破片 × 4

 制氣薬 × 7

 


 □ ■ □



 影は静かに傅く。

 目の前に立つ主君は視線で何かを伝える。

 何を求めているのかなど長く忠義を尽くしてきた影には簡単なこと。


「お探しの者を、発見致しました」


 ただそれだけの一言。

 だがその言の葉が主にもたらした効果は明白。

 浮かぶ愉悦の笑みこそが、その証左である。

 そして主君が告げた次なる令を胸に抱き、影は音も無く静かに消えた。



 無事に2回目の狩りも終了です。

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