表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.02 プレイヤー
28/252

26.禅釜尚


「よし、ここをキャンプ地とするッ!」


 びし!

 そんな擬音が背後に浮かびそうな感じで鎮馬は宣言した。

 あれから30分。現在の時刻は11時。


「え…? キャンプ?」

「しねぇけどな! 気分の問題だ、気分の! 充ならわかるだろ?」

「え、あ…まぁ、ね」


 咲弥にツッコまれてオレに振るのはやめれ。

 出会ってからついさっきまでは敬語を使ってたオレだけども、「年上だからって敬語使われるとムズがゆくなる」との鎮馬の話もあり、割とざっくばらんに話すようになっていた。

 今オレたちがいるのは赤砂山の北方面の麓、最初にオレが狩りをしていた場所とは山頂を挟んで正反対の位置にある。そこには大きめの広場がひとつあり綺麗に下草が刈られていた。


「来た連中はここを基点に行動するのさ。理屈はわからねぇが、ここにゃ敵も近寄ってこねぇから休憩場所にもなるし、集団戦で何かあってバラけちまった場合の集合場所にもなるからな」

「なるほど」


【おそらく霊脈がこの地点を迂回するように要の結界石か避霊の陣でも仕込んでおるんじゃろう。

 ゲームとして面白くなるように、の。ここに出る魔物とて魔力、霊力で構成された存在、それだけ近寄れなくなる】


 エッセがすこしだけ不機嫌そうな思念をオレの頭に送ってくる。

 主人公プレイヤーにとって、この世界がゲームだっていうならゲームとして面白くなるように仕組まれていることがあるのは納得なんだけどな、なんで不機嫌なんだろ?

 そのまま、鎮馬の提案ですこし早いけれど休憩を兼ねて昼食になった。

 食事をしながら集団戦の注意やそれぞれの攻撃手段なんかを話し合って、12時から狩りを始めるという段取りだ。勿論最初は練習ということで、ハマったときは怖いが基本能力が低い点で安心の禅釜尚ぜんふしょうから狩る。


 まず最初に口火を切ったのは鎮馬だ。


 彼の技能スキル神聖祈術セイクリッド・プレイは予想通り、オレの認識でいうRPGゲームでいうところの僧侶魔法に相当するらしい。神に祈りその力を借りて奇跡を起こす。

 現状使える神聖祈術セイクリッド・プレイは“癒しセラピア”、そして敗走フォボス恐慌デイモスを司る軍神アレースの神官のみが使える“蛮化バルバロティタ”の2種類。

 “癒しセラピア”はその名の通りうけた傷を治してくれるもので、回復量は今のところ河童の軟膏と同程度、“蛮化バルバロティタ”は一定時間戦闘行為以外の思考能力に制限を掛ける代わりに身体能力を上げるものらしい。


「まぁ“蛮化バルバロティタ”かけちまったら逃げられなくなる、ってぇことだけ覚えておけばいいさ。避ける、とか相手の攻撃を読むとか基本戦闘以外の選択肢が浮かばなくなっちまうからな。

 だからこいつを使うのはよほどの強敵に追い詰められちまったときくらい、正真正銘の切り札だな」


 とは本人の談である。


 次は咲弥について。

 彼女の技能スキル魔術ソーサリーも予想通り魔法使いの使う魔法のことでよさそうだ。ただしこれには系統がいくつもあるらしく、どの系統を学んでいるかによって得手不得手、習得する魔術の順番にも違いがあるらしい。

 使用可能なものは“硬風ハード・ウィンド”、“対抗する加護カウンター・ガード”、“氷角アイス・ホーン”の3つ。

 “硬風ハード・ウィンド”はメインの攻撃手段で風を圧縮して打ち出す魔術、イメージとしては圧縮空気で出来たハンマーを投げる感じだ。単体攻撃用だがその分だけ消耗も少なく使い勝手がいい。

 “対抗する加護カウンター・ガード”は味方用の援護魔術。かけられた相手は一定時間物理的なダメージを若干ではあるが和らげることが出来る。消耗は増えるが同時に複数人にかけることも可能だ。

 最後の“氷角アイス・ホーン”は敵の頭上に気流と分子運動操作で2mほどの氷柱を作り、そのまま落下させる攻撃魔術になる。攻撃力はかなり高く気力の消費も大きいものの、重力を利用することで普通に同じサイズの氷柱を作って飛ばすのに比べると消耗が抑えられている。反面、一度生成したら後は自由落下させるだけなので、相手が一定地点から動けない状態、もしくは相手を待ち受けて罠にかける場合でなければ避けられやすいという欠点がある。


 で、オレなんだけども。

 棒構える。振り下ろす。掬い上げる。振り回す。

 以上。

 ……いや、なんかオレも格好いい技能スキルほしいなぁと思わんでもない。


 食事を終えると、いよいよ連携の練習となる。

 とはいえ、そんなに難しいことが出来るわけでもない。

 敵と戦う場合はオレが前に出て前衛攻撃役兼壁役、鎮馬が攻撃しつつ隙を見て回復、咲弥は魔術で援護しつつ隙があれば攻撃。

 序盤であることから複雑に連携できる技能スキルでもないし、わかりやすいほうが間違いがない。


「おし、んじゃいくぞ」


 簡単に打ち合わせて練習した後、いよいよ狩りに出発する。

 最初に狙うのは禅釜尚ぜんふしょう

 こいつは草むらなどの茂みに潜むらしいので、視線を下に落として捜索する。しばらく山道を登っていくと、近くの茂みの中にかすかに光るものを発見した。

 小声で確認を取ると、どうやらこれが禅釜尚ぜんふしょうらしい。昼ならば釜の部分が小さく光るのが目印、とか聞いてたけども本当に見つかるとは…。

 ただあくまで釜であって鏡ではないので、太陽光の反射も本当にちょっとしたものだ。潜んでいる場所がわかっている上で警戒してたから問題なく見つけられたけれども、知らなければまずわからない。

 そうこうしていると、鎮馬がそのへんに落ちていた掌サイズの石を拾ってオレに渡してきた。

 どうやら投げろ、ということらしい。

 距離は8メートルほど。

 ゆっくりと腕を振り上げて投げる。

 

 どすっ!


 石が落ちるのと同時に、茂みの中から160センチ弱の小柄な人間サイズのものが飛び出してきた!

 ぎょろっとした目玉のついた茶釜。それを頭として下に粗末な衣をまとった人間の体がくっついているような生き物……話に聞いていた禅釜尚ぜんふしょうだ!

 残念ながら、ちょっと重すぎたのか石は奴のちょっと手前で落ちてしまっているため当たっていない。次はもうちょっと軽い石にしよう。

 驚いて出てきてくれたわけだから無駄にはなってないし、と気を取り直す。

 こちらに向かって進みだそうとする禅釜尚ぜんふしょうに気合を入れて構えた瞬間。

 す、とオレの横合いから杖が突き出される。


「“硬風ハード・ウィンド”!」


 短いだった一言。

 同時に何か眼に見えない塊が杖の先から射出され、隣にいたオレの頬を通り過ぎた風圧が叩く。


 ドッ!


 禅釜尚ぜんふしょうの鳩尾部分に鈍い衝撃が炸裂し一瞬痛みに怯んだ。

 そこにここぞとばかりにオレが飛び掛る。


 ヒュ!


 振り下ろした一撃は茶釜に当たり堅い手ごたえをもたらした。

 手が痺れそうなくらいだな…茶釜の部分は予想通り金属なだけに防御力も高いらしい。

 度重なるダメージによろめきつつも禅釜尚ぜんふしょうは強引に腕を振り回し爪で攻撃してくる。

 とはいえ、こちらは棒を手にしていて相手は素手だ。

 攻撃速度は黒羽鴉や蜘蛛火よりも速いが、間合いが遠いせいもあり問題なく回避する。


「せぃっ!!」


 今度は横から振り回すように棒で殴りつける。

 爪を避けつつ、さらに加撃。

 3発目がヒットすると禅釜尚ぜんふしょうは静かに崩れ落ちた。


 禅釜尚ぜんふしょうが倒れてすこしすると、これまでの魔物と同様に体がかき消える。

 そこに残されていたのは古い金属の破片だ。


「茶釜の破片、っていう素材」


 咲弥の説明を聞きつつ拾って、坊主…もとい、鎮馬に渡す。今回はドロップしたアイテムについては一度集めて、狩りが終わったときに価値が等分になるように分配する取り決めだ。

 オレは前衛ということもあり結構動きまわすので落としても面白くない、という理由から集めた素材は後衛に預ける形にしている。


禅釜尚ぜんふしょう戦を見てる限り連携も問題ないみてぇだな…用心でもう1回狩ってから、OKなら虎隠良こいんりょうも出てくるエリアに行くぞ」

「ん」

「あいよ」


 さらに探すこと5分。

 再び禅釜尚ぜんふしょうが潜んでいる茂みを発見した。今回の発見者は咲弥だったが、周囲の光沢のある葉っぱに紛れて結構わかりづらい場所だった。

 うーん、よく見つけたな……ひとりだったら不意打ちされてたコースだったかも。

 先ほどの失敗を活かし、ピンポン玉くらいの石を掴んで投擲。


 コンッ!


 金属質な音が響き、茶釜をヘコませながら禅釜尚ぜんふしょうが飛び出してくる。

 今回はまず咲弥の援護なしで突っ込んでいくと、禅釜尚ぜんふしょうは爪で迎え撃つように攻撃してきた。


 フォ、フォッ!


 同じように一撃を避けた、と思っていたら反対の腕の爪が迫っており、慌ててバックステップで避ける。さっきの奴とは攻撃してから次の攻撃までの時間損失タイムロスが明らかに違う。

 もしかして最初の禅釜尚ぜんふしょうは、咲弥の最初の攻撃が効いていた分、ぎこちなかったのかもしれない。

 意気揚々と飛び掛ったオレは思わぬ反撃に防戦一方、ただ必死に避けるだけになっていた。

 1発、2発、3発…。

 避けることに集中すればなんとか持ちこたえられるが、攻撃をしようとすると避けるのが飛躍的に難しくなるような、そんなバランスだ。

 かといって避け続けてもジリ貧か…そう考えた次の瞬間、体がかすかに青い膜のようなものに包まれた。驚きつつも攻撃を避けていくが、途中視界の端に入った咲弥がサムズアップしているを見て多分これが防御魔術“対抗する加護カウンター・ガード”なのではないかと思い至った。


「だぁぁっ!」


 ダメージ軽減に後押しされつつ覚悟を決めて、避けている途中に攻撃を加える。


 どずっ!


 オレの棒がヒット。

 次の瞬間、爪が襲ってくるも武器を戻している最中のオレは避けるほどの余裕はない。出来たのは手甲で弾くことくらいだ。


 チュィンッ!


 手甲と爪がイヤな音を立てる。

 防御力が上がっているお陰もあり、どうやら手甲で防御する分には完全に弾くことが出来るようだ。

 つまり相手が左右の手を使って連続攻撃をしてくるなら、一発目を避けて右手で棒を振るって攻撃、二発目は左の手甲で弾く、そういった戦術が取れる。

 相手の攻撃を完全に体ごと避けるのに比べれば、咄嗟に手甲で受け止めたり弾くほうが断然簡単だ。

 そしてそうとわかれば気持ち的にもやる気になる。

 互いの攻撃が何度か交差し、


 ズゥン…。


 ついに禅釜尚ぜんふしょうは崩れ落ちた。

 ドロップしたのは例によって茶釜の破片である。

 近寄って拾った破片を渡しつつ、


「どうかな?」

「なかなか悪くねぇな。魔術の援護1つありゃ一人で禅釜尚ぜんふしょうを倒せるくらいだ、おいらも攻撃に加わって戦えば虎隠良こいんりょうも問題ないだろ」


 確かに今回、咲弥は援護をしてくれていたけれども鎮馬は見ているだけだった。もっとも神官プリーストだから一番重要な仕事は回復なのだから、連携を試すために戦っている今傷を負うまでは静観というのは間違っていないが。

 

「おし、虎隠良こいんりょうも狩りの獲物にするか。

 虎隠良こいんりょう禅釜尚ぜんふしょうに比べりゃ見つけるのは簡単だ。印籠が動く度に中のものがカチャカチャ擦れる音がするからな。

 距離があるうちに見つけたら石と咲弥の“硬風ハード・ウィンド”で先制。近くまで来られたら充に援護かけて回避に専念してもらいおいらが横から殴る。もしおいらに攻撃対象が切り替わるようなら、充と攻守逆転でいくぞ。回復については適宜、戦闘中に使うのは攻撃を受けるリスクもあるから可能な限り攻撃よりも回避優先。軽傷なら戦闘後に癒せるからな」


 大まかに作戦が決められていく。


「攻撃部位としては胴体狙いでいけ。的がデカくて当てやすいし、どうせなら印籠残してアイテムのドロップ率はあげておきてぇとこだ。充とか前衛はこれからいい防具を買いてぇだろうしな。費用の足しにゃなるだろうよ」


 鎮馬はちょっと可哀想な目でオレを見た。

 確かに傍から見ると、前衛にも関わらず防具が手甲だけ。金が無くて買えなかったと思われても仕方がない……これは出雲のススメで感覚を鍛えるために重い装備つけてないだけなんだからな!とか言いたいところを我慢する。

 いや、実際資金があるかないかと聞かれたら、ないんだけども。


 作戦を決めると、再び全員で山道を歩き出した。

 禅釜尚ぜんふしょうのみしか出ないエリアから、虎隠良こいんりょうも出てくるエリアへ。徒歩にして大体15分ほどかかるようだ。

 さらなる強敵の予感に楽しみ半分恐怖半分。

 弱気になる自分を打ち消そうと自然と棒を握る手に力を込めつつ、オレは山道を進んでいくのだった。



 ちなみに余談ではあるが禅釜尚ぜんふしょうが落とす茶釜の欠片の価値は60P。

 今日は結構儲かりそうな予感がするぜ、ヒャッホゥ!




 スキルの説明が入ってくると俄然ゲーム感が出てきますね。

 狩りはまだ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ