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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.02 プレイヤー
27/252

25.狩猟仲間

 翌日もなんとか早起きして赤砂山に向かった。

 ちょっと前までは朝早起きするだけで騒いでいた家族だが、さすがにこれだけ休日にいつも早起きしているとそろそろ慣れたようで、ちょっと安心する。


 実際のところは前日の狩りの体の疲労が抜けきっておらず、最後に蜘蛛火相手で結構な失敗をしてしまったせいもあり、今日くらいは休みたいなぁ、と思っていたのだけども。


【ほれ、ここで止めたらそれこそ本当の3日坊主になってしまうぞ。

 男なら一度こうと決めたことはやり通さねば!】


 それを許さないお目付け役の言葉に引きずられるように、やってきたのでした。

 

「普通に考えれば命のやり取りしてるんだもんなぁ、そりゃ精神的にも消耗するわ。

 これを連日、とか計画したときのオレの認識の甘さに絶望する……」


【要は慣れじゃ、慣れ。

 命のやり取りも数をこなしていけば恐怖を制する術も見えてくる。そこまでふぁいとじゃ!】


 慣れというかマヒするというか……どちらにせよ想像すると違う意味で怖くなるので、考えないようにしよう。

 ぶつぶつ言いつつ準備をしていく。

 準備してきた物は水の入った1Lのペットボトルが3本。昼食用のおにぎりとお茶、タオルに応急セット一式と服の替え一式、あとは財布と携帯くらいのもの。

 昨日は服の替えを失念していて、片袖が焼け焦げているままで電車に乗る羽目になり周囲の目が痛かったので今日はしっかりと用意してある。

 荷物を再度確認してから、ストレッチをしつつ体を解して準備は完了。

 袋から乳切棒を取り出して赤砂山へと歩を進めていく。


 しかしさっきの話じゃないけど、なかなか同じテンションを維持して狩りを続けるって大変だ。

 実際命が懸かっているとひとつの失敗だけでも怖気づいてしまうだけでなく、狩場の敵に慣れてくると段々集中力が無くなってきそうな気がする。

 飽きる、というやつだな。


【おぬしは主人公プレイヤーと違い、ステータスを表示できるすまーとふぉん、とかいう小箱を持っておらぬのも残念なところじゃろうな】


 エッセの言う通り、基本的に主人公プレイヤーなら携帯端末で自らのステータスを見ることが出来る。例えば敵を倒したら経験値がいくつ入っているのか、技能の習熟度はどれくらい上がっているのか、そういったことを見ることが出来る。

 結果として、あと10でレベルアップだ、とか、残り5必要ならもう1匹倒せばいいな、といった目算も立つし成長の実感も湧くから、長時間の狩りでも気持ちの上では飽きにくいんだろう。


「他の主人公プレイヤーから盗むとか…うーん、現実的じゃないな」


 襲われたらやぶさかじゃないが、常識が邪魔をするのか窃盗は気が進まない。

 と、いうよりもそもそもステータス画面がNPCには見えないのが問題だった。

 ……盗むとかそれ以前の問題だな。


 時折色々考えつつも、現れた黒羽鴉を狩っていく。

 突撃を待ち構えて打つ。

 蜘蛛火と比べると十分に感じられる手ごたえと当時に黒羽鴉は落ちる。

 さらに繰り返すこと二度。

 夜の色をした鴉を地面に叩き落した。

 これで合計3匹。


 大分棒の使い方も慣れてきたかな。


 ブン! ブン!


 確認のため、数回素振りをしてみる。まだ出雲のような澄んだ音は鳴らないが最初よりは風を切る音も心なしか鋭くなっているようだ。ちょっとコツを掴んだような気がするようなしないような、という程度の微妙な感覚だが。

 素振りを終えて次の敵を求めて周囲を確認していると、昨日すれ違った魔法使いが山を登ってくるのを発見した。杖を手にえっちらおっちら登ってきている。

 今日はひとりではなく同行者がいた。

 同行者は男性だ。一目でわかる。なぜなら坊主頭ハゲだから。

 こちらは動きやすそうな茶色のコーディロイパンツに黒ワイシャツ、上から裾の長い赤ウィンドブレーカーを羽織っている。よくサッカー選手などがアップのときに着ているようなやつだ。春秋モノのようで割と薄手のようだ。


「や」


 魔法使いさんもこちらに気づくと軽く手をあげて挨拶してきた。

 こちらも同じように挨拶すると、そのまますれ違うのかと思いきや手前で足を止めた。

 丁度顔が見えた。

 綺麗な女の子だった。


「今日も独りで狩り?」


 天小園咲弥という名の。


「…………」


 ……うん、わかってたよ。

 というか明らかに名前がオレみたいな一般NPCモブと違ってたから、薄々主人公プレイヤーだったりするんじゃないかって思ってましたよ、実は。

 確実に主人公プレイヤーかどうかはわからないけども、基本的にオレみたいなのは例外らしいのでここにいる以上はこの二人は主人公プレイヤーという認識でいいだろう。

 自分がそうじゃないのを暴露するのと一緒だから、まさか君ら主人公プレイヤーですか?とかド直球に聞くわけにもいかんし。


「うん、そうだけど……咲弥はなんでそんなコスプレみたいな格好を?」


 とりあえず聞いてみると、コスプレ、のあたりで後ろにいた坊主君ハゲがぷっと吹き出す。結果、咲弥に思いっきり足を踏まれて飛び回る羽目になっていた。


魔術師ソーサラーは正装あるのみ。基本」

「え、あ…うん、そうなんだ」


 とりあえず彼女的には正装らしかった。


「紹介する。彼は、松平まつだいら 鎮馬しずま。友人で今日の狩猟仲間パーティーメンバー

「おう、鎮馬だ! メイン職業はギリシャ系の神官プリーストだ。よろしくなッ」


 どん、と自分の胸を叩いて鎮馬は笑顔を浮かべた。

 多分180センチ近い身長と肉厚な体格のせいもあって豪快な印象を受ける。


「はじめまして、三木充です。メイン職業は武芸者マーシャルアーティストです」


 しかしこれで主人公プレイヤーに会ったのは10日かそこらで4人だ。

 1年経ったら日本中の主人公プレイヤーと顔見知りになっていそうな速度である。


「私は魔術師ソーサラー


 えへん、とばかりに胸を張って杖を見せ付ける咲弥。

 出雲との話では出てこなかった職業ばかりだな。

 正直、和風な技能スキルしか聞かなかったから、まさか赤砂山で神官プリーストとか魔術師ソーサラーなんていう言葉を聞くとは思わなかった。

 でもよく考えてみれば、主人公プレイヤーが日本だけにいるとは限らない。

 例えばヨーロッパとかの人だったら、その土地土地にあったものを技能スキルとして持ってるのは可能性としてあるよな。前に映画で見たことのあるような大剣グレートソードとか鉾槍ハルバードとか、ああいうのを使うんなら必然的に日本のものとは系統の違う技術なのはわかるし。

 ただ問題としては、そういったものが日本で習得可能なのか?という疑問がある。

 月音さんと違って二人ともおそらく日本人、百歩譲っても少なくとも東洋系の人種には見える。向こうで育った帰国子女、とかいうオチがあるかもしれないが、そうではないとしたら、何かの条件をクリアすれば世界中のどの技能スキルでも好きなものを取れる、なんてこともあるんだろうか。


「三木君、技能スキルはいくつくらいなんだ?」

「あ、充でいいですよ。メインが杖術で3くらいですね」


 ステータスを見てないのでわからないけど、とりあえず3くらいにはなってるはずだと思って返答しておく。


「おう。おいらは鎮馬と呼べ。実は咲弥から今日狩りを一緒にしようと誘われてここに来てるんだ。それでだな…」

「ミッキーちゃんも一緒しよう?」

「待て、人のセリフを取るんでないッ」

「えぇと…なぜにミッキーちゃん?」

「ミッキーちゃんも一緒しよう?」

「いや、だからなんで…」

「ミッキーちゃんも一緒しよう?」

「……ぐ」


 忘れていた。

 この子すげぇマイペースなんだった。


「咲弥に言われてしまったが、そういうことだ。ここで独りでやっているよりも狩猟仲間パーティーメンバーと一緒に狩ったほうが楽しめるし効率もいいぞッ」

「それはありがたいんですけども…ちょっとオレのほうは諸事情により狩りは始めたばかりで、まだレベル低いんですよ。さっき杖術が3って言いましたよね? それしかなくて」

「ほぅ…それなら心配するな。おいらのほうは今回低い技能スキルをあげるために来てるからな。普段は組み技士グラップラーなんだが、今日は神官プリーストだ。技能スキル神聖祈術セイクリッドプレイが3」


 あー、そうですか。

 組み技士グラップラーさんでしたか、どうりで首が太いなぁと思った。

 オリンピック中継のときに見たアマチュアレスリングの選手みたいな体型なんだもんなぁ。


「私も魔術ソーサリーが4レベル」


 なぜそこでブイサインを作るんだ、咲弥。

 いや、オレがレベル低くても気を落とすなドンマイ、的な意味なんだろうか。


「がっつり効率よく強化してく連中もいるけどよ、やっぱりこういうゲームの中とはいえひとつの世界があるわけだしな。のんびり日常生活やって、こういう狩りはあんまりしたくねぇって主人公プレイヤーもいるわけさ。だから別にお前さんの技能スキルとか所有職キープジョブとかがあんまり伸びてねぇっつっても畏まるこたぁねぇよ」


 サムズアップする坊主頭ハゲ、もとい鎮馬。

 コイツ、なかなかいい奴かもしれん。


 さて、それはそれとして、結局一緒に狩りをしようというお誘いはどうしたらいいだろうか?


 正直なところ興味はある。

 出雲のことを信用していないわけではないが、長年主人公プレイヤーとして振舞っていると当たり前になりすぎて説明を忘れているようなこともあるかもしれないし、タイプの違う主人公プレイヤーについても知っておきたい。

 情報を集める、という意味においては今回同行を希望するのは有りだ。

 狩りについても集団で行ったほうが効率がいい、とジョーも言っていたことだし(酔っ払って嘘言ってたら詰むけども、友人なので信じよう)、遅かれ早かれ組むというのであれば敵が弱い序盤のうちに連携などに慣れておくべきだ。

 バランスについても前衛の武芸者マーシャルアーティストと後衛の魔術師ソーサラー神官プリーストならば悪くない。具体的に何が出来るか聞いてないのでイメージだけだけども、ゲームとかでもよくある戦士+僧侶+魔法使い的な感じで間違っていないはず。

 そして何より神官プリーストである。

 おそらく回復する魔法か何かの技があるはずなのだ。

 つまり傷が治せる!

 河童の軟膏の残り数とか気にしなくてもよくなるかもしれない!

 何より安心!

 蜘蛛火に包まれそうになったら是非水を下さい!

 ヒャッホーィ!


 ……コホン、話を戻そう。


 次にデメリット。

 こちらは余り多くない。

 ぶっちゃけオレがNPCであることを隠しきれるかどうか、というただの1点だけに尽きる。

 纏っている隠衣の効果でステータスを見られることはないんだろうけども、一緒に狩りをしているとしょうもないことでバレる可能性がある。

 例えば狩りが終わった後に、今の敵……


【グダグダ言っとらんで参加せぬか、たわけっ!

 これだけメリットよりデメリットが少ないならそもそも迷うことはないであろう、男ならたまにはスパっと決めい】


 …………いや、優柔不断がデフォルトなオレなのですよ? エッセさん。

 とはいえ怒られてしまったので、決めてしまうことにしよう。


「ありがたい申し出ですし、問題ないようなら是非ご一緒させて下さい。

 狩猟仲間パーティーメンバーと一緒に狩りをするのは初めてなので色々とおかしいことを言うかもしれませんが、そのへんだけご容赦頂ければ」


 確かにエッセの言う通り、結論としては参加すべきだ。

 あとは…


「これで3人っ」


 横で小さく万歳して喜ぶ咲弥を見る。

 このマイペースな子相手ではとても断れそうになかったに違いない。


「よっしゃ。じゃあ行くか。ついてこい」


 鎮馬が気合を入れてから、先頭をきって山道を登りだした。

 後に続いていく咲弥、そしてそのさらに後からオレは慌ててついていく。


「どちらに?」

「ああ、充は知らねェだろうけどもな。さすがに3、4レベルの3人じゃこのへんは狩りとしてはちィと敵が弱すぎるんだ。だからもうちょっと奥のほうへ場所を変える。

 具体的には山の反対側だな。そのあたりにもうちょい手強い連中が出る。まずそこの麓のあたりなら正直4レベルのソロでなんとかなる相手がいるから、そのあたりから初めて連携を把握する。

 問題なくOKなら中腹にあがっていって、そこの敵を狩り続けるって算段だ。なァに、ちょいとクセが強ぇが一度慣れたら効率良く稼げる相手さ、心配無用さ」


 あー、出雲が言ってたな、それ。

 確かどんな敵が出るか名前だけ聞いた覚えがあるんだけども…なんだっけ。

 思い出そうとしていると、タイミングよく坊主頭ハゲ、もとい鎮馬が説明してくれる。

 ………ダメだ、あの頭を見てるとつい坊主頭ハゲって考えてしまう、ゴメンよ。


 閑話休題それはさておき


 話によるとそこの狩場で出てくるのは付喪神系の魔物らしい。


 “禅釜尚ぜんふしょう” 適正レベル:5

 茶釜の付喪神。茶釜頭で、首から下は人間に近い姿になっている。主な攻撃方法としては手の爪が鋭く伸びており、これで引っかいてくる。また草むらや茂みに潜む性質があり、探査及び感知系の技能スキル持ち以外は注意深く周囲を警戒していないと不意打ちを許してしまうことがあるという。

 見た目通り頭部が硬いため、攻撃時は胴体部分を狙うのがコツらしい。


 “虎隠良こいんりょう” 適正レベル:6

 速き獣、つまり虎の革で出来た巾着、印籠の付喪神。形状としては印籠を頭に載せた怪物で、手にした三本の鉤爪の付いた熊手のような長物で攻撃してくる。

 主に速度重視の攻撃をしてくるため、中途半端な間合いでは長物で一方的に攻撃を食らってしまう。前衛ならば懐に飛び込んで小回りが利かない長物の欠点を突く、後衛ならば遠距離で近寄らせないのが必勝法。上手く頭の印籠を壊さずに倒すとアイテムのドロップ率が高いとかなんとか。

 

 “槍毛長やりけちょう” 適正レベル:7~9

 先端の尖っている部分の根元に飾りの毛がついた槍、つまり毛槍の付喪神。毛槍の頭と筋骨琢磨しい毛深い体を持つ。手には武器を持っていることもあるらしい。元々は槍術の名手が持っていた槍がその気性を宿して生まれているためか、一度戦いを始めるとその相手から逃げない。相手が死なない限りその相手に攻撃を仕掛けるため、ひとりが囮でひたすら攻撃を避けるなり受けるなりしている間に集中砲火が基本戦術。槍だったときの使い手の腕前によって強さが変わるらしく個体差がある。


 主な相手としてはこんなところだ。

 適正レベルは一人で戦った場合の基準で、同じレベルだと五分五分(十分勝てる)、相手のほうが1高いと技能スキルの相性によっては倒される、2高いと勝つのが難しい、自分のほうが1高いと普通に戦えば倒せる、2高いとほぼ問題なく倒せる、というものらしい。

 例えば上記の禅釜尚ぜんふしょうの場合、こっちが4レベルなら技能スキルの相性次第では倒される、という話になる。この場合、敵の持っている特性が不意打ちなので探査感知系の技能スキルがないとか、茂みに警戒をまったくしていないと普通に倒されてしまうぞ、という感じだ。


 狩猟仲間パーティーメンバーと共に挑んだ場合は、その分だけ適正レベルに補正がかかる。

 2人になると2に、3人なら4に、4人なら6といったところか。

 相手の適正レベルが5だとすると通常は5レベル必要だが、2人であれば補正が2かかって適正レベルが3まで減少する。つまり2人であれば3レベルでも五分五分の戦いが出来る。

 今回のケースだと3人の平均レベルが3くらいなので、補正を加えると7レベルまでは普通に狩れる計算になる。


「つまり最初に禅釜尚ぜんふしょう相手に連携とか集団戦闘の練習して、それから虎隠良こいんりょう槍毛長やりけちょうを倒してこうぜ、っつぅことになるわけさ」


 咲弥が一通り敵の説明を終えると、先頭の鎮馬が背中を向けたままそう締めくくった。


 ざっざっざっ…。


 ところどころ下草が生える山道をゆっくりと、でも確実に進む。

 二人の主人公プレイヤーとの出会い。

 赤砂山の新たな敵。

 集団戦という新たな戦い。


 午前中からいきなり急展開すぎて目を廻しそうだが、どうやらまだこの長い1日は続くようだ。


 

 なかなか和風なモンスターってムズかしいですね。

 通常のファンタジー世界だと、ゴブリン<ホブゴブリン<オーガー くらいの感じ楽なんですけども、妖怪系だと一部の有名どころ以外は強さとかわかりづらいので、筆者が適当に設定しています。


 なお以前最初の狩りで出てきた黒羽鴉と蜘蛛火について、適正レベルが抜けておりましたので訂正させて頂きました。


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