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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.02 プレイヤー
26/252

24.レベルアップを求めて

 本日は快晴なり。

 空を見上げてそんなことを思ってみる。


 ここは赤砂山。

 そう、なんと二度目の狩場体験なのである。


 月曜日の新入生歓迎会を終え(翌日の二日酔いとかどうやって誤魔化そうかと思ったのは秘密である)、一週間を無事に乗り切って土曜日から張り切って狩りを始めたわけだ。

 幸い一週間もあると筋肉痛もかなり抜けて動きが軽くなってくる。平日でもランニングや筋力トレーニング(腕立てと腹筋くらいだけど)は続けているため、完全になくなっているわけではないけれども。


 今はコツコツと午前中から狩り続けて無事にお昼を摂っている。

 午前中に倒した相手は黒羽鴉が4匹に蜘蛛火が3匹。戦果は黒の風切り羽が4、蜘蛛の糸が2である。これだけで50Pの見入りなので半日の成果としては首尾は上々といったところだ。

 ちなみに蜘蛛火が出やすいよう麓の上部ギリギリのところ(具体的にはこの前引き換えした山の上部の危険さを訴える立て札の場所)で狩りをしているため、今回は黒羽鴉の数は少なめだ。


「なんで蜘蛛火を優先して倒したほうがいいんだ?

 やっぱり素材としては蜘蛛の糸のほうが値がいいからとか?」


【そういった理由もあるがの。わらわが知りたいのは狩りにかかる時間がどこまで短縮できるかと、経験と技能の蓄積効率がどれくらいか、ということじゃな】


「……? ごめん、よくわからない」


【おそらくじゃが蜘蛛火のほうが黒羽鴉よりも得られる経験や素材がよい。これは黒羽鴉よりも蜘蛛火のほうが手強いという事実もあるし間違いない。

 攻撃手段としても蜘蛛火の継続ダメージのほうが明らかに危険でもあるわけじゃしな】


 もくもくと握り飯を頬張りながら聞く。

 あー、茶が美味ぇ。


【問題は最大でどれくらい狩りの時間が短縮できるか。出現するまでの時間と、1体見つけてそれを倒すまでにかかった時間をこっちで測っておるからな。

 それを後でおぬしが計算して、同じ時間で黒羽鴉と蜘蛛火のどっちを狩ったほうがいいのかを決めようというワケじゃ。

 それを踏まえて今回蜘蛛火をメインに、といったのはどうも前回のデータを見る限り蜘蛛火を倒す時間のほうがバラつきが多いんでの。もうすこし平均値を出すための母数を増やしてしっかりとしたデータにしておきたいという目的になる】


 つまり、弱い黒羽鴉(とはいっても、まだまだオレのレベルで油断はできないのだが)をたくさん狩ったほうがいいのか、それともちょっと強い蜘蛛火をそこそこ狩ったほうがいいのか、そのどっちがいいかのデータを取る必要がある。

 ただ蜘蛛火のほうは狩りの時間がちょっと不規則(多分腰が引けるせいで打ち込みの強さが一定にならないのが理由じゃないかな?)なため、参考データを増やして出来るだけ間違いのない平均値を計算したい、と。


「確かに出雲が職業レベルが3か4くらいまではここで十分、とか言ってたし、同じように狩りをするのなら効率を追求、ってお題を決めてやってたほうが飽きないか」


 3になると、山の反対側の麓のほうがいい狩場になるらしい。ただ3では結構準備万端でも危険があるので、大抵は4になってから行くか同じくらいのレベルの同行者と行くらしい。

 ホント、やっと狩場に入れるようにはなったけどもまだまだ入口も入口、スタートラインなんだなぁ。

 予定としては今日明日の土日で最低レベル2、可能であればレベル3になりたいとか思ってたりもするんだけども無理はしないようにだけしようっと。


 食事を終えてペットボトルとゴミをビニール袋に入れてバックパックに回収する。出したゴミは自分で持ち帰るのはマナーである。


 軽く柔軟をしてから狩りを再開。

 早速現れた蜘蛛火の攻撃を避けながらべしべしと小突いていく。色々考えたけれども、やっぱりこれがリスクが一番少ない方法だ。数をこなしていくうちにおいおい避ける大きさは調整していけばいい。


「よっ! と…ふぅ。これで4体かぁ。蜘蛛の糸はなし、と…残念」


【避け方もマシにはなってきたの。まだまだ避けるよりも逃げてる感じがする程度ではあるが。】


「ふ…成長するオトコなのさ!」


【調子に乗ってるだけのような気もせんではないな。そんなにおんらいんげぇむ部とやらの新入部員の娘たちが良かったのかの】


「うぐ」


 図星を指されて言葉に詰まる。

 実際はオンラインゲーム部だけの話ではないんだが。

 エッセと出会ってからそろそろ10日経つ。その中で勿論色々あって正直一回死んだり(厳密には仮死?)して二度とゴメンなくらいのものもあったわけだけど、ただ1点だけ感謝していることもあったりする。

 そう、女の子との仲良くなれる率である。

 まぁ本当に仲良くなってるかはともかく、月音先輩、水鈴ちゃん、咲弥ちゃんと知り合いの欲目を抜いても魅力的な女の子たちと接点が出来ているのだ。

 エッセには何かあると事あるごとに「運がいい」といわれて「そんな運要らんわっ!?」とか思っていたりもしたが、逆にこういう運なら大歓迎である。


 フォンッ!

 5匹目の蜘蛛火を叩いて消滅させた。

 蜘蛛の糸げっと。

 うーん、さすがにルーチンワークになってきたな…。


【油断は禁物じゃぞ】


 わかってはいるんだけどなぁ…。

 すこしすると6匹目の蜘蛛火が湧いてきた。

 そろそろ動きもわかってきたことだし頑張ってみたりしちゃおうかな!

 いざとなれば水もあるし平気平気。


 気合を入れて構える。

 蜘蛛火の行動はいつだって単純。

 こちらを見つけて突撃するだけだ。

 そう思っていたが、よーく見ると若干癖があることに気づく。

 最大の攻撃が突撃であることは間違いない。

 だがオンラインゲームのときの突撃鼠エフォドス・ポディキと違い無数の蜘蛛の目で周囲を伺っているため、2m以上離れているときにこちらが動くと、向こうもその動きにあわせて若干角度を修整することができるらしい。

 そのため動くなら2m以上近づいてからのほうが効率がいいし疲れない。今までは近寄りだすと2m外でも近寄るまでの間ずっと全力で避けていたので無駄な体力を使っていた。

 2m圏内までは動かずに避けてしまえば、蜘蛛火は素通りして3mから4mは通り過ぎる。そこで一度止まって方向転換するためこちらが体勢を整える時間は十分だ。


 安全なだけでは効率のいいレベルアップはできない。

 効率のいいレベルアップができなければ強くなれない。

 強くなれなければ副生徒会長に見つかったときがホラーである。


 何度もそう心に呟いて恐怖心を押さえて蜘蛛火と対峙。

 我慢してひきつけて……避けながら叩くッ!


 ぐちッ!


 今までよりも若干いい手ごたえと共に、蜘蛛火がすこしひしゃげつつ通り抜けていった。目論見どおりこれまでの攻撃とはダメージが違うらしい。

 戻ってくる蜘蛛火を同様にひきつけてまた一撃ッ!


 ばぐんっ!!


 タイミングが偶然あったのか、さらにいい手ごたえと共に蜘蛛火は消えた。


「おっしゃあ!!」


 思わずガッツポーズ。

 テンションがあがってきたのか体も熱くなってきた。

 6、7発はかかっていた蜘蛛火が2発。単純計算で3倍は効率のいい狩りだ。おまけに体力も温存できたから、こうやって戦えば効率は段違いだ。


【たわけがッ! 肩口を見よッ!】


 いつものエッセらしくない切羽詰った声が響く。


「……え?」


 言われるがままに見ると、肩口が綺麗な赤い火があがっている。

 って、嘘ぉぉぉぉっ!?

 全然かわしきれてねぇじゃんっ!!?

 体温が熱いんじゃなくて物理的に熱かったのかよぉぉ!?

 いやいや熱いってばいやいやそれどころじゃな熱っい早くどうにか熱ぃっしないとそうだ水を出そう熱いアツい熱いどこだ水は熱ィィィどこだー!?


 なんとか水のことを思い出して、戦闘に入った瞬間地面に置いているバックパックを拾おうとする。

 が、熱さのあまり軽くパニックになって冷静に探せない。

 そうこうしている間にも火はゆっくりと大きくなっていく。


 熱い熱い熱い熱い熱い~~~ッ!!?

 ダメだこのままじゃ死ぬなんとかしないと、なんとか~ッ。

 テレビで砂をかけて消火とか見た覚えがあったので地面に転がってみたり。

 

「~~~ッ」


 それでも火は消えない。

 ああ、もうダメだ……。

 熱いを通り越して痛くなってきた……ッ。


 ばっしゃんっ!!


 ジュゥゥッ!!


 一瞬何が起こったのかわからないまま顔をあげると、エッセが口のほうを大きく捻じ切ったペットボトルを片手にしていた。


【おぬしの耳は馬の耳か? あれほど油断するなと言うたではないか】


 かなり怒気をはらんだ口調でエッセは転んでいるオレを見下ろしている。

 どうやら見かねたエッセが実体化してバックパックからペットボトルを回収。

 そのままでは一気に消火できないと見たのかペットボトルのキャップ部分を捻じ切って口を大きく開かせて、水をかけたらしい。


 うわぁぁぁ、ヤバかったぁぁぁ。

 マジ助かったぁぁぁ。


「エッセ…ありがとぉぉぉぉ」


 本当の意味で再び助けられたこととエッセの外見の美人さもあって、地獄で助けてくれた女神にしか見えないオレは感激して思わず抱きつこうとしたが、あっさりと避けられてしまった。

 盛大に土にダイブ。

 ぎゃふん。


【そんなことをしている暇があったら、さっさと回復をせぬか。

 ここはまだ敵地なのじゃぞ? 次の蜘蛛火がいつ襲ってくるかもわからんのじゃからな】


 その言葉にびくっとして慌てて河童の軟膏を取り出した。

 肩周りが結構な火傷になっていたが、軟膏を塗って10分もすると痛みがひいていった。出雲いわく、四肢の骨折や欠損には効果がないし、一定以上の酷いダメージに対するものとしては回復力が不足するとのことだが、今回はなんとか回復しきれたようだ。

 ホント、売り出せたら億万長者間違いなしなんだけどなぁ、これ。


 無事に火傷の対処が終わったのを見ると、エッセはようやく安堵した様子になる。

 そのまま、スゥ…と足元から実体化が解除されて消えた。


「………………改めて、ごめん」


【今回のことでわかったかと思うが、実際自分に火がついた場合冷静に消火するのは余程冷静でなければ無理じゃ。戦闘の際は常に水の場所を確認、また蜘蛛火を倒す際はトドメの場合はともかくとして、最初はすこし余裕を見て避けておくべきじゃな】


 確かにこれが倒した後じゃなくて、一撃目だったりしたらと考えるとゾっとする。

 火がついて早く消火しないといけないのに、まだ敵は向かってくるのだ。まず敵を倒してから消火するか、避けながら消火という難しい二択のうちどちらかを選んでこなさなければならない。

 さっきのパニックを起こしているような不注意さでは確実に無理だろう。

 着ていた服の肩口から袖までは完全に燃えてしまっていたが、幸い隠衣はちょっと端が焦げただけで使用に問題はなさそうなのが救いか。


「はぁ……」


【充、油断はいかんが失敗自体は仕方ないと割り切れ。

 その失敗が次回に活きればそれは失敗ではなく経験じゃと先人も言うておる。同じ失敗を繰り返すことが一番愚かなことだとだけ心して、次に挑む。あまり落ち込むでない】


 うぅ…。

 その心遣いが胸に染みるわぁ…。


【それにほれ、いいこともあるではないか】


「?」


 見ると、さっき倒した蜘蛛火が蜘蛛の糸を落としていた。

 ドロップ率が50%くらいだと思っていたんだけど、今回は6匹倒して4束…確かにちょっといいこともあったな。

 回収しつつ荷物を整理。

 ペットボトルはまだ1本あるけれど、さすがにそれでは心もとない。

 時刻もそろそろ3時半頃を示しているし、最後の水は非常時に使うということで、休憩だけして今日のところは入口近くで残り時間黒羽鴉を狩って終わりにするか。

 荷物を整理し終わりのんびりと地面に座りながら、空を見上げた。


「エッセは頼りになるパートナーだなぁ…感謝感謝」


【…………】


 ふふふ、照れておるな。

 なら、もうちょっとからかって……。



 ―――ガサリッ



 そんな空気をかき消したのは下草を踏み分ける音だった。

 音は山の上部へと続く道、立て札の向こう側から…つまり天狗の領域から。


「…ッ!?」


 咄嗟に跳ね起きてそちらを向き直る。

 見ると誰かが山道を降りてきていた。


 その人物は長衣の上から紺の外套に手にはねじくれた樫の杖、頭にはとんがり帽子を目深に被っていた。ブーツを履いた足でしっかりと確実に山道を下ってくる。

 一般的な御伽噺の魔法使い、のイメージそのままの格好に、オレはようやく固まりつつあった赤砂山の印象を完全に粉砕されて戸惑う。


 丁度こっちからは逆光なせいもあり、とんがり帽子を被った魔法使いがどんな顔なのかは見えづらい。かといって顔を見るために角度を変えて近づくのも警戒されそうだしなぁ…。

 山の上のほうから来たって事は少なくともオレよりもかなり腕前が上の人だ。下手に刺激するとマズいだろうし、何があってもいいように心構えだけしておいたほうがいいか。


 様子を見ていると魔法使いらしき人は気にした素振りもなく、どんどんこっちへ降りてくる。そのままオレの横を通り過ぎそうになると、


「や」


 脚を止めずに軽く片手を挙げた。

 これが主人公プレイヤーたちの挨拶かもしれない、と思い咄嗟にこちらも片手をあげて答えると、特に何事もなく魔法使いはすたすた進んでいってしまった。

 その姿が見えなくなると、気が抜けてその場に座り込んでしまった。


「………はぁ~…」


 ひとりで始めた途端早速次の主人公プレイヤーらしき相手と遭遇するとか、本当に一難去って又一難を地でいっている気がするなぁ。

 なんかオレってやっぱり―――


運がいい・・・・、の?】


 意地悪く笑うエッセの言葉にぐうの音も出なかった。




 狩りの結果は土日分の最後に出す予定です。


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