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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.02 プレイヤー
25/252

23.どたばた歓迎会


 新入生の顔合わせは無事に済んだ。

 どうやらオレ以外の3人はすでに顔を合わせているらしく、天小園さんがオレを一瞥したのは単に初対面だったかららしい。

 改めて自己紹介を一通りすませてから、歓迎会に移った。

 歓迎会、といってもそこは学生の部活。

 ポテトチップスや煎餅など適当に摘めるものを持ち寄りジュースで乾杯だ。ジョーがどこからか調達してきた缶に発酵させた麦の汁の名前が書いてあったりするが、そんなことには気づかないでおくのが大人の対応である。


「いや~、やっぱ授業の後のビールは最高やな!」

「……なんで、ジョーがそんなに飲みなれてるのかがまず吃驚なんだけど」

「ミッキー、そないなお堅いこと言わんといて。うちの丈兄ぃは15年前に初めてビールの味知ってもうてんのやさかい、今更や今更」


 はえぇよ!?

 ってか、15年前って1歳だよ!?

 誰だ飲ませたアホは!?


「ははは、ミッキーは真面目やなぁ」

「ったく……とりあえず空き缶はちゃんと処分しとけよ。バレたら部活停止処分もんだぞ」

「…………」


 そんな馬鹿な会話をしているわけだが、さっきからオレの斜め後ろに座っている天小園さんが無言なので視線が痛い。そりゃまぁ新入生歓迎会でいきなり当の新入生が酒盛りまっしぐらでは呆れも相当なものだろう。


「ゴメンね、ジョーも悪気があるわけじゃ…」


 フォローしようと思って振り向いて絶句した。

 何せ天小園さんの手前のテーブルにジョーが飲んでいるものと同じ飲み物の空き缶が5本ほど置かれていたのだから。当の本人はというと6本目をフィーバー中である。

 ただでさえクールそうなのに、目が据わってて恐ぇよ!?


「誰だ、天小園さんにまで飲ませた奴はぁぁぁっ!?」

「あー、俺」

「やっぱりお前かぁぁぁぁぁっ!」


 だっはっは、と大笑いしているジョーの襟首を掴みあげてガクンガクンと振る。

 ダメだコイツ…。

 なんとかしないとどんどん被害が広がっていくぞ。


「…ビールは初めて飲みましたが、このチープさが中々病みつきになる味」

「ジョーのアホおぉぉッ! お前、ビールの味知らないまっとうな女子生徒になんてこと教えこみやがったぁぁぁっ!? これが原因で悪い道に走ったらどーするんだぁぁ!?」

「あーははは、丈兄ぃが振られすぎて目ぇ回しそうになっとる~」


 見ると水鈴ちゃんも舐める程度ではあるが酒に手を出していた。

 なんたるカオス。

 オレ以外の新入生が全員酔っ払いとか先輩にどんな目で見られているのか恐ろしいこと限りない。おそるおそる先輩方を見ると、丁度部長と目があった。


 ―――そして満面の笑顔で逸らされた。


 部長おぉぉぉぉ!?

 そんなだから影薄いって思われるんだぜ!? そんな一般NPCの弁えみたいなのは今は要らないから! 是非ともここは部長の威厳ってやつで事態を収拾してほしいんだぜ!?


「そんなに気にしなくても大丈夫。ビールは初めて、というだけ」


 え? ビール“は”?

 フォローするように言ってきた天小園さんのほうを見る。

 彼女はつまみの柿ピーをぽりぽりと食べながら、


葡萄酒ワインなら夕食に毎日頂いているので」


 ……ダメだ、彼女もジョーと同類だった。

 もはや、この世に神はいないのか…。


「まぁまぁ。ミッキーもせっかくオンラインゲーム部に入ったんやから、そない心配せんと、もっと部活動の内容に沿った話でもしようやないか~」

「誰のせいだ、誰の」


 とはいえ、もう飲んでしまったものは仕方ない。

 今後の親睦を深める意味も兼ねて会話はしておいたほうがいいか。


「…やれやれ。まぁ丁度聞きたいこともあったからそうする」

「お、なんやなんや。さては水鈴に惚れたかぁ~?」

「い、いややわぁ、ミッキーったら!」


 うぉ、危なっ!?

 水鈴ちゃんの高速手刀をなんとか回避。

 鼻先を掠めたときに聞こえた風を切る音がちょう恐かった。


「ジョーの妹さんってことは水鈴ちゃんも関西の出身なんだよね? なんでこの学校に?」

「え? オンラインゲーム部に入りたくなったからやけど?」


 うん、ごめん。

 聞くまでもない質問だったね、君らホント兄妹だわ。


「正確には丈兄ぃがこないにマジメになってまでやってみたかったことを、見てみたいっちゅうんがあったんやけど」

「………マジメ?」

「うわ、酷っ!? 俺ってば、こないにマジメな純朴少年なのに~」

「水鈴ちゃん」

「はーい!」

「ぶべらっ!?」


 とりあえずノリがいい妹さんなので助かる。

 そしてナイスなツッコミだ。


「冗談はおいといて、俺も昔は結構やんちゃしとってな~。なんや毎日むしゃくしゃしてたんやけど、この学校にいった先輩が面白いもんあるっちゅーから、来てみたらハマってしもてな。

 それまでアホやったから試験までもう死にもの狂いで頑張って親拝み倒してやっとここにおるねん」


 つまりアレですか。

 不良ヤンキー→オタク、というクラスチェンジをしてた?


「丈兄ぃがそないになってまで頑張って入ろういうんやから、一体どない凄いもんなんやろか、って思うんは普通のことやろ?」

「あー、まぁわからなくはない、かな?」


 二人ともこっちに行くのを許してくれたってことは、きっとご両親はジョーの変貌ぶりに喜んでしまったんだろうなぁ。ここで止めたら昔のジョーに戻ってしまう!的な。


「貴方はどうしてこの部活に?」


 おっと、意外なところから質問がきたな。

 見ると、天小園さんはもふもふとラムネをひとつずつ食べている。


「んー。ジョーに誘われてやってみたら意外と面白かったから、かな。それに部活としても融通が利く活動をしてるから、何か用事ができたときにも困らないし」

「そんなに多忙な人?」

「そういうわけでもないんだけど……んー。ほら、高校生活って一度っきりでしょ。バイトとか色々したくなるかもしれないしある程度時間はあったほうがいいかなと」


 本当は帰宅部だったので、毎日部活に出るのが面倒なだけですが。

 ただ今みたいな状況になると時間に余裕のある部活でよかったと心底思う。これが文化部でえらく忙しいところだったらロクにレベルアップもできないので、いきなり辞めざるを得なかったかもしれない。

 それに辞めるにしても理由に困る。

 魔物と戦ってレベルアップする時間が取れないので辞めます、とか誰が信じてくれようか。かといって上手い言い訳を思いつける自信もないし。

 話題のお返し、とばかりに切り返す。


「天小園さんは……」

「咲弥で」

「咲弥さんは……」

「咲弥で」

「……」

「咲弥で」


 無表情で淡々と言われると予想外に迫力あるな…。

 そしてなんというマイペース。


「……咲弥は、どうしてオンラインゲーム部に入ろうと思ったのかな?」


 そして無駄な抵抗はしないのがオレの流儀だったり。


「人を投げれるから」

「へ?」

「実家が古流柔術道場。習った技の中には使えないものもある。それを試すことが出来るから」


 オンラインゲームならどんだけ投げ飛ばしても、どんだけ危険な技でも問題ないというのは確かにありそうだが…なんでオレの周囲は武闘派ばかりなんだろうな。

 咲弥ちゃんなんか見た目こんな華奢なのに、と見ていると


「えっち」


 …………うぐ。

 下心はないものの見てたのは本当なので反論できない。


「やーい、ミッキーのえっちー、略してミッチー」

「略すなッ! そして囃し立てるなッ!」

「そ、それやったら言うてくれたらええのに…ミッキーやったら、うち別に…」

「はい、そこ! からかうなら笑いながら言っちゃダメだからね!?」


 ジョーと水鈴ちゃんはすっかりテンションあがっている感じだ。

 酔いつぶれないうちにジョーに聞けることは聞いておいたほうがよさそうだな。


「ちょっとオンラインゲームで聞きたいことがあるんだけども」

「ほぃほぃ、なんや?」

「オンラインゲームって基本的にどうやったらクリアになるわけ? どっかのRPGみたく魔王を倒すのじゃ~、的な感じかな」

「クリアか~、クリアっちゅうクリアはないのがほとんどやな。勿論運営側がそのオンラインゲームの運営を打ち切るいうときになんかイベントやってラスボス倒すとかいうんはあるやろけどな。

 実際のところは普通のRPGと同じようにストーリーもあって魔王みたいなボスもおるんやけど、それを倒しても遊びたいだけ遊べるのがほとんどやね。

 もし倒したらクリアになるラスボスがおって、そいつ倒したらクリアになってそこでオンラインゲームが終わったりしてまうと、後から入ってきた連中が遊ぶ時間すくななるし」


 うーん。

 つまるところ普通のRPGみたいな明確なクリア条件はないと。


「ただストーリーモードがあって、それを進めたプレイヤーだけラスボス倒したらクリアになるいうんもなくはないか。つまりAさんからCさんまでおったとして、Aさんがラスボス倒したらAさんはクリアになるけど、BさんとCさんは関係ない、的な感じやな。

 つまりラスボスは最大でプレイヤーの数だけおるっちゅーことや」


 なるほど。

 つまるところエッセの目的っていうやつも、ラスボス的な奴がいるかもしれない可能性はあるんだな。


「ジョー的に効率よくオンラインゲームをする秘訣みたいなのってあるか?」

「ま~た藪から棒やな。

 オンラインゲームは自分のペースでのんべんだらり楽しむんがええところやで? そないに急がんでもええやんか」

「例えばの話だよ」

「確かに常に最先端突っ走ってたいトッププレイヤーもおるから、そういうんも否定するつもりはないけどな。そうやなぁ…。

 まずは攻略情報や。例えばネットの掲示板やらサイトやら、情報をアップする奴もようけおるからな。そこから一番効率のいい方法見つけて強くなったり金稼ぐんがまずひとつ。

 あとは仲間やな。仲間たくさん作って色々なこと試して、情報を共有することでひとりで手探りするよりは断然早く物事も進むようになると思うわな。

 それに仲間がおったら一人では勝てんような強敵とも戦える。強敵と戦えるいうことは一人ではよう行けんようなところでも進めるっちゅーことになる。

 すなわち! レアアイテムをゲットできる可能性もあがるんや!」


 攻略情報と仲間、か…。

 現状で仲間といえばエッセと出雲だけ。

 それ以外で知っている主人公プレイヤーといえばオレを殺した伊達副生徒会長くらい。

 仲間という意味では圧倒的に足りていない。

 もし、機会があれば他の主人公プレイヤーを仲間にしたいところだ。


 …ん?

 そういえば出雲が、前に上位者ランカーのイベントで伊達副生徒会長と知り合ったとか言っていたな…もしかしたらある程度強くなるとそういう交流系のイベントがあるのかもしれない。今度出雲に聞いておこう。

 闇雲に主人公プレイヤーを探すよりも楽だろうし。


 そのためにも当面必要なのはレベルアップか。

 目的としては一般NPCから重要NPCになることなんだけども、現状では一般NPCから片足半分はみ出たくらいのところから先に進む具体的な方法が見えていない。

 ただどういう方法になるにしても、危険がある可能性は高い。

 四つ腕の鬼のときに思い知ったけども、一般NPCでなくなるということはああいった危険を避ける認識阻害の外に出るということだから。


 あとさっきの咲弥ちゃんの話で気づいたけども、このオンラインゲーム。技の鍛錬には使えるんじゃなかろうか。今は出雲から教えられた通り杖術の素振りとかしているけれども、身体能力的に筋トレをするならともかくとして素振りの感覚とか、そういったものを会得するためにはオンラインゲームのバーチャルでも問題ないはずだ。

 むしろゲームの中では時間の経過が遅いのだから、上手く使えば効率的に鍛錬できるじゃないか。


「あ、ミッキー。なんや難しいこと考えとる顔になっとるな~、水鈴!」

「わかっとる」

「咲弥!」

「ん」


 え?

 色々考えていると突然、両腕をジョーに拘束された。

 そしてビールを手にじりじりと近寄ってくる水鈴と咲弥。

 なんという絶体絶命!?


「こないな美人に飲ませてもらえるんや、往生しいや。さぁ、どっちに飲ませてもらいたい?」


 ジョーの最後通告に心が折れそうになる。

 だが、オレの心は最後まで折れない!


「なら両方で」


 どうせ負けるのなら、盛大に負けるべきなのだ。


 可愛い女の子二人に飲ませられてアルコールが回る。

 酩酊しつつも、明日また今日の情報を使ってレベルアップ予定を修整しよう、と決意を新たにしようとしたオレでした。

 いや、酔ってるから無理でしたけども!


【……まったく。

 ハメを外しすぎじゃ、たわけ】


 遠くなる意識の中、最後に呆れたようなエッセの声が聞こえた。



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