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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.4.03 滲む歪み
229/252

227.神饌

 業火が如き熱を放ち続ける。

 世界を燃やし尽くすのではないかと錯覚してしまうほどに。


 剛。


 一度放てば家屋が吹き飛び。

 破砕する音が示すは再現なく上がっていくかのようなその威力。


 強。


 二度放てば巨人の腕が千切れた。

 その有様は防御することすら他愛無く無様。


 業。


 三度放てば地に巨大な痕を穿つ。

 薙ぎ倒す余波こそがその度し難い敵が行った愚行の証。


 劫。


 四度放てば巨人の腕が微塵と化した。

 再生する暇すら与えない猛攻の前に残るはひとつ。


 轟。


 転じて放つ五度、六度。

 次々に眼の中もどろりと溢れる熱の狭間を抜け、解き放たれる力が爆砕の矢として駆ける。


「はぁ…はぁ…ッ…はぁぁぁ…ァッ!!」


 一息に吐き出した破壊曲。

 空気を求め喘ぐ吸気ですら、なお肺の中で猛火にくべられ熱を帯びていくかのよう。


 熱くて熱くて、尚足りない。

 吐き出さなければ灼けてしまいそうなのに、吐いても吐いても、まだ熱が欲しいとでも言うように、体は更なる熱を求めて生み出していく。

 それを反映しているのだろうか。身体から街へと広げている探索のための霧は普段の朱黒以上に紅く、それでいて淡く脈づいた不思議な状態で、あたりの景色を染め上げている。


【落ち着け、充! 出力を上げ過ぎておるッ!

 いくら魔眼と云えども、過剰すぎる力で起動し続ければ毀れる! 幸い相手はこの遠距離攻撃に反撃出来てはおらぬ、よもやの反撃に対応する意味でも注ぎ込む力を抑え落ち着くべきじゃ!】


 ああ、なるほど。

 エッセが慌てて言っていることは本当に疑いようもない道理。

 どれほど優れたエンジンであろうとも一度焼き付いてしまえば、もう元のように使えはしない。

 それは魔眼であろうとも同じ。


 簒奪した結果、オレの眼は“傲慢なる門アッロガーンス・ポルタ”としての性質を有している。謂わば擬似的に魔眼にして能力を行使している。

 その状態で魔眼が毀れるほどの酷使をすればどうなるか。


 性質を持たせている眼が毀れる。


 単純すぎる理屈。

 そしてたとえ稀代の魔女によって作られた精緻極まる逸品と云えども、圧倒的なまでに力を注いだ“無限の矢サギッタ・インフィニタース”を撃ち続けて平気なわけもない。


【すでに眼から流血しておるじゃろう! 夥しいほどに! 完全に壊れてしまう前ならば、他の欠損と同じく再生することが出来る。手遅れにならぬうちに―――ッ】


 ?

 ちゃんと理のあることを彼女にしては、おかしなことを言う。

 血なんか出ていない。

 痛くもないし、ダメージだって無い。

 溢れているのは掻き出しても掻き出しても尽きない熱、汲めども汲めども枯れることのない灼の泉から滲み出た雫だけ。

 ああ、でもそうだ。そうだった。


 エッセの言葉で気づく。


 直せばいいじゃないか。

 どれほど毀れても、どれくらい痛んでも。

 直せば治ルのだから何の問題モない。


 もっと撃てる。

 もっトぶつけらる。

 モっと強く強ク強く強く―――、


 ばしゅんっ!!


 唐突に冷える。

 正確には放り込まれる熱が制限されて下がっただけだから、冷えたというのは適切ではないかもしれないが。


【何を言うても無駄なようじゃな……、目の前の相手をどうにかせぬ限りは根本的な対処にはならぬが一時的に“傲慢なる門アッロガーンス・ポルタ”の制御の一部を奪わせてもらった。使うのは構わぬが、少なくとも今よりも力を注ぐことは妨害させてもらうぞ。

 その間はせっかく貯めておる力を削ることになるが……おぬしの無事には代えられぬ】


 馬鹿な。

 思わずソウ思う。

 なんデそんなことをするンだ。


 がら…ッ…。


 頭に浮かんだ疑問に解を得る前に届く音。


「…………!」


 視界の隅に注意を移せば、吹き飛ばされた先で“魔王ラーヴァナ”の巨人が立ち上がっていた。

 だがその動きは精彩を欠いている、というよりも明らかに消耗して力が無い。

 再生に全てを掛けているのか動きがあからさまに鈍い。

 ちょっと頭部が半分欠損して、三本あるうちの二本が二の腕あたりから千切れて無くなって、上半身特に脇腹が大きく抉られて臓腑がいくつか消滅して出血し、右足の膝から先が見当たらないくらいで。

 なンて脆弱。


 そんな程度で―――彼女を襲ったっていうのか!!!


 ありとあらゆる感情が全て灼熱にくべられる燃料でしかない。

 サながら神饌の如く、何かがオレのナかのソれを片っ端から炉に放り込んでイルかのように。


 構わない。

 それモもう終ワル。

 キット終わル。

 スグ終ワる。

 あトは作業でシカない。

 剣技でいくら分が悪かろうが、接近させてしまわなければ問題ない。

 コノまま遠距離攻撃で砕イテ千切ッテ解体シて仕留メて―――



 ―――どぐんっ!!!



「ッッ!!!?」


 完全に不意打ちと言ってもいいタイミング。

 だがそれによって呼び起こされた感情は、荒れ狂う激情の中で異質に煌めいていた。頭を煮立たせていた熱を刹那で吹き飛ばすほどの強烈さで溢れる。


 歓喜。


 これ以上なくその一色。


「見つけた……ッッ!!!」


 広げて、広げて、広げていた探査の網。

 そこに引っかかった場所があったのだ。

 おそらくは、そこが“幻惑する魔術の従マーリーチャ”によって隠された地点。


 つまりは月音先輩を連れ去った場所!!


 最早相手をしている暇も惜しい。

 すでに再生を半ばまで終わっている敵を一気に仕留める動こうとし、周囲の気配に思わず身構えた。

 身構えた理由はひとつ。

 増えた気配だ。

 

 猛烈な勢いでこちらに向かってくる気配が二つ。


 さながらオレが月音先輩の居場所と思しき場所に検討をつけたのを察知し、阻むかのようにそちらからここへと向かってくる。

 タチの悪い冗談にしか思えない。

 それが目の前の巨人と全く同じ気配だなんて。


 “エクェス”顕現。


 数は一気に最大である8本。

 あたりにいくらでもある瓦礫を掴み上げ、一気に投擲。同時に一番再生に時間がかかる気がする心臓がありそうな胸を目掛けて“無限の矢サギッタ・インフィニタース”を放った。

 再生中の鈍い動きでは全てを避けきれるはずもなく、防御はするものの投げつけられた瓦礫に翻弄され、さらに再びの爆発に巨人は吹き飛ばされて3階建ての鉄筋コンクリートのビルに突っ込む。

 その隙に踵を返して離脱。

 反応が在った隠蔽予想地点―――海岸へと走り出す。


 すでに歓喜は消えた。

 今胸中を満たしているのは焦燥。


 本当に月音先輩がそこにいるのか。

 いるとして彼女は無事なのか。

 無事だとしても間に合うのか。

 

 鮮烈な歓喜によって吹き飛ばされた思考の靄めいた熱が、再び焦りを喰らって勢いを増す。

 走り出す足すらももどかしい。すでに強化した身体能力を使っているのだから、尋常ではあり得ない速度になっていても尚、そのもどかしさは無くならない。

 それなのに目の前に立ちはだかるように向かってくる近づく気配が腹立たしい。

 先ほど感知した気配に間違いない。その証左に見えてきたその影は、先ほどまで相手をしていた巨人と全く同じ造形だった。

 道路に隆起するかのごとく立ち塞がるその巨躯と三本の腕。

 帯びている凶悪な雰囲気。

 まるでオレが使った“幽玄なる纏い”と同種の技を使って分身したのかと錯覚するほどだが、発する威圧感や力感、そして密度は分身のようなものというよりも、純粋に同じ存在に思えた。

 だがそんなことが在り得るのだろうか。

 そもそも“魔王ラーヴァナ”は“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”、つまり神代の時代から世界に影響を与える無二の存在種。

 そんなものが複数存在するなど理解の埒外だ。

 まさか幻……? いや、だけどこの反応は“幻惑する魔術の従マーリーチャ”とは違うように思える。


【落ち着け。そもそも“魔王ラーヴァナ”は欠片として分けられておる。そうでなければおぬしの中に“魔王ラーヴァナ”の力が存在している状況で、同種に襲われるわけがなかろう】


 失念していた事実を指摘されて納得した。

 ステータス表記を信じるのであれば、オレの中にある“魔王ラーヴァナ”の欠片は30分の1。つまるところ、同じだけの大きさの欠片であれば30個存在していておかしくないのだ。 


 そのやり取りをしつつも、足は止まることを知らない。

 いや、止まってたまるものか。

 一分でも一秒でも、一瞬ですらも惜しいこの刹那の連続。

 寸暇すらこの手から逃がすまいと意気込めば、間合いなど一気に詰まる。


 立ちはだかる巨人の全ての手には月光を受けて輝く刃たち。

 おそらくは“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”の防御すら抜くであろう“破壊神の月刃チャンドラハース”の剣舞がオレを待ち受けていた。


 だが、すでにこいつらとの戦闘は経験している。

 ゆえに突破するにはどうすれば良いかも理解していた。


 走りながら隠袋から弓を取り出し、鏑矢を放つ。

 勢いのままに飛来する矢は、巨人たちの間合いのわずか外で一瞬だけ停止とまって、


 ―――ィィィィン…ッ!!!


 発動した“兵破びょうは”の振動波が撒き散らされる。

 エッセによって出力制限のかけられている魔眼で、同時に二匹をなんとかする一撃を放つのは難しい。

 そして、いくら遠距離攻撃が有効といっても目視することが出来ない不可視の“無限の矢サギッタ・インフィニタース”ならともかく、通常の矢など歴戦の剣の使い手であるこいつらに取って打ち払って下さいというようなもの。

 だが間合いのギリギリ外からの振動波ならば話は別。


 ―――ィィィィン…ッ!!!


 畳みかけるかのように、もう一射。

 倒すほどのダメージには至っていないものの、全身に与えられた衝撃の影響からか巨人たちの動きが鈍る。その隙を見逃さずに、柄糸を手に絡ませたまま羅腕刀を投擲。


「ガァァァァッ!!?」


 狙いは過たず、向かって左側の巨人の顔面に突き刺さった羅腕刀に霊力を注ぎ込みながら操作。

 刃を厚くすることで鈍くし刺さった部分に固定、手に絡まった柄糸を一気に縮ませる。

 強化された身体機能での踏み出し、そして重心制御でさらに加速されつつ体は引っ張られて一気に巨人へ接近した。

 だがそこはいくら分けられて弱体化しているとはいえ、“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”だ。衝撃波の余韻は残っているだろうに間合いへ入った途端、二人の巨人の斬撃が嵐の如くオレを襲う。

 柄を握る直前に再び鋭さを取り戻すようにした羅腕刀は引っ張られた柄糸に負け、ずるりと抜ける。得物を手にしたオレは巨人たちの猛攻を“エクェス”で受けながら駆け抜ける。

 防御に回す8本の腕が断たれては消滅していき、そして再度顕現させて防御に回す。消耗戦じみた防御で強引に間を抜けながら、すれ違い様に向かって右側の巨人の脇腹を刃で薙いでいく。

 “エクェス”の防御が追いついていなかったのだろう、オレ自身も斬撃を受けながらなんとか突破。そして即座に“無限の矢サギッタ・インフィニタース”を発動させる。


 オレの足元、正確にはその少し後ろに着弾させたその一撃は、地面のコンクリートを爆砕させた。


 もうもうと巻き上げられる瓦礫、立ち込める砂埃。

 その有様にそれぞれ頭部と脇腹にダメージを受けていたこともあり、視界が遮られた巨人たちは飛んできた瓦礫に翻弄されつつ警戒するように足が止まる。


「……ぐっ」


 無論オレだって無事じゃない。というか体重が軽い分だけまともに爆風を喰らって吹き飛ばされることになっていた。なんとかアスファルトにキスする勢いで打ちつけられたのを着地というのなら、なんとか着地して立ち上がる。

 斬傷、裂傷、打撲……夥しい血を流しながら、そのまま再び一目散に走り出す。


 稼いだ時間は微々たるもの。

 すぐに視界は晴れるし再生だって終わる。


 だから貴重な時間をひたすら走ることに費やし、そしてようやく到着した。


 ―――入道にゅうどう海岸かいがん


 波が浜を行き来するかすかな潮騒だけが響く夜の海岸。

 誰もいない、不自然なほどの静寂だけがそこに在る。

 あたりに薄く立ち込めるオレが放った霧だけが日常との違いか。


 そしてその海岸の一ヵ所。


 霧がないぽっかりと空いた場所があった。

 まるで大きな広場のように、そこに何もない砂浜の空間。

 察知したときから移動している様子はない。


 ズズズズズ……ッ。


 身体から上がる朱黒の欲望。

 “簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”に満ちた左腕をそこに伸ばす。

 何かが存在している。

 それは間違いない。

 問題は幻という特殊さのためか、奪うためにその存在を理解するのが難しそうだということ。普段使わない外国語の長文を日本語で読むかのようなもどかしさ。それでもおそらく数分あれば可能だろう、という程度。

 だが待ちきれない。

 幻そのものではなく、その幻を起動させていると思われるこの場に満ちている魔力そのものを狙う。


 ……掴んだッ!!


 腕を振ると、まるで無色透明なカーテンがあったかのように景色が揺らいで、直後に一変した。 


 ぶぢ……ッ!!


 引きちぎられて霧散する幻。

 そしてそこに隠されていたものは―――



 ―――赤。



 血溜まりに横たわっている月音先輩。

 砂に塗れて汚れてしまった金髪が乱れたその顔色は白く意識は感じられない。

 青白くてまるでこの世のものではないかのようなのに、それでも美しい。


「あ……」


 攻撃を受けたのだろうか、衣服が乱れているが傷の程度はわからない。

 そこに覆い被さるようにしている男が視界を遮っていたから。


「……ぁ………」


 その男が加能屋で会った、

    三下の主人公プレイヤーであるとか。

 そんなこと、は。

          どうでも。


 いい。


  












 遠い囁きを聞く。

 展望場で彼女が消えたとき、思考に紛れて静かに告げられていた声。




 ―――殺せばいい お前が魔王だ



 

 それは考えが千切れては生まれ、生まれては千切れる中に紛れ潜み、開花を待っていた闇の花。


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