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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.4.03 滲む歪み
223/252

221.月と踊る夜(1)

「忘れ物とか大丈夫?」

「大丈夫です」

「問題あらへんで」

「おし、んじゃ行きますか」


 夕暮れ時。

 十分過ぎるほど遊んだ時間に満足しつつ、手荷物をまとめて全員で宿への道を進んでいく。

 ちなみに、あの後行われた「チキチキ・ビーチバレー大会!」はなかなかアツい戦いが繰り広げられた。人数が7人で1人余るので、2人3チーム+審判1人ということでとりあえずチームを作り、ある程度試合したらチームメンバーをローテーションで入れ替えて、審判を交代させることで均等に遊べるようにし、最終的に個人ごとに勝利数を出して順位を決めるという変則ルールを採用。

 順位は1位が月音先輩、2位が聖奈さん、3位が水鈴ちゃん、4位が咲弥、5位が綾で、6位がオレ、そして最下位がジョーとなった。

 月音先輩は身長の高さ、聖奈さんは意外とレシーブが上手く、そして水鈴ちゃんは昔バレーボールしてた、というメリットがあり上位に入った感じ。

 咲弥については運動能力はそこそこあるんだけど、どうも下半身が弱いのか砂地に足を取られてしまい無念の4位。後衛職だもんな、そこは仕方ない。聖奈さんも条件は似たようなものなんだけど、こっちは咲弥よりもすり足が上手く、その差が出た感じか。

 5位の綾も人並みくらいの運動神経はあるんだけど、そもそも他のメンツが重要NPCと主人公プレイヤーだもんなぁ……相手が悪かったとしか言えない。


 え? それでなんでオレとジョーが最下位争いしているのかって?


 ほら…本気でやればそりゃ男だし、色々と有利だとは思うんだけどさ。

 つい緊張しちゃった動きが鈍ったというか、邪念と戦いつつだったので前かがみになりそうで満足に動けなかったというか!

 とりあえず順位は低かったけど、色々と眼福でございましたのでよしとしましょう!


【……相変わらず、むっつり?じゃのう。あのジョーとかいう小僧に見透かされておる通りではないか】


 頭にエッセの声が届く。

 どうやら用事は終わったらしい。


【うむ、滞りなく完了した。色々と注意せねばならぬこともあったゆえ、後程相談が必要じゃがな】


 あいよ。

 ああ、でも明日以降でもよい?


【それは構わぬが…】


 訝しげな口調。

 いやぁ、ちょっと今夜は大事な用があって、さ。


【ほぅ…そういえば月音嬢に好意を告げられておったか。さしづめその対応ということかの?】


 そういうこと。

 実は他の海の家の人からこっそり聞いたことがあってさ。

 ここの海水浴場とは反対側の山側のほうに海が一望できる展望場みたいなのがあるそうなんだ。んで、どうもそこが地元じゃ絶好の告白ポイントになっているみたいで、せっかくだからそこで返事をしようかなと。

 随分とロマンチックな逸話のある場所みたいだし。

 あー、でも聖奈さんが言った通りあれがちゃんとした告白じゃないっていうんなら、どっちかというとオレが告白することになる? ……どっちでも構わないか。


【その様子じゃと腹は決まったようじゃな】


 ま、大方は。

 色々なことがあったけど、今日冷静に考えてたら別にどんな風に選んだところでそれで劇的に何かが変わるってわけじゃないんだなってわかったからさ。

 いや、付き合うことになれば恋人同士だからそりゃ色々と変わったり、めろめろどっきゅ~んなことになるので砂糖吐くと言われたり、そういう変化はあるだろうけども。


【……なんじゃ、その表現は】


 とりあえず、付き合うって言ってもお互いが合わなければ別れるだろうし、もし付き合わなくても相思相愛ならその後だってくっつくかもしれない。

 あくまでこの場でのことはこの場のこと。未来がどうなるかは、ここの選択だけじゃなくてその後の行動とか努力で違ってくるものなんだから、ひとつの要素でしかない行動の選択を深刻に考えすぎることをやめたというかなんというか。


【ふむ……それならそれでしっかりと向き合ってやるんじゃな。

 下手な同情や気遣いではなく、真心をしっかりと話せばどういう選択になるにせよ悪いようにはならぬじゃろう。相手が月音嬢であるから、そのへんは安心しておる。

 むしろ心配なのは………】


 そこでエッセが言葉を切る。

 少しセリフに間が空き


「………???」


【……気づいておらぬのは当人か。

 まぁよい、おぬしが妙なところで人たらしなのを自覚せよとは言わぬわ】


 なぜかため息つかれた。

 一体なんなんだ。


 その後は昨日と同様。

 宿まで戻って食事タイム&温泉タイムに突入である。

 無論このメンツで食事の時間が盛り上がらないわけもなく、


「ふ……世の中とはかくも無常なんや。大を活かすために小を切り捨てねばならぬこともある…ああ、まったくもって世知辛い世の中や」

「ジョー君。そんなこと言っても、充のところに嫌いなブロッコリー置くのダメだからね」

「おぉ! 綾ちゃんがツッコミ技能マスターしはったわ!」


 水鈴ちゃん、それ驚くトコなの…?


「ぐぅ…ミッキーにツッコまれる思とったら、まさかの伏兵やとは…ッ!?」

「アレルギーのようなものなら仕方ないですけれど……好き嫌いはいけませんよ?」

「はっはっは、なんやミッキー。ブロッコリーなんてとっても美味いやないか! はっはっは!!」


 月音先輩に注意されたら一転、アホみたいにブロッコリーを食べまくるジョー。

 ってか、オレのブロッコリーまで食ったし!?


「おねーちゃん、はい」

「咲弥、好き嫌いはいけませんよ?」


 天小園姉妹のほうは、あっちはあっちでグリーンピース攻防戦が繰り広げられていたりする。


「ぶー」

「いけません。大きくなれませんよ?」

「グリーンピース食べてても、おねーちゃん胸大きくなってないもん」

「ぶっはッ!?」


 横合いから耳に突如妙なセリフが聞こえてきて思わず咽る。

 何やらちょう怖い笑みで一瞬聖奈さんがこっちを見てくるけど、気づかないフリ気づかないフリ。


「……咲弥、世の中には言ってはいけないことがあるんですよ?」

「ん。ゴメンなさい」


 そんな和気藹々、というか殺伐というか、とりあえず楽しい食事の時間を終えて、汗を流しに大浴場のほうへと向かった。

 生憎と混浴のない露天風呂併設の大きな浴場で、小高い場所にあるせいか外の景色もかなり良い。露天風呂の外枠部分に植えられた竹が目隠しの役割をしつつ景色が楽しめる、ということで常連も多いという話だ。

 急いで夕食を済ませてすぐに来たので、一番のピークの時間と少しズレてはいるものの結構な人数がすでに入っていた。


 気合を入れて髪を洗う。

 普段はやらないトリートメントまでつけちゃったあたり、気合入りすぎだろと思わなくもない。


「おー、なんやいよいよ勝負か? ミッキー」


 隣で体を洗ってるジョーがニヤリと笑う。


「……やっぱわかるか?」

「そりゃわかるやろ。昨日はシャンプーだけで、しかも心ここにあらず、みたいな感じでぼーっとしとったのに、今日は念入りにガシガシ洗っとるし?」


 茶化すように言いながら、ジョーは長い柄のブラシを使って背中をゴシゴシと洗っている。


「ま、気持ちはわかるけどな。あれだけの別嬪さんやし、しかも充って告白するん初めてやろ? そりゃあ緊張するわ。でも後から思い返したら、それがまた楽しいんやけど」

「………」

「なんで告白したことないてわかるんやろ~、って顔やな?」


 うーん、どうやらすぐに顔に出るタイプらしいな、オレ。

 いや、今更なんだけどね。


「ミッキーとよう話すようになってから、出雲とか綾ちゃんとかとも話すようになったけど、そのときの雰囲気でなんとなく、な。ミッキーの気の遣いよう見とったら大体の関係くらいわかるし。あとは綾ちゃんたちの方の対応見とったら、告白もでけへんと散ったんやろな~、とか。

 ああ、別にそれが悪いとかいう話ちゃうで? そもそも俺やて告白自分からしたこと1度くらいしかあらへんしな」

「なぬ?」


 そういえばジョーの浮いた話とか、聞いたことなかったな。

 その視線に気づいたのか、


「まぁ嬉し恥ずかしミスター・ジョーの秘密!は今回は置いとくとして……せっかく夏に海まで来とるんやし、後悔ないようにやったったらええねん。

 そもそもすでに向こうは準備万端なわけやし、初陣やけど勝ちの見えた戦いなんや。思う存分頑張ったらええだけやん?」


 もうもうと湯気の立ち込める中、親友はそう言って笑う。


「おう、ありがとな」


 その後、いつも通り他愛ない、というか通常通りのボケとツッコミに満ちた馬鹿話をしながら浴場を後にした。部屋に戻ってちょっと涼んでから準備を開始。

 浴衣から私服へ着替え、スマートフォンの充電させつつ地図で目的地までの距離と道をチェック。天気予報を見ている限り、明日はちょっと天候が荒れるかもしれないようだ。幸いというべきか、今夜は晴れらしいので、タイミングとしてはやっぱり今がばっちりなんだろうな。


 さて…ここからだ、気合入れないとな!


 オレたちの部屋を出て一路女性陣の部屋のほうへ向かったものの、辿り着く前に運よく途中で風呂帰りの女性陣たちに遭遇した。

 綾や水鈴ちゃんたちもこの2日で随分と月音先輩たちと仲良くなったようで、楽しそうに話ながら歩いている。


「あー……その、月音先輩」


 さすがにこのメンツの前で、というのは恥ずかしいけどとりあえず動かないと話が進まない。意を決して声をかけた。


「はい」


 彼女が、オレを見ている。

 湯上りで温まっているのだろう、ほんのり桜色がかった肌。

 だがそれ以上にオレの顔が熱い。

 大分涼んだからお風呂直後というわけでもないのに、なぜか熱くなっている。

 頭が真っ白になりつつ、なんとか口を動かす。


「もしよかった後で、ちょっと外で話せませんか?」


 意を決して絞り出した言葉。

 ばくばくと心臓が早鐘のように鼓動を打つ。


「わかりました。すぐに用意してきますね」


 静かに微笑みながら返してきた言葉。

 その後ろで他の女の子たちがそれぞれちょっとずつ受け取っている感情は違うものの「おぉ!ついに!」的な視線を向けていた。

 が、今はそれを気にしている余裕はない。


「ホールで…待ってます」


 背を向けて歩き出す。

 あー、くそ。

 なんでこんなに意識しちゃうかなぁ!!

 足早に玄関すぐ目の前のホールへ。

 熱くなった顔を冷やすために冷たいジュースを飲み一息。そして待っている間にジョーと綾に念のため、行き先のほうはメールしておく。ないと思うけど何かあったときに連絡つかないと困るしな。一応携帯は持ってるけど圏外だったりするかもだし。


 そのうち月音先輩がやってきた。


 これまでのどんな強敵相手よりも難しい戦いが、これから始まる。

 そう自覚しながらも、これ以上なく胸を躍らせる自分は止められそうになかった。


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