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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.4.03 滲む歪み
220/252

218.鬼首組

 いやぁ、勢いって怖いもんだねぇ。

 突発的に行動して、結果後悔したことって結構あるんじゃないだろうか?

 オレは今まさにそんな感じです、はい。


 思わず出してしまった助っ人がいますよ発言。

 しかも業者の名前が思いつかなかったので、全然何の捻りも無く“鬼首おにこべ組”と付けてしまった。

 そのときの天小園姉妹の表情と言ったら……。

 咲弥は爆笑しそうなのを必死で押し殺してるし(実際は背中向けたまま小さく震えてるから全然隠せてないけど)、聖奈さんは全力でドン引きというか理解できないモノを見るような目でした……うん、いや、オレが自分でやったことなんでいいんですけども。

 綾は何のことかわからないこともありキョトンとした顔。

 月音先輩は鬼首大祭のことを聞いているはずなんだけど、何ひとつ心配していないかのような信頼の篭った目で微笑みかけてくれている。

 皆それぞれの違った反応を見つつ、言ってしまったことは仕方ないと覚悟を決めた。



 さて、では始めよう。

 やることは簡単。


 浜辺を出て、そのままこっそり人気のないところへ行って鬼の召喚をする。


 溜めこんだ霊力をごっそりと使ってしまうが、ここは使い時だ。

 大盤振る舞いにも目を瞑ろう。


 まず鬼を50体。

 ベースは漆黒鬼だが、肌の色を出来る限り調節してなんとか普通の人間っぽくしてみる。


 あと問題なのは爪と角、そして顔だ。


 まず近くの店で軍手を買ってきたのでそれをさせた上で出来るだけ爪を短くさせることで対処。


 次に角に関してはバスタオルを調達してきて、頭にぐるっと巻いて後ろで結ぶ。現場とかでこんな感じで帽子代わりにしてる人を見たことあるからこれでなんとかなるだろう。もっともそのときはバスタオルじゃなくて、どう見てもハンドタオルだったけど。


 あとは顔なんだが……うーん。

 これが結構難問だ。

 まぁちょっと怪しいけども、マスクさせて誤魔化すか。こう、現場仕事なので埃とか吸わないようにマスクさせてるんですよ的な。でもそうするとヘルメットをさせたほうがいいわけだし……。

 問題はヘルメットしてても角があるから、ちゃんと被れないんだよなぁ。 

 諦めてLサイズマスクで対応。

 結構ギリギリなんだけども、口を小さく結んでもらってなんとか収めた。マスクしないと牙とか見えちゃうから仕方ない。


 さて、ここまでで身長2mくらいの筋骨隆々な大男が軍手をして腰巻(しかも寅柄)一丁で、頭にタオルを巻き顔をマスクで隠している、という感じになった。


 …………こ、これでイケるかなぁ……。

 せめて作業着とまではいかずとも、甚平みたいな程度の衣服は身に付けさせたほうがよいのだろうか……。問題はこんな大男たちの着る服を50着も用意するのが結構大変なことだ。宴姉たちを呼び出すときに衣服ごと生成されるので、同じ要領で出来ないかとやってみたけども、これがまた滅茶苦茶難しい。

 素材そのものを完全に認知し、その上でどういう比率で作られているかや形状、細かく言えば糸の返しまでしっかりと把握し設定出来なければ1から纏うものを作るというのは難しい。

 それを無理にやってみると、もう服なのか編み掛けで分投げられた上に経年劣化でズタズタになった布きれなのかよくわからんものになってしまったのだ。

 名持ちの鬼たちの服については、霊脈から流れてくる想念を拾い上げて具現化しただけなのでそれについて鬼たち自身が細かく知っているわけではない。赤子が自分の体について神経と血と肉と骨、その他諸々で出来ていることなど知らないのと同じ。

 だが意図的に作ろうというのであれば知らないでは出来ないのだ。赤子が自らの体について知らずとも、手術をする医者がそれでは困る。まぐれで成功することがあるかもしれないが、とてもじゃないが成功率は恐ろしく低いだろう。

 色々とオレが勉強して、いくつか作れる衣服を増やすことは可能だけども、それは今どうこうなるわけじゃないので保留。

 とりあえず今は買い揃えるしかない。

 では買うとして。問題はこのデカさの大男たちが着れる服、いきなり大量に手に入るかってことと、金銭的なこと。

 シャツ1枚にしても、安いファストファッションの店で1枚500円はする。

 仮に一番デカいサイズのが鬼たちの着れるもので、しかもさらに幸運にも人数分在庫があったとしても、50人なら25000円である。

 おまけに買った後、オレじゃ着れないサイズのTシャツを50枚持って帰る羽目になるので、ちょっとイヤな感じだ。


「お待たせ。“鬼首組”の人たち連れてきたよ」


 もう考えても仕方ないので諦めて召喚。

 んで堤防のほうにジョーを呼んで紹介した。

 全力で、人じゃないけどな!


「うっわ……ゴッツ…ッ!?」

「い、いやぁ、ほら。普段からそういった力仕事してるからね、そりゃ体が資本にもなるでしょ」

「あー、それもそうやな。重機の使えない建物の部分解体とか、手作業でそんなんをやっとる解体業者さんとかそんな感じやもんな。逆に考えたら、それだけ頼もしいわ!」


 おぉ、なんとか自分で納得してくださったな。


「……なぁ、ところでなんでこっちの皆さん腰巻だけなん?」


 ……全然納得してなかったよ。


「こ、この近くの海で丁度この人たちも海水浴みたいなことをしてたらしいんだよ。で、とりあえず急いで来てもらったってわけ。着替えてる時間も勿体ないし、それに、か、会社に作業着とか取りに行ってたら遅くなるだろ? 出来るだけ早くなんとか、ってお願いしたら飛んできてくれたんだ」


 く、苦しい言い訳だ。

 このままなんとか押し切って……


「細かいことは後にした方がいいんじゃないのかい? こっちだって暇じゃないんだ。

 充の頼みだから別にこれくらい朝飯前だけど、そっちは長引いたら困るんだろう? ならちゃっちゃとやって済ませようじゃないか」


 オレの隣にいた鬼女がそう応える。

 白い浴衣のような着物の女性―――宴姉だ。


「ああ! そうやった! むしろプライベートなのに、そこまで気遣いしてもろて、すみません」

「気にしなくても構いませんわ。

 こう見えても、“こういう力仕事”は経験豊富ですからお任せ下さって構いませんのよ?」


 にこりと嫋やかな淑女の笑みで静穏童子がそう言うと、ジョーが照れながら安堵しているのがわかった。こういう力仕事、って彼女に言われるとなんか物騒な感じしかしないのはなぜだろうか……こう、絶対建物ぶっ壊したりとか、柱引っこ抜いて相手に投げたりとか。


 二人とも角を隠すために土産物屋で大きな髪飾りを買ってきて装飾している。角そのものは見えているんだけど、そのおかげで逆に装飾の一部的な感じで落ち着いていた。勿論、そのために彼女たちは髪をアップにしているので、ちょっと普段とイメージが違うのだけども。


 あと普段と違うことと言えば、静穏童子が顔の前に垂らしていた黒い布を取って、素顔を晒していることと、二人とも着物の袖を捲り上げて、年末によくやる時代劇の忠臣蔵討ち入り的な感じに、紐で袖などをしっかりと留めていることだ。

 まぁジョーが照れるのもわかる。

 静穏童子の素顔はやはり、と言うべきかかなりの美形だ。ビューティ系の怜悧なタイプ、と言えばいいのだろうか。そういえば確かに鬼女って恐いくらい綺麗、って言う話あったもんなぁ。


 漆黒鬼(充カスタム)×50、そして宴禍童子、静穏童子。


 これが今回の充組、もとい鬼首組の戦力である。

 ジョーには鬼首組の若い衆+お目付け役、という話にしてある。宴姉たちは大人しくしててもらえば、和服ということもありどっかの若女将的な感じにも見えるので、お目付け役としてもあまり違和感はないだろう。

 名持ちの鬼を全員呼ぶことも考えたけども、具眼童子の第三の目とかはさすがにちょっと見られると不味いし、悠揚童子の市女笠とかは目立つし、羅腕童子なんか最低でも腕が4本である。

 そんなわけで、申し訳ないけど今回は上記のような編成になった次第だ。


「皆さんになんとかしてもらいたいのは、あっちの浜の―――」


 ジョーが宴姉たちに説明を始めたのを見て、ほっと息をつく。

 腕時計を確認してみれば、今は午前10時。

 先ほどジョーと話してから実に20分ほどで、これだけの人数を集めたということに無理を言ったと自覚している部分はあるんだろう。多少(?)強引に押し切った部分もあるけど、なんとか作業に入れそうである。



 いざ、鬼首組の初仕事だ!!



 ……と、意気込んだまではよかったものの。


「やり過ぎだろ、オィ……」


 オレは海の家の仕事をしながら横目で作業を見ているのだけども、ツッコミどころが多すぎた。

 曲がりなりにも鬼なのだ。剛力自慢なのはわかるし、それでも怪しまれないようにある程度加減するように伝えている。

 だから鬼たちはあくまでちょっと手を抜いたくらいの力でしか作業していない。それでも100キロ近いゴミを持ったりしているので明らかに常人の力じゃないけども。

 問題は―――


「―――なんでダッシュしてんの!?」


 そのタフさなのだ。

 ゴツい荷物を抱えたまま全力疾走で堤防横の土地まで持っていく。

 疲れない。

 まぁそりゃそうだよな、肉体的なことを言えばオレから霊力供給されているだけで存在出来るんで疲労感とは無縁、しかもセーブした量の荷物しか持っていないんだから動きも阻害されない。

 だけどなぁ! 普通の人間ってそんな荷物担いで全力疾走を30分とか出来ないのよ!?

 しかも足場の悪い砂浜である。

 海水浴客もドン引き……と思いきや、


「しかも、なんで見世物になってんのさ………」


 意味がワカラナイ。

 カラーコーンで仕切られた堤防から現場までの導線と、現場の周囲。危なくないように広めに取っているそのスペースだが、その進入禁止のゾーンの周囲になぜかゴザとかビニールシートを敷いて、お昼を食べたりしつつ見物している人々がかなり居るのだ。


「なんやお花見みたいやなぁ~」


 ジョーは目をキラキラさせながらそう言っている。

 おまけに誰かがその荷物移動スペースに入り込まないように周囲を宴姉と静穏童子が見張っているのだけども、和服でもしかもあの美貌である。そのミステリアスな感じと背後のムキムキマッチョな連中とのミスマッチさが良いのか、彼女たちの人気も物凄い。

 一度大きな突風に揺られた廃材が飛んで周囲の人たちのほうへ行こうとしたとき、静穏童子が軽やかに跳躍して人一人分はありそうなゴミを音もなく掴んで着地したこともその一因だろう。


「凄いですね。確か……鬼首神社にいた鬼の方なんですよね?」

「え、あ、はい。そうなんです。力仕事なら可能かな、と思いまして……」


 そこまで言って、ふと聞いてみたくなり


「月音先輩が見たところ、どんな感じに見えます? あの二人」

「とてもお綺麗な方ですね。それに、あれだけの立ち振る舞いをしてお着物が乱れないのが素晴らしいと思います。わたしも着物が大好きなのですけれど…あの方たちほど着こなせないので、ちょっと悔しいですけれど」


 あー……なるほど。

 まぁそりゃ着こなすの難しいんだろうなぁ。

 それだけメリハリのついた、貴女のわがままボディなら!!


「……何か失礼なこと考えてません?」

「イイエ、チットモ?」


 え、エッセ並みに鋭い…ッ!?

 思わず冷や汗を垂らしながら、カタコトで答えた。


 さて、そんなに目立てば当然ながら人目もはばからず宴姉たちをナンパしてくる男も出て、


「なぁ、お姉さん、どこの人~?」

「鬼首組だよ。おっと、危ないね。また飛んできたよ」


 まず一人目は会話の途中でゴツい廃材が飛んできたのを軽く打ち返したのを見て、ビビって退散。


「お名前は~?」

「静お……セイと申しますわ」

「この後ヒマ~? 一緒に愉しいことしに行かない~?」

「まぁどうしましょう~。……もちろん本気、ですのよね?」


 じろり、と一瞬力の込められた切れ長の瞳に睨まれると、なぜか小さくぶるっと震えて退散していく。

 いや、ナンパ男よ、お前の生存本能は正しいぞ、と言ってやりたくなった。どう考えても静穏童子の“愉しいこと”に付き合ったら死ぬし。

 だが、中には鈍感なのかさらにそこから突っ込んだ猛者もいた。


「本気、本気! 本気と書いてマジぱねぇって読むくらいだぜ!」

「あらあら……でもごめんなさいね。わたくし、もうすでに決まった方がおりますのよ」

「え~? マジ~? 誰ですかぁ~?」

「そうですわね、主……ではなくて、確か…そう、社長ですわ。鬼首組の社長に、すでにこの身も心も奪われてしまっておりますの。だから貴方たちのお誘いは受けられませんわ、ごきげんよう」


 あ、撃沈した。

 そして静穏童子さん?

 何誤解を招くようなこと言っちゃってるんですか?

 いや、言ってることは全然間違いじゃないけども、TPOを考えて下さいね? しかもその後なんでこっちに向かって、そんなわざとらしく片目を瞑ってみせるんですか?

 撃沈した男たちが、こっちに社長がいると思ってあたりを凄い目で見まくってますけども!

 思わず視線を逸らしたくなるものの、変な反応してタゲられるのもイヤなので素知らぬ顔をしておく。


「あ、もちろん、あたしもだからね」


 宴姉ぇぇぇぇ!?

 なんでそこに乗っかるのよ!?


「うわぁ……セイさんもエンさんもモテモテやなぁ…。

 あないな美人二人を侍らすとか、鬼首組の社長ってどないなん? もしかしてごっつ凄い人なんちゃうんか?」

「………知らん」


 ひとまず知らないフリを決め込んでおこう。

 触らぬ何とかに祟りはないのだ。


 目の前で尋常じゃないペースで解体、運搬が進み、みるみるうちに廃材ゴミが無くなっていく。この分ならもうそんなに時間はかからなそうだった。

 幸いというべきか、開店早々はゴミのせいでどうなることかと思ったけども、見世物になっているせいで逆に海の家の売り上げはあがっていた。

 それもそのはず、見世物会場は海の家の目の前なのだ。

 美味しそうな焼きそばとか、冷たい飲み物が売られていたら、そこで手軽に買って見物したいと思うのは当然だろう。店としても座席は限られているので、すぐ近くで大量のビニールシート席で観覧している客というのはありがたい。


「さて……ちょっと集中して働きますかね」


 腕捲りをしながら気合を入れる。

 とりあえず今日は浮き輪とかの物販よりも飲料とか食べ物のほうが出そうだから、フォローに回れるようにフットワークをよくしておこう。


「あー、そや。ミッキー、ちょっと聞きたいねんけども」

「? 何?」

「鬼首組さん、費用とか聞いとるか? 一応休みに急に来てもろてるさかい、よっぽどの金額やなかったら大丈夫やろうっておじさんが言うとったけど」


 ……あー。

 そのへん、まったく考えてなかったなぁ。

 うーん……。

 なんとかおかしくないように上手く返答しないと……


「……お!」


 ふと脳裏に閃くものがあった。

 うん、そうしよう。

 多分これなら問題ないはずだ。


「OKOK。それについても、ちゃんと鬼首組の社長のほうから言われてるから、一応それで大丈夫かどうか海の家とかそっちに確認取って欲しいんだけど……」

「海の家? 管理組合やのうてか?」

「うん。で、費用は―――」


 オレの答えに思わずジョーが目を丸くした。


 これでよし。

 さぁ海の家、二日目! 頑張っていこう!!




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