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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.02 プレイヤー
22/252

20.仇


 色恋沙汰に首をつっこむとロクなことがない。

 それは間違いない。

 でも、そうとわかっていても首を突っ込む連中がいるわけで。


 路地に入っていったアーベントロート生徒会長。

 その後を追っていった副生徒会長。


 ジョーたちとの会話では、二人は付き合っているという噂もあったから最初は見かけただけで放っておくつもりだった。

 ただ放っておこうと思ってから気づく。

 その距離感のおかしさに。

 付き合っているのなら、あんな風に距離を取ってついていく必要がない。

 百歩譲ってびっくりさせようとしているとしても、それなら周囲を警戒する必要がない。


 違和感は大きく成り始めると止まらない。

 思わず立ち上がる。


「どうした、充?」

「ごめん、ちょっと出るッ」


 荷物を手に店を出る。

 何事もなければそれでいい。

 よくよく考えてみれば確認するなら路地から中の様子を窺えばいいだけのことで、何もなかったら戻ればいいだけだ。

 特に問題はない。

 路地裏でいちゃついてる、とかだったりすると精神ダメージを受けたりするかもしれないが。


【おぬし、男らしいのかそうでないのか、よくわからんな】


 あー、確かに。

 自分でもそう思う。


 店を出て路地へと急ぐ。

 商店街は時間帯的に遅くなっているせいもあり、七時を過ぎたあたりから急速に店が閉まり始めている。そのため人通りもすくない。

 特に二人が消えた路地へ入っていく場所の周辺は人がいない。

 不自然・・・なほどに。


 無事にたどり着き、入口から路地の中の様子を窺う。

 中はすこしいって行き止まりになっているようだ。

 オレのところから見て手前に名前のわからん副生徒会長、奥にアーベントロート生徒会長、その奥の行き止まりの場所に毛布の入った木箱が置かれており、子猫がちょこん、と頭を出している。

 なにあれ、ちょうカワイイ。

 美人すぎる生徒会長があんな子猫を抱いてたらそれだけで萌え死にしてしまいそうだ。


【……おぬし、ブレないの】


 ありがとう。

 で、見ていると副生徒会長が生徒会長に向かって何か話しかけている。対する彼女のほうは何かを警戒するように子猫との間に立ちふさがっている。

 それはどう見ても恋人同士の空気ではない剣吞な雰囲気。

 見ているうちにどんどんそのピリピリとした空気は張り詰めていく。


 あー、このパターンは…。


 なんとなくヤバい予感がする。

 普通の人相手に役に立つかわからないが、なんとなくご利益がありそうなので買ったばかりの隠衣を急いで羽織って忍び寄ってみる。


 そろり…そろり…。


 すこしずつ副生徒会長の背後に忍び寄る。

 緊張のあまり手にした乳切棒を握り締める。

 そこまでいったとき、


「さぁ、今夜不幸になるのはその子猫ちゃぁんだねぇ」


 そう言って手を振り上げる素振りが見える。


 うわぁぁ、ヤバいッ!?


 副生徒会長がゆっくりと歩き出した瞬間、オレは全力で駆け出す。

 なんでこんなときばっかり自分の勘が当たるのかちょっと悲しくなったが、とりあえず出来ることはひとつだ。

 さすがに副生徒会長の頭を後ろからカチ割るとかは出来そうもない。

 後が恐いし勘違いだった場合に警察もイヤだ。

 だとすれば、出来ることはひとつだけ。


 そのまま二人の間に割って入り、手にした乳切棒で手刀を受け止めるッ!


 バキィッ!!

 

 乾いた音を立てて棒は真っ二つになった。

 そのまま手刀は左手にも当たるが、棒を割って勢いが殺されていたため、腕が折れるとかそういったことはなかった。いや、十分痛かったけども。

 痛い。

 それだけにイラっとした。

 何か事情があるのかもしれないが、どう考えても今の一撃は男が女性に向けて放つ一撃ではない。勿論そもそも女の子に暴力振るうとか頭おかしいんじゃないかと思うけども、それを抜きにしたってこれはやり過ぎだ。

 男の顔を見ると、何か驚いた顔をしている。

 カっとなって暴力を振るったことを反省しているわけでもなく、ただ自分が放った一撃を明確に把握した上で突然割って入ったオレに止められたことに。

 無性にイラっとした。


「……女性に暴力振るうとか、格好悪すぎじゃないですか?」


 思わず素直に口に出してしまう。

 でも間違ったことを言っているつもりはない。

 喩えこの副生徒会長がどんなイケメンでも、どんな優秀な奴でも関係ない。子猫を庇っている女性に攻撃を出した時点でもクズだ。


「君、一体誰だい?」


 男の瞳に一瞬にして憎悪の火が灯る。

 宿る炎の色は狂気。

 

「誰だい? 主人公プレイヤーであるボクの邪魔をするなんて。どんな権利があってボクの愛を阻もうとするのさ、どうしてボクがこんなに一生懸命に愛するのを阻害するんだい?

 いや、それ以前に…NPCがどうやってここに入ってきた?」


 まさか…こいつ、主人公プレイヤーだったのかッ!?

 つまり今この路地は一般のNPCが入って来れない場となっている、そこに現れたオレが何者かと問うているのだ。

 様子を伺っていると男はスマートフォンを取り出して手早く操作した。


「……なるほど。おかしいと思ったら君も主人公プレイヤーか。顔を知らないところを見ると大方始めたばかりなんだろう。なにせボクが誰か知っていたらこんな真似はできない」


 何か納得したようにスマートフォンを収めた。

 先ほどまでの狂気がすこし鳴りを潜め、淡々とした冷徹な口調になる。

 どういうことだ?


【おそらく今、おぬしのステータスを確認したのじゃろう。しかし確認することが出来なかった。そこからおぬしがNPCではない、と考えたのではないか】


 え、ステータスが見れてないって…あ、そうか。

 今来ている隠衣の効果か! 早速役に立ったな。


【効果の弱い隠衣だけで、背後からの接近に気づかず、ステータスを見ることも出来なくなった。おそらく、こやつは探査や鑑定能力に欠けておるな】


 追加情報ありがとう。

 男はゆらり、と脱力した。


「さっさと消えろ。それとも……」


 そのまま左手を翳す。

 何をしようとしているのかはわからないが、その動作にぞくりと全身が総毛立つ。


 こんなとき役立つのはいつだって友情だ。


「それ以上続けるっていうのなら、俺が相手になりますよ。伊達だて先輩?」


 路地の入口からかけられた声。

 聞き間違えることのない親友、出雲のものだ。

 現れた出雲は手に長く細い包みを一本持っていた。まるで日本刀でも入りそうな長さだ。


「お前の知り合いか。

 こいつはボクの邪魔をしたんだ。殺されたくないなら退くように言うんだな」

「お断りですね。俺の知り合いに理由もなく邪魔をするような男はいませんので。

 むしろ彼の背後にいる女性の表情からすれば、どっちが正しいのかなんて一目瞭然だと思いますけどね」


 ギリッ。

 男が歯軋りする音が響く。


「お笑い草だな。同じ上位者ランカーでも五位のお前が四位のボクに勝てるとでも? 虚勢はほどほどにするんだな」

「先輩こそ俺と狩りをしたのにわかりませんか。

 大体拓けた平原ならともかく、こんな狭く距離のない場所で遠距離専門の奴が、俺に勝てると本気で思っているんですかね?」

「……どういう風の吹き回しだ、貴様ッ」

「別に何も。順位付けランキングなんてものには興味はありません。

 単に一度だけ一緒してみて先輩のやり方にはついていけないと思っただけですよ。それに……」


 ざわり。

 出雲を取り巻く雰囲気が変わる。


「……アンタが俺のダチを殺したことを水に流しているとでも?」


 ああ、あの笑い。

 あれは出雲が本気で怒っているときの顔だ。


 ……あれ? って、ことはもしかしてコイツ、オレをあの日撃った奴か!?

 その割にはオレのことを全然まったくこれっぽっちも覚えていない様子なんだけど。


「……今回はあのときの借りに免じて退いてやる。そいつに次は余計な首を突っ込ませないよう、せいぜい見張っているんだなッ」


 男は出雲の手に得物があるのを一瞬だけ確認してから、舌打ちしオレを睨み付けた。

 どうしよう、一度殺されたことがあるのを思い出したら、ちょう怖くなってきた。


「月音くぅん。また明日、ね」


 最後の捨てセリフ。

 幸いなことに男はそれ以上は何もせず路地裏から立ち去った。

 だが警戒は解かない。

 オレは緊張のあまり伊達とかいうあの男が立ち去ってから優に3分はそのままの姿勢で固まっていた。

 本能的な恐怖が思い起こされてオレの体の自由を絡めとっている。


「あの………」

「ひゃ、ひゃひゃ、ひゃいッ!?」


 突然後ろから声をかけられて素っ頓狂な声をあげてしまった。

 そちらを振り向くと子猫を抱いた金髪の美人が心配そうにこちらを見ていた。

 うーん、絵になる。


【さっきまでの緊張が台無しじゃな、おぬし】


 うるさいやい。

 正直な感想を言って何が悪い。

 とりあえず話しかけてみるとしよう。


「えーと、アーベントロート生徒か―――」

「月音、です」


 いきなり訂正が入った。


「危ないところをありがとうございました。ご存知の様子ですが改めまして。

 わたし、月音・ブリュンヒルデ・フォン・アーベントロートと申します。家名では長くなりますので、月音と呼んで下さい」

「み、みみ、三木です! あ、あだ名は三木でミッキーです! み、充です!」


 予想外の事態に噛みまくった。

 まさかこんな美人から名前で呼んで下さいとか、そんな展開がオレに訪れるとか有り得ない、うん、きっとこれはユメだ、いや、もしくはオレじゃなくて出雲に言っているんだ、そうに違いない。


【……おぬし】


 エッセがほろり、という雰囲気で同情してくれているが、そんなことは関係ない。


「三木充さん、ですね。出会ってすぐに愛称、というのは礼を失するかと思いますので充さん、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」


 よろしいですよろしいです。

 もうなんか色々とよろしいです。

 むしろその声だけで色々とゾクゾクしちゃいます、はい。


「落ち着け、充」


 ぺし、と出雲に軽く頭をはたかれる。

 ぎゃふん。


「失礼しました。俺は充の友人で龍ヶ谷出雲と申します。お察しかとは思いますが、充と俺は貴方と同じ学校に今年入ったばかりの一年生です」


 ……ああ、そっか。

 オレ、生徒会長、といおうとしちゃってたもんなぁ。


「…………」


 あれ?

 月音先輩は出雲にちょっと警戒をしているようだ。

 そして出雲の登場に何かに気づいたように、今度はオレのことを警戒しはじめた。


「さっきの伊達先輩の言動からするに、貴女はおそらく知らされているのですね?

 主人公プレイヤーのことも、そしてそれ以上のことも」


 そういえば…あの気色悪い副生徒会長は、彼女の前で堂々とオレのことを「NPC」とか「主人公プレイヤーか?」って聞いてたもんな。

 その言葉に月音先輩は頷いた。


「信用してもらえるかはわかりませんが、主人公プレイヤーはあのような短絡的な奴ばかりじゃありません。無論すぐに理解してくれ、と言うつもりはありません」


 そこで一度区切って、


「ただ、その男。俺の誇るべき友人である充は、主人公プレイヤーですらありません。今のところただのNPCです。そのうえで今回貴女のために伊達先輩に立ちふさがりました。

 その行動だけは認めてやってほしい」


 月音先輩の瞳に浮かんでいる警戒の色が緩んだ。

 なるほど、オレのことも主人公プレイヤーと思っていたのか。


「えぇと…実はオレ、ちょっと事情がありまして、ちょっと特殊な状況になってますけど出雲の言う通り、NPCなんです。でも出雲とは親友だし、そりゃたまには口論したりもしますけど、全部わかった上でも大事な友人としてやっていってます。

 だから主人公プレイヤーに対して警戒するのを止めてほしい、とは言いませんけど出雲は別なんだって思ってもらえれば。あと、もし何か困ってるならオレたちに頼ってもらえたら嬉しい、です」


 軽くテンパってしどろもどろになってしまった。

 だが意味は伝わったようだ。


「はい、信用します」


 先ほどまで萎れていた花が咲き誇るような、そんな微笑み。

 この顔が見れただけでも割って入った甲斐がある。


 と、携帯に設定したアラームが鳴る。

 九時になってしまったようだ。


「もう時間も時間ですし、よければお送りします」

「いえ、大丈夫です。自宅はすぐ近くですから爺やに連絡して車を出してもらいます」


 イメージに違わずお嬢様だった!?

 現実で爺やとか初めて聞いた。


「……あの」


 遠慮がちに月音先輩は続ける。


「助けてもらった身で差し出がましい申し出なのですが………」

「…?」


 次の言葉を待つ。


「学校ではわたしに関わらないでいてくれますようお願い致します。

 本日はありがとうございました。失礼致します」


 突然の拒絶の言葉。

 さっきまでの表情とは打って変わって静かに決意の篭った口調でそう告げた。そのまま子猫を抱いたまま彼女は携帯を出してどこかに連絡を取る。

 副生徒会長とやらが待ち伏せているかと思ってちょっと見守ってみたが、特に問題なく爺やさんらしき人が運転してきた車に乗り込んで去っていった。



 最後に車に乗り込む直前、申し訳なさそうな会釈をひとつ残して。



「………」

「落ち込むな、充。

 どんな意図があるかはわからないけれど、今回お前が彼女を助けたってことは事実なんだから」


 なんか月音先輩と副生徒会長が噂みたいに仲がいい、というわけではないのはわかったし、さっきの発言については後で理由を聞けばいいか。

 逆にあんな美人に名前を覚えてもらえただけヨシとしよう。


「ありがと。

 あとごめん。せっかく金を借りて買った武器ダメにしちまった…」


 手元の割れた乳切棒を見る。

 わずか1時間ちょっとの短い命だったな…。


「構わないさ。そもそも伊達先輩の手刀を防げたんだから、十分意味はあった」

「……そんな強いの? あの人」

「弓主体の後衛だからな。単純な白兵能力はたかが知れているが…それでも主人公プレイヤーだからな。ステータス上なら腕力が13…つまりお前の倍はあるぞ」


 怖っ!?

 後衛の人じゃなかったら殺されてたかもわからないな。

 今頃膝が震えそうだ。

 そう思うと勢いを殺しきれずに受けた左手がズキズキ痛い。

 明日までに治らなかったら河童の軟膏を使ってみることにしよう。


 しかし世の中は狭い。

 まさかうちの学校に主人公プレイヤーが複数いたなんて。

 しかも相手は副生徒会長で、よりにもよってオレを殺した相手ときた。


【本当におぬしは運がいい・・・・男じゃの。

 確かにゲームという性質上、特定の街に主人公プレイヤーは集まりやすいものじゃがこのように立て続けに会えるのは珍しい】


 そんな運、要らない。


「さすがに加能屋ももう閉まっている。明日の夕方にでも武器は買い直したほうがいいな」

「だねぇ。初めての狩りで武器なしとかありえないわぁ」


 はて? 何か忘れているような…。

 まぁ思い出せないということは大したことはなかったんだろう。


「そういえば今日は出雲、武器なんか持ってたっけか?」


 さっきまで持っていなかった出雲が握っている包みが気になった。


「ああ、これか。路地の入口で乳切棒抜いただろう? そのとき落とした袋にさっきそのへんで拾った棒入れただけだ」


 笑って中身の棒を捨てて袋を投げてきた。


「悪いやつだな~」

「無駄な争いはしない主義でな」


 とはいえ助かったのも事実ではある。


「んじゃ帰るか、出雲」

「ああ」


 駅に向かって戻っていく。


 そう、ここで思い出しておけばよかった。

 オレは大事なことを忘れていたのだ。



 門限の件、家に連絡忘れてたということをッ!!!



 思い出したのは家に帰った後、えらい剣幕で玄関に立っている家族を見たときでした、なむ。




 なかなか展開が進まなくて申し訳ありません。

 やっとゲームっぽく狩りになるので、頑張って定期更新していこうと思います。

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