210.準備をしつつドキドキタイム!
義務教育を終え大人への階段を一歩のぼり始める高校一年。
燃え盛るような、その熱い夏。
こっそりアバンチュールを求めちゃったりなんかしつつ、バイトをするべくやってきた海の家。
ところがどっこい、それが突然オレたちだけで営業をしてくれという超展開。
どうなる!? 以下次号!? “超店誕生!!”に乞うご期待!!
「いや、終わんなし」
「ぎゃふん」
勝手なナレーションを始めたジョーに思わずツッコミを入れる。
お、水鈴ちゃんの追い打ちチョップも綺麗に決まったな。
ナイスダウン。
「なにすんねん、ミッキ~」
「やるつったのはジョー本人だろ、一応責任者なんだから、そろそろ空想の世界から帰ってきてもらわないと困るんだけど」
「それもそやな」
何事もなかったかのようにさっと立ち上がって、ジョーはみんなを見回した。
「とりあえず今、話聞いてたと思うけど今回はこのメンバーだけで店を回してくことになった。一応勝手はわかっとるし大抵のことは一通り出来るから、なんとかなる思うけどよろしく頼むわ」
結局、ジョーは拳さんの話に乗り、海の家の運営のほうは任せてもらうことになった。
個人的には、いくら親戚の子だからといってキッパリと店をひとつ任せちゃうあたり腹が据わっているというのかなんというのか……。
「あの……」
おずおずと綾が手を挙げる。
「こういう飲食のお店をするときって、ちゃんとそういう営業許可を持った人がお店にいないといけないんじゃなかったかな?」
おぉ。もっともな意見だ。
喫茶店やるんだって、保健所とかに許可もらわないとダメなはずだもんな。
「あー、食品衛生責任者とかそういう話か。大丈夫やって。そもそも責任者は全部をトータルで見て管理する立場やからな。昼間の営業だけ席外しとるだけで、夕方になって向こうが手空きになったらこっちに人割いてくれるんやから気にせんでええって。
そもそもそれがあかんかったら、ラーメン屋とか店長が休憩で外出しとるときに、店員がラーメンもつくれへん言う話になってまうやろ。
海の家の許可のほうは管理しとる管理組合のほうに許可はもろとるし、基本的な飲食店営業許可はあるさかい平気平気」
確かにそう言われるとそんな気はするな……。
なお海の家の営業は原則21時までと決まっているらしい。
「海の家というのは少し特殊ですけれど、実際のお店の運営、管理をするのでしたら、色々と勉強になることが多い体験になると思いますね」
「ん、お姉ちゃんの言う通り。人のお金で経営の勉強、ラッキー。ミッキーだけに」
なぜ韻を踏んだ!?
最後のはともかく、確かにいい勉強にはなりそうだった。
「とりあえず……着替えよか。みんな水着は持ってきとるやろ? 水着に着替えたら、その上からで構わへんから、このシャツ着てや」
どさっと出してきたのは「丸っと元気! 海の家 丸塚屋」と胸のあたりにロゴが入った黄色の半袖のTシャツ。なお背中側には「イイ海・夢気分」と書いてあった。
ここで女性人は控室へ行ってお着替え。
オレとジョーに関しては、実はすでに下に水着を着込んでいたのでサクっと服を脱いでTシャツを着こむだけで準備完了である。
ちなみにオレは何の面白みもない黒無地のハーフパンツタイプの水着。ジョーのほうもハーフパンツタイプだが若干オレのより丈が長く、なぜかアロハ調である。アロハ好きなんだろうか?
まぁ男の水着については何も言うまい。むしろ興味があるのは女性陣。
むふふ、水着かぁ…楽しみだなぁ~。
「はいはい、ミッキー、鼻の下をロングにしとるところ悪いけど、ちょっと在庫確認するから手伝ってや」
「了解」
丸塚屋に備え付けられた設備はオーソドックスなもので厨房とお座敷といった感じ。電気、ガス(こんなところに都市ガスが来ているわけもないので、もちろんプロパンガスである)、水道などは一通り揃っている。
「お、あったあった。これがメニューやな……ヤキソバ、焼きもろこし、たこ焼き、お好み焼き、フランクフルト、アメリカンドッグに、かき氷、カツカレー、からあげカレー、ハンバーグカレー……」
カレー多くね!?
出雲が聞いたらちょう喜びそうなメニューだな。
まぁ冷静に考えたらトッピング変えるだけで数メニュー稼げるのだから、カレーはつくづく偉大である。
「カレーのほうは寸胴に今日の分作ってもろてあるみたいやし、ちゃんと火とか管理できたら済む。焼き物系はとりあえずこっちでやっとくから、ミッキーのほうは飲料とかき氷のほうやってもらおかな」
「……ジョー、料理できんの?」
「はっはっは、何を仰るミッキーさん。関西人たる者、屋台メニューくらいは出来るやろ」
「でもたこ焼きとか、ちょっと家庭じゃやらないだろ」
「はぁ!? はああぁぁぁぁぁぁっ!? 何やそれ、ミッキーは関西人が必ずマイたこ焼き器持っとんの、ディスっとるわけですかぁぁぁ!?」
「……い、いや、そうじゃないんだけど……」
マイたこ焼き器あるのね……。
「何度かここで作ったこともあるから、例年通りの人入りやったらなんとかなるやろ。一応最初は水鈴のほうに接客側に行ってもろて、他の娘らにやり方だけ教えてもろて、昼くらいに厨房入ってもろたらなんとか捌けると思うわ」
「ちなみに例年通りの人入りっていうと、どれくらいなわけ?」
「そやなぁ……気候とか土日かどうかとかにも寄るけど、大雑把に勘定したら1日平均150人くらいか」
多っ!?
ああ、でもお座敷も結構広くて40人以上は入りそうだしそんなに無茶な話でもないのか…?
「買うだけ買っていって持ち帰る人もおるしな。そのへんは勘定しきれとらへんけどな」
こりゃ大変そうだ……。
さて、そんなこんなで準備をしていると、女性陣の着替えが無事に終わったようで奥の控室からみんな出てきた。
やっほぅ、待ってました!!
まず出てきたのは綾。
白と黒のボーダー柄のビキニスタイル。
綾の好きそうな大人しめの水着だが、胸元に大きな黒いリボンがついているのがアクセントになっている。
個人的に一番水着姿を見たことのある女の子なんだけど、なんか改めて意識して見るとやっぱり可愛いというかなんというか……ちょっと照れるな。
次は天小園姉妹。
咲弥も上下ビキニなんだけども、こちらはフリルが大きくついたタイプ。
色がピンクなのも相まってコケティッシュな感じだ。ちょっとアレなことを言うと、意外と胸があってびっくりである、いや、言葉には出さないけどね!!
姉の聖奈さんのほうはパレオつきの上下ビキニ。トロピカルなデザインで、普段の人形を思わせる和風な雰囲気を見事に裏切ってくれている。体型はスレンダーな感じではあるんだけども、普段の巫女さんのイメージとのギャップのせいかその雰囲気にドキっとした。
で、水鈴ちゃんと月音先輩。
水鈴ちゃんは、確かこれってタンキニって言うんだっけ? 前に綾が着てたときに着いた覚えがあるので名前だけは覚えていた。そんなお腹まわりまで広めに覆う水着は花柄で、下はここに来るときの咲弥と同じくデニム風のショートパンツを合わせていた。
健康的というか元気な可愛さで水鈴ちゃんのイメージにはぴったりだな。
月音先輩は白のワンピース。
王道できたな!という感じです、はい。色といいチョイスといい大人しめなんだけども、高い水着なのか月音先輩の美人度に負けていない感じ。モデルさんばりにスタイルがよくて足が長いから、単純にメリハリがわかって実にいい、というか恥ずかしいのはわかるんですが用意していたパーカーをちょっとだけ隠すように手で持つのは止めて下さい、逆に胸元に目がいきます。
「なぁなぁ、ミッキー。月音先輩たらな、パーカー着て出ていこうとしたんやで。
ちゃんと先にせっかく水着買ったんやさかいTシャツ着る前にミッキーに見てもらお言うとったのに!」
「だ、だって恥ずかしいじゃないですか」
「あー、そやねぇ、それだけ立派なものをお持ちやったらなぁ…く、女として屈辱やわ!」
「おーぃ、妹よぅ。ミッキーしか見てへんみたいな言いぐさやけども、ここにちゃんと兄もおるんやで~?」
せ、切ねぇ……。
そしてナイスだ、水鈴。
今日の仕事のMVPはキミに決定だ!
【視線を月音嬢の胸元から移動させてから言うんじゃな】
いやいやいや!
だって見るでしょ、男なら!!
しかもあんな恥らいつつ出てこられたら、もう全面降伏だね!!
もう、なんていうか、この瞬間だけは伊達とちょっとだけ万分の一くらいは共感してやっても……。
【………本気かの?】
いや、万分の一でもヤだな、あれに共感するのは……。
「さて、ほなら揃たみたいやし、これからの割り振りとか決めよか」
そう言うジョーの仕切りで仕事の分担の話に取り掛かった。
「いつまで見とるねん、アホ兄ぃ!!」
「ぎゃふぅ!?」
女性陣に見惚れていたのでツッコミを受けてから、だけども。




