209.海へ到着! 丸塚屋!
体調不良のため、短めになっております。
ご了承ください。
そのまま無事に金座大路駅へ到着。
幸いにも誰も遅れることなく無事に待ち合わせ場所に集合し、予定通り出発することが出来た。
「無事に揃たようやな、ほな遅れへんうちにサクっと行こか」
ジョーのそんな言葉を共に電車に乗り込み、一路目的地へ。
一度乗り換えて海岸線に沿った2両編成のワンマン電車に乗り換え、そのまま揺られることしばらく。
「……うぇ、マジでそれ出すの?」
「ん」
「そ、それは…ッ、伝説の『魔法使い爆誕』やないか! 40まで貞操を守った男が魔法使いになるという都市伝説にあやかったクラスチェンジカード!!」
「そんな都市伝説があるのですね……」
「月音先輩! そこ感心するところ違うから!!」
「ふふふ、咲弥。我が妹ながらまだまだ甘い子ね」
「しかもそこにトラップカードを被せてきたやと!? ここでトラップカード『実は廃人ニート』発動とは……ッ」
「えぇと…あ、これね。“魔法使いやその他、思い込んだ相手を現実に引き戻す効果あり、絶望カードを3枚引かせる……”」
「いや、綾も真面目に説明書読んで解説しなくていいからね…?」
なんとかボックス席に座れたので幸いにも快晴な空と水平線が織りなす青の景色をみんなで楽しみながら、なぜか人生カードゲームなどでわぃわぃがやがやしつつ電車は進む。
とりあえず前にやったときよりも人生カードゲームのイっちゃってる度が跳ね上がっているような気がする……どうも月音先輩宛にゲーム部が「絶対旅では楽しいですから!」と言って生徒会へ献上してきた最新版らしい。
さて午前8時15分。無事に今回の目的地、東入道駅へ到着。
夏真っ盛りのシーズンなので、同じように海水浴に来たであろう人たちがどっと降りていく。
「わぁ…まだ朝早いのに、たくさん人がいらっしゃいますね……っ」
感心したかのように言いながら月音先輩はつばの広い白い帽子が、潮風で飛ばないように手で押さえている。ちなみに本日のお召し物は、膝丈くらいまでの長さのふんわりとした水色のワンピースに、パステルの明るいカーディガンを合わしていた。
もう、なんか着ているもの含めてどっかの映画に出てくる女優さんみたいな美人度である。
その月音先輩の言葉通り、駅の改札を出て正面にある入道海岸には水着姿や薄着の人々がすでに砂浜にパラソルを立てたり、ビニールシートを敷いたりしていた。
入道海岸の海水浴ゾーン自体が広いから、まだまばらに見えるけども総数としたら結構な数である。
「今日は土曜日やしな。地元の連中は朝から遊びに来たりしとるやろうし、テレビで宣伝もされとったから金曜日の夜に泊まりに来て朝から遊ぶ連中とかもおるからなぁ」
確かに家族連れも結構多い。
どうしたって出発するのに子連れは準備でドタバタするのを考えると、前日から泊まって遊び倒すというのも悪くない。
ざっと見ると海水浴場の一番手前側、堤防のあるところの付近に海の家がざっと並んでいる。
1軒、2軒、3軒……全部で7軒か。
おそらくあのうちのどれかひとつでバイトすることになるんだろう。
ひとまずジョーに任せる、ということで視線を向ける。
「とりあえず海の家まで案内するわ。そこで挨拶してから説明してもろて準備やな。
ほな行こか。こっちや」
その案内で7軒ある海の家に近づいていく。
さて、どれかな。
それぞれ『海人屋』、『快適!海ライフショップ』『海坊主○儲け』『The Beach Base』『丸塚屋』『パセリ』『二代目海吉』という店名らしい。
………もうなんか色々ツッコミ多すぎてどれからツッコんでいいのかわからん。
まぁ海水浴なんて特定の時期にしかできないお祭りみたいなもんだから、ちょっとぐらいはっちゃけた店名のほうがいいのかもしれない、と思うことにしよう、うん。
予想通り、ジョーは丸塚屋のほうへ向かう。
並んでいる海の家の中では中の下、といったところだろうか。The Beach Baseが比較的新しく白を基調としたスタイリッシュな作りなのに対し、丸塚屋は昔ながらというと失礼だけども、海の家!と聞いてイメージのしやすい畳コーナーがあるような作りだ。
「おじさん、儲かっとるか~?」
「お、来たな、丈坊。色々手間取らせてすまんかったな」
暖簾を潜って店内に入ると、そこには………ぷっ。
くくく……ぷはははは……くひひひひ…ッ、ダメだ…堪え切れん…ぶ、はははは…。
「いや、ミッキー失礼やからな!? 確かにおじさんと似てるてよう言われるけども!! どうせ笑いを堪えるんやったら、ちゃんと堪えて!?」
「ご、ごめん…くく……っ」
なんとおじさんはびっくりするほどジョーにそっくりだったのだ。
顔立ちをそのまんま年取らせて、スポーツ刈りにしただけ。モンタージュ写真とかだったら顔立ち入れ替えても違和感ないかもしれん。
【大丈夫じゃ、後ろの面々も笑いこそしておらぬが、びっくりして驚いた顔をしておるからの】
親子ならともかくとして、親戚でこれだけ似てるってのはびっくりだ。
見れば水鈴ちゃんととジョーを覗く全員がびっくりしていた。
一応ジョーもツッコミを入れてくれたけど、水鈴ちゃんと二人でしてやったりなドヤ顔なので本気で言っているというよりも、出オチ大成功!とか思ってるんじゃないだろうか。
「はっはっは、初対面の連中はみんな驚くんだ。気にすることはない。それよりも今回は急に無茶なアルバイトを頼んですまなかったね。丈一の叔父の、丸塚 拳だ」
なかなか愛想のいい好感の持てる人だ。
差し出された手を握って握手を交わす。
………全然関係ないけど、丸塚拳っていうとなんか一子相伝の暗殺拳みたいに聞こえるな。
「で、悪いんだがちょっと事情が変わってな。予定を少し変更したいんだが……ああ、荷物はそっちに置いてくれ。そう、そっちだ。従業員用の控室があるから、そこのロッカーに」
ひとまず荷物を置いてから戻る。
従業員用の控室はひとつしかなかったが左右の壁にロッカー、そして真ん中を分断するようにカーテンがあり、とりあえず荷物を取り出すときに男女で分けることが出来そうだった。
ちなみに従業員の着替えもここでするらしく、一応扉には鍵つきである。
ラッキースケベは起こらなそうだ、残念。
【……………】
い、いや、他意はあんまりないからね。
【その方が余計に悪いじゃろうが!】
ぎゃー。
お願いだからそれだけはーー!!?
さすがにこれからバイトだということを考慮してくれたのだろう。
エッセによる左腕アツアツお仕置きタイムは1分ほどで済んだ。なんとかバレないで我慢できたのは幸いだった。
バイトにきた奴がいきなり「ひ、左腕が…」とかやり始めたら、拳さんとか不安になっちゃうし。
ということで全員再び集合。
「それでどないな風にしたいいうんや、おじさん?」
「それなんやけど……ちょっと今日旅館のほうがえらいことになってな、繁盛するいうんはええことやからええんやけども、こっちに回すはずやった人間が用意でけへんのや」
「……? つまりミッキーちゃんたちだけ?」
「そうなりますね」
首を傾げながら確認する咲弥と、納得したように頷く聖奈。
なお咲弥はピンクの半袖ブラウスにデニム素材のショートパンツ、聖奈は白の同じく半袖ブラウスにふんわりとしたスカート……うーん、無地と薄手のストライプの2枚仕立てみたいな感じなんだけど、これなんていうんだろう? とりあえずそんな恰好をしている。
「丈坊は何度かここでバイトしとるさかい、大体のことはわかっとるやろ? 基本的に帳簿とか細かいことはこっちが引けてからやっとくから、なんとか昼間のうちだけ丈坊が中心になってやってくれへんか?」
「……そない言われてもなぁ……」
うーん、と悩みこむジョー。
とりあえず……事の成り行きを守りますかね。
そもそもジョーがOKしないことには何も言えないし。
ただ、いきなりこんな話が来てるくらいだ。
今回も何か色々起きそうだ、という予感だけははっきりと在った。




