表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.4.01 近づく夏と恋模様
202/252

200.異天交錯

200話記念なので、ちょっと長くしようかと思いましたが仕事が長引き、逆に短くなってしまいました。申し訳ない。

 茂みから河童の軍勢が飛び出してくる。

 見えているのは20前後なので軍勢と言うにはやや少ない気がするが、これまでのバラバラな散発的な動きとは違い集団としての統制が取れているから、そう呼んでも差し支えないんじゃないかな。

 その要となっているのは言わずもがな、英雄河童だ。

 外見としては豪傑河童とほぼ同じくらいの体格でそれだけを見ると、豪傑河童よりも体躯に優れた、って説明は何だったんだ、となる。だが引き締まり方が全然違う。

 豪傑河童よりも一回り大きな体を引き絞って同じくらいの大きさにしているかの如く、内部の密度の高さが感じられる。

 特に腕廻りの筋肉がまるで筋のように引き絞られ、さながら鋼のような硬さをイメージさせるほどだ。

 そんな英雄河童がそれぞれ2、3人の豪傑河童を引き連れて小部隊でも構成しているかのように向かってくる。


 それはさながら河童の濁流。

 そう、言うなれば河童の川流れ的な!


【誰が上手いことを言えと言うた】


 いいじゃん、とりあえず言ってみたかったんだもん。

 冗談を言いつつも、すでに体は動き出していた。

 立ち止まって一方的に先手を取られるのは面白くない。相手が多勢であるのであれば、逆にこちらが動き続けて戦況を誘導しなければジリ貧なのだから。


 ぎゅらっ…ッ。


 片手で片目を隠したオレの―――魔眼“傲慢なる門アッロガーンス・ポルタ”の力を内包した―――瞳が妖しく輝く。

 発動するのは現状、その唯一にして最強の攻撃手段“無限の矢サギッタ・インフィニタース”。

 先を突っ走っていた英雄河童の頭部が弾け飛ぶ。

 だがそれだけでは終わらない、


 一度は試してみたかった、連続での起動。


 瞳が瞬く毎に河童たちが一人、また一人と倒れていく。

 目に見えない不可視の力で突如として殺害されていくという、一般人の集団であれば戦意などとうに崩壊してもおかしくないような状況。

 だが英雄に率いられた豪傑どもは止まらない。

 間合いを詰める間に6人ほどの犠牲を出しながらも、肉薄する。

 お、6人のうち1人が尻子玉落としたな、ラッキー。


 どどどどど!!!


 まるでその肉が作り出す圧力で押し潰そうとしているかの如く突撃してくる。ワルフが立ち向かい擦り抜けながら3匹ほどの喉笛を噛み千切って倒すが、それでも止まらない。

 だがそれも想定済みだ。


「ッ!!?」


 先ほど頭が吹き飛んだ奴の代わりに先頭を突っ走っていた豪傑河童が、オレの手前1メートルのところで突然その動きを止める。

 まるで何か見えない壁にぶつかったかのように。


 ―――“隔離結界”


 だが勢いづいた河童たちは急には止まれない。先を行っていた河童を押しつぶすような勢いで玉突き事故を起こす。


「……これが“悠揚童子ゆうようどうじ”の“隔離結界”か。うん、なかなか使えそうだ」


 “簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”による装甲以外に余り防御手段というものがないオレにとっては、十分使えそうな能力だ。あっちが甲冑的というのか個体的な防御であるのに対して、隔離結界のほうは空間的な防御だし、自分以外を守ったりしなきゃいけないときにも使える利点がある。

 さぁどんどん試していこうか!!


 見えない壁があることにようやく気付き、なんとかその結界を破壊しようと腕を振るって攻撃している河童たちを見ながら体をゆっくりと振る。

 その動きが次第に輪郭をブレさせていく感覚。


 世界における自らの存在がズレる。


 そう表現するのがしっくり来る感覚。

 無論錯覚であることはわかっている。

 正しくあくまで自らの霊力の一部を残しているだけで、確かに自分の分身ではあるが、1つだったものを2つに割っただけのこと。

 結果としてもう一人、オレと同じ背格好の人物が現れる。


 ―――“幽玄なる纏い”


 結界を解き、“幽玄童子”のその技により現れたもう一人の分身と共に、動きが止まった河童の群れへと突撃する。

 豪傑河童を鬼の膂力で殴り飛ばし、英雄河童を羅腕刀の錆にしたのを皮切りに、その集団を真っ二つに裂くように突き進む。

 ん? 分身のほうが動きがかなり鈍いな。

 というか、結構難しいぞ、これ。

 分身といっても単なる霊力の抜け殻。擬似的に物質的な干渉力を持たせているだけの残りカスに過ぎない。残した霊力は本体である体から離れた状態でどんどん消耗していき、一定量を切ったら消える。それまでの間、こちらの意識通りに動かせるのだが、この動かし方というのがムズい。

 考えるとか指示するだけなら出来る。

 でも、自分が動きながら、常に意識の片隅に流れ込んでくる向こうからの情報に対し対応するってのが至難の業だ。例えれば右の手と左の手で違う作業をするかのような。

 どちらかに意識をやり過ぎてしまえば、もう片方が疎かになる絶妙な匙加減での操作が必要とされる。たった一体出しただけでこれなのだから、幽玄童子の最大数である十も出した日にゃどうなるかなんてわかりきった話。

 確かに単純に人数が増えるという意味では必殺に近い技だけども、要練習だな。


 河童の集団を切り裂くように突き進んだ結果、背後まで到達。

 振り向くと、河童たちは戸惑いの表情を浮かべている。一方的に蹂躙されているのだから、どうしたらいいか混乱するのも無理はない。


 ざざざざざ。


 だが尻子玉に釣られたのか、振り向いて河童の集団に対峙するオレの背後に位置する茂みから、さらなる新手の河童たちが現れたことにより戦意を取り戻す。

 そうこなくっちゃ。

 符を取り出して霊力を注ぎながら後方へ投げる。


 現れたのは結い上げた髪、纏う着物、角と肌以外の全てが黒ずくめの鬼女―――“静穏童子”


「そっちは任せた」


 これで後方は安心、と。


「やっと出番ですわね。ワタクシ、退屈でしたのよ?」


 ふふ、と唇を艶やかに舐めた彼女は、目の前の茂みから出たばかりの河童の群れの中へ悠然と進む。

 あまりに自然な動作に、一瞬呆気に取られた河童たちも我に返ってそれぞれが攻撃を加える。

 拳。

 張り手。

 蹴り。

 体当たり。

 動作そのものは豪傑河童も英雄河童も変わりはない。

 だが英雄河童の攻撃が放たれるごとに水音がして、その攻撃に絡みつくかのように細い糸の如き水流が何本も続く。おそらくはあれが水の属性攻撃というやつなんだろう。

 だが静穏童子は動じることなく歩いている。

 ただその動きだけがゆっくりだったり突然早くなったり、いきなり方向を変えたりと強弱をつけたペースになっていた。

 緩急自在で止まらない流水の如き動き。

 傍目から見ているとただすれ違っているようにしか見えないのに、すれ違い様に最小限の労力で撃ち込まれた一撃で河童たちは倒れていく。

 まさに達人。


 後方はこのまま任せても安心なので、オレは前方に集中しながら河童たちを迎え撃つ。


 ちょっと静穏童子の真似をしてみようかな。

 ゆっくりと歩いていきながら、河童たちが繰り出す攻撃を避けていく。

 うーん、難しい。

 まだ比較して速度が遅いから出来るけど、どうしても避ける動きにちょっと無駄が出るな。邪な河童よりは攻撃速度が速いせいだろう、明らかに避ける動きが大きくなっている。

 技術に裏打ちされた体捌きは“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”で直接彼女から簒奪した力なしに真似するには、まだまだ難しいようだ。

 それならそれで、やりようはあるけどな!!


 ギョカッ!!!


 ―――機眼


 今度は“具眼童子”の力を発動する。

 瞳に開いた第三の目。

 説明文を読んだときから一度使ってみたかったのだ。力の流れを見定める、というのがどういったものなのか。

 やってみれば単純。

 第三の眼ごしに見る世界はカメラでいうところの白と黒が反転した世界。まるで水の中にでもいるかのように、その視界の中にはさらさらと力の軌跡が見えるのだ。

 英雄河童が攻撃しようと踏み出す。そのときにまず足先に力が溜まろうと流れ出すから、そこを蹴ると見事にすっころぶ。

 先の先を取るのにこれ以上のものはない。

 技術がない代わりに先読みで河童たちをひたすらに切り伏せていく。

 あとに残るのは蹂躙だけ。


【そもそも英雄河童とて適正レベル20真ん中程度の相手、分霊六鬼については30後半から40を超えるのじゃから、その能力を使えば圧勝なのは当然じゃろう】


「だねぇ」


 まだまだ使っていない技、試したいことはあるけれど、とりあえず試したかったことは一通りやったので一気に片づけてしまうとする。


 ばぢぢヂ……ッッ!


 オレの眼前の空間が帯電。

 急激に高まったその力が爆ぜる。


 ―――白雷びゃくらい(小)


 一瞬視界を白が包み、空間に電光が迸る。


 ガガガガガッ!!!


 たった一撃。

 それだけで河童たちは全滅する。


 総合計で数にして50以上、いや、もしかしたら100は倒したんではなかろうか。


 静穏童子を戻してから、戦利品を回収する。

 河童の軟膏62個、尻子玉2個、豪傑甲羅1個。英雄の皿1個。

 うん、なかなかの戦利品なのではなかろうか。

 というか、ついに出てきたな、英雄の皿。

 よし検索しよう―――


 ―――として、向かいからやってくる男に気づいた。


 ゆっくりと歩を進めてくる影。

 それは2メートルに近い長身の男だった。

 髪は金色で、夏だというのに黒いロングコートに身を包んでいるが、まるで暑さなど感じないかのような軽やかな足取り。

 だが最も目を引いたのは―――


「……仮面?」


 フェイスガードにも似た黒い仮面。

 口元と目元を露出させているので、顔立ちは半分ほどしか隠せていない。その端正なヨーロッパ風な顔立ちに宿る眼光はどこまでも鈍く強い輝きを持っていた。



【この気配……“雲の咆哮メーガナーダ”…?

 しかも“漆黒の鷹”……じゃと?】



 エッセの呻くような声。 

 思わずオレが身構えたのは、これまでで最大級の戸惑いを載せた彼女のその言葉のせいか、その男が放つ何かに気おされてのことだったのか。


 それはわからなかった。

 ただ、この出会いが並大抵のことではない、そんな予感だけが在った。



3/1 誤字修正しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ