198.音無川上り旅情(1)
思い立ったが吉日、とはよく言ったもの。
翌日の日曜日。
オレは早くも音無川へと向かっていた。電車に揺られながら変わりゆく車窓の景色には目もくれず、休みの早朝という人の少ない車内でスマホを弄っている。
斡旋所の検索サポートサービスで、これから向かうところの妖怪のことは勿論、これまで経験してきたことについての情報を仕入れるのが目的だ。
まず鬼首神社で戦った相手について。
羅腕童子以外にも宴禍、静穏、具眼、幽玄、悠揚といった分霊六鬼、そしてその主たる茨木童子とも戦ったわけなんだけども、実は公式な情報として持っていないことに気づいた。
最終日襲撃時に名前を知った相手は仕方ないとして、宴禍童子とか茨木童子とかは最終日よりも以前に名前が出てたんだから、もうちょっと情報を仕入れる努力をすればよかったなぁ。
次回からは気を付けよう。
百戦危うからずという言葉もあるし。
【正確には、彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし、じゃな】
なんでさらっと暗記しているのか、この管理者さん。
確か孫子だったっけ?
【そのようなことを言われても……そも、あやつは主人公であったしの】
あ、なるほど。
意外なような、納得できるような…。
とりあえず、そんなわけでまず“名持ち”の鬼たちから検索を始めていたわけだ。
結果は以下のような感じ。
“宴禍童子”
適正レベル:38
ドロップアイテム:鬼なる宴磁器(5%)
特殊能力:隠 自動再生(強) 鬼呑喰 食給
かつて大江山を根城としていた鬼たちの一人。高い身体能力任せの戦い方を好むが、一度身内と認めた物に対しては“食給”にて霊力を回復させる食事を用意してくれたりと二面性が高い。また“鬼呑喰”により鬼首神社の“名持ち”の鬼を吸収し、その特殊能力を使うことが出来る。その場合適正レベルは1匹につきプラス5される。
“静穏童子”
適正レベル:41
ドロップアイテム:なし
特殊能力:隠 自動再生(中)
かつて大江山を根城としていた鬼たちの一人。かつて都にて一騎打ちをした随身との戦いの中、技術を磨くことに楽しみを見出した変わり種とも言える鬼。目立った特殊能力はないが、鬼の膂力にプラスされた技術は単純に脅威となる。
“悠揚童子”
適正レベル:37
ドロップアイテム:古の市女笠(10%)
特殊能力:隠 隔離結界 空間振動波 自動再生(強)
かつて大江山を根城としていた鬼たちの一人。主に空間に対して作用する力を得意とする。空間を隔離する結界で防御し、空間を振動させ発生した波をぶつけて攻撃してくる。性格としては事なかれ主義であり、宴禍童子など他の鬼の意見に流されて動くことが多いので、上手く言いくるめられれば……?
“具眼童子”
適正レベル:35
ドロップアイテム:機眼(1%)
特殊能力:隠 機眼開眼 硬袖刃 自動再生(小)
かつて大江山を根城としていた鬼たちの一人。額に浮かぶ機眼と呼ばれる瞳は力の流れを見定めることが可能。そのため、物体を破壊する際は脆くなっている点を、攻撃された際は受け流し易い方向など、あらゆる行動に対して恩恵を受けており、命中率及び回避率が高い。
“幽玄童子”
適正レベル:44
ドロップアイテム:幽玄鏡(10%)
特殊能力:隠 幽玄なる纏い 自動再生(中)
かつて大江山を根城としていた鬼たちの一人。鬼の基本特殊能力以外ひとつの特殊能力しか持たないが、その短期間自らの分身を複数作ることが出来る“幽玄なる纏い”が最大の脅威。そのため真っ向勝負で言えば適正レベルがかなり高い反面、高い威力での不意打ちが得意であればその適正レベルは下がる。
ここまでが分霊六鬼。
とりあえずこれまで検索した中では適正レベルが段違いでヤバい。まともに戦おうとしたら“上位者”クラスでないと難しいレベルだ。勿論以前出雲が言っていたように、適正レベルというのはそもそも単体での討伐が可能な基準なので、このへんの鬼首大祭中ボス的な位置づけの相手はパーティーを組んで当たるのが前提なのかもしれない。
ドロップアイテムのところに色々と興味を惹かれる名前があるけども、“簒奪帝”で奪った場合ってどうなるんだろうか。
他の漆黒鬼とか雑魚鬼を見ていると、普通に倒すか、能力を奪っても部分的なものであればアイテムは落としていた。ただ八束さんによって復活してから、“簒奪帝”全開で片っ端から余すことなく喰ったときは落としていない。
羅腕童子のときは残ってたけども……そもそもあのときは“簒奪公”を顕現したばっかりで制御も結構アレな感じだったから、奪い残しがあってドロップアイテムが残ったと言えなくもない。
そもそも回収してくれたの榊さんだし。
とりあえず可能性として分霊六鬼のドロップアイテムはもらえないかも、ってことは覚えておくか。茨木童子のところに集合した分まるっとオレの中に取りこんでしまったわけだし。
あー、でも幽玄童子に関してはオレが倒さなくても茨木童子の中にいたから別の人が倒したのかもしれない。そうなるとドロップアイテムはどうなってるんだ……?
【それ以上は考えても仕方なかろうよ。
鬼首神社の宮司と会話する際にでも聞いてみるしかないじゃろうな】
それもそうだ。
さてさて、んでもってその主たる茨木童子だ。
“茨木童子”
適正レベル:???
ドロップアイテム:白妙の角(100%)
特殊能力:隠 白雷(小) 白雷(中) 白雷(大) 鬼呑喰 食給 隔離結界 空間振動波 機眼開眼 硬袖刃 幽玄なる纏い 廻腕 増伸腕 舌腕刀 自動再生(強)
かつて大江山を根城としていた鬼たちの幹部。配下である宴禍、静穏、悠揚、具眼、幽玄、羅腕童子の能力を使いこなし、さらに配下を吸収することが可能な大鬼。また人肉よりも霊力そのものをより好む珍しい鬼であり、霊脈など外部に豊富な霊力がある場所では、霊力を補給するため地の利によって脅威度が大きく変わる。
実は宴禍童子たちが茨木童子から分かれたもので、最初から同一の存在、つまり分霊であるとか、実は元々の茨木童子は別の鬼だった、とかそういった細かいことは書いてないか。
まぁあくまで検索サポート。
イコール手助けレベルのものだしな。
主人公が行うゲームとして考えたとき、最初から全てが書いてある説明書を持ってたら
それはそれでつまらないって言われるだろうから、適当な情報しかないのだろう。
もしかしたらこれとは別に主人公たちの現実世界ではウィキペディア的なサイトがあるのかもしれないが、それはどうせ見れないからどうでもいいや。
とりあえず“名持ち”の鬼は30真ん中くらいから40真ん中くらいが適正レベルと。
これは今後の基準にもなりそうだな。
お次はいよいよ話に出た音無川の検索である。
どうやら、音無川は上流、最上流、源流、最源流、の4つのエリアに分かれるらしい。鎮馬は中流から上流に~、とか言ってたが、そもそも厳密な意味では音無川の上流にしか妖が出ないような…。正確には中流から河口にかけては普通の河川なので、主人公の狩場として機能していない。
【おそらくあやつの頭の中では狩場である音無川上流だけが、音無川なのじゃろう。
上流、という大きなカテゴライズの中で、源流が上流、最上流が中流、上流が下流ということであれば話が通じるのではないか?
奥地が未踏で、という話も最源流が上流、中流、下流のいずれでもない“奥地”という認識ならばしっくりと来る】
……あー、なるほど。
主人公としての意味する音無川と一般NPCの意味する音無川じゃ、狩場としての意味が出てくる分だけ違うわけか。
それぞれの出現河童をまとめると、
音無川上流:邪な河童 豪傑河童
音無川最上流、源流:豪傑河童 英雄河童 無頼河童
音無川最源流:英雄河童 災厄河童 無頼河童
問題のすっかり忘れていた“水霊の洞”があるのは源流。
そのへんで依頼をする分には、どうやら災厄河童と会うことはなさそうだ。
で、もって河童たちの強さについては以下の通り。
“豪傑河童”
適正レベル:12~14
ドロップアイテム:河童の軟膏(50%) 尻子玉(4%) 豪傑甲羅(1%)
音無川上流に生息。通常水辺から攻撃してくることが多い河童属の中でも体格が大きく肉弾戦に重きを置く珍しい種類。河原に上がって接近戦を仕掛けてくる。主に張り手や蹴り、そして投げ技など相撲に近い戦闘方法を取る。
弱点は皿。
“英雄河童”
適正レベル:22~26
ドロップアイテム:河童の軟膏(30%) 英雄の皿(1%)
音無川最上流及び源流に生息。豪傑河童よりもさらに体躯に優れた個体。豪傑河童として長き年月を経た者が成る、他の豪傑河童との儀式としての戦いで勝利した者が変化する、など諸説ある。豪傑河童と同じ相撲をベースにしたような動きをさらに洗練させ、水の属性攻撃を付与して攻撃と防御に用いる強敵。
弱点は皿。
“無頼河童”
適正レベル:1~100
ドロップアイテム:河童の軟膏(50%) 乳切棒(10%) 月型十文字槍(1%) 三日月宗近(1%) 無頼の皿(1%)
音無川上流全域に生息。集落を出、自らを鍛えるために流離う気骨ある河童であり、何者にも頼らない自らのみを信じる様は正に無頼。旅をしたての個体は弱いが、永き流離いの末恐るべき強さの無頼河童の伝説もあり、強さは千差万別。遭遇しそうになったらまず強さを確認することを勧める。
弱点は皿。
一応以前見たことのある豪傑河童も比較のために出してみたんだけども。
最後の無頼河童がもうなんていうのか、デタラメ過ぎる。
適正レベル100ってなんだよ!?
ゲームとして考えればレベルが高いほど出現率は低いって感じなんだろうけども、聞いてるだけで怖いわ!?
【確かに。じゃが利点もある。
いくら“簒奪帝”があるとはいえ、不意打ちの一撃で殺されては意味がない。そう思えば警戒心がほどよい緊張感を生むであろうよ。
下手に気を抜いた戦いを繰り返すよりも、何倍も早く経験を積めると思うがの】
………そういうもんかねぇ。
とりあえずいくらオレが強くなったからといっても気を抜いていい相手じゃなさそうだ。
「あとはアイテムの検索を……」
【…充よ、そろそろではないのか?】
「え? あ、ここの駅だ!」
電車が最寄りの駅に到着。検索に集中するあまり普通にスルーするところだったけど、エッセが言ってくれたので扉が閉まる前になんとか降車することが出来た。
「……アイテムはドロップしてから調べればいいか。目的の尻子玉については以前手に入れてるわけだし」
久方ぶりの自由な狩場に心は逸る。
さぁ、頑張ろう。




