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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.02 プレイヤー
20/252

18.千変万化の武器


 頼みたいこと。

 それは他の人、つまるところNPCのデータがどんな風になっているのか見たい、というものだ。

 生憎とオレはチェッカーのデータを見ることが出来ないので、街行く人たちをランダムに選らんで、そのデータを全部出雲に教えてもらうしかない。

 頼んでみると幸いにも出雲は了解してくれたのだが、数人確認した段階でエッセのストップが入って強制的に終了となった。


「ちぇー、もうちょっと確認させてくれてもいいじゃないか~」


【この阿呆がッ。単なる知的好奇心からなら大目に見ようと思ったが、途中から明らかに脱線しておったじゃろうが】


「えー、ナンノコトデショウ」


「多分途中からステータスを見たいと充が選んだ相手が、全て女性になってからじゃないかと思うぞ」


 いや~。

 まさか3サイズまで出てくるとは思わなかったんだもん。

 思春期の高校生としてはどきどきしつつも、未知の領域への好奇心を抑えられなかったのは仕方ないと胸を張るしかないじゃないか!

 特にバスト93は圧巻でした、鼻血出るかと。


【………出雲よ、こやつ、昔からこんな感じかの?】


「大体は。心理テストではむっつりスケベだと出て落ち込んでいたな」


 なぜそれを暴露するんだ、出雲。

 男として異性に興味を持つのはしょうがないことじゃないかと言いたくなるが、集中砲火をくらいそうなので自重する。


 さて、そんなこんなで6時半。

 分塚商店街へとやってきた。去年アーケードを改装したばかりの小奇麗な商店街だ。仕事帰りの人たちが買い物をしていたりとこの時間帯でもまだ店は開いていた。

 魚、肉、野菜、服、薬局などなど。

 個人商店が立ち並び威勢のいい客引きの声も聞こえてくる。


「商店街も久しぶりだなぁ」

「充は実家だから生活必需品を買ったりというのとは縁遠そうだな」

「その分、色々と面倒だけどね。兄貴はうるさいし」


 そういえば出雲は両親とも海外にいっていて、マンションに一人暮らしだ。

 物語の主人公みたいな環境だな、とか冗談で言っていたことがあったけど、生まれにも主人公プレイヤー補正みたいなものがあるんだとしたら、あながち間違いでもなかったんだなぁ。

 商店街のメイン通りを進んでいき、八百屋の入っている店舗の脇の階段から二階に上がる。

 階段の横には小さい黒板のようなものが掛けてあり「加能屋」と書かれていた。


「こんなところにあったとは……全然気づかなかった」

「ああ、普段から階段の前まで八百屋のダンボールが積んであったりするからな。わざわざここ目当てで来た連中以外は中々気づかないものだ」


 階段を登っていくと、踊り場がありそこにスチール製の扉がひとつ。

 重い音を立てながら開いていくと、中は商店街のほかの店と同じく細長いブースになっていた。壁には棚がおかれそこに様々な武器が陳列されていた。

 ただ今回は値段や武器の名前などが書かれたものが表示されている。


「………あれ? ここは値札あるんだな」

「持ってみればわかる」


 意味深にいわれたので持ってみると、


「軽ッ!?」


 前の蔵元屋で持った武器に比べると明らかに軽い。無論武器の種類や形状によって重量が違うことくらいは素人でもわかるが、そうだとしても完全に別物といっていいくらいの違い。

 つまりこれは……。


「そう、レプリカだ」


 出雲が同意するように告げた。

 つまりここは表向き武器のレプリカをコレクター向けに売ってる店なのか。さっきの質屋さんといい、主人公プレイヤー以外に武具を売買しないようにカモフラージュしてるわけだ。

 親友についていくと、蔵元屋と同じようにカウンターがあり、そこに二十歳そこそこのボブカットをした女性がいた。


剣崎つるぎざきのおじさんはいるかい?」

「ああ、初めて見る顔だと思ったら、うちのオヤジの知り合いかい。生憎、オヤジは去年ぎっくり腰をやっちまって引退したよ。今は娘のあたいが店主さ」

「それはすまない。俺は龍ヶ谷出雲。そっちのツレは三木充だ」


 紹介されたので軽く会釈する。


「ふぅん。それでその出雲さんとやらが何の用だい?」

「用はひとつだ。剣崎、の名で訪ねてきたのだから……わかるだろう?」


 値踏みするようにこちらを見定めようとする女性。

 すこし間をあけてから、彼女は肩をすくめた。


「確かに。剣崎の方で指名されたとあっちゃあ用件はひとつしかないだろうねェ」


 そう言って天井についていた蓋を落として、降りてきた梯子を伸ばす。どうやら小屋裏に通じているようだ。出雲に促されてて梯子を上っていく。

 上りきってみると、そこは屋根裏だった。

 窓もなく天井が屋根の形をそのままなぞっているため、天井が高いところと低いところがある。ただ低いところでも2メートル弱あるので、屋根裏というよりは3階の隠し部屋といったほうが的確かもしれない。

 そこにも武具が所狭しと並べられていた。

 ただし下の階のものと違う点が3つ。整理されておらずごちゃごちゃと適当に置かれていること、値札と説明書きがないこと、そして全部本物だということだ。


「この中から選ぶのか…結構骨だなぁ」

「見る眼を養うのも駆け出しの頃の練習みたいなものだ。とはいえ、こちらからそちらだけで探せば大分はやいはずだ。そっちの山は術師用だから現状で見る必要はない」


 出雲は部屋の片隅の装備の山に範囲を限定するよう指示する。


「なんで?」

「ひとまず自分ひとりで戦えるようにならなければいけないんだろう?

 術師も悪くはないが、1から習うとすると随分と時間がかかるし、俺が教えることも出来ない。当面は接近戦闘を鍛えて身を守ることを優先したほうがいい」

「そんなに時間かかるのか?」

「知り合いに修験者しゅげんじゃ系の技能を持っている奴がいるが、戦闘で使えるようになるまで数ヶ月かかっていたぞ。無論普通は数年、数十年単位で修行するものだから、主人公プレイヤー補正でかなり習得は早かったが」

「確かに先が長すぎるよな、それ…」


 主人公プレイヤーじゃないオレならきっと数十年コースに違いない。

 そんなに時間をかけてたら重要NPCになる前に老衰でぽっくりいってしまいそうだ。


「うーん、どれがいいかな…」


 ごそごそとそのあたりから適当な武器を探す。

 合口、いわゆるドスから始まり木刀、素槍、ナイフ…和洋問わず様々なものがあるが、どうにもこうにも選びようがなく途方に暮れる。


「充は特にどういった武器がいい、とかの好みはないんだよな?」

「そうなんだよなぁ…出来れば色々使ってみてしっくり来る奴にしたいんだが」


 生憎と武器の種類もそうだけど、どんな風に使うと有効なのかが全くわかっていないので選ぶに選べなかったりするのだ。


「なら、こいつにしておけ」


 渡されたのは長さ120センチ強の棒。


「棒?」

「乳切棒だ。杖術で使うものだな。これ自体は乳切棒としてはあまりいい品じゃないが、携帯にも便利の上、杖術をやればもし他の武器をやろうとした場合も応用が利くことも多い。

 “突けば槍 払えば薙刀 持たば太刀 杖はかくにも 外れざりけり”なんて言葉聞いたことないか?」

「ない」

「……そうか」


 ちょっと気落ちするものの、出雲は続ける。


「わかりやすくいえば他の武器で使うところの行動が含まれているという意味になる。さっきの言葉は杖術には突き、払い、打ちという基本が含まれているという話だ」

「つまりそのうち突きがしっかり出来ていれば、槍にも応用が利くって話か」

「ああ。実際は槍は突き以外に払いが有効だし、刀は切れ味を保持しようと思えば斬るより突きがかなり使えるのだが、そのへんはあまり厳密に考えないで雰囲気で理解してくれればいい。

 警備員や警察でも武装のひとつに杖が採用されているくらいだ」


 値段を確認。

 うむ、50Pならなんとか手が出るな。


「そのへんの武道具店で買うより高いが、九字を刻んで物質系以外も多少ダメージが入るようにしてあるからな。妥当な値段だ」


 とりあえずよくわからないが、なんか特別らしい。

 あまり迷っていても仕方ないので武器はこれにしよう。後で違う武器に変えてもまったくの無駄にはならない、というあたりが優柔不断のオレには大変ありがたい。


【そんなことを自慢げにいうものではないぞ?】


 うぐぐぐ。


「次は防具だが……手甲だけにしておいたほうがいいな」

「いや、それ死ぬんじゃないか?」


 防具が小手だけとか怖すぎる。ごっつい金属製とまではいかなくても何か身を守る鎧的なものが欲しいなぁと思うわけです。


「赤砂山の麓ならそれほど強力な連中はいないし、俺もついているから大丈夫だ。

 それよりも弊害のほうが恐い。

 鎧を着込めば重くなって避けづらいし、体力もすぐに無くなる。おまけに着込むほど感覚的なものも把握しづらくなるから戦いに慣れるまでは止めておいたほうがいい。

 空気の流れ、大地の振動、戦いの中の情報が感覚で多く取れるようになってから着込んでも遅くない。それなら咄嗟に出る手の周りの装備、手甲をつけていざというときのガードに使えるようにしておけば十分だ。盾でもいいが、手甲のほうがいざというとき落としたり奪われたりしないからな」


 感覚、ねぇ。

 今ひとつわからない話だが、経験者の忠告は素直に聞いておいたほうがいいか。


「あとは…隠衣おぬのころももひとつ用意しておこう。ジャケットの形状のものがあったはずだ」

「なにそれ?」

「鬼の種族の特性として気配や姿を消す能力があってな。その素材を使って作った隠衣を纏うと隠蔽などの技能が高まるんだが…充にとって一番のメリットはステータスを隠すことが出来ることだ」

「おぉ!」


【それはよいの。今のままでは主人公プレイヤーにはただの一般NPCにしか見えまい。

 街中なら構わぬが、狩場で遭遇した相手にバレては色々と勘繰られよう】


「さすがにここで手に入るのは能力的に弱いものだから、探査や鑑定系の技能を持ってる奴にはバレてしまうが、ないよりはいいだろう」

「ふむふむ…」


 助言に従って手甲と衣を探す。

 その最中、ふと変な軟膏を見つけた。


「これ何かな?」

「ああ、それがあったか。河童の軟膏だ。1、2個用意しておくといい。多少の怪我なら回復能力を促進して治してくれる。鎌鼬かまいたちの塗り薬や、ガマの油ほどではないが最初のうちはそれで十分だ」


 それ、なんてオーバーテクノロジー!?

 量産できたら儲かるんじゃなかろうか。


【現代科学で霊体で出来た物体を量産できるのなら儲かるじゃろうがの】


 ……がっくり。

 でも怖がりのオレとしては是非とも持っていきたいところだ。


 と、いうわけで装備は以下のように。


 武器:乳切棒(赤樫) 種別:棒(杖) 使用条件:腕力5、技巧5、杖3 値段:50P

 防具:紫印の手甲 種別:手防具 使用条件:腕力4 値段:120P

   :隠衣(弱) 種別:背装備 使用条件:な し 値段:300P

 その他:河童の軟膏 値段:10P  ×2


 しめて、計490Pを出雲から借りることになりました。


「別に返してもらわなくても構わないんだが」

「そこは断固として拒否するね! 貸してもらって助力までしてもらうんだから、それ以上は頼りすぎだろ。あんまり一方的に頼ってるのも友人としてどうかと思うしさ」

「昔から変なところ義理堅いのだよな、充は」


 装備一式を持って2階に降りていき、品を見せて清算する。

 きっかり490Pで間違いはなかった。

 支払いがすむと布製の袋に乳切棒を入れて、他のものはビニールの袋に入れて渡してくれた。


「消費税はつかないのな」

「そりゃそうだろ、内密の商売なんだから」


【そもそも一般社会で使えない通貨で税を支払われても国は困ると思うしの】


 エッセの存在そのものが国は困ります(なにせGMですから)、とは口が裂けても言えない。


【……何か不穏な空気を感じたんじゃが】


「き、気のせいじゃないかなァ…?」


 しかし490Pか。

 確かこの前見せてもらったレートだと1Pあたり286円くらいだったから、換算すると日本円にして14万ちょっとの金額を借りたことになるのか。

 月の小遣いがようやっと1万円になったばかりのオレには厳しい金額だぜ…やっぱバイトしなきゃいけないんだろうか。


【狩りで返せ、狩りで】


 相変わらずエッセはちゃんとツッコミを入れてくれる。イイ奴だ。

 冗談はともかく狩りで返済できるなら多分それが一番いいんだろうけどね。


「……ん、頑張りますかぁ」


 初めて武器を手に入れた。

 その嬉しさのあまり手にした品を見る。

 これで当面はなんとかやっていけそうだ。



 このときは予想もしていなかったんだ。

 ………まさかこの後あんなことになるとは。


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