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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.4.01 近づく夏と恋模様
199/252

197.匠のアレコレ

本日は帰宅が日付変わるくらいになる予定のため、創作時間が取れず短めです。

ご了承ください。

 加能屋へ到着、っと。

 確認せずに来たけど、ちゃんとお店は開いているようだった。

 ふと思うけど、ここって定休日いつになるんだろうか。

 いつ来てもちゃんとやってるみたいなんだけど、そのへん確認しないといざというときにアイテムの補充できなくて困るかも知れないな。


「こんにちはー」


 扉を開いて店内へ。

 出雲に連れて来られてから二か月ちょっとだが、すでに何度も訪れているせいですっかりここの雰囲気にも慣れた感がある。掃除はしっかりされているので埃はないものの、店内に並べられたレプリカ武器の並びもまったく同じなせいもあるのかもしれない。


「ケチくさいこと言わずにやってくれりゃいいじゃねぇかよぅ!」

「そうだそうだ! オウボーだぁ!」


 ……何か揉めてる声がするな。


【確かに。じゃが揉めているというよりも、何やら一方的に捲し立てているような感じかの】


 奥から聞こえてくる若い男らしき声。

 見てみるとカウンターのところに、いつもの弥生さん―――ではなく、“万化装匠”こと夜刀やとさんがどっしりと構えており、その眼前に立っている冴えない風貌の男性がこの騒音の発信源のようだ。

 冴えない、と言ってもあくまで出雲とか主人公プレイヤーの中でもかなりイケメン具合の高い連中と比べたら、ということであり“童子突き”さんとかの所謂普通よりちょっと男前くらいの人達と比べれば五十歩百歩。

 少なくとも人並みの容姿でしかないオレよりは上であることには違いない。

 ………うぅ、自分で言ってて悲しくなってきた。


【案ずるでない。あのような若造よりも、わらわにとって男子おのことしては充のほうが何十倍の魅力的じゃ】


「………さら、っと真面目に言われても」


【事実しか申しておらんからの】


 ……………。

 褒められたら褒められたで照れちゃうあたり、我ながら救いようがない。

 悪い気はしないからいっか。

 おっと、話を戻そう。

 詰め寄っている男のうち中心人物はそんな感じだが、もうちょっとチャラいのが2人ほど後ろに控えており、こっちはさっきから男の発言に対して同意というか同調するようなことしか言っていない。

 取り巻き的な感じだな。


「何とか言えよ! そりゃ確かに今は無名だが、オレ様ってばイケイケでゴーゴーなんだからすぐにランキング1位は間違いないな! そんなオレ様がドッカドッカ材料揃えて正規の値段の倍払うっつってんだから、ガンガン受けるのが正しい生産職の在り方なんじゃねぇのか!!」

「そうだそうだ! いつもアニキが正しいんだ!」

「生産職なら生産しろー!」


 ……もうなんていうか聞いていて頭が痛くなりそうだった。

 発言そのものがジョーとの掛け合い並みにツッコミどころが多すぎる。

 あっちのほうはお互い冗談でボケとツッコミを遠慮しない関係だから楽しいだけで気にならないけども、食い下がっている男のほうは自分の都合を一方的に捲し立てているだけだから不愉快なことこの上なく聞こえる。

 そしてどう考えても1位は無理だろ。

 出雲や轟さんに勝てる要素がこれっぽっちも見出せない。現時点で強くなりそうなオーラがまったくないし……いや、でも一般NPCから成り上がったオレがいるので、もしかしたら可能性としては素粒子レベルでなら存在しているのだろうか。


【一緒にするでない。わらわもおらぬし、充のようになんだかんだと言いつつも真正面から困難に立ち向かう心の強さも感じられん。

 そもイケイケやら、ゴーゴーやら、表現が擬音ばかりで頭が弱そうじゃしの】


 あ、わかる。

 別に擬音表現を否定するわけじゃないけども「まだ無名だけどいずれ成り上がる。将来性を見越して武具を作って欲しい」っていうだけの内容だもんな。

 擬音の意味がわからない。


「………もう一度だけ言うが」


 低く響く声。

 序列第二位の上位者ランカーだと確信させるような威厳で、夜刀さんは言葉を続けた。


「ここは既製品を売る店だ。材料を持ち込んでの作成は余所を当たれ」


 一刀両断。

 以前、海のものとも山のものとも知れない連中の作成依頼を断るためにぎっくり腰とか理由をつけて出来るだけ表に出るのは弥生さんにしている話を聞いている。

 だからこの対応は当然だろう。

 持ち込む素材によっては弥生さんに作ってもらうのも良いかもしれないが……正直なところ目の前の男たちは品がないというか義理を欠くと言うか、今見た態度だけで判断すれば大事なところで信頼できるタイプに見えない。

 大事な娘と関わらせるつもりはないのも道理だ。


「なんだと……ッ」


 気色ばむ男たち。

 こりゃ一悶着あるかな、と思っているとリーダーっぽい男が腰の剣を抜こうとした。


 ガシ。


 だがそれよりも夜刀やとさんが相手の頭を掴むのが早い。

 それだけであれば男もまだ攻撃の意志を持っていられただろうが、


 メキ……メキキキ……ッ。


「が、がああぁぁっ!?」

「あ、アニキィっ!?」


 掴まれた頭部が嫌~な音を立て始め男が苦悶の声をあげる。剣に伸ばした手で夜刀さんの腕を掴んでなんとか外そうとするも外れない。

 あたふたする取り巻きたち。


 メヂ……メリ……ッ!!


「装備の中にはな、何時間も特殊な重量の道具を振り続ける必要があるものもある。生産職の握力を甘く見たらどうなるか……若造に教えてやったほうがよいのか?」


 外れない手により力が込められ、掴まれている男に恐怖が浮かぶ。

 真っ青になったその顔色を見てようやく夜刀さんが手を離すと、男はどさり、と尻餅をついてしまった。


「あ、アニキ大丈夫ですか!?」

「ちくしょう、このおっさんめ!!」


 取り巻きたちもそれぞれ懐に隠した得物を取り出そうとする気配を見せたので、


「それくらいにした方がいいんじゃないですかね?」


 “威圧ブロウビート”発動。

 店内を一瞬のうちに、圧力が通り抜ける。

 わけもわからずガクガクと震える体に驚く男たち。


「そんなに騒がしくされたら買い物できないじゃないですか。それに恫喝、脅迫、しかも断られたら実力行使。斡旋所ギルドにこんなことがありました、って報告したほうがいいのかな?」


 手引きに主人公プレイヤー同士の揉め事に対して強制介入する権限は斡旋所にはないとあった。

 だが明らかに不利益をもたらす場合に限っては、対象者の斡旋所の利用資格を制限することもあり得るとの項目もあるから大丈夫だろう。

 夜刀やとさんは斡旋所にも上位者ランカーとして知られており、それはとりもなおさず貢献ポイントが高いため。つまり重要な人物なのだ。そこに駆け出しの主人公プレイヤーが無法を働いているのだから、多かれ少なかれ問題なのは間違いないわけだし。

 そこにようやく思い至ったのかどうかはわからないが、先ほどまでとは別の意味で真っ青になった男たちを見つつ“威圧ブロウビート”を解除する。


「……絶対ガンガン後悔させてやるからな! そのときになってヒーヒー言うんじゃねぇぞ!! お、覚えてやがれッ!」

「あ、アニキ置いてかないでくれよ!」

「うわわわッ」


 おぉ、見事な負け犬の捨て台詞。

 ようやく動けるようになった連中は、そんな言葉を吐いて店から出ていく。


「災難でしたね」

「……お前か。手間をかけさした」


 やれやれ、と顔を顰める夜刀さん。


「夜刀さんが今は引退してる、って話があっても食い下がってくる人やっぱりいるんですね」

「新規の主人公プレイヤーが出てくる時期には特にな。今までの経緯を知らずに、過去の記録などを見て聞きかじった知識でやってくるのだから困ったものだ。

 おまけに生産職を見下した輩までいるのだから始末が悪い」


 確かに戦闘職のほうが華々しいけども、武器とか消耗品とか生産職の人がフォローしてくれなきゃどうにもならないことも多いんだし、どっちが偉いとかじゃないと思うんだが。

 ほら、ローマは兵站で勝つ!的な?


【なぜそこでローマが出てくるのじゃ】


 ……ちょっと中学のときにハマってローマ帝国の本を一通り齧ったからかな。


「先日は防具をありがとうございました。羅腕刀と防具のおかげで、なんとか鬼首大祭のほうも無事乗り越えることが出来ました」

「やりたいからやった、だけだ。礼は要らん、が……礼儀が無いよりマシだな。先ほどの奴に爪の垢でも煎じて飲ませてやれ」


 ちょっと昔気質というか職人っぽいというか頑固な雰囲気の夜刀さんだけど、個人的に嫌いではない。榊さんとも通じるけど、人生の先輩としての凄味、と思えば尊敬のほうが勝つせいかな。


「弥生さんの方にもお礼と使ってみた感想を言いたかったんですけど、今日は不在ですか?」

「悪いがそういうことだ」


 夜刀さんがカウンターにいるのだから、薄々そうじゃないかとは思ってたけどね。

 残念だけど感想は次回にしておこう。


「彼氏と出かけていてな。7月中は店の方に出てこれるかわからん。まったく、もう少し大人になれんものか」


 ………弥生さん、彼氏持ちでしたか。

 いや、そりゃあ確かに明るくていい人だし、居てもおかしくないといえばおかしくないんだけども。

 突然言われたので、近所の憧れのお姉さんが男連れで歩いてるのを見た的なショックがあるな。

 どうやら夜刀さん的には面白くないことのようで、ちょっと零した程度だったんだろうけど、モヤモヤと複雑な心境になってしまった。


「なんだ、お前弥生に気があるのか? ふむ、見どころはある。

 だが…まだ早いな。そのような有様では告白は認められん。そうだな……序列1位は最低条件で、伝説級の素材を5つは持ってきてもらわんと」


 伝説級の素材を5つとか、それ、どこの竹取物語!?

 とりあえず親馬鹿なのはわかった。


「い、いや、別にそんなことは……」

「なんだと! うちの娘に魅力がないとでも言うのか! お前の眼は腐った魚か!」


 ………とりあえず親馬鹿なのは、よぉぉぉぉく、わかった。


 不在なのは残念だけど、冷静に考えてまだパーティーメンバーで素材を案分してもいないから取り分も不明、鬼首大祭の追加報酬も不明なのである。

 改めてそのへんがはっきりしてから、お礼がてら素材を持ってきて何か良い装備が作れないか相談すればいいか。


「じゃ、じゃあまた出直します」


 これ以上絡まれる前に退散する。

 “万化装匠”の人間らしい一面と言えば聞こえはいいが、親馬鹿はある程度のところで切り上げないとエンドレスにハマって時間がいくらあっても足りなくなるのだから。



 そして無事に脱出。

 外に出てから重大なことに気づいた。



「あ、定休日とかあるかどうか聞いてないや」


 ………後で出雲に聞こうっと。


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