195.道を見据えて、まず一歩
まったく予期していなかった人物との再会。
咄嗟に、
「は…鎮馬が、なんでこんなところに…」
「今ハゲって言おうとしただろ、絶対!? これはハゲじゃなくて坊主頭だって言っただろぉ!?
で、後半の問いに関しては、なんで、と言われてもおいらだって主人公なんだから依頼斡旋してもらいに来ることくらいあるぞ」
おっと、いかんいかん。
予想外の再会のあまり今一つ意味のないことを言ってしまった。
「でもまぁ、おいらも充もお互い無事で何よりだ」
いや、全然あなたは無事じゃなかったですけどね!?
「多少の話は咲弥から聞いてるけども、よくもあの“千殺弓”と事を構える気になったよなぁ」
「………そんなにマズかった?」
「そこはさ、ホラ、あれで曲りなりとも“上位者”だから色々と噂は聞こえてくるわけよ。確かに腕前も頭もキレもなかなかみたいで頼りになるけども一旦敵対すると厄介極まりないとか、どれだけ親しくしていたとしても何か特定の事柄に関しては逆鱗的な感じでマジで追い込まれるとか、正直関わりたくない人種なのは知ってたぞ」
「……ちなみに事情というと具体的にはどんな話を?」
「確か…“千殺弓”の意中の女を寝取ったので、不倶戴天の敵として追い込みかけられていた…とか? そりゃああれだけ執拗に追い込みかけられるわな、と納得した」
いやマテ。
寝取ってねえよ!?
あの娘、一体何を吹きこんでくれてんのよ!?
【伊達の心理的にはそのような感じとも言えなくはないか…うーむ】
はい、そこ。
真面目に内容の真偽を検討しない。
「その内容にはちょっと誇張と誤解がありそうなので物申したい…」
「はっはっは、冗談冗談。別に話してる咲弥もちょっと茶目っ気があったから、全部が全部その通りだとは思ってないぞ。単純にちょっと揉めたら、何か相手が全力で襲ってきた的な感じで捉えてる」
「どういう理由にせよ巻き込んだのは事実だったんで、申し訳ないのは間違いないんだけどね」
「主人公やってりゃ、そういうこともあるさ。元々今まで死んだことなかったわけじゃないしな。気にすんなって」
その死生観はちょっと軽すぎないかと思うが、ゲームに参加している立場からすればその程度のものなのかもしれない。元々この世界でしか生のないオレたちからすると違和感があるが、“その程度”のことと言うのであれば、今回に限っては大人しく受け入れておこう。
「ここには依頼を受けに?」
「ああ、ようやくおいらも死亡ペナルティ分のリハビリが終わったからな。復活でがっつり懐も厳しくなったからいっちょ稼いでおかないとマズいんだ。
充のほうはどうしたんだ?」
「咲弥経由で特別に鬼首神社のほうで大祭の警護依頼を受けてたんで……ちょっとその結果のことで話に来た感じ」
「おぉ、あれに参加したのか。結構ハードだったろ? 生き残れたか?」
茨木童子が復活したことは一般にまでは知られていないのだろう。
あくまで例年通りの警護依頼をやったのだという認識で問うてくる彼に対し、
「運も手伝ってなんとか」
実際には一度首ちょんぱしたけどもな!
「それだけでも大したもんだ。噂じゃ例年よりも敵が強かったりしたなんて話もあったし、それを生き残ったってことはレベルも結構上がったんじゃないか? ステータスどんな風になった?」
興味津々に聞かれたが、よく考えたら鬼首大祭の最中に見てからステータスチェッカーを使ってないな。どうせならここで一緒に確認をして……、
【充、今の自分のステータスがどれくらいおかしくなっているかの予想はしておいたほうがいいと思うぞ?】
そ、そうだった……。
以前、槍毛長を一緒に退治したときはまで至って普通だったステータス。
だがその後に羅腕童子やら伊達やらとやり合って、その内容は大きく変質した。
鬼首大祭の最中ですら、伊達から奪った特殊能力やら、他の主人公から奪った技能やらで普通じゃあり得ないような量になっていたし、そもそも“簒奪帝”とかどう説明すりゃいいのかさっぱりわからん。
そしておそらく今に至っては茨木童子の力も取り込んでいるから、もっと説明に困るものになっている可能性が大だ。
「け、結構強くなったんだけども! そ、それが問題で……促成栽培的なレベルアップしたから、まだ級が低くて今後の依頼内容のギャップに戸惑ってる感じかな? 急いで級を上げたくて、依頼を受けに来たんだ」
「へぇ。今、何級だっけ?」
「8級かな」」
よし、話題を無事に変えれたぞ。
鎮馬は「なるほど」と納得しながら、
「確かにあの大祭は出てくる鬼のレベルもそこそこって聞くから、それを生き残れたってことは8級じゃ敵が弱すぎるかもしれん」
そこそこどころか、いきなりラスボスかというような強さでしたけどね!
酒呑童子とやり合えるレベルの鬼とか、日本全国でもそんなにたくさんはいないだろう。
「あそこを生き残れるとなると20レベル前後だろうから、音無川の川上りツアーの時期かな」
「川上りツアー?」
「ああ、あそこの川に河童が出るんだけど、上流にいけば行くほど強くなる。上流では“豪傑河童”っていう10レベル前半適正の雑魚が出てくる。
こいつの落とす尻子玉ってのを集める依頼があるんだ。ドロップ率は低くて運次第で時間がかなり変わってくるが、その依頼は報酬が低い代わりにかなり評価・貢献ポイントが出る。
手っ取り早く級を上げたいならオススメだ。大体8級から……そうだな、上手くいけば5級くらいまでなら効率よく上がるぜ」
“豪傑河童”か。
随分と懐かしい名前が出てきた。
下流のほうでは、邪な河童がメインで、豪傑河童がちょっとしたボス扱いだったが上流だと、今度は豪傑河童が雑魚になるわけだな。
「ただ注意点が3つ。
まず1つ、豪傑河童が雑魚のゾーンには“英雄河童”ってのが出てくる。これが比較するとかなり強い。レベルが20真ん中くらいで適正レベルがいきなり上がるから気を付けないとやられる。
次に、音無川の中流から上流にかけては“無頼河童”って希少なやつが出てくることがある。こいつの厄介なところは適正レベルがない、ってところだ。個体によって強さが全然違うってのかな。ちょっと様子を見れば大体強いか弱いかはわかると思うから、慎重に見極めが要る。
今のところ確認されている限りでは適正レベル5くらいが最弱、最強なのが30くらいだったかな」
適正レベル30って……それ、“名持ち”の鬼に準ずるくらいの強さじゃないか。
そんな河童、もう河童じゃないような。
「そう言っても適正レベル30は過去に1件だけしか報告されていないし、普通ならいいところ20そこそこまでしか会わないだろうけどな。余程運が悪いならともかく」
………。
いや、もう何を言ってもフラグでしかないんだろうなぁ…。
「最後に、音無川を登っていくと山中になったくらいのところに、川を挟むように石で作った灯篭がある。目立つから行けばわかるだろうが、そこから先は最源流と呼ばれる領域で、雑魚が“英雄河童”、さらに一回り違う強さの“災厄河童”とかいうのまで出てくる。
上位者クラスか、パーティー組んでるならともかく、そこから先に単独行動はやめておいたほうがいいな。今のところ奥地は未踏で噂じゃ龍神がいるとかいないとか言われてて、確か昔大規模イベントでその討伐依頼があったくらいだ」
それはそれで面白そうなんだけども……とりあえず手っ取り早く級を上げるなら、まだそこまで行くこともないかな。そもそも海に行くまで一週間しかないわけだし、やることも色々あるので奥地はもっと時間的な余裕があるときにしたい。
とはいえ興味が惹かれるのは確かなので、後でスマートフォンの検索サポートで個別の敵情報は見ておこうっと。
「さて……じゃあおいらも適当に依頼を見繕って来るかな。どうせなら何か一緒に受けるか?」
「あー、いや。まとまった時間が取れるかわからないから、独りでのんびり受けられる奴にするよ。また機会があればそのときに声かけるから。情報助かったよ、ありがとう」
「おう、いいってことよ。お互い気張ってこうぜ」
そんな感じでひとしきり話してから、それぞれ依頼を探すということで別れた。
なんとかステータスはバレずにすんだか。
【前に出雲が言っておったが……ステータスチェッカーについては、横から見ても一般NPCには検索サイトにしか見えんという話だったの。
逆に言えば、ここではちょっとしたことから主人公に見えてしまったらバレてしまうわけじゃから、ステータスを見るのであれば外に出てからのほうがよいのではないか?】
それもそうだ。
以前ここに来たときに、すれ違い様に他の人のレベルが見えたこともあったし、あれが自分にだけ起こらないと思うのは楽観過ぎる。
「んじゃ…まずは依頼か」
依頼案内用の端末に向かった。
少しばかり久しぶりだったが操作を忘れてはおらず、スムーズに確認していく。
『飲食店の手伝い』
推奨技能:特になし
期限:1ヶ月
報酬(P):1日毎に40
評価・貢献ポイント:20
備考:女性限定
11時から3時間のランチタイムを手伝って下さるウェイトレスさん募集中です。期間は7月20日から1ヶ月、週3日以上出勤できる人、お待ちしております。
……うわぁ、この依頼まで残ってるし。
しかも余りに集まらないので更新されたんだろう。時期も新しくなってる上に、条件が良くなっていた。具体的には報酬と貢献ポイントが倍になったりしている。
残る度にどんどん報酬とかが倍々ゲームになって、そのまま半年くらいしてたら面白いかも。
おっと、いけないいけない。
脱線し過ぎだ。
どんどん依頼を確認していく。
『偽物に鉄槌を』
推奨技能:隠蔽、交渉、探索技能 等
期限:2か月
報酬(P):50000
評価・貢献ポイント:800
美術品を偽物とすり替えて売り捌いている悪質な業者に鉄槌を下したい。2か月以内にその業者の倉庫を破壊するか、悪事の証拠を掴んで欲しい。ただし癒着している警察署長の邪魔が入るため立ち回り次第で、捕まる可能性有り。
『名探偵・金と力は無かりけり』
推奨技能:前衛技能
期限:1ヶ月
報酬(P):1日毎に80
評価・貢献ポイント:100
なぜか犯罪に立ち会うことの多い名探偵の護衛及び被疑者の確保をしてもらいたい。犯罪の度に名推理で犯人を追い込むことが出来るのだが、逆上した犯人は自白ではなく暴力でその場を解決しようとするため、対処できる人材を求む。
ちょっと毛色の違うものも出てきてるな……面白そうなんだけど、悪い業者のほうは単純な力押しでどうこうってだけじゃ警察対策ダメそうだし、後者が力でどうこうなるけど評価・貢献ポイントが期間の割に安い。ルパン的な感じを目指してる人が悪い業者で、推理小説とか好きな人は後者なら喜べるんだろう。
スルーして先を進んでいくと、
「お、あったあった。これか」
『尻子玉が欲しい!』
推奨技能:特になし
期限:特になし
報酬(P):900
評価・貢献ポイント:300
最源流を除く音無川に全域に生息する豪傑河童が稀に落とす尻子玉を5個集めて来て欲しい。
確かに報酬としては安い。尻子玉単独1個の値段よりも報酬が安いくらいだ。推奨技能は特になしということだけど、自分で取ってこれない人にとってはかなり赤字だろう。
だがさっきの鎮馬の話通り、評価・貢献ポイントを稼ぐという意味では凄くいい。
前回戦ったときに尻子玉が出てたし、サクサクと豪傑河童を倒せるなら5個集めるのに一週間あれば大丈夫だろう。一週間で300ポイントというのは、例えばさっきの名探偵のものなら一か月拘束で100なのだから、単純計算で12倍は効率がいいことになる。
【豪傑河童ならば人型でもあるし、対人で使う戦法などを模索するにもいいやもしれんな】
よし、決めた。
これを受けることにし手続きをする。
やれることを一歩ずつ。
確実に前に。
いずれ相対する敵に備えて牙を研ぐ。




