194.逆襲のハゲ
こうしてなんとか無事夏休み海でエンジョイ大作戦!のメンバーが決まった。
ジョー、水鈴ちゃん、オレ、綾、咲弥、月音先輩、聖奈さん。
こうして改めて見ると凄い人選だな……。
とはいえ半分以上が綺麗どころなのだからジョーだって満足だろう、と思って電話で報告するともう面倒くさくなるくらいテンションが上がっていた。どれくらいと聞かれたら、よくわからないボケを延々と2時間くらいかまされたくらいだから、そりゃもう狂喜乱舞である。
いよいよ夏真っ盛り。
だが夏休みが訪れる前にするべきことがあった。
せっかくの土日休みなので、時間を有意義に使わねば。
【心がけは立派じゃが、その当の土曜日の昼にベッドでごろごろとしながら言うても説得力が皆無じゃぞ?】
「い、イヤだなぁ…これはやることを整理してたんだよ」
と誤魔化すが文字通り一心同体のエッセにそんな言い訳は通用しない。
実際のところ、休みだと思って目覚ましをかけなかったらついつい昼過ぎまで寝てしまっていた、というしょうもないオチなのであるが。
適当に冷蔵庫にあったものでお昼を過ごしたので、今日どうしようかと考える。元々考えていたことはあったんだけど、ひとつひとつ思い返すように時間をかけて他に何かなかったか思考を巡らした。
急ぎでしなければいけないことは主に3つ。
まず1つは鬼首大祭の後始末である。
具体的には茨木童子の件も含めて関係者に現状の報告とこれからのことについて相談すること、そして同じく依頼に参加していた主人公との報酬の分け前についてだ。
前者に関しては咲弥か聖奈さん経由で連絡を取ることはできるし、今はいろいろゴタついているから後回しにしてもいい。
ただ日向や涼彦、縁さんといった同じ社を防衛していたメンバーにはトータルで倒した鬼から得た素材についての分配の相談をしなければならない。無論、実は敵だった棗についてはどうでもいいんだけども。
例の鬼首大祭の特殊ルールで鬼化してしまってからその後の消息がわからないから、まずそこを確認するべきだろう。最悪倒されてしまっていても、主人公には復活ポイントがあるらしいから
大丈夫だと思う。
次に加能屋だ。
大祭の最中に羅腕刀をもらって以来だが、使ってみた感想を言っておいたほうがいいだろう。ただでさえ弥生さんが不在で親父さんから渡されてるわけだし、作った本人と直接話す機会は作って礼も言っておかないと。
ただそれ抜きでも制氣薬や河童の軟膏などの消耗品の補充もしておきたいし、他にも新しい武具があれば見ておきたいから加能屋に行くのは決定だ。
最後は依頼斡旋所。鬼首大祭の依頼達成について報告がどうなるのか確認しにいこうと思っている。おそらく依頼した鬼首神社のほうから顛末は行っていると思うが、冷静に考えれば依頼失敗なので何らかのペナルティがあるんじゃないだろうか。
“修復屋”を早く使いたいオレにしてみたら、さくっとランクをあげたいんで依頼失敗はキツいところではあるが、そうかといって確かめなければ話は進まない。
以上3つが急ぎ。
それ以外で急ぎでないのは、安倍晴明について調べること、そして総合的な能力強化を図ること、かな?
晴明については言うまでもなく敵対的な感じになってしまったので、いずれ戦うときに少しでも有利となるように対策したい。幸いというべきか、結構な有名人なので何か手がかりになるものくらいはどこかの資料から引っ張ってこれるんではないかと期待している。
総合的な能力強化については、現状“簒奪帝”によって鬼の膂力などを始め様々なものを吸収したので能力値や技能上限は尋常ではないことになっている。だが鍛えなければ能力がそこまで上がりはしないし、さらに言えば技能を取捨選択する早さや戦闘中の心の有り様、戦闘スタイルなんていうものはすぐに身に就いたりしない。
基礎能力的な鍛錬は続けつつ、どういう風になりたいかをある程度考えて方向付けしなければいけない時期に来ているんではないだろうか。
具体的な方法については時間をかけて考えたいところだ。
【相変わらず真面目じゃな】
「……小心者だから、色々やっとかないと不安になるんだよ」
【やれやれ…そういうことにしておこうかの】
取り急ぎ最初の3つの案件をどうにかするとしよう。
加能屋には行けばいいだけとして、1つ目の鬼首大祭の後始末については週明けの咲弥からの連絡待ちで、いつごろ神主さんと話をするのかは決めよう。縁さんたちのことだけなら、3つ目の用件で斡旋所に行ったときに確認できるだろうし。
と、いうわけで支度もそこそこに居候している出雲の家を出る。
向かうは一路斡旋所
その後、加能屋に向かう予定だ。幸いそこまで離れているわけではないので、午後からでもテキパキと動けば十分に用事を済ませることはできる。
自転車と電車、そして徒歩を駆使し斡旋所のあるオフィスビルまでやってくる。
出雲に連れられてここで登録をしてからまだ二か月そこそこ。数えるほどしか来ていないせいもあり、客観的に見てまだちょっとアウェー感は抜けていない。
緊張しながら「JPN-04142」と表記された登録証を手にゲートを抜けて奥へと進んでいく。
特に問題も無く通過しエレベーターを経て2階に到着。
「……さすがに週末だけあって、ちらほら人がいるな」
まずは依頼窓口へ。
「あー、すみません。三木充ですけど、受諾していた依頼の件で確認したいことがありまして」
話しかけてから登録証を差し出す。
「実は鬼首大祭の依頼のほう、受けていたんですけども……」
どこまで話したものかわからず、手探りでぼそぼそと告げる。
思い返せば、正規の手続きじゃなくて咲弥が推薦してくれた優遇枠での依頼だったわけだし、そういう場合通常と何かが違うのだとしても、さっぱりわからない。
しかし受付カウンターにいるお姉さんはいつも美人さんばかりで、ちょっとドキドキするなぁ。
「……はい、確認致しました。鬼首神社の警護依頼ですね」
「あ、そうです」
「こちらのほう、依頼内容は達成済みとなっておりますので特に問題はありませんよ」
「へ?」
あれ? 鬼首神社に封じられていた茨木童子はもう復活しちゃってるんですけども!?
どういうわけか依頼は達成になっているらしい。
だが受付のお姉さんはそんなオレの態度を特に気にした風もなく、淡々と事務的に続けていく。
「まず1日100Pの報酬が7日分で計700Pとなります。いつも通り振り込んでおきますのでご確認下さい」
そういえばそんな条件だったな。
レート次第だけども、ざっくり計算して日本円で1日14000円前後。あの危険度だったらちょっと割に合わなかったかもしれん。まぁ、報酬として素材も手に入るし今年が特別だっただけで、通常封印が敗れない年であれば妥当なのかな?
「次に評価・貢献ポイントですが、それぞれ70ポイント加算されますので、現在の充様の評価ポイントが470、貢献ポイントが470の合計940ポイントとなります」
カタカタとパソコンに何かを打ち込んでいく受付さん。
評価ポイントも着実に溜まりつつあるとはいえ、まだまだ足りないなぁ。早いところ級を上げて“修復屋”が使えるようになれば、もうちょいとイベント以外でも無茶がしやすくなるんだから、夏休み気合入れて依頼を受けてみよう。
「なお、今回警護活動の上位者に対して特別報酬、及び賞金首である“名持ち”の鬼討伐者にはそれぞれ討伐報酬が用意されておりますが、こちらは現在精査中ですので一週間ほどお待ち下さい。
通常ですと一週間ほどあれば結果が公表されるのですが、今年は少々依頼人のほうも取り込んでいる関係でお時間を頂くことになっております。申し訳ありませんがご了承下さい」
「あ、いえ、お気になさらず」
むしろ理由はよくわかってるしね!
そういえば咲弥も活躍した人には何か特別なアイテムが、なんて話をしていたような気がする。
今回参加した主人公の中で活躍度が高そうなのは、比嘉さんとか“童子突き”さんとかだろうか。
とはいえ……、
【客観的に見て、お主が一位であることは間違いないじゃろうな】
うん、そう思う。
さすがにそこは謙遜するつもりはないよ。
“名持ち”の鬼だって宴姉やら、静穏童子やら倒してるし、何より茨木童子相手に大立ち回りをやったんだ。さすがに榊さんとか八束さんとかと比べてどうか、と言われると微妙だけど主人公相手ということであれば、ちゃんと活躍できていた自信はある。
「一週間前後で結果が出ましたらメールでお知らせ致します。また斡旋所の公式HPでも確認することが出来ますのでご利用下さい。公式な告知の時間を以って、報酬及び評価・貢献ポイントなどの追加がありましたら登録証のほうに入れさせて頂く手筈となっております」
一週間……ちょうど海にいってるあたりに出てるのかな?
メールで知らせてくれるんなら別に問題はないか。
羅腕童子討伐で18000Pだったから、それ以下ってことはないだろうし一気に金銭的には楽になるような気がする。
【その調子で稼いでおれば、居候を脱出できる日も近いやもしれんな】
あー、そうだね。出雲は気にしてないけど、居候させてもらってる方はなんとなく肩身が狭いし。心置きなく貸し借りのない対等な友人関係のために独立方向で頑張ってもいいかもしれない。
あ、ひとつ確認しておこう。
「オレ8級なんですけど、確か7級への昇格条件が……」
あれれ?………いくつだっけ?
【8級からプラス500、つまり累積値800ポイントだったはずじゃな。ちゃんと手引きを読んでおけとあれほど言ったじゃろうに】
ゴメン。
「……確か800だったと思うんですよ。今の評価ポイントが470なんで、あと330で級がひとつあがるんですが、今回の追加評価ポイントの適用は遡って依頼達成時点から付与ではなく、追加報酬算定が終わって公布した時点での適用ってことでいいんですよね?」
「はい、その認識で大丈夫ですよ」
だよなぁ、そうじゃないとややこしいし。
今受けるなら8級のやつにするしかない、ということなのでちょっと残念ではあるが。
「ありがとうございました」
ひとまずお礼を言ってその場を後にする。
せっかくなんで来週末までにこなせそうな手軽な依頼をひとつふたつ受けておくとしますか。
【それもよかろう。格上相手に力押しというような雑な戦闘ばかりしておっては命がいくらあっても足りぬからな。今のおぬしかすれば8級の相手は力量差がかなりあると思うが、それゆえに丁寧に戦闘を考えながら行う余裕を持てるであろうよ】
よし、じゃあ依頼を見に行きますか。
そう思って端末のほうに歩き出そうとして、
どん。
「がふ」
「おっと」
勢いよく振り向いたせいで、他の主人公とぶつかった。
「す、すみません」
「いや、おいらも不注意で……って、あれ? 充か?」
ぶつかった相手はかなり体格のいい男性。
メインは確か組み技士なんだけど神官もできる、気のいい人だ。
かつて一緒に戦ったことのあるのだから、わかっていて当然。
だから思わずその名前を口にした。
「鎮馬……さん?」
「おう、確かアレ以来だから久しぶりだな、充! 元気してたか?」
―――松平 鎮馬
オレと一緒に居て、伊達政次に頭を吹き飛ばされて死んだ主人公。
久方ぶりの再会に驚いたままのオレに対し、坊主頭は以前と変わらない様子でサムズアップしたのだった。




