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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.1.02 プレイヤー
19/252

17.まずは装備を整えよう

 午前中の授業が終わりチャイムが鳴る。

 お昼時になった教室内はそれぞれの生徒が思い思いに昼食を取ろうとごった返している。

 弁当を広げる者、購買にパンを買いにいこうとする者、食堂の席を取ろうとダッシュしていく者、昼食代を浮かそうとお昼を抜いている者、早弁をしてしまって寝てる者、などなど。

 ざわつく教室内で、オレはノートをとっていた。

 1日休んだ分を取り戻すには3日かかる、とかなんとか誰か言ってたなぁ。

 現代には紙と筆記用具があるので、3日どころか数時間で終わる。まったく便利になったもんだ、文明の利器ってすばらしい。

 そんなことを思いながらせっせと綾から借りた昨日のノートをとる。

 昼も半ばが過ぎた頃ようやく全部写し終わり、無事オレは朝登校中にコンビニで買ってきたパンと野菜ジュースを机に置いて昼に取り掛かろうとしていた。


「なんや、せっかくの昼やっちゅうのにショボい飯食うてるなぁ」


 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはいつも通り飄々とした顔をしたジョーがいた。


「そういうジョーは何食べたんだ?」

「んー、たまごサンドとコーラやな」

「その内容のどのへんがオレと違うのか聞きたいメニューだな」


 笑いながら始まるいつも通りの馬鹿なやり取り。

 ジョーと最後に会ったのは一昨日なので、そんなに日が経っていないはずなのに妙になつかしい気がする。色々あったからなぁ。


「なんや風邪ひいとったんやってなぁ」

「そうなんだよ。やっぱ4月から疲れが溜まってたのかねぇ」

「大事とっときや。6月入ったらすぐ中間テストなんやし、欠席してもうて補講とかキツいで」

「あー、そうだったな」

「お、なんや随分余裕やな。さてはミッキー、隠れて地道に勉強とかするタイプか?」

「なんでそうなる」


 多分一昨日までのオレだったら中間テスト、とか聞いたらもっとテンション落ちていたんだろうけどももっと切実に差し迫った問題があるせいか、あまり気にならないから不思議だ。

 ちなみにコツコツ勉強するほうかと聞かれたら、敢えてそこは一夜漬け万歳と答えるぞ。

 

「そやそや。言うの忘れる前に教えとかな。部活なんやけど来週の月曜日は来れるか?」

「んー、大丈夫だと思うぞ」

「そやったらよかった。あんな、今年の新入生集めて顔見せっちゅーか歓迎会みたいなんを予定しとるんよ。せやからミッキーも参加したってな」

「そんなにいたんだ?」

「昨日2人入ったから、ミッキー入れて4人やね、女の子もひとりおるで?」


 あまり増えてもパソコンとかの数の制限もあるだろうから、人数としては妥当なところかな?

 そうこうしている間に昼休みが終わり午後の授業が始った。

 ギリギリまでダベっていたジョーも席に戻り、数学の教師が入ってくる。

 さっきのジョーの話じゃないが、中間テストも近い。

 かといって今回は私生活でやることが増えそうなので一夜漬けも無理そうだ。学校の授業を真面目に受けて出来るだけ時間を有効に使おう。


【それがよかろう。なにせ日曜日は初陣という大一番が待っておるわけじゃからな】


「だよねぇ……あー、気が重い…」


 そんなこんなで午後の授業を終えてから、一度家に戻る。

 5時半から出雲と約束をしているのだが、私服で来てくれ、とのことなので帰る必要があるのだ。ちなみに出雲は部活があるので、終わってから持ってきておいた私服に着替えて合流するらしい。

 着替えてから一路待ち合わせ場所へ向かった。

 

 待ち合わせ場所は金座大路かなくらおおじ駅のロータリー。

 ちなみにオレたちの学校はその隣の学園通り駅、家の最寄りはさらに7つ先の緑横丁前みどりよこちょうまえ駅となる。

 金座大路は市内一の繁華街だ。

 元々飛鳥市を根城にしていた大名が金山から取れる金を鋳造するために作った職人町が元となっており、南北へと走る中央通りは市内を貫く幹線道路となっており大路の由来もここから来ている。

 ビルが立ち並び、シャレたショーウィンドウからクラシックなデパートなど様々な店が並ぶ街並みはショッピングなどにも最適で平日から多くの人で賑わっている。


「すまん、待たせたな」


 駅前のファーストフード店で飲み物だけ注文して粘っていると、出雲がやってきた。

 ガラ入りのロングTシャツの上に黒のテーラードジャケット、ヴィンテージジーンズ。いつものことだが私服になるととても高校生とは思えない佇まいだ。

 対するオレはカットソーのシャツにくすんだ色のパーカー、黒のスラックスという特にコーディネートとか考えてない適当な組み合わせである。


「いや、こっちこそ悪いな」

「気にするな。丁度入荷してる品がないか見に行こうと思っていた時期だったからな」


 話もそこそこに店へと向かう。

 中央通りをすこし歩き、通りと交差している路地へと入っていく。アンティークなどを扱う高そうな店の前をしばらく歩いたところに「蔵元屋」という店があった。

 入口には質、と書かれた看板が掛けられている。


「…質屋?」

「表向きはな」


 中に入ると20歳前後の男性がカウンターで暇そうにしていた。オレたちが入ってきたのを見ると、彼は慌てて「いらっしゃいませ」と告げるが、入ってきたのが出雲だとわかると安堵した。


「おやっさんはいるか?」

「いますよ、どうぞ」


 短いやり取りだけで、奥の関係者以外立ち入り禁止の扉へと進んでいく。その間のついていってるだけなオレの場違い感も膨れていったり。


【純粋な実力で負けているのは仕方なかろうが、気持ちでまで負けてどうする。ふぁいとじゃ、充】


 うぅ。

 その心遣いが身に染みるゼ…。


 通されたのは様々な武器が陳列された部屋。奥にカウンターがありこれまたゴツいスキンヘッドの男がのんびりと新聞を読んでいた。なぜか男の頭には「粋」と書かれている。

 室内は白一色の内装で統一されており、壁や棚に置かれている武具が映えるようになっている。残念ながら通常あるはずの値札や説明書きはない。

 刀、脇差、槍、弓、棒などなど。ちょっと変わったところでは棒手裏剣とか、独鈷なんてものまである。古いものから新しいものまで。さながらちょっとした博物館のようだ。


「おぅ! 出雲。しぶとく生きてやがったかい!」

「ああ、おやっさんの武具のお陰だよ。ちょっと見ていっていいかい?」

「勿論だ。生憎と入荷はないけどな。そっちのにいちゃんは初めてみたいだが知り合いかい?」

「友人だよ。装備を見繕ってやろうと思ってね」


 挨拶程度に会話をかわしてから出雲はこっちに向き直った。

 案内されるように店内の武具をひとつひとつ見て回る。


「なぁ、これ値段とかわかんないけど大丈夫か?」

主人公プレイヤーはステータスチェッカーで値段と使用条件見れるからな。充は好きな武器見てもらって、俺に聞いてもらえば説明するよ」


 ここでもまた発生する主人公プレイヤーとNPCの格差。

 早くNPCを脱出したいなぁ、と思った。


「使用条件って?」

「うぅむ…そうだな。例えばコイツだ」


 出雲は手元にあった刀を手に取った。


「コイツをもし使う場合、使用するための技能や能力の条件がある。例えばこれなら腕力が10、技巧が10、刀技能が15を要求される。それが使用条件というやつだ」

「……ちなみにオレのその腕力と技巧は?」

「小数点以下もあるけど、わかりやすくいうと腕力が6、技巧が5だな」


 はっはっは、半分くらいしかないや。

 どう見ても使いこなせる数値ではない。


「もし条件を満たしてなかったら?」

「武具は条件をどれくらい満たしているかどうかで性能を大きく変える。具体的には5段階くらいの違いが出てくる。例えばこの刀の場合で説明するぞ。

 まず1段階目、その武器について素人同然のとき。これはステータス及び刀技能が足りていない場合。攻撃精度、速度、威力が激減する。

 次に2段階目、武器の扱いの駆け出し状態だな。技能は足りているがステータスが両方とも不足している場合をいう。この場合も攻撃精度、速度、威力が半減する。

 3段階目、ようやく熟練といったところだ。技能が足りており、ステータスは必要な腕力と技巧のうち片方が足りないが、腕力と技巧の合計が武器の必要ステータス腕力10+技巧10の計である20を超えている、総合力は足りている場合。攻撃精度、速度、威力が若干減衰する。

 4段階目、ここまででようやくその武器の玄人。完全に必要能力を満たしている状態だから、普通にその武器の性能を引き出して使いこなすことが出来る。

 最後の5段階目、達人と呼ばれる領域だな。必要能力が全て5以上余裕があるときのことだ。使い手の技量に武器が追いついてない状態でもある。逆にこの場合なら攻撃精度、速度、威力が通常からいくらか上乗せされる。

 余裕があればあるだけ上乗せもあがる。とはいえそこまでいったらさらに上位の武器に乗り換えた方が戦力は上昇するがな」

「なるほど」

「技能は使わないと伸ばすことは出来ないから、武器の種類は気にしなくていい。充はどれを使い始めても1からの鍛錬になるからな。

 ただ能力には適合するのが望ましいから、腕力と技巧の範囲内で選ぶといいんじゃないか?」


 なかなか制約があるんだなぁ。

 確かに初心者で最強武器とか持てたらちょっと問題ありそうなので仕方ないか。

 出雲の提案通りの範囲で探してみることにした。まずは手近なところから、



 三日月宗近みかづきむねちか 種別:太刀 使用条件:腕力22、技巧31、太刀28


 月型十文字槍つきがたじゅうもんじやり 種別:槍 使用条件:腕力38、技巧25、槍30

 

 新藤五国光しんとうごくにみつ 種別:短刀 使用条件:腕力14、技巧28、短刀18


 などなど。



【どうも使えるものがひとつもないのではないか? これは…】


 はい、代弁ありがとうございました。

 どう考えても初心者用の装備が何ひとつございません。


「すまん、店の選択を誤った」

「………ちなみに出雲はこれ使えるの?」

「太刀、刀、短刀系なら店内にあるものは一通りな」


 さすが36レベルは格が違った。


「はっはっは、ここにあるのはわしが選び抜いた品ばかりだからなッ。

 まぁ腕を磨いて使える頃になったらまた来い」


 店主らしきおやっさんは誇らしげに胸を張った。

 どうやらオレのことを主人公プレイヤーと勘違いしているらしく、えらくフレンドリーだ。このおやっさん自身は重要NPCか何かなのかな?

 とりあえずあまりにも選びようがないため、諦めて店を出た。

 まったく使えるものがないのは残念だったけど、素人目ですら素晴らしいのがわかる品々を見れたのはありがたかった。いつかああいうのを平然と装備できるようになってみたいもんだ。


【その意気やよし! そもそもそれくらいでなければ、これから先やっていけんからの。

 今出来ることを確実にこなしておれば、すぐそうなるじゃろう】


 はい、頑張りまーす。


「すこし距離があるが分塚わけつか商店街のほうへ寄っていこう。

 そっちにも一軒武具の店があるんだが、そちらなら初心者向けの装備もあるんじゃないかと思う」


 申し訳なさそうに出雲が提案してきた。

 まぁ高レベルになった彼にとって駆け出しの頃のことなんて大分前なんだろうし、あまり覚えていなくても無理はない。

 むしろ案内してくれているだけでも感謝だ。


 分塚商店街は緑横丁前の隣、その名のまんまの分塚商店街前駅から目と鼻の先にある商店街だ。最近四方原しほうばらに出来た大型のショッピングモールに対抗して、地域ぐるみで様々な町おこしに取り組んでいる賑やかな商店街である。

 地元の人々も生活必需品の買い物などで必ずお世話になる場所である。郊外の車をもっている家庭はショッピングモールに行くことが多いものの、駅から近いというアクセスの良さから今のところ商店街のほうが客足では勝っているような感覚だ。


「わかった。んじゃ駅に戻るか」


 そう言って駅へと戻る。

 時刻は6時過ぎだが相変わらずロータリーはたくさんの人で賑わっていた。あたりも暗くなりはじめ店のネオンもちらほら明るくなってきている。


 と、そこでふと試してみたいことを思いついた。


【また、くだらないことじゃなかろうな?】


 いやいや、とんでもない。


「出雲、ちょっと協力してくれるか?」

「……?」


 疑問符を浮かべる親友にひとつの提案をしてみた。

 

 なんとか間に合った…。

 次回もいつも通り0時更新です。

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