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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.3.03 悪鬼と羅刹
183/252

181.制約と趨勢


 舞台は鬼首神社。


 そこに集う“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”同士の激突。

 先陣を切ったのは当然のことながら俺だった。


 “魔王ラーヴァナ”の力が全身にくまなく満ちたのを確かめると、そのままに四肢に力を込める。 まるで爆発物でもあったかの如く轟音と共に俺がいた場所が小さく爆砕。

 大地を蹴った俺は即座に白き鬼に肉薄する。


 斬ッ!!


 爪で生み出した斬撃を飛ばし、即座に真横に離脱。

 並の主人公プレイヤーであれば苦も無く引き裂くそれをが迫っても茨木童子は顔色ひとつ変えない。目前に到達するや否や、その斬撃を容易く左腕の振りで砕いた。

 ま、元々牽制程度しか狙ってない攻撃だしな。

 それでも先ほど“童子突き”が一方的に飛ばされたときと違い、しっかりと相手に防御動作を取らせているから無駄ではない。


 動きに緩急をつけつつ鬼の周囲をめまぐるしく移動する。


 時に音速を超えることで強烈な衝撃波を発生させ空気をかき乱す。この程度の衝撃波では俺も茨木童子もダメージなど負わないが、鬼の中にはどんだけ早く動いても空気や大地の振動を感知して動ける感知型の者もおり、それを妨害するために大気をかき乱すのは有効な手段だ。

 鬼に出来ることは全て出来る、というくらいの認識で闘うべき相手ゆえの動き。

 そして俺がそうやって動きで攪乱している隙を逃すほど優しくはない。

 動きの鈍い茨木童子の背後に片足を上げた榊さんが立っている。


 ふぉんっ!!


 放ったのは踵落とし。

 天空から大地を砕かんとばかりの威力で放たれたそれに対し、茨木童子は振り向きながら右手を持ち上げて迎撃するような動きを見せる。


 無音の衝撃と、一瞬遅れて響く大気が爆ぜる音。


 それは白き鬼の手の先に生じた不可視の壁に、その踵落としが止められた副産物。

 すぐさま彼女は反対の腕の裾を硬質化して蛇のように伸ばすが、襲ってくるそれを逆に豪腕で打ち払って榊さんは間合いを取り直した。打ち払われた裾はそのまま斜め後ろにあった大岩に激突。次の瞬間、3メートルはあろうかという岩が10センチ角のサイコロ状に切り刻まれて崩れ落ちた。


「………なんて力技だよ…オィ」

 

 激突は一瞬。

 そのコンマ以下のその刹那に行われたやり取りを見逃すほど耄碌していない。

 茨木童子の反撃については別にいい。仮にも伝説に残るレベルの大鬼が長年力を蓄えたのであればあれくらいの破壊力のある攻撃であってもおかしくない。

 問題はその前。

 榊さんの踵落としの攻防だ。

 やったことそのものは単純。

 傍目には踵落としに対して障壁を張って防いだ、という一言で表せる。

 だが実際のところは、その一瞬で障壁が踵落としに砕かれ、そしてさらに障壁を張り砕かれ、さらに……、というやり取りが繰り返されている。

 榊さんの踵落としを一撃で防御出来る障壁を張ることは出来ない、だが有り余る霊力を活かして止まるまで障壁を無数に―――実際は多分100枚くらいだが―――張り続けることで強引に止めた。しかもそれが一瞬の動作。

 さすがに伊達に千年も力を蓄えていない、って話だな、こりゃ。


「こちとら制限・・があるってのに、理不尽だなよな……っと!?」


 唐突に茨木童子の背中から腕が生えてくる。

 その細腕とは違い、明らかに鬼のような筋骨隆々のものが6本。

 全ての腕が生え揃うと弾けるように腕が爆発的に伸び榊さんに襲い掛かった。


 榊さんはまずそのうち一本を手で簡単に打ち払った。

 さすがに単純な腕力では酒呑童子に茨木童子に勝る。

 同じ要領で残りの腕を打ち払おうとし、


「ぬ……ッ!?」


 榊さんの体が一回転する。

 伸ばされた腕が触れられようとした一瞬でその力を受け流し、自らの力を上乗せして投げたのだ。人間が言うところ合気道のような相手を利用する技巧。

 もっとも人間の技術では大型の重機を凌駕する破壊力相手にそれが出来るわけもねぇだろうが。

 咄嗟に空中で体を入れ替え倒れることなく着地する榊さんだったが、その着地の隙をついて残りの腕がその体に打撃を打ちこんでいく。


「こっちを無視とはいい度胸だ!!」


 先ほどよりも力を込めた斬撃を飛ばすが、それはあっさりと白鬼の障壁で弾かれる。

 うーん……さすがに障壁をいくらでも重ねられるとなると生半可な攻撃を通すのは難しい。見たところ23枚くらいまでは毀せたんだが。

 こうなりゃしばらくはひっかき回して……って、不味ッ!!?

 空気が凍る。

 研ぎ澄まされた狩猟の勘が背筋にゾクゾクと警告を発する。


 榊さんが腰溜めに構えた拳を解放する。

 空手の正拳突きに近いその動きだが、内実は違う。

 ただ凶悪な膂力で一定量の霊力を圧縮し打ち出している。

 あまりの早すぎる射出速度に空間が歪むかのような錯覚を覚えた。 

 

 ゾリ…ッ…!!!


 その一撃は大地を抉り取り茨木童子へ殺到。

 無数の障壁が砕ける音と共に、咄嗟に身をかわした彼女の左肩から先を消失させた。

 それで止まるわけもなく、鬼首神社のある山の隣山に着弾。

 あー……クレーターになってやがる。

 いや、それ以前に、


「っぶな!! それ撃つなら射線考えるか合図してくれよ!?」

「それは失礼致しました」


 先に気づいて射線から避けてなけりゃ、反対側にいた俺も巻き込まれるところだった。


「……もう撃っちまったのは仕方ねぇけど、それも禁止で」

「ふむ、お話を聞いたときはなんとかなるかと思ったのですが……なかなか厳しそうですな」


 伝説クラスの鬼がバカみてぇな持久力を持った難敵。

 それでもただ倒すだけなら、そこまで難しい話ではない。張られる障壁が面倒なら、それをさせない速度の一撃か、打ち破る威力の一撃を放てばいい。

 簡単ではないが可能かと言われれば可能。

 だがそれは全力を出せれば、の話だ。

 向こうは全力を出せてもこちらはそうもいかない、そういう制約下である現状は中々に厳しい。

 今出来ることと言えば時間を稼ぐことくらいか。


 ずぉんッ!!


 再び動きだし、早さをトップギアまで一気に上げる。

 おそらく相手には残像が見えているであろう速度。

 単純な破壊力では榊さんに及ばぬものの、どちらかといえば俺の最大の武器はこの速度だ。風を切り裂き音を貫くその鋭さこそが身上。

 以前の榊さんとの立会いでは、向こうの望みに従って真っ向勝負に近い力のぶつかり合いを楽しんだが、本気で勝つつもりならば真っ向からなど戦いはしない。

 敢えて敵の硬い部分に噛み付くことはない。狩りで足首を噛み倒れたところを喉笛を狙うように、動きの中で好機を見つけ効率よく殲滅する。

 そのための機動力。


 だが相手はそんな分の悪い勝負に乗ってくるつもりはないらしい。

 ゆらり、と静かに体をゆすり始めると、そのまま輪郭が徐々にブレ始めた。

 二重に、三重に、輪郭がブレていくのと同時、それぞれが全く同じ像を結んでいく。完全なる自己の複製、ありていに言えば分身。

 その数は一気に10にまで膨れ上がった。


 思わず、そう来たか!と叫んじまう心境だ。

 こっちが残像が生じる速度で翻弄しようとしたら、あっちは残像どころか本当に実像を生じさせて来やがった。


「“幽なる纏い”と呼ばれる能力ですな。霊力で構成された鬼の輪郭を敢えて残して分離、作った抜け殻で一定時間後消滅するまでの間、操るというものです。

 抜け殻とはいえ、霊力を残して形作っている以上それは鬼の体と同義。つまり…」

「………実体がある、と」

「ご明察で」


 おまけにこの感じからすると抜け殻といっても相当な霊力の塊だ。

 元々の本体が計測するのも面倒なくらい霊力溜めこんでやがったからそれも当たり前かもしれないが、その分抜け殻自体が強固だということを推測させる。

 しかもご丁寧なことにその全てが背中から腕を生やしてやがる。


 来る…ッ!!


 何人もの茨木童子が俺目掛けてその腕を伸ばす。一瞬で10メートル近く伸びるという馬鹿げた速度で追いかけてくる腕たち。それをただひたすら避けていく。

 紙一重、というわけにはいかない。矢のように一度放ったら攻撃を放ちっぱなしというわけじゃなく、多少ならばこちらの動きに合わせて軌道を修正してくるからだ。


 一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、六撃……。


 延々と終わることのない連続攻撃。

 さすがに数が多すぎる…ッ!!

 どんどんと体勢が崩されていくのを自覚する。

 避けれないものは“魔王ラーヴァナ”の力で生み出した刃を腕から生やして、なんとかそれで受け切った。

 それでも終わる気配がない。

 

 ぐん…っ!!


「しまった……ッ!!?」


 百を超える数に至った頃、ついに一本の腕に足を掴まれる。

 蹴り飛ばそうとするがそれよりも一瞬早く足を捩じられて力の方向をズラされた。

 くそッ! 上手いな、こいつ!

 そのまま一気に振り回され地面に叩き付けられるッ!!

 

 全身を貫く獰猛な衝撃。


 大したダメージではない。

 だが一瞬であろうとも倒れて隙を晒した俺を敵が見逃すはずもない。

 一気に五体の茨木童子が襲い掛かった―――



 ―――その刹那、夜空を小さな光が彩った。



 どっかで見てやがるんじゃねぇか、そう思えるほどの絶妙なタイミング。

 花火と呼ばれる一瞬の光を茨木童子は特に気に掛ける様子もなく、攻撃も止まることなく向かってくる。だが、


「いつまでも調子に乗ってンじゃねぇッ!!」


 ぞぶり…ッ!!


 向かってくる茨木童子目掛け腕を振る、そいて抉る・・。 

 獣がその咢を開くが如く指と掌底近くに牙が生じたその手は、いつも通り掴んだ存在モノを喰らい尽くす。

 ち、この喰い応えのねぇ感じは分身か。

 とはいってもそりゃああくまで本体に比較すればの話。

 その一匹の鬼としては十分以上の霊力を体に満たし、一気にその場から離脱する。

 同時に変化。


 着地。


 茨木童子たちが戸惑う。

 それも無理はないかもしれねぇな。

 何せ今まで戦っていた相手が消え、そして遠くに突然漆黒の狼が姿を現しているんだ。


 先ほどの花火、それは佐伯さんからのもの。


 置換結界の発動が完了したという合図だった。

 わかりやすく言えば、この鬼首神社以外、おそらくは山の外部に出す被害を別の場所にズラすための結界だ。維持費用的にはびっくりするぐらいの金額らしいがそんなことは知ったこっちゃない。

 大事なことは、もう制限はない、ということ。


「いやぁ………手ぇ抜いて悪かったな。ガラじゃねぇけど、これでも名目上は正義おくにの味方ってやつだからなぁ……後のこと考えて戦わねぇといけないんだ。

 上手いこと全部一気に喰えりゃいいが、全力で抵抗されて他んとこに隠蔽できねぇくらい被害でても困るし、かといって逃げられてもマズいしな。

 ちと手を焼いたが、それだけの価値はあったってトコじゃねぇかな」


 その声に、白鬼どもはその黒狼が俺だということに気づいたようだ。

 一斉に腕を放ってくる。

 だが遅すぎる。

 人よりも四足獣が素早いように、この状態の速度は単純に数倍。

 先ほどまで避けれていたものがどうやれば数倍する速度で避けれなくなるというのか!!

 

「どうせなら充が自分でどうにかしてくれりゃ最高だったが………無理ならこっちでどうにかしてやるしかねぇか。なに、弟をフォローするのは兄貴の務め、だ!!」


 大きく横に避け、そのまま踏み出す。

 一瞬で茨木童子たちの懐へ飛び込み、そのうちの一体を蹴り飛ばした。

 胴体に大きな穴を開けて吹き飛び、砕けて消えていくその体。

 それはまた倒したのが分身だったということを示している。

 榊さんにあれだけ執着していたようだし、あっちに本体が行ってるんじゃねぇかってのは予想つくから別に驚きゃしねぇがな。

 突然段違いの強さになった敵に驚く残った分身たちを無視し、榊さんのほうへと視線を向ける。


 堂々と立つ榊さんを囲む、動きの鈍い分身たちと本体と思しき茨木童子。


 どうやら向こうも決着が近いらしい。

 ありゃあ“威圧ブロウビート”でも使ったか。確か榊さんは鬼の王クラスが持つ“威圧ブロウビート”の上位技能を持っていたはずだ。

 自らを中心にした効果範囲内にいる存在のうち、霊力量が一定以下の存在に対してその霊力を蝕むというものだ。それこそがかつて酒呑童子を軍勢で討伐することが出来ず、少数の強者で挑むしかなかった理由だと聞いている。

 冷静に考えれば、“幽なる纏い”とやらとの相性は最悪だな。

 その範囲内でも抜け殻に過ぎない鬼たちが消滅しないのは、さすがだと思うが動きの鈍った状態で榊ささんの相手になるはずもない。確実に榊さんの拳で消滅させられていく。


 ここに闘いの趨勢は決した。

 あとは、

 

「とはいえ…因縁の相手みてぇだしな。止めは譲るか」


 ここまで戦った相手だ。当然決着まで相手をしたいという気持ちはあるし、喰ってみたいという気もしないではないが、それでは義理を欠く。

 そう結論づけ、


「…………またボスにドヤされなきゃいいんだけどなぁ」


 そう呟きつつ残った分身を刈り取る作業に向かった。



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