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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.3.03 悪鬼と羅刹
176/252

174.思案の結末

 子が親に似るように。

 当然、意識体は本体と傾向を同じくする。

 それは彼とて例外ではない。


 ゆえに伊達政次は思案する。

 彼の行動の根幹を為すは狂愛。

 だがそれと別に冷静である部分があるからこそ上位者ランカーで居続けることが出来たのだから。そうでなければ急襲レイド猟団スクワッド「伊達家」を長として率いることなど出来はしない。


 目の前で焔炎鬼たちが一斉に炎を吹き付ける。

 業火と表現しても過言ではないその攻撃。だがそれを突きぬけて黒腕が伸び焔炎鬼の頭を掴む。

 まるで元から何もいなかったように鬼たちの姿が消えていく。


 ゆえに伊達政次は思案する。

 その内容は無数の鬼どもと戦いつつ黒い悪意の塊を防ぎ続けている男について。

 情報はないわけではない。

 今の彼は鬼首神社に潜入した際、鬼首の封印の隙間から紛れ込ませるように本体に埋めた意識体。ゆえに鬼首の分霊が吸収される瞬間、同時に流れ込んでくる鬼の記憶を読むことが出来た。

 その情報に誤りがないかどうか確認するために会話を試みてみたが、生憎彼の女神の残り香がする男と会話などできようはずもないのだからそこは仕方ない。


 次に左右から伸腕鬼たちが攻撃。

 鋭い爪が無数に向かうは槍衾の如く。

 だが相手は重力を感じさせない立体的な起動をしながら隙間というには刹那過ぎる空間を通って避けていく。避けながらそのうちいくつかに自らの手で触れると、焔炎鬼と同様に触れられた鬼が消えた。

 

 ゆえに伊達政次は思案する。

 男の特異さは確かに特筆すべき点があったから。

 どうやら吸収系の能力を使うらしく霊力そのもので出来ている鬼とは相性が悪い。武装が本来のものであれば彼にも対処出来なくはないだろうが、分かれた意識では持ち込めない装備もありそれも難しい。精々使用出来るのは、この世界を掌握するために持ち込んだった“鬼百足の黒手”の複製能力程度。

 あの体から吹き出している黒朱の霧や鎧、そして妙な部分から突如現れる黒い腕。

 見たところ、前者が防御、後者が攻撃を担当しており触れられた場合の危険度は後者の方が圧倒的に高い。無論前者も長く触れたりすれば危険だが腕に比べれば吸収能力に差がある。例えば“与一の毀し矢”のような瞬間的な物理破壊力のある攻撃ならば損壊させることも可能だろうが……。

 持ちこめていない装備の使用を考えても栓無きこと。


 伸腕鬼たちと同時に、漆黒鬼たちが前後から襲いかかる。

 常人であればあっという間に殺されるであろう豪腕が伸びた腕を避け続ける相手を狙う。だがそれすらも男は避ける。鬼の身体能力を思わせる“静穏”を喰って能力を奪っているという情報を裏付けていた。

 避けきれない攻撃もあるが、それはなぜか男の体を擦り抜けた。


 ゆえに伊達政次は思案する。

 倒すのであれば難易度は高いが、そうでなければ問題ない。

 無論あの男を倒して茨木童子を完成させるのが最上ではある。

 だが最終的な勝利条件は茨木童子を完成させ、そしてその力を外にいるであろう自分の本体が掌握することなのだから、それが満たされるのであればここでの勝敗は余り意味を持たない。

 つまるところどちらでもいい。

 彼が勝利して完成しようとも、敗れて完成しようとも。

 ならばより難易度の低い確実な方を選ぶのが良い。


 “宴禍”の蹴りが風を切る。

 “具眼”の硬質化した裾が伸びる。

 “悠揚”の掌から不可視の力が放たれる。

 “幽玄”の体が10に増えていく。

 その悉くを防ぎ、避け、男は確実に相手の存在を削っていく。

 合間合間に不意を打とうとする隠身の鬼など黒腕に阻まれて脅威にすらなっていない。

 彼の放つ黒百足の弾丸を牽制にすることでなんとか“名持ち”の鬼が一気に喰われるのを止めているだけだ。


 だから伊達は試案する。

 必要な条件はたったひとつ。

 何も難しいことはない。彼は今この千年鬼首が封印されていた間に蓄えた力、そして地脈の力を十全に使えるのだから。それを活かした圧倒的な物量で時間を稼いでいる間に、男の精神を汚濁に塗れさせてしまえばいい。

 おあえつらえ向きなことに鬼とは情念の塊。つまるところ無念や怨念といった負の塊であり、そしてさらには相手の能力は力を奪うこと。ならば毒入りの餌を延々と喰わせればいいだけのことだ。

 そう考えれば具体的な手順は簡単に想定できた。

 

 だからあとは―――


「ああ、月音くぅぅぅううううん。もうダメだ早く早く早く…ああああああ、優し過ぎるキミのことだからあんな盗むしか能のない顔も体も大したことないヒマ潰しのロクでなしにすら情けをかけてあげたんだろうか、なんて素晴らしいんだッ!!

 すぐにキミに捧げよう………。

 最も高貴で!最も美しく!最も雅で!最も誉れに満ち!最も慈悲深く!最も似合う花束を。

 この鬼たちの力を全て奪って花束にして捧げよう、人の情念、命をいくら束ねたとてキミの涙のひとかけらにすらならないけれども!

 ああああああっ、もっともっともっともっともっともっともっと、いいプレゼントはないものかカカカカカカかかかかかぁぁぁ?」


 思う存分思惑に耽ればいい。

 人はそれを狂気という。

 だが逆に聞きたい。


 彼女への愛以外に、この世の何が人を狂わせるというんだ???



 □ ■ □  


 

 確かに“名持ち”の鬼は強力だ。

 戦った感じからすれば、一対一であればまず負けることはない。

 とはいえ数の上では圧倒的不利。

 手を抜く余裕なんてあるはずもない。


 黒百足の弾幕が止み、まず目に入ったのは伊達とオレの間を遮るように焔炎鬼が集まり一斉に炎を吹きかけてくる光景だった。

 光と熱。

 身に纏った“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”を頼りにそれ突っ切る。煙狼化することも考えたがそれでは攻撃することが出来ない。鬼の再生能力も取り戻したし、いざとなればそれでなんとでもなるだろう。


【確かに以前よりも高い再生能力を手に入れたのは認めるが…それに頼り切りの戦いはやめておけと言わざるを得ぬぞ?】


 ……まぁ、気を付けるよ。

 とりあえず焔炎鬼の業火を無事に耐え抜くことに成功し、先ほどまで黒百足の排除に使っていた“エクェス”を前方へ放つ。黒腕で掴んだ鬼たちをそのまま奪う。

 これでさっきまで使った分の霊力は余裕で回復できたはずだ。


 だが一息つく暇はない。

 左右から伸腕鬼、さらには漆黒鬼と数を活かした畳み掛けるような波状攻撃が襲い掛かる。重心操作の能力を活かし避ける。たとえ体が地面と平行スレスレに倒れようとも溜めを作らず即座に次の姿勢にへ移行できることで、次々と攻撃を避けていく。

 勿論避けながら攻撃へ触れて鬼たちの数を減らすことも忘れない。

 どうしても避けれない場合だけ攻撃を停止し煙狼化を用いて凌ぐ。


 “名持ち”の鬼たちの攻撃がさらに続く。

 ってか宴禍童子の蹴りはともかくとして、具眼童子の裾が硬化して伸びてくるとか、悠揚童子の衝撃波とか自分で喰らう立場になってみるとトリッキー過ぎる。特に衝撃波については煙狼化で対処しようとしたら危うくバラバラに散らされるところだった。

 鬼の再生能力で事なきを得たけども、あまり頼り過ぎるのは考え物だな。物理攻撃など一部の攻撃には圧倒的な分、つい使ってしまうが注意しよう。

 最後の幽玄童子に至ってはどういう理屈か10人に分身して襲い掛かってくる。

 単純に10倍の連続攻撃。攻撃そのものは単純な物理攻撃だったから煙狼化で凌げたものの、肝が冷えた。

 さらには隠身の鬼までも隙を狙って攻撃してくるのを必死に避けながら、“エクェス”を振り回し片っ端から触ることが出来た鬼から力を奪っていく。


【充ッ!!】


「………ッ!!」


 エッセの警告に思わず飛び退く。

 オレの背後へ大きく回り込むように飛んできていた黒百足の弾丸が大地へ突き立つ。放ったのは言うまでもなく“千殺弓”。さすがに嫌なタイミングで撃ってくる。

 雑魚鬼ならともかく“名持ち”クラスの霊力の大きさの相手では全部を奪うまでに出来る一瞬の隙を狙われる。手間ではあるが地道に少しずつ削っていくしかない。


 油断さえなければ負ける要素はない。

 だがすでに結末の見えている戦いにも関わらず、鬼たちは延々と襲い掛かってくる。唯一の頼みの綱である数を磨り潰すような、そんな刹那的な闘争。


 だから続ける。

 ひたすらに。


 戦い。

 ただそれだけが燃え滾っている。

 ぐつぐつと湧きだす寸前の溶岩の如く、自らをただ灼く紅蓮だけが在る。

 それを吐き出さんと息をつく。


「は…ッ……ハ…ッ」


【充、落ち着け。ペースを上げ過ぎて“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”の制御が雑になっておるぞ!】


 わかってる。

 わかってるさ…ッ。


 わかっているのにこの苛立ちは止まらない。


 どれくらいの時間が経ったのか。

 どれくらいこの戦いが続いているのか。


 向かってくる鬼を掴んだ。

 引き裂いた。

 喰らった。

 攻撃を弾いた。

 殴り飛ばした。

 喰らった。

 炎を防いだ。

 挽き潰した。

 喰らった。

 腕を極めた。

 折り砕いた。

 喰らった。


 小鬼、大鬼、名持ちの鬼……。

 絶え間なく飛びかかってくるその有様は暗い波のよう。


「もっと…もっともっともっと……ッ!!」


 ただただ同じ作業を繰り返す。

 相手を殺し、使った力を相手を喰らうことで補充し、次を殺す。

 三十から先は最早数えることすら億劫で。

 沸き立つ衝動に身を任せ、それだけに没頭するしかない。


 花が咲く。

 朱いもの、黒いもの、蒼いもの。

 様々な色の花が散る。

 ひしゃげて潰れて本質が花びらの如く咲き散っていく。


 狂乱。

 そう、これは狂乱だ。

 狂っているあの“千殺弓”を奪い尽すためには、こちらも正気ではいられない。手は手でなければ洗えないのと同じ。

 ただそれだけのこと。

 そう思いこみ、胸の奥に潜む明らかな異物を無視する。

 徐々に濃く深くなっていくのを実感しているのに。


【……ッ!! ………ッ…!!】


 どこか近くで誰かの声がする。

 

 雲霞の如く沸き続ける鬼。

 それを殺し続けるオレ。


 鬼を喰らう。

 鬼の力を喰らう。

 視界を埋め尽くすほどの何もかもを。

 この世界に存在するもの全てを喰らい尽す。


 意図していないとはいえそれはある意味、相手の思い通りであるとは気づかずに。


 オレごと中の鬼を喰らって完成するのか。

 オレが全てを喰らって、その中で完成するのか。


 そのどちらであろうとも、茨木童子という存在が全き状態になるのは変わらないだと、気づかずに。


 最初に倒れたのは宴禍童子。

 一度均衡が崩れてしまえば後は加速していくだけだった。

 具眼童子が、悠揚童子が、そして幽玄童子が。

 黒い力の奔流に飲み込まれ、その存在を奪われていく。

 食べ過ぎて胸ヤケを起こしているかのような感覚と、そしてもうひとつ、それに呼応するかのような闘争を渇望する感覚を無視し、進む。


 果てのないほどの数かと錯覚しそうな大量の鬼たち。

 だがその姿はもはや無い。

 もはやこの地獄じみた戦場に残されている影はふたつだけ。


「お前が最後だ」


 体中の熱を吐き出すかのように告げると、最後の抵抗とばかりに伊達は再び黒百足の弾幕を張り巡らす。それを防ぎながら一気に肉薄。

 頭を掴み勢いのまま地面に引きずり倒す。


 明確な王手。


 何か隠し玉が在るのかと警戒していたが結局最後まで、こいつの攻撃手段は黒百足のみ。散々苦しめられた“与一の毀し矢”すら使ってこなかった。

 いや、もうそんなことはどうでもいい。

 目の前のこの男との因縁。

 要るのはそれを終わらせる暴力だけ。

 手加減など必要ない。

 こいつが持っているこの世界への支配力。

 いや、違う。


 持っている全てをよこせ!!


 考えられるのはただそれだけ。


 だから気づかない。

 この仇敵が嗤っていることを。

 その笑みの理由など。


 迷うことなく、掴んだその手を基準に“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”を発動。


 そして―――――全てが同化した。



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