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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.3.02 七夕の大祭
163/252

161.流され行き着いたのは…

 さてさて、お待たせしました。

 ようやく充のターンです!


 ふと、気づいた。








 ……沈んでいる。



 錯覚だとわかっている。

 だが酩酊感にも近い妙な感覚が、どこかへ沈んでいくような重量感を訴えていた。


 他に出来ることがないから、仕方なく考える。


 三木充。

 うん、問題なく自分のことやこれまでのことを覚えているのがわかる。

 ではそのオレがなぜこんなところにいるのか。

 確か棗さんに首を落とされて意識を失ったはずだ。しかもその後に眉間に刃を突き立てられるというダメ押しじみたトドメ付きで。

 その状況で生きてるとは思えない。

 なら、ここが死後の世界というやつなんだろうか。

 深く考えたことがなかったけど、この現実世界そのものがゲームだという話なんだから、天国とか地獄が実際にあってもおかしくない。

 以前死にそうなところをエッセに助けてもらったことがあったのを思い出す。

 また彼女が声をかけてくるんじゃないかと僅かな期待が頭を過ぎるが、冷静に状況を省みればそのときと違うのは確かだ。

 あのときはあくまで時間を引き延ばしていただけで、こんな風にわけのわからない状態にはなっていない。


 深い深い場所。

 それがどこかはわからない。

 ただ深くなるにつれ、積み上げられ圧縮されているかのように空間の密度が高くなっていくのがわかる。


 墜ちていく。

 まるで深海のように光のない底への途。


 とはいえ苦しいかと問われれば、そんなこともない。

 むしろ逆に心地よい。

 だがその心地よさに身を任せてしまえばオレという自我が霧散してしまう。

 誰に教えてもらったわけでもないのに、まるで生まれ持った生存本能の如く最初から知っているその事実に身震いした。

 だからこそ拡散しつつある意識を必死に繋ぎ止める。必死に意志の欠片をかき集めなんとか散らばらないように固めあげた。

 それでも、沈んでいく意識。

 仮にこのまま落ち続けたとしたら。

 ふとそんな考えが頭に浮かぶ。

 きっといつかは底に辿り着くだろう。

 この異界の最も深層。

 強大なる何かが潜むその場所へ。

 光すら差し込まない奥底で存在それが蠢く最果て。

 そんな予感がなぜか在るのはどうしてだろう。


 と、ある一定のところまで落ちてきたところで止まる。

 そこから下になにか膜のようなものが張られていて、それが引っかかったオレを遮るように落下を止めたらしい。


 ポーン。


 思わず頭に疑問符を浮かべようとしたとき、突然目の前にウィンドウが現れた。

 コンピューターゲームの画面にあるようなセリフが入りそうな、青い背景が白い枠に囲まれたウィンドウだ。

 そこに文字が現れる。


『復活ポイント設定―――なし。

 復活ポイントの設定がないため、このまま死亡を確定させた場合、復活が不可能です。

 新たなキャラクターを作成し、再度ゲームを始めてください』


 …………。

 それを見て思う。

 ああ、やっぱりオレ、死んだんだなぁと。


 さらに文字が変わる。


『ログアウトしますか?』


 ………?

 どういう意味だろう。

 いや、ログアウトって意味はわかるんだけど。


 ああ、そういえば主人公プレイヤーから枠を奪ったんだっけ。

 だからその主人公プレイヤーと同じように、ゲームを続けることが出来なくなった場合の選択肢としてログアウトも選べるのか。


 ふと興味が湧いた。


 主人公プレイヤーにとってゲームの世界の仮初の存在でしかないオレ。

 普通の主人公プレイヤーであえればログアウトすれば、実体に戻るだけだけど、もしオレがログアウトをしたら一体どんな風になるというのか。

 

 そのボタンのようにも見えるウィンドウを押そうとすると、


 ポーン。


『ログアウトしますか?』

 

 別のウィンドウが表示される。

 まるでパソコンの画面のように前のウィンドウに重なるように出現したそこに出ているのは同じ文言。ただ文字の書かれているウィンドウそのものの背景色が薄い赤だった。


 ポーン。


『ログアウトしますか?』


 ポーン。


『ログアウトしますか?』


 ポーン。


『ログアウトしますか?』


 …


 それを皮切りにして止め処なくウィンドウは増加する。

 まるでオレを包囲でもしようとしているかのように周囲がメッセージのウィンドウで埋め尽くされる。


 その数30以上。


 同じ背景色のものもあれば、違う背景色のものもある。

 だがどれを実行しようにもエラー的な反応しか返ってこないからどうしようもない。

 

 うーん。

 困った。

 そうかといって先程の表示どおり死亡を確定させるわけにもいかない。

 まだオレにはやりたいことも、やるべきことも山のようにあるんだ。

 死んでいる場合じゃないッ!!


 みぢ…ッ。


 声を出すことが出来ないのをわかっているにも関わらず、思わず叫び声をあげそうになった。

 落下していくオレを受け止めていた網のような感触。

 それが突如として引きちぎれるように破れ、高みから低きへ向かう恐怖が再開されたからだ。


 落ちる。

 墜ちる。

 堕ちる。


 もう少し。

 あと少しで全てが後戻りできなほどに変わる。

 その確信があった。


 つまりは最も深い部分、このどこかわからない空間の果てが近い。

 そう思った途端、同時に湧き出る恐怖がオレを急かすように告げる。



 そいつを見てはいけない。

 もし見たのならば、オレは―――



 ………ッ!!?



 ぞわり。

 周囲の流れが突如として変わる。


 もうすこしで底に着くというのに、何らかの力が介入してきた。

 外からの力。

 直接的に働きかける力ではなく、近くにいる何者かから漏れ出た波動に近い衝撃。

 その力は底で蠢く存在に影響を及ぼすほどではないものの、流れを掻き乱しせっかくここまで沈んできたオレの意識をどこかへと弾き飛ばした。


 




「………あれ?」


 気づくとなぜか草原に佇んでいた。

 人の手など入っていない雑草が伸び放題になっている草原にはトンボが飛んでいる。

 季節は秋口だろうか。

 それまで茹だるような暑さとは違い、過ごしやすい温度と涼しい風。

 遠くに見える紅葉した山々。

 少し小高い草原から下を見下ろす夕暮れ時の光景はちょっと感動するくらい綺麗だ。が

 いやぁ、和むわ。

 熱いお茶と茶菓子があったらのんびりしちゃいたいくらいだ。


「……っと、それはいいんだけどね」


 思わずほのぼのしてしまいそうになったが我に返る。

 ここは一体どこなのだろうか。

 深呼吸して落ち着いてから、冷静に記憶を探っていく。


 鬼首大祭で拠点を守っていたところを、静穏童子たちに囲まれていて。

 戦おうと思ったら実は棗さんに首を落とされたんだったか。


「ッ!!?」


 そこまで思い出してびくっとし、確認するように両手で自分の首を触る。

 うん、ちゃんとくっついている。

 というか、そもそも首が落ちていたなら手を動かすことなんてできないんだった。

 まぁ結論から言うと五体無事である。


「………あー、まさか棗さんが内通者だったとはなぁ」


 状況もわからずどうしたらいいのかわからないので、とりあえず頭を抱えておく。

 鬼には開けられない本殿への侵入者がいた段階で誰か手引きしている人間がいることは想定してたけども、まさか棗さんとは、というのが正直なところ。

 しかも“逆上位者アビスランカー”だったというおまけつきである。


「まぁ考えててもどうしようもないし、まずここがどこなのか、だよねぇ」


 きょろきょろしているが人の気配はない。

 剥き出しの自然以外にオレの疑問を聞いてくれる相手のいない場所だ。

 思わず初めてオンラインゲームをやったときのことを思い出す。


「……ひとまずあのときと同じように人のいる場所を探せば…いいのかな?」


 他に手立てもない。

 途方に暮れるのをやめて、ゆっくりと歩き出すことにした。


 さて、ここで問題です。

 知らない山の中に放り出されて数時間で人里に出れる可能性はどれくらいでしょうか。


「………あー…しまったなぁ」 


 ついに夜になってしまい、頭をぼりぼりと掻いた。

 山の植生からするとおそらくここが日本のどこかであることは間違いない。

 だが狭い日本の国土であったとしても人間の住んでいる面積は限られている。

 普段街が続く沿岸部に住んでいるとどうしてもそのへんの認識がなくなるよなぁ。

 一応日暮れの方角から南と思われる方向へ歩いてきたんだけど。


「もし日本海側だったら、むしろ人里から遠ざかってるのでは…」


 そんなことに気づいてがっくりしながら適当に夜を明かせる場所を探す。

 生憎と装備も何もない状態で火をおこしたり野生の獲物をゲットような技術がないので、とりあえず月明かりを頼りにするだけだ。

 うぅ、やっぱりアウトドアの本とか買っておけばよかった……と後悔するも今更である。

 “簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”でなんとかしようかとも思ったけども、エッセからあんまり気軽に使わないように釘を刺されていたし我慢我慢。


「とはいっても、このまま何日も彷徨う羽目になったら我慢しきれな……ッ!!?…」


 がさごそと下草を踏み進む音に気づき警戒する。

 この気配は…ッ!!

 予想を裏切らない黒い巨躯が飛び出してくる。


「…漆黒鬼ッ!!」


 咄嗟に武器を手にしようとするが、隠袋もない状態では無意味な行動だった。

 舌打ちしながら、なんとか徒手空拳で立ち向かうしかないと覚悟を決めるが、


 ヒュカッ!!!


 風を切る音。

 それと同時に漆黒鬼の頭から血飛沫が舞う。

 そのまま前のめりに漆黒鬼が倒れ、予想外の展開に巻き込まれそうになって思わず構えるが、来るべき衝撃は来なかった。

 何の抵抗もないかのように、オレの体をすり抜けたから。

 倒れた漆黒鬼の背中には切り傷が数多くあり、どれもかなり深いのかどす黒い血を流していた。


「………え?」


 軽くパニックを起こしそうになるが、そんなオレにお構い無しに事態は進んでいく。

 漆黒鬼を斬った人物がゆっくりと周囲を警戒しながら死体を確認しに来たからだ。

 身長は170センチくらいだろうか。

 黒髪をした男で年はちょっとよくわからないが、さすがに十代ではなさそうなもののまだ若い。

 粗末なボロ切れのような生地を使った衣を纏っているが、鍛えられた腕とそこに握られた大きな直刀が鈍く僅かな月明かりを映しているため、みすぼらしいといったような印象は受けない。

 手にした松明の明かりで見えるその体は古傷だからけで、見るからに歴戦の兵といった感じだ。

 

「あの……」

「……仕留めたか」


 話しかけるオレを盛大にスルーして、しゃがんで漆黒鬼が死んでいるのを確認した男は言葉少なに安堵する。


「………」 

「おとう!」


 男が自分が出てきた後ろの茂みに合図を送ると、さらに明かりが増えていく。

 それぞれ松明と長細い鈍器のような棒を手にした似たような格好の男たちと、10歳くらいの男の子が出てきた。

 って、ちょっと待て!? おとう…だと…?

 だがどうやら聞き間違いではないらしい。

 男の子は鬼を仕留めた男の近くに嬉しそうに走り寄ってくる。

 男のほうも言葉は発さないものの、そのゴツゴツとした手で優しく頭を撫でているのを見ると親子に間違いないようだ。


「こりゃオレが見えてないのは間違いないみたいだなぁ…」


 やってきた全員が全員、オレのことをスルーして倒れた漆黒鬼を見たり、何やら男を労ったりしている。

 余程高度な集団いじめじゃない限り、どうもオレの姿が目に入らないようだ……自分で言っておいてなんだけど、知らない人たちにいきなり集団でやられるとかいじめだったら嫌過ぎるなコレ。

 なんとなく弱気になりつつ見ていると男たちは消えていく漆黒鬼から残った角を拾い、そのまま来た方向へ戻っていく。

 こんな山中に残されても堪らないオレも慌てて後を追う。せっかく見つけた人里への手がかりをまた無くしてなるものか!とばかりに気合を入れた。


 そして1時間ほどで辿り着く。


 小さな山間の村に。

 まぁ確かに予想はしていましたよ。

 男たちの格好もザ・村人!的なボロだったわけだし。

 どう見ても裕福そうな服装じゃないんだから、予想の範疇ではあった。

 あったんだけど………、


「……これ、いつの時代よ?」


 思わずツッコまずにはいられない。

 木で作られた粗末な竪穴式住居っぽい小屋。

 舗装されていない道。

 家の横に置かれている木製の農具。


 目の前に存在している村がどう見ても現代じゃないのは予想外。

 わけのわからない現状にオレはしばらくあたふたすることしか出来なかった。



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