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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.3.02 七夕の大祭
146/252

144.壊滅の報


 そんなこんなで依頼は無事に進んでいった。

 それはいいんだけど……。


「眠い……」


 あれから無事に3日目と4日目も終了し、今日は5日目。

 咲弥と一緒に鬼首神社に向かう道中で思わず欠伸をしてしまった。

 そう、眠いのである。


 途中で適度に休憩を挟みながら、というものの3時間、神経を張り巡らせているというのは中々大変なことだ。

 特に文字通り命が懸るというプレッシャーに晒されながら、というのなら尚更。

 そんな状態で前衛や援護、果ては初のリーダー役など、体も頭も酷使。

 11時に依頼が終了すると帰宅は日付が変わるくらいになる。

 と、なれば疲労が蓄積するのは当然だ。


「ミッキーちゃん……」


 心配そうに咲弥がこちらを覗き込んでくる。


「あんまり大変なら、途中で棄権でもいいよ?」

「魅力的なお誘いだけどねぇ」


 ああ、もし棄権して今日1日ゆっくりベッドでゴロゴロできれば、どれだけ幸福だろうか。

 だがそういうわけにもいかない。

 実際、依頼はもう半分以上終わっている。

 あとは残り3日なんだから。


「一度参加するって決めた以上、これくらいでヘコたれてるわけにはいかないさ」


 まぁそれなら、そもそも弱音を吐くな、という話なんだけども。


【消耗している時分に弱気になることは、よくあることじゃ。

最終的に心がぽっきりと折れてしまうのでなければ多少の弱音は聞いてやるぞ?】


 うぅ…みんな優しいなぁ。

 とりあえずこれ以上疲れた疲れた言ってても落ち込むだけなので、話題を変えるとしよう。


「でもこういうのを毎年続けるのも大変だよねぇ。

 祭りの間は、咲弥は本社のほうで手伝いとかしてるの?」

「ん」


 目の前の女の子は小さく頷いた。


「お姉ちゃんと一緒。巫女で儀式してる」


 おっと、なんか妙な単語が出てきたな。

 儀式?


「鬼首神社は強い鬼が寝てる。その鬼の首、地脈から力を吸い上げて溜てる。あんまり溜まりすぎると鬼が起きちゃうから」


 ああ、確かそのへん図書館で調べたときあったな。

 旅人に言いくるめられたっぽい感じでバラバラにされた鬼がいたとかなんとか。


「儀式で、鬼をちょっとだけ起こす。そのときに体から少しずつ力を抜く。抜いた力、小さな欠片になって鬼になる。それを退治するのがミッキーちゃんのお仕事」


 封じてる鬼が力を溜めすぎないように、年に1回放出させる。

 つまり、破裂しそうな容器を定期的に栓抜いてガス抜きさせるような感じかな。


 個人的には、大祭のときに拠点を襲撃してくる鬼が全部その鬼から漏れでた力の破片だとするのなら、 ちょっとその総量に引くけども。

 大体1日あたり、オレのところで50から100ちょっとくらいの鬼が出てきている。間を取って80くらいとしても、それが4箇所あれば1日320匹。

 7日のうち説明だけの初日を差し引くとしても、6日で合計1900匹以上。


 しかも単純な量だけの問題でもない。2日目は小鬼がメイン、3日目は小鬼の中でも強い黒い小鬼だけ、4日目は小鬼ではなく人間サイズよりちょっと大きいくらいのノーマルな鬼、といった風に徐々に強くなっているんだ。

 7日目あたりに、宴姉さんクラスが出てきたら、例えそれが数人であったとしても、それだけで終わる可能性もある。


 ………うん、確かにこれだけの力が纏めて1匹の鬼に凝縮されるとしたら、しかもそこにプラスアルファその鬼が生来持ってる力が加わるというなら、そりゃ復活させちゃダメな気になるわ。

 これだけの力を1年で貯めさせる地脈が凄いというべきなのか、それを大祭で毎年発散させてる咲弥たちが凄いというべきなのか。


【それだけの鬼であれば、奪うに足るだけの再生能力を持っていそうじゃがの】


 そりゃそうだけども。

 正直怖い。

 羅腕童子であれだけボロボロになったので、強い鬼に対してはちょっとトラウマがある。


「もうちょっとだから。頑張って」

「おう」


 ぐっとサムズアップする咲弥に、同じように返す。

 そうだよなぁ、今の話が本当なら8時から11時まで咲弥は毎日儀式してるんだもんな。

 オレだけが疲れた疲れたと言ってるのは情けない。

 いやぁ、男の子はツラいね!


「咲弥も頑張ってるんだもんな、オレも踏ん張るか」

「今年は楽。お姉ちゃんいるし」


 お姉ちゃん…確か聖奈さんだったか。


「7日目、終わったらお姉ちゃん連れてくる。ミッキーちゃん、お喋りしてあげて」

「え?」

「ちゃんと謝りたい、って」


 あー……。

 伊達のときのことか。

 もうなんかあの日のことは痛いこととか苦しいことの他に恥ずかしいことも多くて、軽くトラウマになりかけているので忘れたい感じではあるんだけども。

 ……鬼のときといい、トラウマも随分な勢いで増えてるな、この二ヶ月。


「そんなに気を使わなくても……ああ、でもまぁせっかくだし顔合わせるくらいはいいよ」


 結局会って一度詫びないと本人の気持ちも収まらないだろうし。

 いやいや、そこで謝るだけでは気が済みません、とかなって、なんでもしますとか言われたらどうしたらいいんだろう!?

 思い出すと、主人公プレイヤーだけあって聖菜もかなり美人だったもんなぁ。

 そんな美人に何でもしますとか言われると、健康な青少年としては色々浮かんでしまうわけで……やべ、変な方向にエスカレートしそうだ。

 無意識に、


「い、いや、人として余り無茶なことを要求するわけには……。でも、あれだけの内容なんだから、むしろその程度なら要求しても……」


 それは致命的だった。


 ぐりっ!!


「ぐあっ!?」


 我に返ると咲弥が笑いながらオレの靴を踏んでいた。

 当然、笑顔が怖い。


「ミッキーちゃん最低」


【本当にそうするというのなら、とんだ下種じゃぞ、充】


「いやいやいや、別に本気でどうこうじゃないよっ!!?」


 不用意な発言ひとつのために、そこから鬼首神社に到着するまで、オレはひたすら二人へのフォローをする羽目になったのだった。



 □ ■ □



 弓を握る。

 その力のかけ方ひとつ取っても妙が求められる。

 握った手の下でもなく、上でもなく。

 全体に均等になるよう力をかけながら前方に押すように。


 狙いは鋭く。

 水滴が岩に穴を穿つが如し。

 ただ当てるという意識を無造作に、しかし確実に持つ。


「―――“曲ツ矢”」


 ヒュカッ!!!


 引き絞られた弦が指という障害から解き放たれ矢を飛ばした。

 体格のいい赤鬼の頭に、斜め前方に弧を描くような軌跡を残した矢が突き刺さる。思わぬ一撃に怯んだ鬼に対して、正面にいた日向が懐に飛び込んだ。


「や~ぁ~」


 どずんんっっ!!!


 体ごとぶつかるかのような一撃。

 ずる、と日向に密着された状態から鬼が崩れ落ちた。

 

「や~ったぁ~」

「日向! もう1匹いるぞ!」


 一瞬の気の緩み。

 そこを突いて横合いから襲いかかるもう1匹の鬼。

 その体の色は漆黒。

 相手にしていたさっきまでの鬼よりも俊敏さが段違いだ。その上、体自体も一回り大きく、その豪腕から繰り出される攻撃の破壊力も予想以上にありそうだ。

 あっという間に間合いが詰まっていく。なんとか一射するチャンスはあるものの、それが限界だ。完全に接敵してしまえば、誤射する可能性のある弓での援護をすることは出来ない。

 

 だが、それならそれでやりようがある。

 これまで乗り越えてきた状況に比べればこの程度は危機でもなんでもない。


 ―――だからこそ思っていた以上に冷静に体が動いた。


 隠袋から一本の矢を取り出し、番える。

 その間にも黒鬼は迫る。

 だが焦らない。

 ただ脳裏に浮かべるのはひとつの技。


 静かに心を平らに整え―――放った。


 ヒュカッ!!


 飛ぶのは刹那。

 一条の閃光のようにまっすぐ飛来したその矢は黒鬼に命中。

 だが命中の音は鳴らない。


 ずぅぅ……ん。


 そのまま、黒鬼が倒れる。

 倒れるしかないだろう。

 頭が消し飛ばされていれば。


 “与一の毀し矢”によって。


 伊達が使ってきたときは厄介極まりない攻撃だったが、弓使いにしてみるとこれほど頼りになる技はない。なにせしっかり命中すればほぼ一撃必殺。しかも仮に急所を少しくらい外れたところで、命中箇所の周囲をごっそり抉ってくれるので関係がない。


「………ふぅ」


 ほっと胸をなでおろした。


「わぁ~、みつるに~さん、凄いねぇ~」


 ちょっとびっくりしてから、日向がぱちぱちぱちと拍手する。


「日向、さっき棗さんから敵は2体って聞いてただろ?

 一体倒してからってそこで気を抜いちゃダメだぞ」

「うむ、警護もまだまだ中盤。これからも敵は強くなっていくに違いないでござる。一瞬の隙が命取りになるのでござるよ?」

「はぁ~い~、ゴメンなさい~」


 オレと棗さんの注意に日向がぺこり、と頭を下げる。

 ……しかし、未だに棗さんの口調はちょっと違和感あるよな。


「頑張ったのにぃ~」

「まぁ、確かにあの赤鬼倒した技は凄かったな」

「でしょでしょ~?」


 体当たりに見えた一撃。

 だがそれはあの鬼を倒すだけの威力を秘めていた。


「あのねぇ~、あれは懐に入ってぇ~、ぽん、って拳をあてるんだよぅ~。それでそこからどづんっってするんだ~。師匠だとぽんってしないでもできるんだけどねぇ~」

「俗に言う裏当てってやつですね。古流だと結構どこにでもある衝撃を徹す打ち方です。比嘉さんは普通に打っても出来るんですけど、日向はまだそこまでの技量がないので。

 先に軽く当てて反射的に相手が腹筋固めたところを衝撃徹す感じです。基本的に相手の体が硬いほうが徹りやすいみたいですし」

「あ~、それそれぇ~」


 今一つ要領を得ない日向の発言を涼彦がフォローしてくれた。


「わかりやすいね。随分と詳しいけど涼彦君も習ってるのかい?」

「あ、いえ。比嘉さんからの受け売りです。どうしても日向は感覚派なので説明下手ですから、代わりに説明してあげないといけないこともありますし」


 縁さんの問いに涼彦は苦笑しながら答える。

 若いのに苦労してるんだな、涼彦……。


 ぐるっと周囲を確認する。

 とりあえず近くに敵はいないようだ。


 倒れた鬼たちが消えていく。


 “赤銅鬼”

 適正レベル:16

 ドロップアイテム:鬼の爪(85%)

 一般的にイメージされることの多い鬼。鬼としてはようやく一人前、といったレベルではあるが、古来昔話に出てくるだけの強さを持つ。強靭な肉体から繰り出される一撃と耐久力は駆け出しの主人公プレイヤーにとっては脅威となるだろう。

 一般的な術者の式神として使役されることの多いランクでもある。

 たまに金棒を持つ個体がいるが、その場合の適正レベルは+5。


 “漆黒鬼”

 適正レベル:20~

 ドロップアイテム:黒鬼の爪(55%)、黒鬼の角(5%)

 地上に出現する一般の鬼の中でも特に身体能力に優れる者。ここから個体毎に特殊能力持ちや“名持ち”の鬼に分かれていくことが多い。この頃から鬼属の特殊能力を備えてくるため、その身体能力の他に“隠(弱)”を持つ。

 たまに金棒を持つ個体がいるが、その場合の適正レベルは+5。


 結構出てくる敵のレベルも高くなってきたなぁ。

 まぁ適正レベルは一対一の話だから、これだけ人数いれば普通に捌けるけど。ただ数が増えてくるとなると、オレや縁さんはともかくレベルの低い日向とか厳しいかな?

 難しい顔をしていると縁さんにぽん、と肩を叩かれた。


「充もなかなかのものじゃないか。

 前衛が出来る、というのは修練場で見たときからわかっていたけれど、まさか弓の援護もこなすとは思わなかった。

 正直、順位ランキングに入っていないのが信じられないな」


 縁さんのその言葉に小さく笑って誤魔化す。

 まさか上位者ランカーから奪った技ですからね、と言えるはずもない。


「あの宴禍とかいう鬼が言っていた通り、今年は例年より鬼の攻勢がキツいからね。リーダーの力量が予想以上というのはありがたいよ」

「いつもとは違うんですか」

「ああ、体感的には3割増しといったところかな。ルールもちょっと使いづらいというか、死亡を防ぐという意味以外では役に立たないものだから」


 確かになぁ…。

 以前聞いた別の年のルール、例えば相手より高い位置にいれば鬼が弱体化する、とかいうのであれば格上を倒すために利用できるけども、今回のルールは危なくなったときに使うともう攻撃されない、だけのものだからねぇ。

 しかも毎回警護の前に食事しないと使えないし。


 え?

 宴姉さんについてどうなったかって?

 勿論、わんこそば状態はずっと続いてますけど何か?


 ………未だに羅腕童子のこと言えてないです、はい。


 と、そこで縁さんが携帯を取り出した。

 短く画面を確認しているから、おそらく通話じゃなくてメールなんだろう。


「残念なお知らせだ」


 真剣な表情になった彼は皆に向き直った。



「第3班が壊滅したらしい」



 ……どうにも雲行きが怪しくなってきた。

 それだけはすぐにわかった。



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