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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.3.02 七夕の大祭
143/252

141.鬼にまつわるエトセトラ

 夏真っ盛り…というにはまだちょっと早いか。

 とはいえ今日で7月も2日目。

 梅雨明け宣言もまだだというのに暑い日差しの晴天の下、気温は軽く30度を超えている。

 地球温暖化が叫ばれて久しく、いくつかの試みを成功させながらもその歯止めはかかっていない。この暑さはそのためなんだろうか。


「……まぁそんなことはともかく、ここは天国だよなぁ~」


 ぐてー、と長テーブルに突っ伏しながらそんなことを一人ごちた。 

 何せちょっと設定温度は高いもののエアコン完備、しかも静か。インターネットだって出来るという至極快適な環境なのである。

 おそるべし図書館……ッ。


 と、いうわけで放課後、一度家に戻って夜の準備をしてから時間つぶしがてら近所の図書館にやってきていた。

 ここ、緑横丁みどりよこちょう図書館は昔からよく利用している。

 一昨年から立て直し工事を行っていて今年の四月になってようやく開館したのだが、インターネット用のコーナーがあったりとか、利用者カードかスマホを登録しておけば自動で貸し出しや返却まで出来るとか、随分と利用しやすくなっている。

 飲料を持ち込んだりはできないが、そこは専用の水飲み場もあるので問題ない。

 騒げないのが玉に疵だが、金のない学生がのんびりするにはもってこいの場所だ。

 出雲のマンションもエアコン完備なんだけども、さすがに家主が剣道場で汗を流している間、家でエアコンがんがん効かせてのんびりしているのはなんか申し訳ないし。


 ただ、目的もなくグデグデしにきただけでもない。

 期末試験も近いのでその勉強がてら、せっかくなので風土誌とか歴史文献なんかを漁りにきたのだ。以前言われていたことだけど、基本的に魔物は土地の逸話や由来から発生することが多い。

 今日から大祭での警護も始まることだし、鬼首神社のことも含めて情報を集めておきたい。


「………こう、命のやり取りする危険を夜に控えているのに、試験勉強の心配とかオレも大分染まってきた気がするなぁ」


 まだ巻き込まれるようになってから、二か月も経っていないから驚きだな。

 その短期間でいきなり死にかけた上に、狩り場デビューに、ボクシング対抗戦、羅腕童子、伊達との決戦、挙句の果てには鬼首神社でイベントに申込みと来たもんだ。

 本当、この調子で生きてたら絶対早死にしそうなくらいのペース。

 とりあえず勉強については気合を入れて集中し、1時間ほどで切り上げる。

 それから鬼関係の書籍を中心に数冊探してから机に戻った。


「さて、いっちょやりますか」


 かたっぱしから流し読みしていく。

 「鬼の伝承」「よもやま鬼話」「なぜ赤鬼は泣く必要があったのか」「各地の逸話に見る鬼の意義」……などなど。タイトル検索して鬼が入っていれば手当たり次第。


「や、奇遇やなぁ」

「…?」


 どれくらいしたのだろうか。

 机の上の本に集中しているところに声をかけられ顔を上げる。

 見知っている、にこやかな笑顔がそこにあった。

  

「あれ? 水鈴?」

「偶然やなぁ。こないなとこで会うやなんて」


 丸塚 水鈴。

 ジョーの妹で、オンラインゲーム部に所属する同級生でもある。


「この図書館にはよう来るん?」

「あー、うん。家から一番近い図書館だからね。水鈴も試験勉強?」

「も、ちゅうことはミッキーは試験勉強しとったんかぁ。

 こっちは残念ながら、新しい図書館で涼みに来ただけやったりする」


 彼女はなぜか得意げにそう言ってから、そこでオレが見ていた本に気づいた。


「変なもん読んどんなぁ。昔話みたいなんが好きやったりするん?」

「別に嫌いじゃないけど…今回はちょっと調べものがあってね、特別」

「ほぇ~」


 もちろん本当のことは話せないんだけど、上手く説明しづらいなぁ。

 幸いなことに、そこまで気になっていたわけではなかったらしく納得した感じで話題が変わった。


「あ、せやせや。ミッキーは夏休みの予定ってどないなっとる?」

「……まだ何も考えてなかった」


 さっきも言ったけどここ二か月取り込みっぱなしだったしなぁ。

 あんまり先のことを考えれなかったけど、そういえばもうすぐ夏休みなのか。

 水鈴は満面の笑みで、


「もしよかったらでええねんけど、海行かへん?」

「へ?」


 予想外のお誘いである。

 これはアレか! デートの誘いってやつか!!?

 ヤベ、テンションあがってきた!


「あんなぁ、実はうちの親戚のおっちゃんが海の家やっとるんや。そこのおっちゃんの家族総出でやっとるんやけど、さすがに夏の一番忙しい時期は数日バイト雇ってるんやけど、今年からこっちの学校に来たことやし、バイトせえへんかっていう話になってん。

 もう何人か必要やし、咲弥ちゃんとかにも声かけてみんなで行ったら楽しそうやん?」


 ………あー、なるほど。

 そういうことね。


 でもアレだな、デートのお誘いじゃなかったのは残念だけども、これはこれで楽しそうな話だ。

 そもそも団体で行くってことはそれだけ水着の女の子が増える!

 ひゃっほーぃ!


「……ミッキーって、わっかりやすいなぁ…。

 なんや、テーブルの下で小さく拳握るほど嬉しかったんか?」

「うぐ!?」

「ふふふ、ミッキーも健全な男の子やったちゅうことやね。詳しい日程がわかったらまた声かけるさかい待っといてな」

 

 水鈴はそう言って離れていった。

 うーん、海かぁ……。

 確かにもう海開きとかそういう話がニュースでやってたりする時期だもんなぁ。

 今年の夏は実に楽しみだ。


「っと、いかん。それはそれとして調べものを続けようっと」


 またしばらく集中する。

 そのまま午後5時くらいまで調べものをして図書館を後にした。

 10冊以上ぱらぱらと捲った中には全く参考にならないものもあったが、そのうち2冊ほどの内容は十分な収穫だった。

 それによると―――、


 今をさかのぼること千年近く前。

 流離いの大鬼がこの地を訪れた。

 その鬼は遠い地で強敵に敗れ復讐の念に燃えていた。

 より強く、より強く、そうなれる方法を探して当てもなく彷徨っていたらしい。


 だがたとえ手負いであろうとも鬼がやってきたことは事実、この地の人々は恐れおののいた。

 鬼はこの地にある山に居座り、力をつけるために人間を喰らい始める。

 人々の要請を受けて腕自慢の武芸者や武士たちが度々討伐に赴いたが誰も戻らない。


 そんなある日、旅人がこの地を訪れ、困っている人々を見かねた彼は山に赴いた。

 具体的に何を言ったのかは不明だが、大層弁の立つ旅人は言葉巧みに鬼を惑わし、結果その鬼は五体をバラバラにされて山に封じられることとなった。

 人々はその鬼が二度と蘇らぬように、この地に神社を作って旅人を神主とする。


 ―――こうして鬼首神社が誕生したのだ。


「随分由緒の正しい神社だったのな……」


 具体的にどんな鬼であったのか、というのはちょっと情報がなくてわからなかったのだけどもこの逸話の内容からするとさぞ凄い鬼であったに違いない。

 かの鬼の荒ぶる魂を沈めて蘇らぬようにするのが鬼首大祭。

 そう思うと今回の依頼って何気に大変な話なんだなぁ、と実感する。



 図書館を出発し電車を乗り継いでいく。



 もうすぐ6時になろうかという時間帯だけあって、駅は帰宅する社会人たちが増え始めていた。幸いまだそこまでの混み具合でもなかったので座ることができたけども、もう少し遅かったら満員電車に乗ることになっていたかもしれない。


【ふむ、今のうちに確認しておいたほうがよさそうじゃの】


「……?」


 急行電車に揺られながら景色を見ていると、エッセの言葉が頭に届いた。


【戦いを行うのならば、その前にしっかりと伝えておかねばならぬことがある。

 具体的には“簒奪帝テートラヘレ・インペラトール”と、再生能力の使用に関してじゃな】


 ………? 何、今度の戦いは使わないで勝て、的な話?


【まぁ近いの】


 ええええ、うっそぉぉ!?

 冗談だったのに!


【正しくは今後を見据えて制限をかけるがよい、という話じゃ。

 ひとまず聞くがよい。

 まず再生能力についてじゃが、どうしてもというときには使っても構わん。じゃがこれまでのおぬしの使い方を見ると、そもそも使う方を制限したほうがよかろう】


 オレの使い方?


【うむ。おぬしが羅腕童子から奪ったのはあくまで鬼の再生能力、その中でも弱いものじゃ。無論雑魚の鬼であればそもそも再生能力を持っておらんわけじゃが】


 そういえば確かに、自動再生(弱)ってなってたな。


【例えば切り傷などを負って普通に治す分には問題ない。

 じゃがおぬしは欠損した部位や、重度の損傷にもその能力を用いておった。再生効率と速度の悪い能力に対して過剰に霊力を注ぎ込むことで無理矢理回復を促進させてな。

 その危険性を自覚しておらぬじゃろう?】


 淡々とエッセは続ける。


【そうじゃな……わかりやすく説明してやるゆえ、住宅を想像するがよい。

 おぬしの体が家じゃとして、それが壊れたとする。ならば直さねばならぬ。

 ここでさっきのおぬしの直し方は、それぞれ別々の場所から人間を連れてきて、とある者には浴室を、とある者には東面の外壁を、とある者には窓を、そんな感じでバラバラに人間を手配して好き勝手に直させる感じじゃな。

 じゃがそれぞれが勝手に資材を運び込み勝手に工事を行うから、工事がバッティングして止まったり他の工事に配慮せぬから終わったら部屋と部屋の床の高さが違っておるとか、不具合が出る。

 結果としてなんとか元通り住める家になったとしても無理が出る。

 おぬしが“医狂クレイジー・リペア”に運ばれ治療されることになった症状、あれの半分はこれが原因じゃ】


 ……え、それって自動再生(弱)を過剰稼働させて無理に体を治した結果、癌細胞が出来てたり色々してたってこと?


【うむ。対して鬼の再生能力でもっと強いものであれば、大工の頭に家を直してもらうのに等しいじゃろう。全体の完成図を基に工事が滞らぬ順序で互いに無理が出ぬよう効率よく仕上げていく。結果過剰な人員が不要となる。

 今後を考えれば、どうしてもというときにはこっちを使っていくべきじゃろう。

 つまるところ、今回はせっかくの鬼が出てくる可能性の高い祭りなのじゃ。

 今持っておる再生能力は使わぬために傷を負わぬように戦うこと、そしてさらに強力な再生能力を奪うことを目的に追加してもらいたい】


 ふむふむ。

 確かに最近は再生能力があるから小さい傷を気にしないで戦ってた感じだな。

 もうちょっと基本に立ち返って、今回は攻撃をうまいこと避けるようにするか。

 最初の狩場ではあんなに攻撃怖がって避けてたのになぁ……慣れって怖い、反省しとこう。


【次に“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”じゃが……すまぬ。

 こっちの原因はわらわじゃな】


 申し訳なさそうに声のトーンが変わった。


【あの日、おぬしが最後に“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”の力を使ったときのこと、覚えておるかの?】


 忘れるわけがない。

 伊達と決着をつけたあの夜。

 エッセとの戦い、出雲や綾たちとのやり取り。

 思い出す度に恥ずかしくてちょっと逃げ出したくなるような記憶ではあるけれど。


【あの折、わらわは管理者としての力の一部を敢えて“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”に奪わせた。そして“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”が綻んだ一瞬を突いて、内側に眠るわらわの力を核として再びその力を取り戻した】


 確かになんか銀色っぽい光が“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”から力を抜き取って包み込んでたな……。


【今もわらわの力は一部おぬしの中に残っておる。ゆえにわかるのじゃが……あれがおぬしの“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”に悪影響を及ぼしておるよう。

 目の前にあるご馳走を喰らおうとして齧り付いたら、強引に口を開かされ取り上げられた獣のような状態じゃ。眠っておる分には問題ないが、もし使おうとして呼び起こせばおそらく“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”はこれまで以上に荒れ狂う。

 おぬしがそれを制御できるかどうか、一抹の不安を覚える】


 ………いくら投げ槍だったとはいえ、すでにあの日の時点で半分制御不能だったんですけども。

 あれ以上荒れ狂ったりするんだろうか……。


【おぬしの本質である以上、どこまでいってもおぬしとは離れられぬ。ただ本質であってあくまでそれ以上ではないのが問題じゃ。

 主導権を魂の本能に奪われれば、おぬしの理性や意識を凌駕される可能性もある。

 ゆえにしばらくは極力使用を控え、どうしても“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”を使う際は常に小さく抑えて使う意識を持つがよい。

 わらわのほうでも少し制御しやすいように手を入れておく】


 確かに“簒奪帝デートレヘレ・インペラトール”自体は能力として使い勝手が良すぎるもんなぁ…。燃費の問題はあるけど、その燃料そのものを相手から奪えるんだから余程不味い状況でなければ半分くらい解決してるも同然だし。

 今聞いた、現状では制御に関しての落とし穴がある、と言われてもこれだけメリットがあればそれくらいのリスクはあるだろ、と意外と納得してしまった。


「話はわかった。ま、とりあえず今ある技能でなんとかなるレベルの敵だろうし、さっき決めた通り再生能力を持った敵から奪うときにだけ使うようにするよ」


 使いこなせない。

 それは、今はまだ、という話だ。 

 いつか使いこなせるように頑張ればいいだけだろ。


 そう無理矢理前向きな気持ちを呼び起こしながら、オレは駅に停車した急行電車から降りた。




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