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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.3.02 七夕の大祭
142/252

140.特殊ルール

 正直そわそわして落ち着かなかった。

 生きた心地がしない、というのはこのことだろうか。

 あのときの痛みはまだ覚えている。生きながらに肉を抉られ骨を引き抜かれる感触を忘れられるはずがない。

 だというのに、


「やー、奇遇ぐゎーやさ。がんじゅーやたんか」

「師匠~。それ~、一般の人にはわからないよ~」

「……はい、すみません。何言ってるんだかさっぱりわかりません」


 予想外にフレンドリーに話しかけられてビビりつつ返した。


「それもそうかー。仕方ない、そっちに合わせよう」

「お手数かけます」


 とりあえずある程度、標準語にしてくれたので一安心。

 ひとまず日向ちゃんと涼彦君はもとより、比嘉さんにも改めて自己紹介をし、


「………ひ、比嘉さんはなんでここに…」

「勿論、依頼を受けに来てるのさ」

「いや、そうではなくて……」


 確かオレを狩り出すのに参加した主人公プレイヤーは、“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”で奪いつくしたはず………ふと、そう思ったところで引っ掛かりを覚える。

 あれ?

 思い返してみると、目の前の男のような素手の主人公プレイヤーってあの部活棟にいなかったような……。


「ま、前にオレと戦ったときのことは覚えてます?」

「勿論さー。犬が出てきたのまでばっちりさー」


 ワルフはよほど印象に残っていたらしい。


「……その後、見かけなかったんですが、どうされてました?」

「?」

「えっとですね…」


 あの後、伊達に捕まったこと。

 それから脱出して何とか事なきを得たこと。

 さすがにエッセのこととか“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”のことを馬鹿正直に話すわけにもいかないので、そんな感じにボカして伝える。


「あー、三木は捕まっていたのかー。実はそのときに“千殺弓”が仕留めたって報告をみんなにしたから、子飼いの連中以外の主人公プレイヤーは帰されちまったんさー。

 元々先着のイベントで倒した奴が全部貰える話だったから仕方ないけど、成功報酬もらえなくて皆がっかりして帰ったさー」


 つまり、見かけなかった主人公プレイヤーは帰ってたってことか。確かにあのとき“境界渡し”とか姿を見てない連中もいたし、納得だ。


「あれ? でもそうなると三木を今からでも倒せば……」

「いやいやいやいや、詳しい事情は内緒ですが!

 賞金云々はあのとき限定でしたんで! もう意味ないですよ! ノーサイドです!!」


 今更襲われるとか嫌すぎるので必死に否定する。

 と、そこでさっきの受付の人と、神主さんと思しき風格のあるおじさんが入ってきた。入口付近で話し込んでいたオレたちをちらっと見てきたので、慌てて離れて席につく。


「あー、コホン。本日は我が鬼首神社の大祭に際し依頼を受けて下さって感謝する。

 これより詳しい内容についての説明を行いたいと思う。無論詳しい説明を行った後、実際受けるかどうかの判断を下して頂いても構わない。違約金などなしに辞退できるので安心してもらいたい。

 初めての方もいらっしゃるようなので言っておくと、これは今回の警護依頼が、鬼首大祭のために少々特殊なものになっているという理由のためだ。

 逆に説明を受けた後、そのまま参加される場合は依頼を受けたものと見做されるため、そこからの辞退はそれぞれの評判に繋がると思われるので心して頂きたい」


 うーん、なんかドキドキしてきたな。

 内容を聞いてから参加かどうか決めれるのはちょっと安心だけども。


「内容としては警備の仕事、とさせて頂いた。これは間違いではない。

 鬼首神社のある山中において重要地点となる4か所にそれぞれ警護についてもらい、そこに出てくる怪異を相手にしてもらうことになる。

 この鬼首神社は、とある大鬼の荒ぶる魂を慰めるために作られたもの。その4か所にはその御霊の一部が眠っておる。それらの御霊を7日まで守り抜くこと、それが今回の骨子なのである」


 ふんふん。

 まぁ系列の神社ですら羅腕童子みたいな高レベルの妖怪というのか魔物というのか、そんな感じの鬼が封じられてたもんなぁ。その総本山となるときっとさぞゴツいのが……。


「ただし先ほど述べたようにひとつだけ事情がある。

 先ほど述べたように、特殊な要因だ。それはそれぞれの拠点の守り方にある。それぞれの守り方は“鬼が決める”のだ」


 ……え? 鬼が、決める???

 それを聞いて半分くらいが頭に疑問符を浮かべている。

 おそらく疑問に思っていない残りの半分は過去の鬼首大祭の経験者なのだろう。


「例えば昨年であれば、地形がメインとなっていた。襲撃してくる鬼よりも低いところにいると、強さが倍増、逆に鬼よりも高いところにいると鬼は強さを損なう。

 一昨年であれば鬼によって指定の色に強い種類が混ざっており、指定の色を身に着けているか触っているかしないと優先的に狙われたり、力を吸われたり、様々なデメリットを負うこととなっていた」


 ……うわ。

 何、そのうまいこと立ち回らないと苦労しますよ的な話は。

 

「警護、というのは毎年同じ、しかしそれぞれの年の鬼が決めたルールによってその難易度が変わる。戦闘能力の高い方は力押しするのも良いかと思うのが、そうでない方は出来る限りルールを把握しうまく利用するのが肝要かと」


 一応対応レベル的には問題なく戦えるはずなんだけども、ルールによって不利になったりすると場合によっては“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”も使わないといけないかもしれない。


「尚、具体的な警護内容としましては、夜の8時から11時までの3時間。ただ本日はこの説明の後、それぞれの実力を確認し、どの地点の警護をするのかという班分けをして解散しますので、明日からが本格的な警護となります。

 明日の7時にここに集合してもらい、それぞれの拠点まで移動しながら“鬼”による今年のルール説明がされる。

 ここまではよろしいかな?」


 説明役の人が室内をぐるっと見回したが、特に誰も質問はしなかった。

 話は続いていく。


「依頼文にも書いた通り、倒した怪異が落としたものについてはご自由にして頂いて構わない。

 終了時に拠点を守り切った人たちのうち、討伐数や倒した怪異の強さに応じて順位をつけさせてもらい、上位の方には通常報酬とは別に特別報酬が支払われる

 具体的な報酬の内容は控えるが、皆のお役にたつものであることは間違いないだろう」


 そこで話を切り、改めて依頼を辞退したい人がいないか確認された。

 おそらく初参加であっただろう人のうち4人ほどが退出。残ったのはオレを入れて19人。まぁその人たちは確かに微妙に脳筋っぽい感じの連中だったので、こういう純粋戦闘能力以外の要素が要求されるとうまく立ち回るとか出来ないだろうけども。


【ほぅ…おぬしはさぞ自信があるのじゃろうなぁ? 楽しみにしておくとしようかの】


 ………せっかく現実逃避してたのに!


 ざっと見回すと、さすがに比嘉さんはどこ吹く風といった感じだった。あの強さがあったら力押しでもよさそうだし。

 日向ちゃんと涼彦君も、ちょっと不安そうに見えるが勇気を振り絞って残っていた。

 偉いなぁ。

 中学くらいのときにこれに参加しろ、って言われてたらオレなんかすぐに辞退してる自信があるのに。

 ん? なんか比嘉さんが日向ちゃんたちに話しかけてるな。もしかして戦いの心得でも教えてるんだろうか。さすが師匠だけのことはある。

 オレもあんな頼れる師匠がいたらなぁ……。


【ふむ、それはわらわへの挑戦じゃな?

 わらわではおぬしの人生を指し示すには足りぬとそう言いたいわけじゃな!?】


 いやいやいや! 滅相もない!

 思ってないから、左手熱するのやめて!!?

 こんなところで叫んだら変人扱いされちゃうよ!?


「では他の方は参加と判断させてもらう。これから場所を移動してもらい、修練場へ参る。そこで各々の実力や得手不得手を確認し、どこを守るかの班分けをするのだ。もし予めパーティーを組んでいる方々がいるのであれば、その際に知らせてくれ。

 班分けを終了し次第、今日の分の報酬をお渡しして本日は解散となる」


 初日は特に戦ったりしないでもいいのに報酬がもらえるのかぁ、ありがたい。

 確か1日あたり100Pだったかな?

 今のレートがいくつかはわからないけど、およそ二万円ちょいってトコだ。

 戦いアリだとちょっと物足りない額だけど、これとは別にドロップアイテムも手に入ると思えばそう悪くはない。

 みんな席を立つと誘導に従って、ぞろぞろと外に出始めた。

 修練場はすぐ近くにあった。

 まぁ修練場と言えば聞こえはいいが、周囲を塀で囲んで巻き藁がいくつも備え付けられているだけで地面が丸見えな場所だ。


「……神社の裏手に修練場とか、一般の人が見たらびっくりだよなぁ」


 そこでそれぞれ名前を呼ばれ、得手不得手を確認される。

 その上で攻撃手段を持っている者については、巻き藁に攻撃を出すように言われ、判定員らしきちょっと顔のいかついおっちゃんの見ている前で披露させられる。

 術師系で攻撃手段のない人については、別のおっちゃんに援護なり回復なりをかけてもらうかして効果を確かめている。


 どすっ!!!


 比嘉さんが貫手で巻き藁を突き破っている。

 ホント、もう二度と喰らいたくないよな、あれは。

 その弟子という日向ちゃんは普通にパンチを出しており、巻き藁が結構ギシギシ言っている。さすがにあまりレベルは高くないのかな?

 涼彦君はおっちゃんに何か援護魔法かけてるから、きっと術師なんだろう。

 他にもちょっとした実力者っぽい人が何人かいたり、さすがイベント戦だけあって色々な人が来てるわ。


 そんで最後にオレの番が来た。

 とりあえず隠袋から三日月刀を取り出し、


 ざしゅっ!!


 見事巻き藁を切り落とした。

 その様子を見ながら何かを書類に記入するおっちゃん。その様子を見ながらふと疑問に思ったことを聞いてみた。


「……見たところ、そんなに人数いないみたいなんですけど、なんでオレが29番なんですかね?」


 さっき依頼を辞退した連中を含めても23人くらい。

 どう考えてもあと6人くらい足りない。


「ああ、それは縁起の悪い数字を除外したからさ。例えば死と聞こえる4とか、苦に似ている9とか、あとは13とかね」


 ああ、なるほど……。

 しかしオレは聞きたい。

 29ニクナンバーは縁起悪くないというのかと!!


 さて、そんなこんなでそれぞれの実力が判定された。


 オレは第4班に配属された。

 いや、もう予想してたけどね!!

 腕章のナンバーで縁起悪いの排除するくせいに、なんで班は4があるんだよぅ!?


「あ~、みつるにーさんだぁ~」

「偶然ですね。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしくね」


 奇遇にも日向ちゃんと涼彦君と一緒の班だ。

 生憎と比嘉さんは1班だったので別々だけどね。


「……っていうか、にーさん?」


 呼ばれたことなかったのでちょっと違和感を感じて聞き返してしまった。


「ん~、みつるに~さんは、みつるに~さんだし~?」

「すみません。日向は姉はいるんですが年上の兄弟がいないもので、ずっとおにーさんってものに憧れてたみたいで。もしよかったら、このままそう呼んでもいいですか?」

「…ま、まぁ別に構わないけど」

「ありがとうございます、充兄さん」


 お前も呼ぶのかよっ!?


【ふっふっふ、そう照れるでない】


 ……まぁ確かにちょっと保護欲そそられるというのか、なんか助けてやりたくなる二人組だけども。


 さてさて、そんなこんなで初日は無事に終了。

 報酬の100Pを受け取って8時に無事解散となった。




 実はその後、日向ちゃんのリクエストにより、涼彦を加えた3人で露店を回ることになった。

 念願の焼きもろこしをゲットして丸かじりしたり、金魚すくいの妙技を披露したりと楽しい時間を過ごしたのだった。

 ちなみに涼彦と射的で対決した際に、伊達から奪った射撃技能を使っていたという大人げない行為は内緒である。







【わらわのわた飴はどうなったのじゃ!?】


 ……あ。


  


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