130.色々あったので……?
通常、斡旋所に登録した全ての主人公は順位がつけられる。依頼達成や斡旋所主催のイベント、その他の貢献において評価されることによってこれは変動する。
わかりやすく言えば「正の評価」である。
それに対して「負の評価」というものが当然ながら存在する。
例えば斡旋所に対する妨害、殺害など他の主人公への禁則事項に抵触する行動、その他迷惑行為、被害などマイナス面の行状をポイントとして集計しその数についてつく順位。それこそが―――
―――逆上位者。
前述の順位についてはその集計の性格上、斡旋所加入者でなければならないが、逆上位者については加入の必要はない。上位者制度そのものが外向け用の広報を兼ねているのに対して、逆上位者制度は内側の加入者に対してこいつは危険だから気をつけろよと注意を促すものだからだ。
誤解を恐れずに噛み砕いて言えば魔物や重要NPCが悪事を働けば賞金首となり、主人公が悪事を働けば逆上位者となるようなものだと認識してもらえればよい。同じように悪名の高さを表すものには違いない。
他の主人公からは警戒されるだろうし斡旋所の多種多様な機能を利用することも出来ない。その悪名が一定を超えていればむしろ魔物と同様に賞金を懸けられる可能性すらある。
そう考えればこの逆上位者の称号によって得ることの出来るメリットはほとんどない。
まともな者であるのならば、という注釈はつくが。
逆上位者としての制約を気にすることのない、悪事を自ら行うような者にとってその悪名はむしろ望むところだ。
非合法な連中にとっては力こそが信奉。ならば逆上位者の名はそれを背負ってなお己の意を貫く力を有している証左とも取れる。身も蓋もない言い方をするのであればハッタリが効くという考え方ができるのだ。
他にもそういった影でなければ生きれない者たちとの接触もしやすくなるだろうし、斡旋所的には非合法でしか有り得ない依頼を受けれるようにもなる。
つまるところ逆上位者となったまま問題なしと活動している連中は、相応の力を持ち他者の庇護や協力を必要としない悪の道を往く者なのである。
「……以上、逆上位者の説明でした、っと」
スマートフォンを弄りつつ呟く。
やっぱり斡旋所の検索サービスは便利だよなぁ。
敵を知り味方を知れば百戦危うからず。
そんな格言もあることなので、人生カードゲームをやった翌日、つまり日曜日はようやく充電完了したスマートフォンを使い逆上位者について調べることにしたのだ。
ちなみにオレの人生カードゲームの最終結果は「夜間の線路清掃員」でした。くそ、なんてマイナーな職種を用意してやがるんだ、あいつら!
こっそり夜に忍び込んで来る線路オタクとの戦いに敗れて3ターン休みになったのは絶対忘れん。
次こそは絶対リベンジしてやる…!
【逆上位者はロクでもない連中、というのがわかっただけじゃったな】
「……言わないで」
思わず遠い目をしちゃうじゃないか。
まぁ調べた感想としては「あれ? 伊達って上位者じゃなくて逆上位者なんじゃね?だったのを否定しないくらいロクでもない感じでしたが。
【確かに悪事としては相応しかろうよ。じゃがおそらく逆上位者とされるためにはまずその悪事が斡旋所に露見せねばなるまい。
そのへんはしっかり情報封鎖をしていそうな男じゃったからの】
「だなぁ……。と言ってもわざわざ手勢に逆上位者がいたってことは、近かったことに変わりはないんだろうけど」
はぁ、先が思いやられるぜ……。
理由は逆上位者の件じゃないんだけどね。
「なぁ、エッセー、これってどういうことよー」
逆上位者を調べる前に見ていたステータスチェッカーのアプリ。それを再度起動させたスマートフォンの画面をひらひらとさせてみる。
そこに表示されていたオレのステータスは以下の通りだ。
三木 充
称号:な し
年齢:16
身長:170センチ
体重:65.9キロ
状態:良好
種別:主人公(重)▼
属性:???/???/???/???
斡旋所ランク:8級
評価ポイント(貢献ポイント):400(400)/800
筋力:27/68
敏捷:10/59
巧緻:10/52
技術:10/56
極め:18/36
知力:9/38
生命:21/46
精神:18/38
霊力:213/30
魔力:5/38
運勢:■ ■ ■
所持金(P)/借金(P):52740/22700
総合Lv:40
所有職:
逸脱した者 LV.40
武芸者 Lv.25
潜伏師 LV.3
拳闘士 LV.17
技能:
杖 15.27
刀 25.28
鎖鎌 17.10
槍 18.11
十手 12.32
見切り 20.52
投擲 28.14
狙撃 48.12
弓(和洋) 47.21
話術(詐欺) 21.76
体捌き 18.11
拳闘 17.88
組み技 23.32
物理隠密(小) 3.12
気配隠密(小) 0.98
感知 11.97
魔術 22.87
陰陽術 32.92
特殊:
簒奪帝
自動再生(弱)
重心制御
煙狼召喚
暗視像
威圧
傲慢なる門
技:
与一の毀矢
無限の矢
武器:な し
防具:な し
その他:河童の軟膏(10)、制氣薬(2)、百眼の小手、
雷上動、水破、兵破、曲ツ矢(20)、三日月刀、隠袋
なんというステータス。
いやぁ、ツッコミどころが多すぎてどこから聞いたものか悩むくらいだ。
確か前に確認したのはエッセと戦う前。
伊達と戦った直後だ。
あのときとステータスが違いすぎてガックリしてしまう。
【色々あったのじゃから仕方なかろう。ひとつひとつ説明してやるから大人しくしておれ】
エッセがまず種別の欄を示した。
【主人公から存在を奪いあげたわけじゃから、種別が主人公になっておるのはわかるじゃろう? その右に出ておるのは、その存在が重なっておることを示しておる。
要は複数の主人公の塊、というわけじゃな。無論それぞれの主人公によって存在の中で反発し合う部分もあるから単純に吸収した数分だけ倍増、というわけではないが、少なくとも数倍はあるのじゃろう】
「それって何かいいことあるの?」
【まぁ……そうじゃな、よく言えば運がよくなる】
「悪く言えば?」
【片っ端から事件に巻き込まれる】
「やっぱりかぁぁぁぁぁっ!!?」
アレか、アレですか!?
毎回どこかに行く度に殺人事件が巻き起こるどっかの名探偵みたいなああいうことなんですか!?
【今までと変わらんじゃろ】
さらっと流されたよ……。
「……んで、この能力値のところの表記って何?」
なんか何分の何、みたいな感じの表記なんだけど。
【左側が現時点での能力値、右側が“簒奪帝”起動時の最大値じゃ】
「……どゆこと?」
【おぬしは能力値を奪うことが出来る。じゃがその消化もせねば使えぬ、ということじゃな。“簒奪帝”を使用しておる最中はどのような能力であれ奪えば即座に使えるじゃろうが、発動を止めてしまえば元に戻る。じゃがその能力値そのものはおぬしの中にあるわけじゃから、“簒奪帝”を介さずとも使うことができるようになる。
そのために鍛錬が必要じゃ。
とどのつまり、能力を使っておらぬおぬしは左の能力値じゃが、普通に鍛えれば右まで能力値を上げることができるというわけじゃ】
「……えー。鍛えないと使えないのー? 意味ないじゃーん」
ぶーぶー。
“簒奪帝”のいいところは奪ったら楽して使えるようになるところだと思いたいのに、鍛えないといけないなら別に“簒奪帝”で奪う意味ないんじゃないだろうか?
【何を言っておる。ちゃんと意味があるぞ。
そもそも種族や個人によって能力値の限界は決まっておる。じゃがおぬしは“簒奪帝”で最大値を伸ばしてやればその限界を理論上はほぼ無制限に外すことが出来る。
努力次第でいくらでも成長できる、というのは紛れも無い奇跡ではないか。
それに先程も言うたが奪った能力値は完全に身になっておらぬだけでなくなっておるわけではない。内側に眠っておるがゆえに、最大値までは能力値が伸びやすくなっておろう。
主人公種別による成長率補正を加味すれば、元のおぬしの10倍は下るまい】
1日筋トレしたら10日分の効果ってことか。
それはなかなかいいな。
つまり1日だけトレーニングしたら9日休み放題!
そう! 毎日が夏休みだ!
【…………まぁよい。ただ霊力については奪ったものがそのまま使える。これについては霊力だから、としか言いようがないの。そもそも純粋な生体エネルギーじゃから使うのに際してわざわざ自分用にカスタマイズする必要がないのじゃろう。
ゆえにおぬしが通常生み出す霊力の量が右の最大値となって、奪った分が加算された左通常値がそれを超えておると。一度0まで使ってしまえば右の最大値までしか回復はせぬから気をつけることじゃ】
「あと運勢がなんかわけのわからない感じに化けてるんですけども……」
【それについてはわらわもわからん。まぁ元々おぬしの運勢は明らかにおかしかったからの。そこに主人公の豪運が足されてわけのわからんことになっておるのじゃろう。
なに、“逸脱した者”なのじゃから能力値の1項目くらい逸脱しておっても構うまい】
…そういう問題なの?
「あとちょっと質問なんだけども。
ほら、技能を結構たくさん奪ったでしょ? それはいいんだけど、普通それに対応して職業付くじゃない? なんだけど奪った奴に関してはついてないんだよねぇ」
例えば拳闘の技能を3にしたら拳闘士のレベルが3になるように技能と職業は連動している。
にも関わらず奪った技能については職業が連動していないものがあるのだ。
【それも練度の問題じゃな。そもそも技能のレベルはそこまでそれに関する技術が上がった、というだけであって、それを上手いこと使いこなすことで職となる。
そうじゃな……釣りの技術を持っていたとしても、釣り上げた魚の売却までせねば漁師さんとは言えぬであろう?
おぬしは確かに技能を奪った。あとはそれをそれぞれ特定の用途に使っていけば、それに適した職業をおのずと得ておるじゃろう。
あと術関係に関しては、術が使えるようになったとしても道具やら知識やらも関わってくる。もしそちらの職業を取るのであれば、技能があるにせよしっかりと基礎を学んだほうがよいとは思うぞ】
なるほど。
そしてここからが一番の問題だ。
「何かお金が凄いことになっているんですが!!?」
いつの間にか52740Pも持ってることになってる。
金持ち過ぎる。借金する必要なかったんじゃ、ってくらいだ。
【ふっふっふ、ようやく気づいたかの。
そもそもペクーニア通貨というのは一般NPCには使えぬものじゃ。ならばおぬしにNPCにされてしもうた主人公たちの通貨はどこへいったのか。考えれば自ずとわかるじゃろう?】
「でも伊達と戦った直後はこんなに無かったような……?」
【まだ“簒奪帝”が起動しておったからの。そもそも実体のない電子マネーであるペクーニア通貨は奪った段階ではただの通貨概念の数字に過ぎぬ。解除された後ステータスへに載って初めて通貨として認識されたのじゃろう。
無論“簒奪帝”起動中に通貨の欄を変更しようと意識しておれば同じように変わったじゃろうがな】
うーん。
まぁいいや。
深く考えてもどうしようもないしな。
とりあえずまずしなきゃいけないのは―――
「―――忘れないうちに出雲にお金返しておくか」
金銭の貸し借りはちゃんとしておかないと人間関係破綻をきたすからねぇ。
とりあえず借金を返して綺麗な身になれそうなので、ほっと安堵した。




