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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.3.01 取り戻した日常
130/252

128.必要なのは状況把握


 さて、とりあえず依頼をひとつ受けることにした。

 内容は以下の通りだ。


 『清き源』

  推奨技能:戦闘系、隠密系、探索系

  期限:1ヶ月

  報酬(P):3000

  評価・貢献ポイント:150

  音無川の源流に“水霊みずみたまの洞”と呼ばれる洞窟がある。

  その最奥に眠る水翠晶を取ってきてもらいたい。

  情報によれば河童の一族の生息地となっているらしいので戦闘の対策が必要と思われる。


 じゃじゃーん!

 そう何を隠そうついにやってきました初ダンジョンでございます!

 一応オンラインゲームではやったけどリアルでダンジョンってのは初めてなのでドキドキわくわくだね。推奨技能に関しては戦闘系と隠密系は持っているので問題なし。探索系がないのがちょっと心配だけど、どうやら8級になってようやく受けられる初歩ダンジョンらしいのでまぁなんとかなるだろう。

 適正レベルが15くらいなので、そこからすれば力押しが出来るくらいだ。これくらいなら探査技能くらいなくても一番最初のダンジョンで詰まるとかはないだろ。


【楽天的過ぎぬか? とはいえいずれ通る道じゃ、一度経験しておくのは悪くあるまい】


 報酬も悪くないしね。

 3000Pといえば日本円にして…あれ、今レートいくつだっけ? まぁいいや。以前確認したのだと日本円にして60万円以上だ。借金返済への道をいざ行かん!


【借金返済、か…くくく】


「? どしたの?」


【いや、失礼した。気にするでないぞ】


 意味深に笑われると何か気になるけど、まぁそれはそれだ。

 とりあえず情報交換の集まりもあることだし、オレは急いで出雲のマンションへ戻っていった。

 時刻は12時半くらい。

 1時からの集まりだからそろそろ誰かしらやってきて、のんびりしているのではないだろうか。 


 ガチャリ。


 だがそんな予測は甘かったことをするに知ることとなった。

 扉を開けると聞こえてきたのは正に阿鼻叫喚。


「……あー! しまった! まさかそこで止められるだなんて!」

「ふふふ…重畳の出来です。綾さん、この封鎖……簡単に解けるとは思わないで下さいまし」

「出口がそこで止められると入っても団子か…さすがに諦めて先を急いだほうがよさそうだな」

「まだ一周終わったばかり。勝負はわからない」


 悲喜こもごもの声。

 まぁ和気あいあいとした感じなので何かをみんなでやっているんだろう。

 一体何をしていらっしゃるのやら。

 頭に疑問符を浮かべつつ廊下を進んでリビングへと進む。


 そこでは出雲、綾、月音先輩、咲弥の4人が何かマップのようなものを広げているところだった。どうもマップ上に駒やらその周囲にカードやらがあるところを見るとボードゲームをしていたらしい。


「ただいま~」

「充か。おかえり。どこ行ってたんだ?」

「ちょっと色々確認することがあって斡旋所ギルドまで、ね。そっちこそ何か愉しそうなことやってるねぇ。玄関まで声が聞こえてたよ」

「ああ、これだ」


 出雲は笑って脇に置いてあったボードゲームの箱を手に取り、そのタイトルを見せてくれた。

 あー、これは……。


「戦車ゲーム?」

「そうだ。昔よくやっただろう?」

「覚えてるよ。そして毎回負けてたのもね!」


 外国製の戦車ゲーム。

 まぁ戦車といっても近代用いられるような大砲がついたやつではなく、古代に使われていた馬に引かせたタイプのやつ。

 マップにマス目があって山から引いた手札のうち好きなものの数だけ進んでいく。そのまま3周やってトップの奴が勝つ、というレースゲームのようなもの。

 作られたのはもうかなり昔の歴史ある(?)ボードゲームなのだ。

 うちの父親がこういった西洋のボードゲームが好きでコレクションしていたのを中学にあがるときにもらって以後、出雲のところに持ち込んでよく遊んでいたのだが、そのうち持ってくるのが面倒になって置きっぱなしになってたんだっけ……。


【……どうした?】


「…いや、ちょっとね」


 うぅ、いかん、家族で別のボードゲーム遊んだときのこと思い出して切なくなってきた。

 割り切ったはずなんだけどなぁ……女々しいにも程があるよ、まったく。

 とりあえず気を取り直して、と。

 前に出雲たちと戦車ゲームをやったのは受験よりずっと前だったから、もう2年ぶりくらいか?

 懐かしいなぁ。

 出雲に聞いてみると、女性陣が用意してくれたお握りと味噌汁があるらしいのでキッチンから持ってきて食べながら、ゲームを終えるのを待つ。

 1ゲーム30分から1時間ほどなのであっさりと終了。タイミングよく食事を終えた。


「ふふふ、お疲れさまでした」

「届かなかったか……」

「なんとか最下位だけは免れたからよし!ね」

「ま、まさか最後そんなオチ……ッ! うわーん、ミッキーちゃん!」

「はいはい、残念だったね」


 ちなみに1位月音先輩、2位出雲、3位綾、4位咲弥。途中まで咲弥がトップだったんだけど策に溺れたというか、無理に2位だった月音先輩を押さえ込もうとしてコース選択を誤った結果、3位の出雲に押さえ込まれ最下位までドボンしちゃったという劇的な展開である。

 ひとまず決着がついた、ということでいよいよ情報交換となった。


「あー、ちなみに隠身さんは?」

「隠身ちゃんと葛城さんは用事があるとかで来ないよ。一応誘ったんだけどね」


 へぇ。葛城さん、ってあの赤毛の人かな?

 まぁ綾の知り合いみたいだしそのうち紹介してもらう機会があれば話せばいいか。

 退院祝いにも居なかったので今日はいなくてもヨシとしよう。


「あいよ……いよいよ情報の共有だな。特に問題が無ければオレのほうからまず知ってることを話して、その後出雲、咲弥、綾、月音先輩と、それぞれが知ってることとか教えてもらう感じでいい?」

「ああ、それでいいだろう。そもそもどの情報が重要でどの情報の優先度が低いのかもわからないからな。メインであるお前に起こったことを1から今日までまず説明してもらって、それから他の人間は言うべき情報を判断してもらったほうがいい」

「じゃあ―――」


【―――わらわの紹介からじゃな】


 止める間もなく目の前が淡く輝いてエッセが顕現する。

 出雲たちが思わず身構えるが一度顔を合わせているせいか、咲弥以外はエッセだとわかると警戒を解いた。咲弥も他のメンバーが構えを解いたのを見て少し警戒を緩める。


【いつぞやは世話になった。初対面の者もおるでの、改めて名乗ろう。

 わらわはエッセ。今から話す内容を聞けばわらわが何者かはわかるじゃろう】


「………ッ」

「気持ちはわかるけど、出てくるなら出てくるでもうちょっと事前に……」


【小さいことを言うでない、大和男子やまとおのこじゃろうが】


 さすがにエッセみたいな明らかに日本人じゃない人に、大和男子なんて古い言い回しをされると思わずびっくりしてしまい戸惑うなぁ。

 声に冗談めかした響きを感じた咲弥も毒気を抜かれ、少し笑顔が浮かぶ。


 さて、ようやくこれでメンツが揃った。

 じゃあ何から話したものかな。

 とりあえずオレは本当の最初、つまりオンラインゲーム部に入った日のことから話し始めた。オレからだけでは説明しづらいところはエッセにも補足してもらう。

 夜に走り込みにいったところ伊達と出雲対羅腕童子との戦いに巻き込まれ死にそうになったこと。そこからエッセと出会ったこと。

 なぜか『創造者クリエイター』のことは話さなかった。なんでかと言われればなんとなくとしか言いようがないのだけど言ったら何かが不味い、そんな気がしたのは確かだ。

 エッセから聞かされたNPC、重要NPC、主人公プレイヤーとの関係。このへんは主人公プレイヤーである出雲や咲弥は周知、伊達との関わりがあった月音先輩も薄々気づいていたので、一番驚いたのは綾だった。

 そこから狩場での修行、ボクシングの対抗戦、と続き対抗戦の後担ぎ込まれた病院から帰る際、羅腕童子に襲われなんとか撃退したところまで話した。

 そしてさらに続く。

 エッセがオレを庇って消滅、そのショックで“簒奪公デートラヘレ・ドゥクス”が目覚め、その力をもって羅腕童子を打ち破ったこと。だが同時に伸びた“逸脱した者ハエレティクス”の効果により種別が重要NPCになってしまい結果家族との繋がりが途切れたこと。

 このへんはさっき知ったことも含めてわかりやすく辿っていく。


「……それで家の位置がわからなかったのですね」

「水臭いな。そういうときは俺たちを頼ればよいだろうに」

「今考えるとそうなんだけどさぁ。さすがに忘れられてると思ってたら怖くて連絡出来なかったんだよ。パニック起こしてたし」


 自暴自棄になっていたときにモーガンさんに拉致され煙狼ワルフと出会って、八束さんに能力について色々教えてもらったこと。このへんを聞いてようやく主人公プレイヤー連中は納得したような顔になる。まぁ“神話遺産ミュートロギア・ヘレディウム”ってのはそれくらい警戒しなきゃいけない相手だってことなんだろう。

 で、学校で伊達に待ち伏せされ逃げ惑い戦い捕まった後、“簒奪公デートラヘレ・ドゥクス”を完全に掌握し“簒奪帝デートラヘレ・インペラトール”として使えるようになったこと。あのときの黒い鎧とか体にまとわりついていた液体みたいなのはその能力だと説明する。ちなみに使えるようになった切っ掛けとかは話さない。

 まさか綾が捕まってると思って大人しく捕らえられ拷問された挙句、殺されたと勘違いしてキレまくったとかいろんな意味で恥ずかしいし!

 伊達との最終決戦、そしてエッセとの戦いを経て、皆に止めてもらうまでの話をひとしきり終えたところで話が止まった。

 話が終わっても少しの間、内容を噛み砕いているのか皆は沈黙している。


「ミッキーちゃん、密度の濃い2ヶ月だね」


 ぼそ、と咲弥がもらした素直な感想に皆うんうんと頷く。


「確かにねぇ。この密度で生活してたら10年もしたら気が狂いそうなヤバさだわ」

「並みの主人公プレイヤーじゃそこまで密度の濃い生き方はできないだろう。そういう意味でも逸脱しているのは間違いなさそうだな」


【充の話としてはこんなところじゃな。さて次は……】


 話し手が出雲に変わる。 

 

「時系列としては充が伊達に待ち伏せされた前日か。伊達に協力した“境界渡し”謹製の転移に引っかかって隣町の廃屋に飛ばされていた。そこで半日ほど1位の轟と戦ってから学校へ向かい、エッセさんや皆と合流。充の状態を効いて共に止めに行った。以上だ」

「あいあい……って、サラっと言ったけどツッコミどころいくつかあるぞ、それ!?」

「? そうか? 罠にかかって充が待ち伏せされたときに助けに行けなかったことについては申し訳ないと言うしかないが」

「いや、そこじゃなくてね!?」


【確認したいところがあるのはわかるが、大筋はそれで間違いあるまい。仔細はまた別の機会に聞くとして次にいかぬか?】


「うぐぐ……」


 そのまま話し手が咲弥へ。

 内容としては以前聞いたのと同じように咲弥と姉の聖奈の話だ。伊達に追われる中オレと分かれた後は結界を突破して出雲を呼びにいったけど入れ違いだったらしいのは昨日も聞いている。ただ話の中で多分鎮馬は蘇生ポイントで蘇生中だという話を聞いたので一安心。実は気になってたんだけど、どう聞いていいかわからなかったので助かった。


「蘇生ポイントって何?」

「んーとね、いくらか費用を支払っておくことで一定以上の術を使える術者がいる特定の宗教施設を死亡時の蘇生地点に設定できるの。それが蘇生ポイント。

 鎮馬の場合はどこかお寺に設定してあるって言ってた。場所知らない」


 そんなのがあるんだなぁ。

 寺の場所が分かっていたら見舞いにいけたんだけど場所がわからない以上どうしようもない。まぁそのうち連絡あるだろう。

 主人公プレイヤー属性を手に入れた以上はオレもその蘇生ポイントとか利用できるのかな? エッセの話だと経験値的なものが下がるっぽいけど保険的な意味はあるだろうし。


 んで次は綾の番。

 といってもこちらもそんなに長くはない。

 伊達の手勢に襲われ、そこで隠身ちゃんが護ってくれたこと。さすが出雲、綾の護衛してくれるようちゃんと手配してあったあたりグッジョブだ! だが敵も然る者、というか“境界渡し”が出張ってきて危うく攫われそうになったところを、“刃姫”クズノハこと葛城葉子さんに助けられたらしい。

 ……というか、よもや彼女が綾の知り合いだったとは。意外と世の中狭いなぁ。

 彼女の情報を頼りに伊達の動きを掴み学校に向かう途中、“逆上位者アビス・ランカー”とかいう相手と遭遇、月音先輩に助けてもらってから出雲と合流したようだ。


「しかしそこでもまた“境界渡し”か……確か出雲を遠ざけたのもあの人だったろう。オレが学校に閉じ込められた結界もそうだし。正直なところ搦手的な意味だとものすごく厄介な相手だね」

斡旋所ギルドへの貢献が低いため序列は低いが、同じ上位者ランカーとして見た場合、金や物をはじめ自らの欲望で転ぶ分だけ動きが読みづらいことは確かだな。

 あと“逆上位者アビスランカー”って何?」

「ふむ…まぁわかりやすく言えば斡旋所ギルドへの貢献が低い者、つまり依頼をこなしたり役に立つどころかロクでもないことばかりやってマイナスになっている者たちについて、下から数えた順位ランキングというところか。

 なかなか口だけでは説明しづらいから機会があれば具体例を出して斡旋所ギルドで話そう。とりあえずそういうものだと思っておいてくれ」

「あいよ」


 タチ悪いのはまだまだいるんだな……。

 ただ“境界渡し”については利が無ければ無闇やたらにこっちを襲うってこともないだろうし、万が一に備えて警戒だけしておけば大丈夫かも。


「……では、わたくしの番ですね」


 月音先輩がゆっくりと口を開いた。



 ふと横を見る。

 なぜかエッセがこれまで説明していた相手に向けていたものと違う、鋭い眼差しを向けていたのが気になった。



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