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VS.主人公!(旧)  作者: 阿漣
Ver.2.02 千殺弓
106/252

104.が-るずとーく!

 帰宅した後、親に遅くなったことを怒られてから食事。

 入浴を含めてその他諸々終えて就寝時間。


 部屋には私を含めて3人。

 私、葉子さん、隠身ちゃん。

 帰宅途中変な人が後をつけていたのを助けてくれた、と話をしたところ恩人ということでお泊り頂くことになったのだ。室内には自分の以外に2つ、合計3つの布団が敷かれているため結構いっぱいっぱいになっている。

 ちなみに隠身ちゃん、最初は男の子か女の子かわからなかったのだけれど、さすがにあの格好のまま両親に紹介するわけにもいかず、礼儀なんだから取りなさ~い、と葉子さんにフードを下ろさせられた。

 すると中から出てきたのは小学校高学年くらいのボサボサの黒髪の女の子。目がおっきいせいもあってまるで幼いお人形さんみたいな子だった。

 葉子さんも実は知らなかったみたいで、ちょっとびっくりしていたのが面白かったけど。


「やめロ、弄ルな」

「もうちょっとで終わるから、ね?」

「ほーら、ジタバタしないの。お嬢は髪の手入れ上手いんだから大丈夫よ」


 伸ばすがままだった髪の毛を梳いていると、隠身ちゃんはあまり髪の毛をいじったことがないのかじたばたしようとする。けれど、葉子さんに嗜められて大人しくなった。

 ちなみに二人は私の寝間着を着ている。

 寝巻きのイメージとしては温泉宿なにかで見かける浴衣のようなものだから、多少サイズが違っても着ることが出来る。

 もし私がパジャマ派だったら、葉子さんみたいな背の高い人はちょっと着れなかっただろうと思う。

 もっとも、寝巻きであっても隠身ちゃんにはぶかぶかだし、葉子さんには短いのだけれど。それでもまるで敢えてそうしているかのように二人には似合っていた。


「さて……じゃあ、お嬢も気になっているようですし、本題に入りましょうか」


 無事に隠身ちゃんの髪の毛を梳き終わったところで、葉子さんがそう声をかけてきた。

 その言葉に頷いて手を止める。


「ひとつだけ注意させて頂きます。これを聞いたら、もう聞かなかったときと同じように振舞うことはおそらく出来ないでしょう。それでもいいですか?」


 真剣な眼差しで覚悟を問われる。

 確かに、今日のことは尋常ではなかった。何が起こっているかはわからないけれど、ドラマや映画のように悪い犯罪者とかそういったのが関わっているとすれば、もし首を突っ込んだ場合に危険度が増すかもしれないということくらいはわかる。


 その覚悟が自分にあるだろうか。


 少し考えて頷いた。


 ここで聞こうと聞くまいと、そういった何かが知らないところで起こっているのには変わらない。知らないからといって今後自分に関わってこないとは限らない。増してや幼馴染もそれに関わっている可能性があるのであれば、知らないフリをすることは出来なかった。


「では……」


 前置きが終わり本題に入る。

 葉子さんの説明、そして所々隠身ちゃんの補足も入っていく。

 その内容は驚くべきものだった。


 この世界がゲームの中の世界だということ。

 彼女たちは主人公プレイヤーという存在で、別の世界からやってきた来訪者だということ。

 それ以外の人たちはNPCと呼ばれる存在であるということ。

 さらには出雲が主人公プレイヤーである、ということ。


「チょッと待て」

「?」

「充も主人公プレイヤーだロう?」

「ああ、充君? 前にお嬢と一緒にいたところを見たけど、そんな感じじゃなかったような……でもそんなによく知ってるわけじゃないからね。友人の隠身アンタが言うんならそうなのかも?」


 話を聞いてもしばらく現実感が湧かなかった。

 それは当然だろう。

 私はここにちゃんと存在するし、それがいきなりゲームの中の架空人物だと言われても即座に納得することなんてできない。

 それを感じ取ったのか、


「NPCって便宜上わかりやすくそう言っているだけですので、実際のところはちゃんとした人間に違いありません。主人公プレイヤーの中には、あくまでこの世界はゲームだから好き勝手やってもいいと思っている連中もいますけれど、少なくともアタシはそうじゃありません。

 ちゃんとこの世界がこの世界でひとつなんだとわかっていますから、そこは勘違いしないでもらえるとありがたいですね」


 すかさず葉子さんがフォローしてくれた。


「ただこのへんの認識には差があります。どの世界・・・・からこの世界にやってきているか、によって違いますからね。このへんは“刀閃卿”…失礼、出雲君からも聞いたほうがいいかと思いますので、そのときに詳しく話しましょう」


 さらに話は続いていく。

 実はうちの学校の副生徒会長、伊達先輩も主人公プレイヤーなのだという。


「彼は“千殺弓”の二つ名を持つ有力な主人公プレイヤーです。今日綾さんを襲ってきたのも、おそらくは彼の部下なんでしょう」

「…どうして、私を」

「それにはまず伊達のことを語らないといけませんね。彼には想い人がいるのですが、その想い人に対して狂気じみた執着心を見せていることは有名です。月音、という名前に心当たりは?」


 知っている。

 というか、一昨日の対抗戦のときに見かけたばかり。


「あります。生徒会長です」

「なら話は早いです。伊達が懸想しているのはその彼女。

 彼女を手に入れるために色々と嫌がらせじみたことをしていると聞いています。例えば彼女に近づくNPC、この場合は普通の生徒という意味で結構なのですが、そういった人物を物理的に排除して孤立させたり…そんなようなことを」


 あの伊達先輩が?

 ふと生徒会に誘われたときの振る舞いを思い出す。

 そんな様子はあまり感じられなかったのだけれど。


「実際のところ主人公プレイヤーを止められるのは主人公プレイヤーだけです。

 この世界の皆さんには理不尽なことかもしれません。主人公プレイヤーが一般のNPCを殺そうが不法をしようが、よほど運が悪いか他の要素が絡まない限り、基本的に彼らにとって都合のいいようになってしまうのです」 


 確かに理不尽に聞こえる。

 ただここで話を止めても仕方ないので黙って続きを待った。


「ですが、上位の主人公プレイヤーである彼と敵対するリスクを取ってまでそれを正そうとするような主人公プレイヤーはいませんでした。ところが今年に入って、正確にはここ1ヶ月くらいですが、月音さんへの理不尽を止めさせようと伊達と敵対している者がいる、との噂が流れました」

「そレが充」


 ………。

 えらい!!

 さすが私の自慢の幼馴染。

 そして、最近月音先輩と充が妙に仲が良かった理由にもようやく合点がいった。

 詳しくはわからないけれど、月音先輩にとっての白馬の王子様だったわけだ。


「それに巻き込まれるように綾さんが狙われたのでしょう。充君にとって、間違いなく大事な相手であるわけですから。人質にするつもりだったのか、それとも別の目論見があったのかはわかりませんけれど」

「隠身、“刀閃卿”に頼まレてこっそリ護衛シてた」


 刀閃卿―――さっきまでの会話から、おそらく出雲であろうその名前。

 もしかして充が伊達先輩と敵対したことで、出雲に相談をしていたのかもしれない。そう考えれば万が一のときに備えて、私に護衛をつけていたことも合点がいく。


「じゃあ、葉子さんも出雲から……」

「いえ、アタシは別段何か頼まれてはいません。そもそも出雲君のほうはアタシが主人公プレイヤーだなんて知らないと思いますし」

「…? そうなんですか?」

「ええ。実はアタシも上位者ランカーなので、その関係上色々と彼と会う機会はありましたが、そのときは例外なく顔を隠していましたからね。件の伊達のような主人公プレイヤーも顔を合わせる関係上そうせざるを得ない、という事情はあったにせよ」

「こイつ、実ハ第9位の“刃姫じんき”クズノハ」


 なにげに凄い人だったらしい葉子さん。

 でもそうなるとひとつ疑問が残る。


「ならどうして、私を助けてくれたんですか?」

「……助けないほうがよろしかったですか?」

「あ! いえ! そうじゃないです! 本当助かりました! 本当です!」

「ふふ…意地悪な言い方をしてしまいましたね、すみません。

 アタシが綾さんを助けたのは私的な理由です。綾さんとそのご家族には普段から色々とお世話になっていますから。先ほど申しました通り、アタシは皆さんを単なるNPCではなく、多少の違いはあるもののちゃんと対等の人間として認識しています。

 その上で恩義がある綾さんと、そのご家族は言わばアタシにとって身内です。身内を守るのは主人公プレイヤーとか言う以前に人として当然のことですよ?」


 恩義…。

 葉子さんにそんな凄いことをした覚えはないのだけれど。


「覚えていらっしゃらないのなら、無理に思い出さなくても大丈夫です。単にアタシが勝手にそう思っているだけですから」


 そして一瞬凄みのある笑みを浮かべた。


「……そんなお嬢を傷つけようとしたクソガキには、男でいることを後悔するくらいお礼をしなきゃならないよねぇ………」


 ぼそ、っとした呟きは正直怖かった。

 が、それも一瞬。


「まぁ事情としてはそんなところです。実際のところそんなに心配することもないと思いますよ。伊達と充君の決着は近いうちにつくと思いますから」

「え?」

「昨日から伊達のほうに動きがありまして。自分の部下に招集をかけているようです。おそらく待ち伏せでしょうね。さっき最後に出てきて去っていった馬鹿みたいに喋る口の軽い男、“境界渡し”という名なのですが、あの男がいれば相手が確実に来る場所に転移系の魔方陣を張り巡らせて、獲物がかかった瞬間に部下たちを招集させるくらいはお手の物でしょうから」

 

 それはつまり。


「ですが充君の家に仕掛けるのであれば、おそらくもう仕掛け終わっているはず。にも関わらず伊達の部下の大多数はまだ動いた気配がありません。何かの理由があって家ではなく、学校に登校するときに仕掛けようとしているのではないでしょうか。ただ普段の部下以外も様々な名目で人手を集めていますから、おそらくは全方位的に仕掛けるつもりかもしれません。

 例えば、充君は学校で待ち伏せ、出雲君にもどこかで仕掛け、月音さんや綾さんもそれぞれ人質に取る。そんなところでしょうか」

「………っ!!」


 そう。

 出雲もどこかで待ち伏せを受けているのかもしれない。

 行方の知れない充と同様、今も連絡が取れていないのだ。思わず携帯電話を確認するが、返信は未だに来ていない。


「…大丈夫ですよ。あの男、“刀閃卿”はおいそれと倒される者じゃありません。自分の身ひとつであれば何をしてでも生き延びる。そんな強さを持っていますから」


 その言葉にほっと一安心しつつも、少し腹が立ってきた。

 私の知らない出雲。

 充のこともそうだ。

 これだけ一緒にいたのに、二人は私に全部内緒にしていたのだから。

 話しておいてくれてもよかったんじゃないだろうか。そもそも私が巻き込まれる可能性もあるんだから、心構えくらいはさせておいて欲しかった。

 それとも、私がこんなことくらいで怯えて逃げ出すような女の子だとでも?

 馬鹿にしないでもらいたい。

 勿論さっきの凶器のやり取りにはびっくりしたけれど、恥ずかしながら大和撫子を目指している身。命がけで頑張っている大事な恋人と友人がいるのなら、それくらいのことで尻込みするわけがない。

 ………たまに、お母さんに貴方の考えている大和撫子、ちょっとおかしいわよって言われてるけど、とりあえずそうなのだ。


「明日になるのか、もしくは明後日か、わかりませんが充君が学校に来た瞬間に決戦となるでしょう。幸い“境界渡し”の転移術式は予め設置しておかなければ発動しません。つまり綾さんは学校を数日おやすみになれば隠身ちゃん一人の護衛で事足ります。

 知り合いの主人公プレイヤーを伊達のサイドに潜ませておりますので、もし充君が学校にいって待ち伏せになったなら、もしくは家を襲撃するように命令が下れば、すぐにわかります。堅物ですが、そのへんは手抜かりのない者です。

 連絡が来たその折には、アタシ直々あの気障男に綾さんを襲った代償を……そう、じっくりたっぷり捻り込むよう味わわせに参るとしましょう。

 綾さんは自室で安全に吉報を待っていてくださればよいのです」


 理に適っている。

 確かに私の安全だけを考えるのなら間違いの無い作戦。

 でも、それに異を唱えないわけにはいかなかった。


「私も連れて行ってください」


 驚いた葉子さんに向かって頭を下げる。


「足でまといというのはわかります。

 我侭なのも自覚しています。それでも……お供させてくれませんか」

「……命の保証はできませんよ?」

「……ッ…、覚悟の上です」


 まるで試すように葉子さんの中から一瞬だけ膨れ上がった殺気。

 それに一瞬固まりながらも告げる。


「……理由を聞いても?」


 理由は簡単。

 まさか自分がこんなセリフを言うことになるとは、全然思ってもいかなったけれど。



「女の意地です」



 そう、言ってやらなければならない。

 わかっている。

 私を巻き込まないために内緒にしていたんじゃないか、ってことは。

 でもわかるからこそ言ってやらないといけないことがある。


「……いいでしょう、そういうのキライじゃないですしね」


 そう言って笑った葉子さんはいつも通りカッコ良かった。


 いきなりのことに何が何だかわからないというのは正直ある。

 それでもやらなきゃならないことはわかる。


 言わなければいけないのだ。


 あの馬鹿で優しい幼馴染の男の子たちに、私が無事であることと、そして―――



 ―――巻き込まれたって構わない、そんな覚悟が女にだって出来ることを。


 

 気合を入れた。

 とりあえず隠身ちゃんの髪の毛を可愛らしくお団子にしよう。



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