第七話 あなたはどこにいますか
「ここは……」
目が覚めると、そこは俺の部屋の天井なんかではなかった。ベッドから天井を見上げると、そこには決まって俺の好きなアーティストのポスターが張られている。だが、今俺が見ているのはポスターでもなんでもない。真っ白な天井だ。色もポスターも何もかもがない。視界の隅には、点滴が映っていた。
そこは、病室だった。俺は病院のベッドで寝ていた。
「目が覚めた?」
「怜奈……」
病室に入ってきたのは俺の幼馴染である怜奈だった。
「俺はなんで、こんなとこにいるんだ?」
「公園で倒れていたの。そのまま病院に運んで……もう数週間以上たっているわ。私たちすごく心配したのよ?」
俺は手を見た。包帯が巻かれている。
ふと、あの夜の光景が頭をよぎった。燃え滾る俺の手から出たのは、大量の水だ。それで俺は自分の体中の火を消して、凛は……
「おい、凛はどこだ!」
俺は点滴を無理やりはずして、怜奈を襲い掛かるほど素早く肩を掴んだ。
「怜奈。凛は今どこだ!」
「私にも分からない。今警察が街全体を捜索してるけど、手がかりさえ見つからないの」
「……そうなのか」
とたんに、俺の体から力が抜けた。俺から開放された怜奈はひょろっとよろめいたが、またすぐに体勢をたてなおした。
「凛は、俺にとって唯一の肉親なんだ。必ず危険には晒さないって、護るって決めたんだ。なのに、なのにこの有様だ!ちくしょう!」
俺はやけくそに拳をベッドにぶつけた。なにもかもが憎くなってきた。目の前で同情している怜奈が、凛を見つけられない警察が、凛を連れ去ったあのフードの男が、凛を護れなかった自分自身が、憎くて憎くて仕方がない。
「こんなところで、寝ていられるわけねえだろ」
俺はベッドから起き上がった。
「駄目だよ、まだ安静にしとかないと」
「黙れ!」
俺は腕を払って怜奈の首を絞めようとした。だが、俺の手は握る前に怜奈を苦しめていた。
「なっ……」
俺は腕を下ろした。怜奈が咳き込む。苦しみから解放されたようだ。
「なんなんだよ、この力は…」
なんだろう、俺はこの力が理解できない。なのに……
昔から、知っていた気がする。