第六話 人が人じゃないって、どう説明すればいいんだろう
ここは何処だ……
目を覚ました場所は、俺の知っている我が家なんかではない。むしろ室内ではない。冷たい夜風が俺の頬にぶつかっている。
何も見えない……視界を布かなにかで遮られていて何も見えない。
俺は倒れていた。砂地の上に。仰向けに倒れていて分かった。俺の両手は後ろで縛られている。そのため、砂が俺の手にあたった。ジャリジャリする。
「これは……」
急に何かが軋む音が響いた。この音は、ブランコ。いや、シーソーか。
きっと、ここは公園なのだろう。俺はすぐに予想できた。
俺を襲ったフードの男。あいつが俺を縛りつけ、公園まで運び込んできた。可能性はそれしかなかった。
「力はまだ発動しないようだな……」
左のほうから覚えのある声が響いた。俺を襲ったクソ野郎だ。
「何が目的だ。凛はどうした!」
きっと、凛が帰ってこないのもこいつのせいだ。こいつのせいに決まってる!
「なぁ、目隠し、外してやれよ」
男の他に誰かいるのか。男は誰かに指示を送っている。少なくとも、二人はいる。指示をだした男と出された人物だ。
「うぐっ……!」
目隠しを外された俺はまず、目隠しを外した人物を見た。
「……凛!?なんで……」
「ごめんね、お兄ちゃん」
凛は悲しそうな瞳で俺を見た。
なんで、俺をそんな目で見る?
そんな目で見るなよ……似合わないじゃないか。
「悪いな。貴様の妹はお前の力を解放させるために協力してもらっている。もちろん、こいつは色々と可愛がったがな」
フードの男は凛の頭を叩いた。俺が唖然としている間に凛は男の傍に歩み寄った。
「貴様……凛に何をした!」
「調教さ。少し荒々しいがな」
「……!?貴様、よくも!」
俺の心の鎖が、砕けた。
俺の両手を縛るロープは粉々に砕けた。俺はすぐさま起き上がり、男に襲い掛かる。
だが、フードの男は俺の攻撃を軽々と避けた。それどころか……
「お兄ちゃん!」
凛が叫んでいるのが聴こえる。そりゃそうだ。俺の腹に銀色に光る刃が突き刺さってんだから。
「まだまだだな」
男は刃を抜き取る。その刃はナイフでも、剣でもない。
男の右手だった。
「なんで、手が……」
「お前はこの世界のことを何も知らない。自分の力さえも、俺たち魔導士の存在も」
次に男の右手が俺の心臓を貫いた。俺はそのままよろけ、身体が崩れ落ちた。
もう死ぬのか……短い人生だったな。
凛……お前の笑顔、もう一度見たかった……
―あなたはまだ、死んじゃ駄目。
頭に声が流れると共に、俺の心の何かが覚醒した、感覚がした。
「ほう…やっと覚醒したか……」
男はにやりと微笑んでいる。
「凛を……返せ!」
俺の身体は跳んだ。飛躍的に高い。
身体が軽い!
体重がないと思えるぐらい、俺の体が軽くなっている。
「アァァァァァァァァァ!」
雄叫びを上げ、俺は空中で右手の平を男に向けた。
掌にエネルギーが集中し、粒子状の球体を作り出した。
「くらえ!」
緑色に光る粒子の球が男を直撃した。男は球の速さから逃れることはできなかった。
「……波動、なんて力だ。だが、これまでだ」
男は向きなおり、凛に右手の刃を突きつけた。
「なっ!」
俺は男の前に着地した。だが、攻撃できなかった。凛の首筋に男の刃がつきたてられているからだ。
「妹はもらっていく。お前は、ここで死ね」
男は左腕を振るった。突如、左腕を振るった近くの空気が一変にして変わった。炎が上がったのだ。突然現れた炎は俺を襲う。
「グワァァ」
近距離からの攻撃をたやすく回避することは難しい。俺の身体はたちまち炎につつめれていく。
「こんなものぉぉ!」
それは、俺自身驚くほどのパワーだった。両手の掌から水が射出したのだ。まるで、消防隊でおなじみのあの水だ。
俺は水によって体の炎を消した。大量のやけどを食らうはずだが、無傷だった。火傷のあとはない。強いて言うならば、衣服が燃えただけだった。
「どうなってんだ…………凛!凛は!」
ようやく気がつく。だが、公園を180度見回しても男と凛の姿は見当たらない。
「リィィィィン!」