プロローグ【すべての戦いを終わらせるための戦い】
むかしむかしあるところに魔物達の住む【険しい山の国】と人間達の住む【広い平原の国】がありました。
この険しい山の国に住んでいた魔物達は、冬になるとたびたび人間達の住む広い平原の国に、食料を奪いにくるので、広い平原の国に住んでいた人々はほとほと困り果てていました。
そんなある時、広い平原の国に勇者様が産まれました。
そしてこう言ったのです。
「弱い人に悪さをするやつは許さない」
勇者様は悪い魔物達をやっつけようと奮い立ちます。
森の中で古代の魔法を研究していたという魔法使いと、海の上で巨竜と戦っていたという戦士をお供に連れて、使い古した剣と少しの魔法だけを頼りに、魔物達を統べる大魔王ヴェストゴギアのいる魔王山へと赴きました。
魔法使いは二つの魔法を合成する合体魔法を用い、戦士は魔物が使った技を一瞬で自分のものとする模倣剣術を用い、勇者はその勇気だけを用いて、果敢に大魔王と戦います。
それでも大魔王の力は強大で3人は倒れてしまいます。
しかし、勇者は広い平原の国の人たちから託された思いを胸に、最後の力を振り絞って立ち上がり、魔王を頭からまっぷたつに切り伏して絶命させることに成功しました。
人はこの戦いを、【すべての戦いを終わらせるための戦い】と呼び、それから魔物達は人間達を恐れ、魔物と人間が戦うことは無くなりましたとさ。
めでたしめでたし
ではありません。
じゃあこの後、魔物達はどうなったのでしょうか。
実は魔物達が広い平原の国を襲っていたのは、山に住んでいたからなのです。山は平原に比べて、傾斜地が多く耕せる農地が多くありません。魔物達は冬に慢性的な食料不足に陥るために、仕方なく広い平原の国から食料を奪うことで補っていたのです。
魔物達も不本意なこととはいえ、生きるために仕方なくやっていたのです。
そして戦いが禁止されてからは悲惨でした。
すべての戦いを終わらせるための戦いの翌年は、松の皮をしゃぶり、仲間達の死骸を食べてなんとか生き延びたそうです。それでも食糧難は解決できず、冬の山には魔物達の死骸が白米にかけられたふりかけのようにぽつぽつと置き去りにされていました。
だからといって食料を奪うために戦いたくはありません。
だって魔物達は人間が怖くて怖くてしょうがなかったんですから。
ですから、広い平原の国の人たちから食料を買うことにしました。その代わりに自分たちは険しい山の国だけで流通していた毛織物や木材を広い平原の人たちに送るのです。
何故最初からそうしなかったのでしょうか……不思議です。
人間と魔物がそうして交流を持つようになると小さなことでいざこざが発生し、ときおり暴力をともなった争いに発展するようになりました。
そして魔物と人間は、多数決で王様を決めて、その人に法律を作ってもらい、政策をとりまとめ、争いを仲裁してもらうことを次第に思いつきました。
そう、それはつまり【民主主義】
大魔王が殺されてから10年後、第一回全世界統一選挙が行われることになりました。
これはそんな、人間と魔物の戦いが全て終わったあとのお話。