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羽無太地の未成仏霊相談所  作者: みどり


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counseling 1『霊視えし青年は幸せを噛み締める』

 朝6時。郊外にある二階建の一軒家のキッチンでは、エプロンを着た青年、羽無太地(はなしたいち)が慣れた手つきで食材を切っていた。にんじん、ごぼう、大根、白ねぎ。形良く切られた野菜達を豚肉を炒めていた鍋に入れ、さらに炒める。全体に油が回ったら、和風顆粒だしと水を加え、煮立たせる。アクをとり、野菜が程よく柔らかくなるまで蓋をして10分煮込む。


(…もうそろそろ起きる時間かな?)


 そんな予感がして、ぐつぐつと美味しそうな音を奏でる鍋から入り口の方へ目を向けると、太地の足元へ一匹の未成仏霊がのそのそと歩いてくる。


「おはよう、ノゾム。今日もちゃんと起きてきて偉いね。ご飯用意するからちょっと待っててね。」


 ノゾムと呼ばれたニホンオオカミの未成仏霊は、嬉しそうな表情をした後ご飯を食べる時の定位置である場所に大人しく座る。


「お利口さんにしてて偉いねぇ。…今日は鹿肉にしてみたよ。さぁ、たんとお食べ。」


 ノゾムはまたもや嬉しそうにしながら鹿肉を食べる動作をする。もちろん、霊体であるため本当に食べることはできない。それでも、彼を見ていると『何かをしてあげたい』という想いから行った行為は、生と死の隔たりさえも超えて相手に何かを与えることができるのではないかと思うのだ。美味しそうに肉を頬張る彼を見ながら、頭を撫でる動作をする。すると、触れられているわけではないのに、太地の手に擦り寄りながら、『もっと、もっと』とせがんでくる。


「…ありがとうね、ここに来てくれて。ノゾムが来てくれてから、俺は生きるのがもっと楽しくなったよ。ノゾムが喜んでるのを見ると、こっちまで嬉しくなるし、頑張ろうって元気を貰えるんだ。」


 ぽつり、ぽつりと、目の前の彼に届くように、今抱いている気持ちを丁寧に伝える。すると、その気持ちが伝わったのか、ノゾムは笑顔を浮かべ、肩に顔を預けてくる。そんな反応を返してくれる彼を見て、太地は嬉しいという気持ちとともに、安堵感を覚えていた。


(…初めて出逢ったときもこんな風に抱きついてくれたけど、あのときは、恐怖の方が勝っていたように感じたから。今でも、君が抱いたその感情が無くなったわけじゃないと思うけど、それでも、今いるこの場所が、君の心の拠り所になっていてくれたら嬉しいな。)


 彼の頭を撫でながら、太地は彼との出逢いの記憶をなぞる。


 ========


 ノゾムと出会ったのは、今から約3年前のことだった。季節は冬本番で、朝は特に酷く冷え込んでいた。


(…暖房つけてても全然寒いな…。…朝食の準備をする前に、ホットコーヒーでも入れて体温めようかな…。)


 二の腕をさすりながら、お湯を沸かし、ペーパーフィルターにコーヒー粉を乗せ、様子を見ながらお湯を注ぐ。出来上がったコーヒーをマグカップに入れ、手を温めるようにしながら持ち、香りと味わいを楽しむ。ホッと一息ついて何となく窓の外を見ると、雪がまばらに降り注いでいた。


(…よかったぁ…。やっと外に出られそう。…買い物に行きたいけど、先に雪かきとかしなきゃだね。積もった雪が崩壊して誰かに当たったら大変だ。)


 ここ一週間天候は酷く荒れていて、この地域周辺は猛吹雪に見舞われていた。地方ニュースでこの天気の中職場に向かって歩いている男性が映っていたが、何度も転んで倒れてしまっていた。それを見て『落ち着くまでは外に出ることをやめよう』と思い至り、今日まで一歩たりとも外に出ていなかったのだ。


(あの子が起きてくるまでまだまだ時間があるし、ちょっと外の様子でも見てこようかな。)


 そんな風に考え、自室から厚手の羽織を持ち出し、外に出る。


 ーーすると、扉を開けた先に一匹の未成仏霊が座っていた。


 体を震わせながら、それでも大人しく、何かを待つように。太地の脳内に色んな疑問が浮かぶ。感情だってぐちゃぐちゃだ。けれど、まず自分がすべきことは、それを吐き出すことじゃない。


(…家に入ってもらおう。話はそれからだ。)


 霊体は生きている者達とは違い、自然の影響を直接受けるわけじゃない。けれど、外界情報を脳内に伝達できる感覚器官を何かしら持って生まれたのなら、雪の『冷たさ』も『痛み』も理解してしまえるから。だから、無意識に体が震えてしまうのだ。


『…寒かったよね。寂しかったよね。怖かったよね。苦しかったよね。全然気づいてあげられなくてごめんね。…でも、もう絶対に君を一人にはしないから。寒さに、恐怖に震えるその体を温めたい。…だからお願い、この中へ入って。』


 想いが届くように、目を見て、丁寧に伝える。すると、伝わったのか、未成仏霊はのそのそと家の中へと入っていく。


(…ありがとう。……ここへ来てくれたのも、きっと運命だ。だから、君を絶対に成仏させてみせる。)

『…といっても、まずは腹ごしらえだな。…多分、あの子はオオカミだろうけど、オオカミって何食べるんだろう…?』


 とりあえず、肉食動物ということで冷蔵庫に入っていた豚肉を器に入れて置くと、未成仏霊は戸惑いながらも食べるような動作をする。体内にそれが入ることはないものの、肉の美味しさを知っているし、太地の想いもきっと伝わっただろう。次第に未成仏霊の表情が和らいでいく。


『…これから、いっぱい遊ぼうね。いっぱいお話しして、一緒に寝よう。…怖がらなくていいからね。君の願いが叶うまで、俺はずっと、君のそばにいるから。』


 そう言って頭を撫でる動作をすると、未成仏霊は太地に近づき、肩に顔を預けてくる。やっぱりその体は震えているけれど、自身を受け入れてくれているのは分かるから。


『…君のことを、これからたくさん教えてね。』


 そうして、未成仏霊との生活が始まったのだ。


 ==========


『…はぁ。…どうしたらいいんだろう…。』


 あの出逢いから一週間が経過した。彼と遊び、会話し、一緒に暮らす中で、彼がオスのニホンオオカミで、鹿肉や猪肉を特に好んで、散歩やボール遊びが大好きで、体を丸めて眠るということが分かった。性格も、常に落ち着きがあり、穏やかで、優しい。本当にいい子だ。…けれど。


(…なんか、引っかかるんだよなぁ。いい子なのは確かなんだけど、きっとそれで終わらせちゃダメだ。もっと見えなきゃいけない感情がある気がする。)


 無意識下ではきっと感じ取れている。だからこそ、それを理解し、噛み砕くことができないのが悔しいし、もどかしい。そんな思考と感情に頭を抱えている太地の元に、未成仏霊の彼がのそのそと歩いてくる。そして、太地の近くに座ると心配そうな表情で見上げてくる。


『…ごめんね、心配かけちゃって。…あぁ、そろそろちゃんと、名前決めなきゃなぁ。』


 彼の名前はまだ決められずにいた。色んな案を出してみたものの、どれもしっくり来ないのだ。この様な中々決まらない可能性を考えて初日に『期限は一週間』と決めていたが、今日がまさにその日だった。


(…多分、この引っかかりが解ければ、自ずと見つかると思うんだけど…)


 また深い思考に身を委ねようとしていると、二階からこちらへ降りてくる足音が聞こえる。それと同時に、彼はその方向へ全意識を向ける。降りてくる対象に対し抱いているのは、『恐れ』だ。けれど、酷く震えているのに、吠える様子は無い。その感情が少しでも和らぐように、頭を撫でる動作をしていると、一人の少女が姿を現す。


『ふわぁ…。おはよ〜、たいちゃん!』

『おはよう、祈凛(いのり)。』


 彼女は小学6年生の喜々多祈凛(ききたいのり)だ。太地が10歳の頃、捨てられていた0歳の彼女と出逢い、親戚の力を借りて、一緒に育ってきたのだ。彼女は太地が撫でている動作をしている手を見て、そこに近づいていく。


『…撫でてるってことは、そこにいるんだよね?』

『あぁ。』

『…おはよう、オウちゃん!今日も一日よろしくね。』


 祈凛は少し距離を取りながら、明るく挨拶をする。だが、彼はずっと酷く震え、彼女の一挙手一投足に神経を張り巡らし、じっと彼女を見つめている。逃げようとしないのは、足がすくんで動けないからだろう。


『…やっぱり、怖がってる?』

『…まぁ、そうだね…。』

『…ごめんね、怖がらせちゃって。…でも、いつか仲良くなれるって私信じてる。怖いって感情が、私個人に向けてのものじゃ無いなら、きっと。』


 彼が祈凛に恐怖を抱いているのは、彼女が原因のものでは無い。恐らく、『女性に対して』恐怖を抱いているのだろう。彼は、彼女と初対面の時から同様の反応を示していた。それ故に彼女が原因でないことは明らかであり、その上散歩等で様々な容姿の女性とすれ違ったが、そのたびにこの反応をしていたから『女性という性別』に対し本能的に恐怖を抱いていると考えられるのだ。そして、そうなってしまうのはきっと、『彼の死因に女性が何らかしらで関わっている』という裏付けではないか、とも思っている。それ以上具体的なことが未だ分からないのが何とも歯がゆいが。


『あ!仲良くなるって言えば、名前どうするの?締め切り今日だよ!』

『そうなんだよなぁ…。でも、どれだけ考えてもしっくり来ないんだよなぁ…。』

『あ〜あ、この子が生まれた場所に行ければ、なんか分かるのかなぁ。』

『それが分かればいいんだけどねぇ。でも、ニホンオオカミが絶滅したのは明治時代だと言われているから、それ以前となれば、風景も匂いも色々と変わっているだろうし…。せめて場所を絞らないと、難しいんじゃないかな。』

『そっか…。すごい長い間、幽霊としてこの世界にいるんだね。…今まで、すっごい寂しかっただろうね。なのに、ここまでずっと歩いてきたんだから、本当にすごいよ。』


『…私だったらきっと『もういいやって』諦めちゃうと思うな。』


 その言葉を聞いた瞬間、太地はハッとする。


『……そっか。…そうだ、『諦め』だ。』

『…?どうしたの?』

『最近、何か引っかかってるって言ってただろ?その答えが分かったんだ。…彼は、遊びも、ご飯も、話すことも、自分からは求めなかった。最初は信頼とか、緊張とかが原因だと思ってたけど、きっとそうじゃない。』


『最初からずっと、何もかもを諦めてたんだよ。』


 初めて出逢った時、玄関前に『何かを待つようにして』座っていた。それはきっと、『終わり』なのだろう。祈凛は、泣きそうな表情をしながら、呟く。


『…じゃあ、消えたかったって、こと?』

『霊体という、死ぬ事すら出来ない体で、何年もの間、孤独を生きてきたんだ。そう思うのも、無理はない。』

(…本当に、無理はないんだ。…でも。……それでも、)

『そんなの嫌!!』


 祈凛が叫ぶ。太地は驚きながらも、自分が内心抱いていた感情を表に出してくれた嬉しさと、それをちゃんと出せる姿に眩しさを感じていた。恐怖に震えていた彼は、女性でも、一週間共に過ごした相手だから、少しずつ落ち着きを取り戻す中で、彼女の言葉の意味を理解しようとしているように感じた。


『…きっと私にはその辛さは分からないよ。姿も見えないから、今の表情すら分からないし。…でも、嫌だ…!私達はオウちゃんと出逢えてすっごく嬉しかったし、いっつもめちゃくちゃ楽しい!だから、その分オウちゃんにも嬉しい、楽しいって思ってもらいたい。』


 祈凛は立ち上がると、彼がいると思われる場所に向けて、思いを伝える。


『私は、あなたの姿を見ることができないし、声を聞くこともできないし、気配すら感じ取ることができない。…でも、あなたがそこにいるって思うと、家を出るのが前よりも寂しいし、帰ってくるのが前よりも楽しみになった。…身勝手だって思うけど、言わせて。』


 聞きたくない言葉かもしれないけど、伝えなきゃ、何も始まらないから。


『諦めないで。…お願い。…その為に私達ができることなら何でもするから。…あなたがお空に行くその時まで、一緒にいて欲しいの。』


 その言葉が届いたのか、彼はまだ少し震えているが、それでも彼女に近づき、顔を舐める仕草をする。


『…今、祈凛の顔を舐めてるぞ。』

『本当に!?嬉しいよ〜!!』

『そっち向きじゃないけどね。』

『え!?…は、恥ずかしい…。』

『恥ずかしいことはない。断じてね。彼はきっと、祈凛が自分のことを見えないことも理解してる。それでも、そんな人間が自分のことをこんなにも想ってくれて、必死に大切だと伝えてくれるのは、何よりも嬉しいに違いない。…その証拠が、今君に近づき、舐めている彼自身の姿だ。…見えなくても、怖がられていても、そこに相手を思えるような心があれば、伝わるんだ。だから、そんな心を持つ君は、むしろ堂々としていていいくらいだ。』

『…そう?…じゃあ、堂々と大好きって伝えるね!』

『その意気だ!』


 そんな風に言い合って、笑っていると、突然、顔を舐めるのをやめた彼が2人を呼びながら自分のスペースに戻る。太地が祈凛にそれを伝え彼の元に近づくと、彼は2人を交互に見たのち、ボールを咥える動作をする。恐らく、2人と一緒に遊びたいと言っているのだろう。


 ーー彼が、初めて自分から何かを望んだ。それが、どれだけ嬉しかったか。


『…ノゾム。』


 そう小さく呟いた言葉もちゃんと聞き届けていたようで、彼はそれに返事をするように、嬉しそうな表情をしながら吠える。


『…それが、名前?』

『あぁ。今まで諦めた分だけ、何かを望んで欲しい。こうやって、少しずつ自分からやりたいと言えるようなことを増やしていければいいな、って思いを込めて。』

『…見えないけど、なんか、ピッタリだって思う。…よしっ!…じゃあ、いっぱい遊ぼうね、ノゾム!』


 そう言って、祈凛はボールを投げる。すると、投げた先で何かが割れる音がした。


『『『あ(バゥ)』』』


 せっかく投げてくれたから、というような顔で、こちらをチラチラ見ながら気を使って向かっていくノゾムに2人して微笑みながら、後を追いかけるのだった。


 ==========


(…あれ以来、たくさん自分の望みを言ってくれるようになったね。そのおかげで、君のことをもっと知ることができたよ。)


 好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きなこと、嫌いなこと、好きな場所、嫌いな場所、お気に入りの散歩道、お気に入りのシャンプー、お気に入りの匂い…色々と。未だ、彼がどうしたら成仏できるのかは分かってないけれど、きっと、見つけてみせる。


(君は俺達の家族で、何よりここは、『未成仏霊相談所』だからね。)


 切なくて温かい記憶をもう一度引き出しにしまって、料理に戻る。蓋を開けると、顆粒だしに乗った和の匂いとじっくり煮込まれた野菜の甘い香りが空間に広がる。そこに味噌を溶き入れると、香りの輪郭と深みが増して、一つの料理が完成するのだ。出来上がった豚汁を置くと同時に、二階からドタドタと音を立てて祈凛が降りてきた。


「おはようっ、たいちゃん!ノゾムはどこにいる!?」

「おはよう。目の前にいるぞ〜。」

「マ!?嬉しい〜!…こんな感じで撫でればいいかな?おはようっ、ノゾム!」


 あの時から3年の月日が流れたおかげか、外で出会う女性にはやっぱり震えてしまうものの、祈凛に対して恐怖を抱く事はなくなった。むしろ、祈凛がいるタイミングでは、祈凛に対し積極的に遊びに誘う姿も見せるようになった。


「…残念ながら、ノゾムの座高はもっと高いぞ。」

「そうなの!?…ごめ〜ん…。目、痛かったよねぇ。…ここら辺だったら大丈夫かな?」

「いい感じ。」

「よしっ!いたいいたいの〜、銀河の彼方に飛んでいけ〜!」


 そんな会話をしながら、太地は魚焼きグリルから焼き鮭を取り出す。茶碗にご飯を盛り付け、サラダをボウルに入れる。


「食べるぞ〜。」

「は〜い!」


 2人とも椅子に座り、手を合わせる。


「「いただきます!」」


 ノゾムも見よう見まねで手を合わせると、『ガウッ』と言って改めて肉を食べ始める。それを微笑ましく思いながらも、太地は祈凛に気になったことを伝える。


「そういえば、さっき慌てて降りてきたけど、なんかあったのか?」

「…夢で、あの時の記憶をなぞったから、なんか、早くたいちゃんとノゾムに会いたくなった…みたいな?」

「…へぇ〜。じゃあ出演料いただこうかな?」

「仕方ないなぁ〜!じゃあ、次の学年テストで5教科各100点をプレゼントするってのでどう?」

「お釣りが来るね。」

「じゃあお釣りもらわないと。」

「…じゃあ、朝ごはんは美味しい?」

「…?…美味しいけど。」

「何で美味しいと思う?」

「食材の質の良さと、たいちゃんの腕が合わさったからでしょ?」

「何と、隠し味にとびきりの愛を入れてます。」

「…どうりで心がぽかぽかするわけだ。」

「お釣りは?」

「…いりません。」


 ぽんぽんと軽いラリーを交わしながら、ノゾムとともに、食卓を囲む。…なんと、幸せな時間だろうか。


(…こんな穏やかな日々が、ずっと続くといいな。)






 ーーー???ーーー


 とある晩、ノゾムは太地のベッドからむくりと起き上がると、なるべく音を立てないようにしながら一階へと降りる。目覚めたのも、一階に降りたのも、見覚えしかない濁った気配を家の外から感じたから。きっと、自分に知らせるように、わざとやっているのだろう。一階にたどり着くと、今まで一回しかしたことのない壁抜けを行い、塀の前にいる人間に威嚇の声を上げる。すると、それを向けられた少女は、特に臆することなく、塀の隙間から顔を出し、醜い笑みを浮かべる。


「あらあら〜、すっかり絆されちゃって〜。本当の飼い主に威嚇するなんて、とんだ出来の悪い人間に囲われちゃったのね…。可哀想に。」


 放たれる濁った悪意にあてられて、思わず吠えそうになるが、初めて出逢った、心優しく自身を本当に大切にしてくれる人達に心配かけまいと、低く唸るだけに抑える。その様子を見た少女は、酷く悲しそうな表情をする。


「あらあら〜、前みたいに元気よく吠えないなんて…。…分かったわ!ここに住む人間達に我慢させられているのね?声を上げたら殺されちゃうから…!…なんて酷い…。私の大切な大切な『トイちゃん』にそんなことをするなんて…。…でも、安心して。私が必ず助け出してあげるから。」

『バウッバウッ!!』


 少女のあまりにもな物言いに我慢できず、ノゾムは吠えてしまう。

 ーー早くここから立ち去れッ!

 そう言外からはっきり読み取れるくらいの拒絶だ。だが、それも特に気にした様子はなく、少女は優雅に立ち去る。


「またね、私の可愛い可愛い『玩具(トイ)』ちゃん。あ(・)な(・)た(・)を(・)悪(・)戯(・)に(・)縛(・)り(・)付(・)け(・)る(・)そ(・)の(・)鎖(・)、最高のタイミングで壊してあげるから。」

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