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丸の内法律事務所

作者: 空花玲奈
掲載日:2026/06/17

「人を助ける、それが弁護士の仕事や。」

丸の内法律事務所に勤める弁護士、芦原涼華。

法は人を裁くためにあるのではない。

人を救うためにある。

これは人との《絆》を結び直す物語。

カツ、カツ、カツとヒールの音が鳴る——

チャコールグレーのスーツを着た20代後半の美しい女性が白い廊下を歩く。

女性の後を追いかけるネイビーのスーツを着た若い男性。


「芦原先輩、待って下さい。」

 

芦原がレイヤーの入った長い黒髪をいじり振り返った。


「真木君、早くしぃ。私ら、弁護士の助けを必要としてる人が待ってはるんやで。」


東京地方裁判所、403号法廷——

 

「神崎さんに質問があります。試合の後、女性を自宅に連れ込み性行為を行ったのは事実ですね?」


芦原が尋問するとサッカーで鍛えた大きな体を丸め、うつむき、小声で答える神崎。


「はい……。」


芦原が口調を強め神崎に詰め寄る。


「同意があったと?」


「それは……。」


脂汗を流す神崎がチラリと代理人弁護士である大河内の顔を見る。

ふてぶてしく椅子に腰掛けていた大河内が神崎を見ると、チッと舌打ちしスーツのボタンを締め直すと右手を上げた。

 

「裁判長、被告の体調を見るに、これ以上の尋問は不要と考え休廷を求めます。」


大河内が休廷を求めると裁判長が少し考え口を開く。


「これにて休廷とし、判決を後日とする。」


はぁ、と芦原がため息をつく。


数日後、403号法廷が開く——

 

「判決を言い渡す。被告は原告の女性に500万の支払うこと。」


裁判長が判決を言い渡す。

ため息をつき、神崎がうつろな目で法廷の天井を見上げる。

神崎の肩を抱き、芦原に近づくと大河内が見下すように話した。

 

「どうやら今日は私の負けのようだ。次が楽しみだね、可愛いお嬢さん。」


立ち去る大河内の後ろ姿を見ると芦原が真木の背中をバシッと叩く。


「見た?あの態度セクハラやん。ところで真木君、ハンバーガー食べに行かへん?」


「また、ハンバーガーですか?先輩。」


真木が右手を頭に当て呆れた顔で答える。


「美味しいやん。それにな、今日はクーポンあるねん。」


ふて腐れていた顔が元の可愛い笑顔に変わると法廷を後にする芦原。


丸ノ内法律事務所の待合室で下を向き眼鏡をかけた女性が椅子に腰掛けている。

落ち着きなくカバンに付いた小さくてかわいい兎のキーホルダーをいじる女性。

芦原は椅子に座ると女性に話しかけた。

 

「始めまして、芦原涼華と申します。」


真木が芦原の隣に座る。


「新人の真木佑介と申します。」


下を向きキーホルダーをいじっていた女性が勇気を絞り出すように口を開いた。


「あっ……あの。私、ブイチューバーの星乃ぷぷらって言います。」


芦原と顔を見合わせ真木が質問した。


「ええと、何と呼んだらいいですか?星乃さん?ぷぷ~ら?」


真木の質問にあたふたとする女性。

芦原が真木を見ると咳払いし、冷静に女性に話しかける。


「星乃さん、本名を。」


「あっ……あの。渡辺結衣って言います。結衣って言うのは人との《絆》を大切にって意味で……。」


芦原が微笑みながら優しい口調で話しかける。


「なるほど、結衣と書いて《絆》なんですね。ところで、ご用件というのは?」


「実は誹謗中傷の件で……。」


うつむく結衣が自身のスマホを見せる。

芦原が真剣な顔でスマホを見ると口を開いた。


「なるほど、わかりました。すぐに開示請求します。よろしいですね渡辺さん。」


「……はい。よろしくお願いします。」


結衣が頭を下げると芦原が真木に話しかけた。


「行くで、真木君。」


そう言うと結衣に軽く会釈し、芦原が席を立った。


数週間後——

日が暮れ薄暗くなった夜道を歩く芦原と真木。

真木がメモを見ながら古いアパートを指差す。


「先輩、開示した情報によると、ここの203号室ですね。」


アパートの前で立ち止まる2人。

真木が芦原に話しかける。


「しかし、ずいぶん古いアパートですね。」

 

芦原がアパートを見上げると、203号室の小さな窓から明かりが見えた。

 

「行くで。」


歩くたびにキィキィと音が鳴る階段を登ると、203号室の前に立つ芦原。

芦原がポストに詰め込まれた封筒の山の中から1枚の封筒を取り出した。

取り出した封筒を開くと、203号室のドアをコンコンと叩く。


「大橋さん、いらっしゃいますか?」


キィと古い鉄製のドアが開くと、中から疲れた様子の中年女性が顔を出した。


「失礼します。丸の内法律事務所の芦原涼華と申します。こちらの件で……。」


中年女性に芦原が開いた封筒の中から内容証明を取り出した。

内容証明を見ると驚く中年女性。


古く小さな木製のテーブルを前に3人が座っている。


「そんな、結翔ゆうとが……。」


母親らしき中年女性の後ろの部屋から音がする。


「昔は明るい子だったのに、転校してから引きこもってしまって、クラスでも孤立してるみたいで……。」


後ろを見ると、うろたえ、下を向く母親を見て言葉に詰まる芦原。

重苦しい雰囲気の中、芦原が口を開いた。


「聞こえてるんでしょ、結翔君。」


芦原が続けて話す。

 

「人を傷つけたらどうなるか?あなた、わかってるよね。」


「だから何なんだ!!あんたに何がわかるんだ!!」


ふすまの向こうから怒号がした。


「私も東京に来て学校に慣れへん時あったから……。関西弁しか話せへんてバカにされてたから……。」


芦原が下を向きながら話す。


「ホンマは誰かに助けて欲しいかったんちゃう?」


ふすまの向こうから声が聞こえる。


「あの子以外、誰も相手にしてくれなかったんだ!!誰でもいいから見て欲しかったんだ!!」


「だからって、誹謗中傷してええ訳ないやん。」

 

芦原がふぅと息を吐くと、ふすまから声が聞こえた。


「俺は、どうしたらいい……。」


「……結び直そう。」


横で話を聞いていた真木が芦原に話しかけた。


「先輩、学校を変えるとかどうですか?」

 

真木の話を聞いて芦原がハッとした顔をする。


「結翔君、このまま1人にさせへんで。人を助ける、それが、弁護士の仕事や。」


ふすまの向こうから嗚咽が聞こえる。


「ごめんなさい……。」

 

立ち上がりアパートを後にする芦原達——


数日後——

濃紺の車の助手席に座り、電話をしている芦原。


「結翔、人との《絆》を結び飛ぶ意味だそうです。」


電話口から結衣の声が聞こえる。


「私と同じ《絆》……。わかりました。結翔君によろしく……。」


真木が運転する車を止めると、後部座席で下を向き制服を着た結翔に声をかけた。


「行こうか?結翔君。」


ドアを開け校門に立つ結翔に優しく微笑みかける芦原。


「大丈夫やって、すぐに新しい学校にも慣れるから。」


不安げに校内へと歩く結翔を見送る芦原達。

男の子が結翔を見つけると肩を叩く。

結翔の笑顔が弾ける——

芦原達に向かって手を振る結翔。

芦原が真木の背中をバシッと叩く。


「《絆》ねぇ……。でも、転校とは考えたやん。」


照れくさそうに笑う真木に芦原が話しかける。


「ほな、ハンバーガーでも食べて帰ろか?今は月見の季節やねん。」


「また、ハンバーガーですか?先輩。」


芦原が助手席に乗り込むと、スマホから菅田将暉の虹が聞こえる。


「もしもし、芦原です。わかりました橘所長、今から帰ります。」

 

フロントガラスに青空が映り込むと、クライアントの待つビル群へと濃紺の車が走り出した。





 

読んでくださってありがとうございます。

よろしければ、コメント等あると嬉しいです。

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