【第1章その8】
トーナメント出場者たちが競技エリアの中央に着いて並ぶと、再びスピーカーから放送部の女子学生の声が流れ、学生の紹介を始めていった。
「それでは、1人ずつ紹介していきます! 陸上部の幽霊部員、でも足の速さは本物、基本に忠実な超優等生の剣型増幅器使い、ウニ・バース!」
ウニは軽く手を上げて振った。
「(なんか、スマートな可愛さがある人だなあ。幽霊部員ってところも好感が持てる。とはいえ、どうせ私の嫌いな優等生だ)」
「レト線機器部のエース、増幅器にも深い造詣があり、それが思いの力に反映されてしまったスーパーオタク、今回はどの増幅器を使うのか? キャメシマ・ビックコー!」
「(増幅器が大好きなのか……私には理解できないなあ)」
「とあるとんでもない強さの人物に推薦されて出場することになった、前衛的な遠近両用増幅器使い、ワレオ・ナカムラ!」
「(なんか、今更彼が恥をかくのが可哀そうになってきた。少しは善戦できるだろうか)」
「両手に付けた格闘タイプ増幅器でまともに殴られたら終わり? 体を鍛えすぎて遠隔攻撃まで放つようになってしまった、寡黙な戦士ゲンタ・セイブ!」
「(あの図体、本当に学生なのか……? やっぱりトーナメント出場者は規格外だな)」
「頼りになる手品部の部長! 小型の射撃タイプ増幅器から放つ射撃も手品のように突然曲がるイリュージョニスト、ナナノ・プリズム!」
「(射撃タイプ増幅器で変わった攻撃をするのはかなり珍しいけど、レト念学園の優等生だし、不思議でもないか)」
「反抗的な不良! でも学園は戦闘力を重視します! 剣型増幅器使い、反抗心が強すぎてレト念もムチのように伸びる、ニッキー・フーガ!」
「(私も素直に増幅器を使ってああいう風になれれば良かったかな? いや、素直じゃないのか)フフッ」
自分のギャグのような考えに少し笑ってしまうハンキ。
「サバイバル部のエース、大型の射撃タイプ増幅器で無駄のない防御と反撃! ストイックすぎてレト線機器のような精度で力加減をするようになってしまった、モック・デロン!」
「(どうやら、サバイバル部は恐ろしい戦士を生み出すのに向いているようだな)」
「皆さんご存知モエルンダ財閥、その御曹司、大型の射撃タイプ増幅器から放つ弾幕で圧倒! 客席に攻撃が飛んできたときにバリアを張る職員の方々が大変そうです。リンタロー・モエルンダ!」
「(やばい、モエルンダ財閥なんて知らない……私がおかしいんだろうなあ)」
「以上8人が今年の出場者になります! では、一旦控え室に戻っていただきましょう! その後、学園が決めた組み合わせでトーナメント戦を行ってもらいます。対戦の直前まで、誰と誰が戦うかは出場者にも分かりません!」
スピーカーから声が流れる中、出場者たちは控え室へと戻っていく。
「(きっととんでもない強者ぞろいなんだろうなあ。ワレオくん、可哀そうに……)」
ハンキは目をつむりながら少し下を向いて、しみじみと思った。
しばらくすると、最初の対戦の組み合わせが発表される。
「最初の対戦は、ナナノ・プリズム 対 リンタロー・モエルンダ!」
客席のあちこちがどよめいている。もっとも、どんな組み合わせでもおそらくそうなるのだが。
程なくして、控え室の方からナナノとリンタローが歩いてきた。もちろん、今度は訓練用の増幅器を持っている。
二人が競技エリアに入っていくと同時に、後から出てきた女性教師が一人、拡声器を持って競技エリアの端の方にそそくさと移動していく。
その女性教師はマカリー先生だった。
「(マカリー先生が開始の合図とかをやるのかな? あの人、比較的最近入ってきたのに、もう教師陣のメイン戦力だよなあ。さぞまともで優秀な人なんだろうな。私は絶対ああはなれない)」
ナナノとリンタローが所定の位置に着くと、マカリー先生が戦闘開始の合図を出す。
「ナナノ・プリズム 対 リンタロー・モエルンダ、戦闘開始!」
ナナノとリンタローがお互いに射撃を始める。ナナノの黄色く光る連続射撃はリンタローの方を中心にいくつかの軌道に分かれて飛んでいき、リンタローの黄色く光る射撃も切れ目の少ない弾幕となってナナノの方に飛んでいく。
ナナノの射撃の方が少しスピードが速く、リンタローに直接飛んでいった射撃だけでなく、リンタローの横や上を通り過ぎた射撃が、曲がってリンタローの後ろや上から襲い掛かる。しかし、リンタローは動じる様子がなく、的確に体のいろいろな方向にバリアを張って防ぐ。そしてその間リンタローの射撃が途切れることはない。
「(うわ、あの射撃の量だけでもすぐにカートリッジが切れそうなのに、バリアを使いながらまだ撃ち続けられるの?)」
リンタローの単純なレト念出力量にハンキは感心してしまう。
ナナノは攻撃をしながら後ろに逃げていたが、リンタローの弾幕がナナノに届き始める。
ナナノは少し横に移動したりしゃがんだりして弾幕を避けていたが、逃げ道を塞ぐように更なる弾幕がナナノに襲い掛かる。
ナナノはバリアを張って抵抗を見せるが、その後も絶え間なく弾幕が襲い掛かり、あっけなく連続でもろに攻撃を食らってしまう。
「そこまで!!」
ナナノが倒れ、マカリー先生が戦闘終了の合図を出した。
ナナノが立ち上がらないのを確認すると、マカリー先生が続けて叫ぶ。
「勝者リンタロー・モエルンダ!」
スピーカーからも声が上がる。
「これはかなり素早い決着でした! リンタロー・モエルンダの勝利です!」
客席はどよめいていた。
「(攻撃もバリアも単純な量と質が凄かったな…… このままあの人が優勝するんじゃないか?ナントカ財閥の御曹司らしいし、厳しく律せられてるのかな)」
ハンキがそんなことを考えている間、リンタローと、職員に支えられたナナノは控え室の方に戻って行った。
「さっそく次の対戦に参りましょう! 次の組み合わせは、ゲンタ・セイブ 対 ニッキー・フーガ!」
「(さっきは射撃タイプ同士だったけど、今度は格闘タイプ同士か)」
2人が所定の位置に着くと、マカリー先生が合図する。
「ゲンタ・セイブ 対 ニッキー・フーガ、戦闘開始!」
対戦が始まると、ニッキーがすかさずゲンタの方に走り寄り、剣から伸びた赤いレト念を振り回す。
ゲンタはそれをバリアで防ぎながら、黄色く光るグローブで殴って反撃しようと試みるが、ニッキーは自分の攻撃だけが届く距離を維持して逃げ回り、一方的に攻撃を続けていた。
しばらくすると、ゲンタが攻撃の手を緩め、最低限のバリアを張りながら、呼吸を整えるような姿勢を見せた。なにか強力な攻撃を繰り出そうとしているのかも知れない。
ゲンタはダメージを負いながらも攻撃の準備を整え、両手で近くの床を叩きつけた。すると、ゲンタの周りを覆うように広範囲の黄色いレト念が床から飛び出した。
ニッキーは辛うじてそれを赤いバリアで防いだが、勢いで十数メートル弾き飛ばされてしまった。
転げながらも受け身自体は難なく取り、再びゲンタの方を見据えるニッキー。しかし、ゲンタが続けて床を片手で叩きつけると、ニッキーの足元から攻撃が飛び出してきた。
それを食らい、怯みながら驚いた様子を見せるニッキー。ゲンタはその後も左右の手を交互に床に叩きつけ、連続でニッキーの足元から攻撃を放ち始めた。
「(あの化け物、中距離は不利と考えて、遠距離戦に持ち込んだのか! 対戦中カートリッジ交換が必要無いこともざらにある格闘タイプ増幅器であれほどの遠距離攻撃ができるなんて、やっぱり規格外の強みだなあ。ま、カートリッジの心配なく遠距離攻撃を続けられるのは、私もそうなんだけどね)」
大した威力の攻撃もできないくせに心の中で妙に張り合おうとするハンキ。
なんとかバリアで攻撃を防ぎ続けるニッキーは、ゲンタの攻撃の隙間の時間で少しずつゲンタに近寄ろうとする。
しかし、ゲンタに近寄れば近寄るほど、ゲンタの攻撃の威力が増し、再び弾き飛ばされてしまう。
「(あー、これはあの不良学生、打つ手なしか?)」
ハンキの思った通り、ニッキーは苦しそうな表情を浮かべながら、防戦一方の状態だ。
しかし、しばらくするとハンキは妙なことに気付く。
「(あれ? なんか競技フロアの床に、あの化け物だけじゃなくて、不良学生のレト念も感じるような……)」
ニッキーを注視してみるハンキ。
「(剣を不自然に床に近づけながら攻撃を防いでる! まさか!)」
すると、ゲンタの足元から、非常に弱い威力ではあるが赤いレト念が放たれた。
驚いて足下を見たゲンタは攻撃の手を緩めてしまう。
次の瞬間、ニッキーの体が赤いレト念に包まれ、更に、床からゲンタとニッキーを繋ぐように赤いレト念の線が現れた。
そして、ニッキーは軽くジャンプし、レト念に引っ張られるようにあっという間にゲンタの方に飛んでいく。
ゲンタが慌ててニッキーの足元を狙って攻撃を放ったが、攻撃は既にニッキーが通り過ぎた場所に放たれる。
急接近してきたニッキーにそのまま渾身の連続攻撃を食らってしまったゲンタは倒れ、両手のグローブから黄色い光が消えた。
「そこまで! 勝者ニッキー・フーガ!」
客席のあちこちから感嘆の声が上がる。
「格闘タイプ同士とは思えないような対戦でした! ニッキー・フーガの勝利です!」
ハンキもこれには驚いたようだ。
「(レト念でジャンプや移動を強化する知り合いは既に居たけど、こんな一時的に全身を包んで飛ばすような大がかりなものじゃなかった。あの不良学生、すごいなあ……)」
ニッキーと、駆け付けた職員4人に担架に乗せられたゲンタは控え室の方に戻って行った。
「さてさて、気になる次の対戦は、キャメシマ・ビックコー 対 モック・デロン!」
「(ああっ、まだワレオくんは出てこないのか。負けたら他の出し物でも見に行こうと思ってたんだけどな)」
競技エリアに入ってくるキャメシマとモック。キャメシマはなんと、ワレオが使っているものと同じ、遠近両用の増幅器を持っていた。
モックは中型の射撃タイプ増幅器を持っていて、腰の辺りにナイフ型の格闘タイプ増幅器も付けているようだ。
こういった対戦の場では、複数の増幅器を持ち込むことは許可されている。
そもそも、違う種類(実戦用と訓練用の違いは除く)の増幅器をどちらも使いこなせる人はまれであり、短時間で使い分けるとなると、更に必要な才能や経験のハードルが上がる。
複数種の増幅器を使えること自体が、一種の強みとされているのだ。
「キャメシマ・ビックコー 対 モック・デロン、戦闘開始!」
開始早々、キャメシマがモックに向かって連続射撃し、黄色く光る弾を飛ばす。連射速度や量にリンタローの射撃のような圧倒感はないが、弾速はリンタローのものよりも速く、狙いも正確で、なんとなく「ちゃんとしている」という印象を受けるハンキ。
少しするとモックはなんとほぼ真正面から走って弾幕に突っ込んでいき、キャメシマへの接近を試みた。
ほんの少し避ける動きを見せているが、半分程度はオレンジ色のバリアで防いでいる。しかし、バリアの強度や張る時間に一切無駄がなく、難なくキャメシマとの距離を詰め、もともと10メートル程離れていた二人の距離は、すぐに3メートル程になる。
モックは動きを全く止めないまま左手だけで数発射撃。キャメシマは近めの距離で正確な射撃を受け、バリアを張りながらもダメージを受ける。
中距離は不利と考えたキャメシマが、距離を詰め、増幅器の先端のナイフ部分で連続で薙ぎ払う。モックは直前で素早く腰のナイフ型増幅器を右手に取り、キャメシマと攻撃をかち合わせる。
攻撃は攻撃をある程度打ち消すことができるので、振り回すことで身を守る補助ができるのも、格闘タイプ増幅器の強みの1つだ。
キャメシマが攻防の末、気合を入れて増幅器を振り回すと、モックが数メートル弾き飛ばされる。しかし、モックはその去り際にも左手で数発射撃をし、相手にダメージを与える。
キャメシマは負けじと素早く射撃の体勢を取り連続射撃。モックはバリアを張りながら思わずキャメシマから離れるように退く。
キャメシマの射撃は相変わらず狙いと弾速に優れていて、光の加減からして威力も十分に見えるが、同時に無理をしているようにも見える。
案の定、キャメシマの射撃が途切れた。のだが、次の瞬間にはもう次の射撃が始まっていた。
「(え、なに今の一瞬の間は。もしかしてカートリッジ交換!?)」
そう、キャメシマは増幅器のカートリッジが切れそうになった際、右手で射撃を続けながら、攻撃の反動等もある中、左手で一瞬でカートリッジ交換をしたのだ。前のカートリッジが1つ、キャメシマの足元に転がっている。
ほぼ止まらない射撃に対し、モックは最初と同じように無駄のないバリアで受けながら再びキャメシマに近づいていく。すると再びナイフのかち合いが始まる。このような攻防が3度ほど続いた。
「(演舞みたいな凄い攻防だなあ、でも……)」
キャメシマが再びモックを弾き飛ばした後、キャメシマが突然増幅器を床に置いて、両手を上げた。そして何かを喋った。
すると、マカリー先生が叫ぶ。
「そこまで! 勝者モック・デロン!」
「(え、まさか降参!?)」
スピーカーからも驚いたような声が流れる。
「おっと! 勝負は互角のようにも見えましたが、キャメシマ・ビックコーが突然の降参! モック・デロンの勝利です!」
「(いや、きっと互角じゃない、サバイバル部の彼はたくさん攻撃を浴びているように見えたけど、ほとんど防ぎきっていたんだ)」
すると、モックがキャメシマの方に歩み寄り、二人でなにかを話し始めた。
モックがキャメシマに、自分の射撃タイプ増幅器といくつかのカートリッジを渡すと、キャメシマはモックの増幅器で誰も居ない方向に連続射撃をしながら、先ほどの神業のようなカートリッジ交換を披露する。それを見てモックは大笑いしているようだ。客席からも笑い声が響き渡っていた。
しばらくすると、2人は控え室の方に戻って行った。
「さて、次は必然的にこの2人になります。次の対戦は、ウニ・バース 対 ワレオ・ナカムラ!」




