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レト念  作者: ノーハ&ワレオ
第1章

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6/10

【第1章その6】

 クレープを素早く平らげ、すぐ近くの訓練場Dに向かうエンドー。

エンドーが訓練場Dに入ると、何人かの学生が、訓練場の端に並んだレト線機器に向かって増幅器を扱う訓練をしていた。また、中央では二人の男子学生が、軽めの雰囲気ではあるが、対戦による訓練をしていた。

二人のうち一人は15年生のリンタロー・モエルンダ。シャロン学長に貰った資料に載っていた、トーナメント出場者の一人だ。

大手財閥で、レトフェスの出資団体の1つでもある「モエルンダ財閥」の現トップの息子で、大型の射撃タイプ増幅器を使い、本人の技術と力量によるカートリッジ効率と威力に優れた弾幕戦法を得意とする、かなりの実力者らしい。

周りに居る学生たちは、リンタローの友人だろうか。

しかし、エンドーにはそれよりも気になることがあった。

エンドーの視界の奥、エンドーが入ってきた方と反対側の出入り口から、青いジャージを履いた女子学生が出ていくのが見えたのだ。

「(居た!)」

エンドーは学生たちの邪魔にならないよう注意しながら、急いでウニを追って反対側の出入り口に向かう。

出入り口から出たあと、辺りを見回したが、ウニの姿はなかった。

近くに居た適当な男子学生に声をかけるエンドー。

「すまない、今、青いジャージを履いた女子学生がここを通らなかったか?」

「ああ、ウニのこと? たった今、走ってあっちの方に向かってったよ」

「ありがとう!」

エンドーは礼を言うと、教えられた方向に走り出し、更に何度か聞き込みをしながらウニの行方を追うのだった……


 数分後、レト念学園のとある校舎のとある教室。

ここでは、レト線機器部という部活の出し物が展示されていた。

レト線機器(読者の世界で言う電気を使って動く機器のようなもの)のメカニズムや歴史について学生が書いた資料などの他に、レト車(読者の世界で言う電車のようなもの)の動く模型つきの見事なジオラマがいくつか展示されていた。

低めの台に展示されたジオラマを挟んで、来場者が展示品を見るスペースの反対側、レト車模型の操作盤などが置いてあるスペースに、二人の男子学生がイスに座って話をしていた。二人とも、学園内で着ている人はほぼ居ない「レト念学園の制服」を着ている。

「ねえキャメシマ、明日トーナメントに出るのに、訓練とか調整とかしなくて大丈夫なの?」

「ええ、ここで来場者に説明をする方が大事です! せっかく多くの人が我々の趣味全開の展示品を見に来てくれるんですから!」

友人に心配される、15年生のトーナメント出場者の一人。彼の名前はキャメシマ・ビックコー。

レト線機器部の部員であり、いわゆるレト線機器オタクだ。

増幅器についても詳しく、増幅器の仕組みやクセに寄り添った思いの力により戦闘での才能が開花した人物だ。

この世界で増幅器をレト線機器と呼ぶことはほとんどないが、厳密には増幅器もレト線機器の一種だと言える。

キャメシマはレト線機器オタクの中では珍しく、増幅器に対しても興味を持った人物だった。

「それに、今年の出場者を見る限り、僕が優勝するのは厳しそうですし。まあ、一番無理だと思っていた14年生のキララさんは結局出ないみたいですが……あ、ほら、ウニさんだってあそこでのんびりしていますよ」

キャメシマが指差した先には、少し離れたところで展示を見ているウニの後ろ姿があった。

「ほんとだ、前日とはいえみんな張りつめてるわけではないんだね」

「ええ、そういうことです。それよりも、結構な人数がこのジオラマを見てくれましたが、僕が仕込んだツッコミどころには誰も気づいてくれませんねえ……そっちの方が僕にとっては問題ですし悲しいですよ」

このジオラマは、キャメシマを含む学生たちが市販品などを組み合わせて制作したものであり、人間が暮らす主要ないくつかの地域をテーマにしたものだった。

レト念学園がある自然豊かな「ワラシアン」、レト線機器が発展している未来都市「オージャトイ」、レト念学園と同じく増幅器の扱いを学ぶ教育施設がある遠方の地域「ナーロッパ」など……各地域のレト車や駅周辺の雰囲気を再現したものになっていた。

キャメシマはジオラマのそれぞれの地域に1編成ずつ、現在は使われていない旧型のレト車模型(キャメシマの私物のレア物)を混ぜるという遊びを施していたが、来場者のほとんどはレト車のデザインにそこまで知識や興味がないせいか、誰にも気づいてもらえずにいた。

「確かに、レト車のデザインにみんな興味ないのは残念だよね。分かるといろいろ面白いのに」

キャメシマが友人とそんな話をしていると、二つある部屋の入り口のうち、キャメシマたちに近い方の入り口から、ダイダンエンの警備員らしき男が部屋に入ってきた。

その男は部屋を少し見回したあと、キャメシマたちの近くにやってきて、少しジオラマを眺めた。

すると男がキャメシマたちに話しかける。

「はは、これは凄い展示だね。各地域のレト車周りの雰囲気を見事に再現している。部の学生たちが作ったのかな?」

キャメシマが返事をする。

「ええ、レト線機器部の部員たちで作った自信作です! ダイダンエンの方? がレト車に詳しいとは思いませんでした」

「いや、詳しいなんてことはないよ。ところで、見たことないデザインのレト車がちらほらあるけど、これは誰かの趣味かなにか?」

「おお! そこにも気づいていただけるとは! それは旧型のレト車の模型です。なかなかレア物なんですよ。あっ、僕の私物です。ずっとしまっておくのもなんだし、思い切って遊び心として展示してみようと思いまして」

「なるほど、懸賞とかで手に入るアレか……」

「ええ、ええ、集めるのはなかなか苦労しました」

「ああ、そうだ、突然なんだが人を探していてね、トーナメント出場者のウニさんを見なかったか? 青いジャージを履いた女子学生なんだが」

「ああ、ウニさんですか? それならあそこに……おや、居ないですね。さっきまで居たのに」

「そうか! ありがとう。また見に来るよ」

そう言って警備員らしき男は急ぎ足で教室から出て行った。

「ダイダンエンの人はみんなレト車にも詳しいんですかねえ」

「いや、そんなことは無いと思う……」


 数分後、レト線機器部の出し物が行われている校舎の別の教室。

ここでは手品部のマジック&ジャグリングショーが行われる予定で、手品部の部員たちがショーの準備をしている最中だったのだが……

複数人の悲鳴やざわつきが聞こえ、なにやらトラブルが起きているようだ。

学生たちが見つめる先の床には、害虫であるゴキブリが動き回っていた。

この世界のゴキブリは、自然豊かな地域にしか居ない上に生息数も多くないものの、サイズが人の手のひらほどあり、訓練用の増幅器で数回攻撃した程度では死なず、厄介な害虫だった。

学生たちが怯え切っている中、訓練用の小型射撃タイプ増幅器でゴキブリに攻撃を試みている女子学生が居た。

「ぐっ、素早いわね……」

「ナナノ先輩、あんまり床を傷つけないでくださいよ……」

レト念による攻撃は動物や人間以外には効果が薄いとはいえ、それでも少し床が傷ついていた。

「うるさい! あんたたちが腰抜けでアレを捕まえられないから私ががんばってるんでしょ!」

彼女の名前はナナノ・プリズム。手品部の部長で、15年生のトーナメント出場者の一人だ。

「曲がる射撃」を得意とし、相手を追跡する弾幕などの戦術を持つ。しかし、物量や威力など、基礎的な攻撃能力はリンタローよりも劣っているらしい。

そんな彼女がゴキブリを仕留めようと試みているが、ゴキブリは素早い身のこなしで攻撃を避け続け、なかなか仕留められずにいた。

学園祭トーナメントに出場するほど優秀な学生であっても、簡単には退治できないのがこの世界のゴキブリなのだ。

「ウワア~!!!」

ナナノの攻撃に追われるゴキブリが周りの部員たちに近づくたび、そこに居る部員から悲鳴が上がる。

しばらくナナノとゴキブリの攻防が続いたとき、突然教室に、ダイダンエンの警備員らしき男が入ってきた。

「みんな離れろ! 俺がなんとかする!」

男はそう叫び、胸のあたりからナイフ型の増幅器を抜き逆手に持ち、レト念をまとわせると、床で逃げ回るゴキブリに向かって一撃。

ゴキブリは絶命したようだ。男の無駄のない動きのおかげか、床はほとんど傷ついていない。

男が増幅器に浅く刺さったゴキブリを振り落とし、増幅器をしまうと、周りの学生から感謝の声がかかる。

「ありがとうございます……」

「いや、礼には及ばん。ところで、突然なんだが、15年生でトーナメント出場者の、ウニ・バースさんを見なかったか?」

男の質問に手品部の部員の一人が答える。

「ああ、さっき、そこのイスに座ってショーが始まるのを待ってたけど、今の騒ぎで逃げちゃったみたいですね」

「そうか、ありがとう。ああ、少し急いでるから、死骸の処理は任せた。ごめん!」

男はそう言って教室から出て行った。

「すごい早業だったわね……」

ナナノが男に感心して呟いた。


 数分後、先ほどの校舎とはまた別の校舎の出入り口近く。

気の強そうな黄色い髪の女子学生と、気弱そうな黒髪の女子学生がなにやら話をしていた。

この出入り口は普段は学生がよく通る場所だが、今日は校舎の別の場所がレトフェス来場者向けの大きく分かりやすい出入り口になっているため、ほとんど人通りがない。

気の強そうな女子学生は、15年生のトーナメント出場者のニッキー・フーガ。剣型の増幅器からムチのようにしなるレト念を発生させ伸ばし、力任せに振り回すような戦術を得意とする学生だ。当然成績は良いが素行が悪く、両親や教師との関係は良くないらしい。

気の弱そうな女子学生は、15年生でレト念関連科目の成績は良くないスズ・オンリーロードだ。

ニッキーがスズに詰め寄る。

「ねえ、このレトフェスのスタンプラリーのスタンプ、代わりに集めてきてよ。ウチは景品交換所で待ってるから。急いでね」

「ええ? 嫌だよ……」

「ふーん。逆らうの? またウチかウチの仲間がお前と戦闘訓練で当たったとき、おちょくって痛めつけるよ?」

「そ、そんな、やめてよ。私、もうすぐ始まるショーを見に行くって手品部の友達と約束してて……」

「ショーを見る暇があったら戦闘訓練でもしたら!? ウチが相手になってあげるよ!」

ニッキーが表情を険しくし、声を荒げる。

ニッキーはスズをいじめの対象にしていた。成績が悪く向上心もあまりなく、にも関わらず穏やかな性格で周りと上手くやっているように見えるスズが、努力はしているものの大人との関係が悪いニッキーにとっては気に入らないのだ。

ニッキーは腰に付けていた訓練用の剣型増幅器を取り出し、スズに当たらないギリギリの距離で軽く攻撃を振り回した。

「ほら、かかって来いよ!」

ニッキーが再び声を荒げる。

スズが困り果てていたとき、ダイダンエンの警備員らしき男が物陰から現れ、近寄って声をかけてきた。

ニッキーは驚いて一旦攻撃を止める。

「おい、こんなところでむやみに攻撃を振り回すのはやめるんだ」

男はそう言ってニッキーとスズの間に素早く割って入ると、スズに声をかける。

「君、学年と名前は?」

「15年生の、スズ・オンリーロードです……」

「分かった、もう離れていいぞ」

スズは小声で「ありがとうございます」と言いながらその場から小走りに去って行った。

その後、男とニッキーの目が合うと、しばしの沈黙と共にニッキーは表情を更に険しくし、男に向かって思いきり攻撃を振り回し始めた。

赤いレト念のムチが男に襲い掛かる。男に攻撃が当たりそうになる度、黄色いバリアが現れて攻撃を防ぐ。

男はあらかじめ右手を腰のホルダーの実戦用の増幅器に添え、レト念を出力する準備をしていたようだ。

男は攻撃を防ぎながら、ニッキーと少し距離を取ると、左手で服のポケットから訓練用の小型射撃タイプ増幅器を取り出し、ニッキーの足を狙って連続射撃を始めた。

ニッキーは素早く横に動いて避けようとしたが、正確無比な狙いと弾速の速さにより、ニッキーの足に弾が連続で命中する。

1度だけ赤いバリアが張られたがすぐに割れ、足に弾を連続で受けたニッキーは転び、その場にうずくまった。

「あーっ! いたたたた!」

ニッキーの増幅器のレト念も、攻撃に集中できないことにより止まってしまっていた。

男はうずくまったニッキーに素早く近づくと、右手でニッキーの増幅器を取り上げてしまった。

男が左手の増幅器を構えながら口を開く。

「降参するか?」

「わ、分かった! 降参するよ!」

「ニッキー・フーガだな? すぐに襲い掛かってくるとはいい度胸だ。攻撃の威力も申し分ない。実戦用のバリアを準備しておいて良かったよ。さすが今年のトーナメント出場者だ。しかし、もう少しバリアの張り方を練習した方がいいかも知れないな」

「はあ……ウチ、どうなっちゃうの?」

「適当なタイミングで学長に報告する。君はしばらく監視対象になるかも知れない。15年生にもなっていじめみたいなみっともないことはもうやめるんだな」

「……」

ニッキーはその場に座り込んだまま、悲しそうな顔で黙っていた。男が話しかける。

「さっきのあの子、スズさんのどこが気に入らないんだ?」

「あいつ、弱い上に努力もしないくせに、なんていうか……周りとの関係はいつも良いんだ。トーナメント出場者なのに鼻つまみ者にされてるウチと違ってね!」

「まあ、言いたいことは分かるような気もするが、相手の気持ちも考えてみろ。毎日学園で自分なりに一生懸命生きてるだけなのに、強い奴にあんな風に絡まれるなんて、かなりの恐怖だと思うぞ?」

「……」

「それに、君が本当に鼻つまみ者ならトーナメント出場者に選ばれない。きっと、君に期待してる人たちが居るんだよ。もちろん、問題行動が続けば、本当に見放されてしまうかも知れないな。君自身のために、気を付けた方がいい」

男はニッキーに増幅器を返し、その後も二人は近くにあった階段に座って少し雑談を続けた。ニッキーは先ほどの戦闘で感じた強さや話し方から、男のことが少し気に入ったようだ。

「ところで、警備員さんの名前はなんていうの?」

「ブヨブヨ・エンドーだ」

「変な名前だね」

「そうだろ?」

「話を聞いてくれてありがとう。エンドーさん」

「どういたしまして。ああ、突然なんだが……おとといの昼12時頃、昼食はどこで食べたか覚えてるか?」

「え!? 購買部で買ったパンを教室で食べたよ?」

人の態度に敏感なエンドーは、ニッキーが嘘をついていると感じた。

「本当か?」

エンドーは少し厳しい表情をして問い詰めた。するとニッキーが思わぬことを白状する。

「か、買ったっていうのは嘘かも知れない。ウチはずっと教室に居て、さっきのスズに買わせたんだよ」

「はあ……もうそういうことはするなよ。それと、実は俺、人探しの途中だったんだが、君と同じ15年生でトーナメント出場者のウニ・バースさんを見なかったか?」

「ああ、ウチがさっきここに来る前にすれ違ったよ。いつもの青いジャージの下が目立つんだよね」

「どこに行ったかは分からなそうだな。でも、この辺りには来たわけだ。じゃあ俺は失礼する。俺に襲い掛かったことは黙っておいてやるが、スズさんとの件は報告させてもらう。スズさんの供述次第ではなにかお咎めがあるかもな」

「わ、分かったよ……」

ニッキーは悲しそうな顔をし、エンドーは立ち去っていった。

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