表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レト念  作者: ノーハ&ワレオ
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

【第1章その5】

 ワレオがオシテー先生と話をしていたその頃、レト念学園の学長室に、学長と、一人の来訪者が居た。

学長の名前はシャロン・プール。年齢は50代ほどの、少しふくよかな女性だ。

シャロン学長が来訪者に声をかける。

「エンドー君、来てくれたのね」

「こんにちは、シャロン学長」

来訪者は、胸にナイフ型、腰に拳銃のような小型の実戦用増幅器を付け、複数の大きめのポケットが付いた機能性の高そうな黒っぽい服を着た、ハンキと同年齢ぐらいの、紫髪の男。

彼の名前はブヨブヨ・エンドー。大手としては世界で唯一の警備会社「ダイダンエン」の凄腕社員だ。

ファーストネームが変なので、主にエンドーと呼ばれる。

学生時代はレトフェスのトーナメントで優勝したこともあり、安っぽい表現かも知れないが、顔も性格もよくて実力もあり、ハンキと違ってかっこよくて頼れる人物だ。

「今日はどういった用件ですか? レトフェスに関係あることとか?」

ダイダンエンはほとんどがレト念学園の卒業生で構成されているが、中でもエンドーは学園自体に詳しく、且つ優秀なため、学長直々に学園内での仕事を依頼されることがあった。

また、警備だけでなく捜査のようなことを依頼されることも多かった。(ダイダンエンは警備会社といっても、読者の世界で言う警察のような面も持っている)

シャロン学長が説明を始める。

「ええ、実は今朝、レトフェスのトーナメント出場者の一人が、チンモクサソリの毒を飲まされていたことが分かったの。今のところ犯人は分かっていないけれど、毒を飲まされたキララ・マクハリという学生は突出した戦闘技術を持っていたから、他の出場者によって陥れられた可能性もあるわ」

「ついに、そういうことが起きてしまいましたか……」

「私としても、非常に残念に思うわ。それで、エンドー君にこの件についての捜査と警戒を依頼したいの」

「承知しました。本部からは学長の指示に従うよう言われています」

「助かるわ、ひとまず今日からレトフェスが終わるまでの3日間、学園に滞在してもらえる?」

「問題ありません。しかし、レトフェス、あるいはトーナメントだけでも延期にはならないんでしょうか? まだ危険が残っているかも知れませんし、キララさんも不憫です」

「私もそれを考えたんだけど……レトフェスの出資者たちにこの話を伝えたら、来場者になるべく影響が出ないよう、レトフェスもトーナメントも延期しないように言われてしまってね。基本的に延期はしないことに決まったの」

「そうですか……分かりました。ではまず、キララさんを含めたトーナメント出場者の資料をお借りしてもいいですか?」

「ええ、ここにまとめておいたわ」

シャロン学長はそう言って、机の上にある数枚の紙の資料をエンドーに差し出した。

資料にはトーナメント出場者たちのプロフィールや連絡先、顔写真などが載っていた。

この世界では、写真を撮る際は大掛かりなレト線機器が必要となるため、写真は気軽に撮れるものではないのだが、レト念学園の学生は毎年学園で顔写真を撮り、それを学園が管理することになっていた。

「ありがとうございます」

「事情聴取や寝泊まりには、いつも通り警備員用の寮を使って。それから、今回の件については、すぐに噂が広まってしまうとは思うけれど、無関係の人間にはできるだけ内密にお願いね」

「承知しました」


「(まずは被害者のキララさんに事情聴取をしよう……)」

シャロン学長との話を終えたエンドーは、早速キララに連絡を取り、警備員用の寮で事情聴取を始めた。

「キララさん、大変なところ呼び出してしまってすまない」

「いえ、戦えないだけで、生活に支障はありませんから……」

「心配してるのはキララさんの心の方だ、毒を飲まされたという異常事態な上に、大事なトーナメントに出られなくなるなんて、取り乱してもおかしくない」

「トーナメントに出られなくても、実力を証明する方法はきっとありますから、私は大丈夫です」

「そうか……協力に感謝する。早速だが、最後に問題なく増幅器を使うことができたのはいつだ?」

「2日前の午後、自主訓練をしていたときです。17時までやっていました」

エンドーはメモをとりながら更に質問を続ける。

「その日はその後すぐ帰ったのか?」

「はい、夕食も家で食べました」

「分かった。では、昨日の行動を大まかに教えてほしい」

「昨日は家で朝食を食べて、9時頃学園に来ました。その後、陸上部のレトフェスの出し物の設営を手伝って……」

「そのときに何かを飲み食いしたりは?」

「自分の水筒の水を飲みました。飲むとき以外はバッグに入れていたし、水筒に毒を入れられるようなタイミングはなかったように思います」

「ふむ……その後は?」

「13時頃から、友達3人と一緒に、食堂で、昼食を食べました……」

「そのときに毒を飲んだ可能性はあるか? 例えばキララさんが見ていない隙に誰かがコップに毒液を入れたとか」

「はい……よそ見をしたり、席を立って他の学生と少し話したりもしたので、可能性は十分あると思います」

「念のため、一緒に居たという3人の名前を教えてほしい」

「その中の誰かが毒を入れたということが分かったら、その人はどうなりますか?」

「退学になるかも知れないし、一旦鳥かご送りになるかも知れないが、おそらく初犯且つ学生、更に使ったのが後遺症が残らない毒ということで、重い罪にはならないはずだ。友達を売るようで辛いかも知れないが、どうか教えてほしい」

鳥かごというのは、学園とダイダンエンが共同で運営している刑務所のことで、正式名称を「洗礼の鳥かご」と言う。

キララは少し沈黙したあと、答え始める。

「一緒に居たのは14年生のセイナ・ジーダ、15年生のウニ・バースさん、16年生のハナイ・ハイビスカスさんです。全員陸上部の女の子で、よく一緒に食堂で食べていました」

「なるほど。協力、本当に感謝する。(ウニ・バースさんって、トーナメント出場者の一人だな……)」

エンドーはシャロン学長からトーナメント出場者の情報を提供してもらっていた。その中にウニ・バースの名前があったことを思い出す。

「ウニさんって、トーナメント出場者の一人だよね? 大事な場面でライバル同士になるのに、仲は良かったの?」

「はい、お互いにトーナメント出場が決まったあと、向こうから、気にしないようにしてほしいし、キララちゃんを応援すると声をかけてくれて。でも、あれは演技で、本当は私を陥れようとしていたんでしょうか……」

「まあ、ウニさんが犯人と決まったわけじゃない。食堂で食べたあとの行動は?」

「食べ終わってすぐに、マカリー先生に呼び出されて、マカリー先生の事務室に行きました」

マカリー先生とは、レト念関連科目の女性教師のマカリー・トルーネのことだ。数年前に教師に就任した人物で、以前は危険な場所を探索してお宝を手に入れるトレジャーハンターをやっていたらしい。教師になった後は、家庭的な雰囲気で学生たちから人気のある人物だった。

キララが続けて話す。

「初めはトーナメントの手続きのことだったんですけど、その後話が広がっていって、就職のこととか、レトフェスのこととか、いろんな雑談とかをしていたら、17時ぐらいまで話し込んでしまいました」

「しつこくてすまないが、その時に何か飲み食いしたりは?」

「購買部で買った、使い捨てボトル入りの水を飲みました。自分で無造作にとったものだから、毒が入っていたとは考えにくいですね」

「マカリー先生とは、よく話すのか?」

「はい、マカリー先生はとても優しくて、授業外でも会いに行くと、いろいろな話に付き合ってくれるんです」

「そうか、良い先生なんだな。では、マカリー先生と話したあとの行動は?」

「先生と話し終わったあとは家に帰って、家で夕食を食べました。今朝も家で朝食を食べてから学園に来て、そうしたらレト念が放てなくなっていました」

「なるほど……ひとまず事情聴取はこれぐらいにしておこう。協力に感謝する。何か他に思い出したことがあったら連絡してほしい。あるいは、こちらから何か質問があって連絡するかも知れない。そのときは出てくれると助かる。」

「分かりました……」

「キララさんの協力を無駄にしないよう、全力を尽くすよ」


 キララへの事情聴取を終えたエンドーは考えを整理する。

「(分かりやすく動機があるのはトーナメント出場者の学生たちだ、その上昨日食堂でキララさんと一緒に居たウニさんは特に怪しい)」

エンドーはウニのレト板に通話要求を送る。しかし、応答はなかった。

「(応答なしか、そもそも今日はレトフェスに向けて授業がない日で、居ない学生も多そうだ……まずは、マカリー先生に話を聞いてみよう。キララさんの周りのことについて何か知っているかも知れないし、レト念が放てなくなる前に長く話していたというのは怪しくもある、元トレジャーハンターならチンモクサソリの毒液を用意することも簡単なはずだ)」


 数分後、エンドーはマカリー先生の事務室を訪ねた。

エンドーが事務室のドアをノックすると、すぐにマカリー先生が出てきた。

エンドーが挨拶をする。

「失礼します。ダイダンエンから来たエンドーと申します。マカリー先生ですね? 少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「はい、構いません、中へどうぞ」

案内され、椅子に座るエンドー。マカリー先生もテーブルを挟んで向かい合って座った。

マカリー先生が口を開く。

「キララさんの件についてでしょうか。学長と本人から事情は聞いています」

「はい、その件についての捜査と警戒を依頼されました。昨日ここでキララさんと長く話していたそうですが、そのときに変わった様子などはありませんでしたか?」

「至って普通の様子で話をしていました。レト念を放つようなことはしていないので、そのとき既に異常があったのかは分かりません。」

「そうですよね……では、こんなことを聞くのは心苦しいですが、今回の件で怪しいトーナメント出場者、あるいはキララさんを恨んでいた人物などに心当たりはありませんか?」

「キララさんを特別恨んでいた人物に心当たりはありません。トーナメント出場者については……全員怪しいとも言えるかも知れません。ご存知だとは思いますが、トーナメントでの活躍は就職等にも大きく影響する場合がありますし、キララさんは最近の学生の中では飛び抜けて強いので、彼女を排除できた方が都合が良いと考える学生が居ることに不思議はありません。トーナメント出場者ぐらい優秀であれば、チンモクサソリを狩って毒液を手に入れることも可能でしょう。あまり学生たちを疑いたくはありませんが……」

「なるほど。ちなみに、キララさんと同じく陸上部でトーナメント出場者の、ウニさんはどんな人ですか?」

「そうですね……私は授業で最低限指導する以外の関わりはあまりないのですが、当然ながら優秀ですよ。キララさんと同じく、格闘タイプ増幅器の扱いの上手さと、素早さが特徴ですね。ただ、最近の学年混合の戦闘訓練でキララさんと対戦したときは、他の学生たちと同じく勝てなかったみたいです。それから、学生たちからの話を聞く限り、少し変わり者という印象があります。いつも同じダボダボの青いジャージを履いていて、神出鬼没だとか言われていますね」

「(神出鬼没か……)」

その後、いくつか問答が続き、その間エンドーは事務室やマカリー先生に不自然な様子がないかをさり気なく窺っていたが、特にそのような様子はなく、マカリー先生への事情聴取は終わった。

エンドーは経験上、嘘や隠し事がある人の態度を見抜くことには自信がある。(シャロン学長もエンドーのその能力に期待している節があった)

しかし、マカリー先生にそのような態度は見られなかった。

「(そもそも動機がない上に、キララさんは出されたものを飲み食いしたりしていないと言っていたしな)」


 エンドーはその後、他のレト念関連科目の教師に話を聞いたり、食堂を見に行ったりしたが、追加で事件の手がかりになりそうな情報は得られず、その日の業務を終えた。


 次の日、レトフェス1日目、エンドーは警備員用の寮から出て、引き続き捜査を開始した。

学園内はレトフェスが始まり、非常に賑やかな雰囲気だ。

「(今日は学生を主に当たってみるか)」

エンドーはまず、状況的に特に怪しいウニにレト板で通話要求を送る。しかし、昨日と同じく応答はなかった。

「(応答なしか……ますます会って話がしてみたくなるな。彼女は陸上部所属だったから、陸上部の出し物のところに行ってみよう)」


 数分後、食堂や校舎などが並ぶ大通りにある、陸上部が運営するクレープ屋を訪れるエンドー。

クレープ屋の周囲を見てみると、調理場にキララの姿が見えたが、ウニの姿はなかった。

「すみません、フルーツソースのクレープを1つください」

クレープを注文し、料金を払うエンドー。しばらくすると、クレープ屋の女子学生がクレープを提供する。

「はい、どうぞ~」

「ありがとう。ところで、15年生のウニ・バースさんは居ないのかな? 少し用事があって探してるんだけど」

「ああ、さっきまで少し準備を手伝ってくれてたけど、ついさっき訓練場に向かいました。トーナメント出場者だから、あんまり拘束するのも申し訳ないし」

「すぐそこにある、訓練場Dかな?」

「多分そうだと思います」

「ありがとう!」

エンドーは礼を言うと、クレープをすごい勢いで食べながら訓練場Dに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ