【第1章その3】
3日目の純レト念訓練に向けて、遊んでいたライトニングボックスを片付け始めるワレオとハンキ。
ワレオが何か思い出したのか話し始める。
「そういえば、昨日家に帰ってから純レト念を使おうとしてみたら、訓練場のときほどではないですが、ちゃんと攻撃を放てるようになってましたよ!」
「え? もう? じゃあ今日はこの部屋で訓練……は動きにくいし、レト線を使った物に影響が出るかも知れないから、小屋の前の道で訓練しようか」
二人は外に出る。
学園の大抵の道は石などで舗装されていて、小屋の前の道も例外ではなかった。しかし、人が通ることはほとんどない。
ハンキが説明する。
「ここの周りの小屋はほとんど活動してない部活の部室とかになってるらしくて、全然人が来ないんだよね」
「ああ、おれも初めて来たとき、学園にこんなところがあるんだって驚きましたよ。でも、おかげでレト念を使っても人を巻き込む心配はないですね」
「あと、純レト念の訓練をしても、変な目で見られずに済むね」
「あはは……」
そんな会話をしながら訓練を始める二人。
ワレオは言っていた通り、場所を変えても、増幅器を構えたようなポーズから純レト念を放つようになっていた。
「うわ、すごいなあ。じゃあ次は、持続する射撃タイプの純レト念を、場所を問わず放つのが目標かな。少しでいいから離れた相手に当たらないとあんまり意味ないもんね」
「そうですね、がんばります!でも、相変わらず増幅器ポーズじゃないと全然できないんですよね……」
そう言ってワレオは最初の訓練のときのような手を振り払う動きで純レト念を放とうとしたが、少し青い光がちらつくものの、上手く放てないようだ。
「なるほど、確かに理想を言えば、動きに自由が効く方がいい。実際私も、軽い動きだけで純レト念を放てるから得をした場面もあった。でもワレオくんは、増幅器ポーズのときとそうでないときで、かなり威力に差があるみたいだね」
「そうなんです……やっぱり最初の頃のようなやり方に戻して、矯正した方がいいでしょうか」
ハンキが少し悩んだ後、返事をする。
「前例がないから難しい話だが……とりあえず、戦闘で一応使える技を早く習得した方がきっと面白いから、増幅器ポーズのままで続けよう」
「分かりました、そうします」
二人は少し楽しそうに訓練を再開した。
この日もハンキがイメージなどのアドバイスをしながら夕方まで訓練が続き、ワレオは目標通り、それなりに持続する射撃タイプのレト念を放てるようになった。
ちなみに、小屋の前を通る人は一人も現れなかった。
「はは、もうこれを授業で披露すれば、ドン引きされるんじゃないかな?」
「そうですね! 本当に披露するかはまだ分かりませんが、楽しみです!」
「ああ、そうだ、連絡ができるように、お互いのレト板の宛先を登録しておこう。もっと早くやっておくべきだったね」
「分かりました。よろしくお願いします」
二人は互いにレト板の情報を登録する。
「じゃあ、今度から私が小屋に居るか確かめるときにでもメッセージを送って。たまに居ないときがあるからね。といっても、もう教えることはあんまりないような。あ、格闘タイプとかバリアの訓練もしたい?こっちはすごく時間がかかると思うけど」
「はい、まだもっといろいろ教えてほしいです! 授業より楽しいので。それに、射撃タイプだって、ハンキさんみたいにもっとちゃんと飛ぶようにしたいです!」
「え~、あんまりたくさん訓練に付き合うんだったら、その分ライトニングボックスに付き合ってもらうよ?」
「はい、望むところです!」
次の日の朝、ワレオは家からハンキにメッセージを送った。
"おはようございます、ワレオです。ハンキさん、今日は小屋に居ますか?"
しばらくするとワレオのレト板が振動し、ハンキから返事が届く。
"居るよ!少々申し上げにくいのですが、本日お越しになるのであれば、荷物運びを手伝っていただきたくて。それでもよければ来て!"
ワレオは返事を送る。
"分かりました、いつもぐらいの時間に向かいます。"
「(荷物運びってなんだろう……とりあえず行ってみるか)」
ワレオはいつも通りハンキの小屋へ向かった。
「ピーヒョロピー!!!」
ワレオがハンキの小屋のチャイムを押すと、ハンキが出てきた。
「こんにちは、ワレオくん」
「こんにちは。荷物運びってなんですか?」
「えっとね、これを一つ、学園内の美術館まで届けて欲しいんだ。学園職員のハンキ・ライトから頼まれたって言えば多分大丈夫。まあ私からも予め連絡しておくけど」
ハンキが手で示す先には、厚紙でできた箱が二つ置いてあった。それなりの大きさがあり、2ついっぺんに抱えるのは辛そうだ。
「美術館ですか、確かに一苦労かも知れませんね」
レト念学園は敷地が広く、目的地によっては移動するのが一苦労な場合が多々ある。例えばハンキの小屋から美術館まで行くには歩いて15分ほどかかる。
「私はもう1つの方を副学長室まで届けるから」
「そっちも結構遠いですね」
「そうなんだよ。中身は高価なものだから、気を付けて運んでね」
「何が入ってるんですか?」
「金の豚の像だよ。とはいえ、もうテープで止めてあるから、中は見ないでね」
豚は家畜としてはメジャーな生き物である。また、レト念を扱う豚も居て、「乱豚」と呼ばれている。
この世界では、こういった突拍子もないお宝が見つかることはそれなりにあり、皆それを当たり前のものと受け入れていた。
「お宝ですね? でも、どうしてハンキさんがそんなものを持ってるんですか?」
「うーん……詳しいことはあんまり聞かないでくれると助かる。ごめんなさい」
軽く頭を下げるハンキ。
「分かりました、行ってきます」
ワレオはそう言って、ハンキが小屋の入り口近くまで持ってきた箱を受け取り、美術館へ向かった。
数分後、ワレオは箱を抱えて美術館への道を歩いていた。
箱はそれなりの大きさと重さがあり、歩くのが少し辛くなってきた。
「(少し休憩するか)」
ワレオは偶然近くにあったベンチで休憩することにした。
ベンチに座り、箱とリュックを隣に降ろしてから、リュックを開け水の入った水筒を取り出す。
「(今日は少し暑いな)」
水を飲み、少し休憩をするワレオ。
落ち着いたところで、リュックに水筒を入れて背負い、箱を抱えて再び歩き始める。
しばらく歩くと、ワレオは突然リュックを引っ張られるような感覚に襲われる。
ワレオが驚いて後ろを見ると、ワレオと同年代ぐらいの学生らしい、ガラの悪い二人の男がニヤニヤ笑いながらとこちらを見ている。
一人は坊主頭、もう一人はくせ毛で、くせ毛の方はなんとワレオの訓練用の増幅器を持っていた。折りたたんであったストック部分も伸ばされている。
二人の男がワレオをからかい始める。
「リュック、開いたままでしたよ~?」
「これ、俺らにくれるんですか~?」
どうやらワレオは先ほど休憩したあと、リュックを閉め忘れてしまったようだ。
増幅器はそこまで繊細な代物ではなく、特に訓練用の物はリュックの中に適当に突っ込んでおくような扱いが当たり前だった。
そのため、簡単に奪われてしまったのだ。
「これ、カートリッジ入ってる? 撃てるかな」
「ハハハハ!!」
二人の男はワレオの増幅器を物色し始めた。
ワレオはひとまず箱を地面に置き、相手の様子をうかがい始める。
「返してもらえませんか? ……と言っても聞きませんよね」
「リュック閉め忘れるようなやつは話し方もキモいな!」
「うぐっ!」
くせ毛の男が射撃でワレオを攻撃する。といっても、大ごとにするつもりはないのか、かなり手加減はしている。
ワレオが負けじと身を乗り出すが、相手はギリギリ手が届かない位置をキープしながら増幅器をワレオに向け続ける。
思い切り追いかけたいワレオだったが、置きっぱなしの箱の存在が気になってそれができない。相手もそれを分かって嫌がらせをしているようだ。
「ほい!」
「うわっ!」
「ハハハハ!」
相変わらず手加減はしているものの、ワレオに攻撃を続ける二人。
するとワレオは、くせ毛の男に向けて、ゆっくりと増幅器を構えるようなポーズを取り始めた。
二人はますますワレオをバカにし始める。
「ッハッハ! なになになにこいつ?」
「気でも狂っぐあああああ!?」
ワレオはくせ毛の男に渾身の純レト念射撃を浴びせた。
「うわああ!?」
坊主頭の男が軽く悲鳴を上げる。
ワレオは痛みと衝撃でうずくまったくせ毛の男に素早く近づいて増幅器を奪い返し、二人に向け始める。
「逃げるぞ! 人に化ける野生動物なんて居たのか!?」
坊主頭の男がくせ毛の男を無理やり起こし、そのまま二人で逃げていった。
ワレオは増幅器をリュックに戻し、リュックを閉めて背負ったあと、置いてあった箱を抱えて再び歩き出した。
数十分後、副学長室から帰ってきたハンキは、小屋でレト板を眺めていた。
「ピーヒョロピー!!!」
するとチャイムが鳴り、ワレオが戻ってきた。
「ハンキさん、美術館に居た職員さんに箱を渡してきましたよ」
「ああ、こっちにも連絡が来てたよ。ありがとう」
「手伝ったんだから、今日も純レト念を教えてくれますよね?」
「分かった、教えるよ……今日は純レト念のバリアについて教えようかな。ちなみに、私の純レト念、バリアだけはかなり強力で、実戦用の増幅器にも劣らなかったりするんだよ」
「え~、本当ですか?」
この日は純レト念バリアの訓練が続いたが、ワレオにはかなり難しく、ほとんど進展はなかったようだ。
数日後、学園内にある屋内戦闘訓練場。ワレオはここで戦闘訓練の授業に参加していた。
こういった屋内の訓練場は学園内にいくつかあり、人のレト念の出力の強さや攻撃の威力を測ることができるレト線機器、貸し出し用の増幅器などが常備されている。
また、屋外の運動場などはその他の授業や部活で使われていることも多く、レト念関連の授業は戦闘訓練場で行われることが多い。
戦闘訓練の授業では、主に同学年の学生同士が1対1で訓練用の増幅器(学生の私物の場合が多い)を使って対戦を行い、戦いぶりに応じて教師が評価をつけたり、後で指導を行ったりする。
危険動物や悪党と戦う実戦では多対多の戦闘になることも多いが、現状、スポーツ的な戦闘では1対1が主流であることや、教師側の評価・指導のしやすさを考慮し、戦闘訓練の授業は1対1で戦うものが主流だ。
ワレオは当然、戦闘訓練の授業が嫌いだった。増幅器の扱いが苦手で、やられっぱなしのことが多いからだ。
それでも最低限の技術だけは身に着け、14年生になるまで退学や留年は免れてきた。
今日は既に何回か他学生の訓練を見たワレオ、そろそろ番が回ってきそうだ。
対戦する学生の組み合わせはどういう基準なのかはよく分からないが、教師が上手いこと決めているようだ。
「次の対戦は……」
手にしたクリップボードを見ながらそう言う、不愛想な教師の男。
彼の名前はオシテー・ザンル。レト念学園の戦闘訓練担当教師の一人だ。
学園卒業直後から教師を務めているベテラン教師であり、簡単に言うと「厳しい先生」だ。ワレオはオシテー先生が苦手だった。
ワレオはいつか授業で純レト念を使って周りを驚かせようかとも考えていたが、今日は担当がオシテー先生だったのでやめておくことにした。
こんな、世間的には役に立たず授業にも関係ないものを使ったら、ふざけているのかと詰められて面倒なことになるのが目に見えているからだ。
オシテー先生が口を開く。
「次、キララとワレオ」
「はい」
オシテー先生に指名され、ワレオともう一人の橙色のロングヘアをポニーテールにまとめた女子学生が同時に返事をする。
ワレオの対戦相手になった彼女の名前はキララ・マクハリ。ワレオと同じ14年生だが、戦闘での強さは上級生を含めた現在の学生たちの中でトップと噂されている優秀な学生だ。また、少し静かな雰囲気の持ち主ではあるが、学園内に友人も多く、実力と合わせて人気のある学生だった。
相手がキララと分かり、ワレオは好都合だと感じた。キララが相手なら惨敗しても周りからは大して何も言われないだろうと思ったからだ。
ワレオとキララがフロアの中央近くに移動し、向かい合う。二人の距離は10メートル。ワレオは普段通りの射撃・格闘両用の増幅器を、キララは剣型の増幅器を構えた。
この最初の位置関係は、スポーツ的な戦闘や訓練でよく使われるもので、射撃タイプ増幅器と格闘タイプ増幅器どちらかが有利になりすぎないようにと考えられたものらしい。
オシテー先生がフロアの端、他の学生たちの前に立ち、戦闘開始の合図を出そうとしている。
レト念関連科目の教師は優秀なレト念行使者ばかりで、対戦中は審判になると同時に、放たれる攻撃から周りの人を守る役割なども持っているのだ。
「キララ・マクハリ 対 ワレオ・ナカムラ、戦闘開始!」
オシテー先生が戦闘開始の合図を出した。




