【第1章その2】
「世界がとびきり面白くなりますように!!」
ワレオがそう叫びながら手を振り払う。すると、青いレト念が放たれ、一瞬で消えた。
ハンキは驚いた。
「ええ!? なんて思いながらやればいいか分かったの?」
「はい、誰かがそう念じているようなイメージが、強く浮かんできたんです。でも今、確かにレト念が放たれるのが見えましたよね! ハンキさん、ありがとうございます!」
「あはは、ワレオくんだっけ? 喜ばしいことかは分からないけど、完全に才能があるみたいだね。よかったらもっと訓練してみる?」
「もちろんです! でも、実戦レベルの……純レト念を扱えるようになるのは、どれくらい大変なんでしょうか……」
「うーん、それは分からない。なんせやってる人がほとんど居ないからね。ちなみに私は最初は雑にやってたから、戦闘訓練で緑色のレト念を飛ばして人を驚かせるまで1年かかったよ」
「1年ですか……おれはそれ以上かかってもいいです。これ、すごく楽しいので」
「そ、そうか。でもこの調子なら、すぐに上達しそうな気もするね。まずは、射撃タイプのレト念がもっと持続するようになるまで、今みたいな訓練を続けてみよう。あ、訓練方法や教え方は、私も手探りだから、そこは許してね」
「ありがとうございます!」
ワレオはそう言って再び手を振り始める。そして数秒後。
「……世界がとびきり面白くなりますように!!」
「えっと……その世界がとびきり面白くなりますようにってのは、強く念じればよくて、声に出す必要はないんだけど…… いや、出した方がよかったりするのか!? 分からん! まあ少なくとも、私は毎回言ったりしてないから、多分必要ないと思うよ。なにより、毎回それを言うのはかっこ悪くて実用性がさらに下がるというか」
「ああ、すみません!」
「ああいや、私の説明が足りてなかったよね。ごめんごめん」
更に数十分後、
ワレオが手を振ると、何回かに1回は目に見える青いレト念が放たれるようになっていた。
突然、機械音が鳴り響く。
「ピピピピピ!!!」「おっと……」
鳴り出したアラームを止めて、更に訓練を続けるワレオ。
結局この日は夕方まで訓練がつづき、ワレオは手を振ると毎回、すぐに消えてしまうものの一応レト念を放つようになっていた。
訓練に夢中になるワレオに、ハンキが話しかける。
「もうこんな時間だけど、帰らなくて大丈夫? それとも寮に住んでるのかな?」
「ああ、もうこんな時間……そうですね、そろそろ帰らないといけません。今日はありがとうございました。あの、また明日来てもいいですか?」
「うん、大丈夫だよ。でも、学業は大丈夫なの?」
「はい。おれ、13年目の必修科目はもうほとんど終わってて、しばらくあんまり授業がないんです」
「私と違ってレト念関連科目以外は優等生だったか」
「いや、そんなこと……」と言いながら小屋の裏から離れようとするワレオ。
「リュック忘れてるよ!」
「ああ、すみません、ありがとうございます……」
次の日の昼。ハンキの小屋。
「ピーヒョロピー!!!」
「(ワレオくんかな?)」
ハンキがドアを開けると、居たのはやはりワレオだった。ワレオが会釈すると、ハンキが挨拶する。
「ああ、ワレオくんか、こんにちは」
「こんにちは。今日も純レト念を教えてもらえませんか?」
「うん、そう言ってたもんね。教えるよ」
ワレオはかなり心配そうな表情をし始めた。
「実は昨日、家に帰ってから純レト念を放とうとしてみたんです。そうしたら、全然上手くいかなくて……」
「あ~~説明し忘れてたねこれ。そう、最初のうちは、前に上手くいったときと似たような状況じゃないと上手く扱えないんだよね。純レト念は必要なイメージのハードルが高いのかも知れないよね。心配しなくていいと思うよ」
「そうですか……分かりました」
昨日と同じく小屋の裏に向かう二人。そこでワレオが声をかける。
「ハンキさんは、純レト念を誰に教わったんですか?」
「誰にも教わってない。全部自分で手探りで編み出したものばっかりだね」
「え!? そうなんですか? そもそも、どうやって純レト念に気付いたんですか?」
「私も最初はできるなんて思ってなかったんだ。ある日どうしても現実が気に入らなくて、一人でこういう場所でいじけてたんだ。そうしたらなんとなく、あの訓練をすれば何か起こるような気がして、粘り強く続けてみた」
「そうだったんですね……すごすぎます」
「うん、我ながら、無駄なことに長時間集中できるなんて、すごい才能だと思うよ」
「そうじゃなくて……あ、今日の目標は引き続き、射撃タイプの純レト念の持続時間を延ばすことでいいですか?」
「うん、いいと思う。私が思うコツは、頭の中の具体的なイメージを強化することと、誰かが何かを伝えようとしてくる感覚に同調することかな。まあ、これはほとんどの純レト念に言えることなんだけど」
「分かりました、やってみます」
ワレオは昨日と同じく、手を振って純レト念を放つ訓練を始めた。
数十分後、ハンキにとっては想定内だったが、ワレオが放つレト念には特に変化が見られない。
心配になったワレオが話し始める。
「うーん、持続時間が全然伸びないですね……」
「そりゃあ、私は1年かかったわけだからね。強いてアドバイスするなら、表情と動きに遊び心が足りてないかな。いろんな動きを試してみるといいよ」
「うーん、難しいですね……」
ワレオはそう言いながらも、言われた通りに訓練を続けた。表情を変えてみたり、振る手を変えてみたり、増幅器を構えているようなポーズをしてみたり……
「お、その射撃タイプ増幅器を構えてるみたいなポーズのとき、いい表情だった気がするよ」
「ああ、これですか?」
「そう、それ。レト念を扱えない子供がごっこ遊びをしているみたいで恥ずかしいかも知れないけど、私の経験上、純レト念の覚え始めはそういう童心みたいなのと相性が良いんだよね」
「あ、安定してきましたよ!」
ワレオは増幅器を構えているようなポーズのまま、青いレト念を何度も放ち始めた。相変わらず一瞬で消えてしまうものの、自分の思ったタイミングで放つことができているようだ。
「やっぱり才能があるみたいだなあ。その感じでしばらく続けてみよう。そういえば、ワレオくんは普段の戦闘訓練では射撃タイプ増幅器を使うの?」
「えっと、大型の射撃タイプなんですけど、先端にナイフ型の増幅器が付けられるやつです」
ワレオが言っているのは、読者の世界で言う銃剣付き小銃のような増幅器のことだ。
「ああ、あれか。短時間の間にタイプの違う攻撃方法を使うのは難しいって言われてるよね。私には一生縁が無さそう」
「あはは……実はおれ、ナイフ部分は全く使ってなくて、普段は外してるんです……ただの少し高くて重たい射撃タイプ増幅器ですよ。いずれちゃんと扱えるようになるといいんですけど」
ワレオは同じようなポーズのまま、粘り強く純レト念を放つ訓練を続ける。
途中、ハンキの提案で試しに放たれたレト念をハンキが食らってみたが、スパーク音が鳴り、しっかりレト念による攻撃を受けたときの痛みと衝撃があった。
「うげっ!!」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫。安心した、ちゃんと威力があるみたいだね。たったの2日でまともな純レト念使いとはね」
そんな会話をしながら、この日も夕方まで訓練が続いた。
ワレオが発射する純レト念は少し持続時間が伸びる結果となり、ワレオはかなり喜んでいた。
「ハンキさん、今日もありがとうございました。明日も来ていいですか?」
「うん、私が暇だったらまたいろいろアドバイスするよ」
次の日の昼。ハンキの小屋の一階。
ハンキがなにやらコントローラを持ち、読者の世界で言うテレビゲームに没頭している。自らのメモ帳をぺらぺらめくりながら、真剣な様子だ。
ハンキが遊んでいるのはレト線を利用した画面ゲーム「ライトニングボックス」。カートリッジ交換式で様々なゲームが遊べて、戦闘用のレト念を扱えない子供を中心に人気がある娯楽だ。ハンキはこれが大好きだった。
本体に小さめの画面も付いているが、ハンキは別売りの大型画面を小屋に置いて遊んでいた。
今ハンキが遊んでいるタイトルはエキサイトトレジャーハンターストーリー3(略してエキトレ3)で、ジャンルは読者の世界で言うRPGだ。
ハンキはすでにこのタイトルを随分前にクリア済みだが、今朝唐突に遊び始めて熱中してしまったのだ。
「(え、前にやったときこのトレジャー取り逃してないか!? 今回は取り逃しがないようにしないと)」
「ピーヒョロピー!!!」
ハンキがエキトレ3に熱中する中、無情にもチャイムが鳴る。
「(おっと……ワレオくんかな?)」
ハンキが渋々ドアを開けると、居たのはやはりワレオだった。
「こんにちは!連日すみません。今日も訓練を見てもらっていいですか?」
「え~、今私、エキトレ3で忙しかったんだけど」
ワレオは驚いた様子で、開いたドアから小屋の中を覗く。ハンキの言う通り、ライトニングボックスとその周辺機器が見えた。
するとワレオが意外なことを言い始める。
「大型画面の近くにパワフルレーシングが置いてありますね?」
「えっ、うん」
ワレオの言う通り、大型画面の近くにはパワフルレーシングというタイトルのライトニングボックス用カートリッジが置いてあった。
こちらはレールに沿わずにレト念で走る架空の乗り物「パワフルカー」を題材にしたレースゲームで、妨害アイテムや加速アイテムも登場するカジュアルなものだ。
「あれで5回対戦して、おれが3回以上勝ったら、訓練を見てもらうっていうのはどうですか?」
「あっ、はい、いいよ」
ハンキはワレオがどんなプレイヤーなのかが気になってしまい、二つ返事で条件を呑む。
「では、小屋の中にお邪魔してもいいですか?」
「見せられる状態になってるかな、まあ大丈夫か。ああ、入っていいよ」
「すみません、お邪魔します」ワレオが入り口で靴を脱ぎ、小屋の中に入る。
小屋の1階の中央には低めのテーブルと座布団があり、周囲にはライトニングボックスの他にトイレ、キッチン、冷蔵庫、収納棚などがあった。
洗面所もあり、その隣に洗濯機や風呂もあるようだ。
「そこで手を洗ってもいいですか?」
「ああ、どうぞ」
ワレオが洗面所で手を洗っている間に、ハンキは遊んでいる途中だったエキトレ3を中断する準備を進める。
進捗を保存したのを確認した後、カートリッジをパワフルレーシングに切り替えると、ワレオが手洗いを終えてやってきた。
「適当に座って、リュックはその辺に置いておいて」とハンキが促す。
「失礼します。一応おれ、自分のコントローラ使いますね」
ワレオはリュックを降ろして座ると、リュックの中からライトニングボックス用のコントローラを取り出した。
「すぐに対戦を申し込んだ上に、コントローラを持ち歩いているのか?嫌な予感がする」とハンキは訝しんだ。
画面にはパワフルレーシングの画面が表示され、ハンキが設定などをいじりはじめる。
するとワレオがコントローラを接続しながら提案する。
「コースはランダムで、自動操作カーはありにしましょうか。1対1だと大味な勝負になっちゃうので」
「わかった、それで5回対戦して、順位が高かった回数が多い方が勝ちね?」
「はい、そうしましょう」
二人が設定やマシン選択などを終え、二分割されたレース画面が現れた。
自動操作カー2台を含めたパワフルカー4台によるレースが始まる。
コースは落石が転がってくるなどの障害物が多い山道コースだ。
スタート後、カーブがいくつか続き、ハンキとワレオが他の2台を徐々に置き去りにしていく。
最初のアイテム箱エリアを通過したが、ハンキは緊張からかアイテムを取り逃してしまい、ワレオだけが加速アイテムを獲得した。
ワレオは加速アイテムを使い加速したあと、独特のテンポで3回ジャンプをした。
「げっ、その加速時間を少し延ばす方法は知る人ぞ知るやつじゃないか! 私の他にやってる人見たことないぞ」
ハンキは嫌な予感が的中したことに呆れ、同時に嬉しくなった。
その後、ハンキは緊張と驚きからか障害物にぶつかるなどのミスを連発し、レースはワレオが勝利した。
「よし、まずはおれの勝ちです」
「まさかここまでできるとはね。でも、私は今回とてつもなく調子が悪かっただけだから」
二人は笑いながら次のレースに進む。
次のレースも似たような結果となり、ワレオが勝利した。
「ふふ、さっきは調子が悪かっただけじゃないんですか?」
「うっ、やばいかも」
ワレオはこのまま勝つ気満々だったが、後の3回ではハンキが調子を取り戻したのか、危なげなくハンキが3回勝利してしまった。
「最初の2回は異様に調子が悪かっただけなんだって。私は滅多に嘘をつかないからね」
「くう、本当に強いですね…… 今日は大人しく帰るとします……」
「あっいや、訓練は見てあげるよ。遊びに付き合ってくれたお礼に」
「そんな、対戦を提案したのはおれじゃないですか。でも、ありがとうございます。それにしても、自動操作カーは全然おれたちに付いて来れなくて、必要ありませんでしたね」
「はは、そうだね」
二人は楽しそうにライトニングボックスを片付け始めた。




