【第1章その10】
ウニを連れていった男3人をハンキとエンドーが倒した頃、学園のアリーナではトーナメント戦の準決勝戦が行われていた。
控え室に居るモック・デロンは、次の自分の対戦に向けて心の準備をしていた。
そして控え室のスピーカーから声が響く。
「それでは、もう片方の準決勝に参りましょう。次の対戦はワレオ・ナカムラ 対 モック・デロン!」
その声を聞いたモックは、対戦相手のワレオと共に、競技エリアへと向かっていく。
つい先ほど控え室のモニターで見たリンタローとニッキーの対戦では、リンタローが圧勝してしまった。
自分もリンタローには勝てないかも知れない。しかし、まずは目の前のこの謎の14年生に勝てるように尽くさなくては。
相手の増幅器はキャメシマと同じもののようだ。キャメシマのときと同じように戦えば、きっと勝てるだろう。
しばらく歩き、所定の位置につくと、マカリー先生が合図を出す。
「ワレオ・ナカムラ 対 モック・デロン、戦闘開始!」
まず自分の得意な中距離戦に持ち込むために、射撃タイプ増幅器を持って素早く相手に向かって走り出す。
相手はこちらに向かって数発射撃をしてきた。しかし、連射速度も威力もキャメシマに遠く及ばないようだ。
モックは学生や教師との度重なる訓練により、相手の攻撃の光を見るだけで、その威力を瞬時に正確に判断する能力を持っていた。
そして、判断した威力に対して、最適な力配分で防ぐ能力も持っていた。
無駄のない動きと力加減により、最大限の反撃を行うことができるのだ。
モックは少し移動してある程度の攻撃はかわしつつ、避けにくい弾に対してバリアを張る。目に映る黄色い弾は大した威力ではない。
はずだったのだが、何故かモックのバリアが一撃で割られてしまう。
全く予想していなかった衝撃により、大きく怯むモック。相手はそこに更に射撃を畳み掛けてくる。
身を守るため、再びバリアを張るモック。
しかし、見えた相手の攻撃に対して最適な力配分で防ぐ能力は、能力というより反射や癖の域に達していた。
張ったバリアの強度はまたしても不十分で、バリアは割られてしまう。
モックはなぜか、サバイバル部の活動で野生動物と戦ったときのことを思い出した。もちろんそのときは難なく相手の攻撃を防いだはずなのだが……
そのまま連続で攻撃を受け、倒れるモック。そしてマカリー先生の声が聞こえてきた。
「そこまで! 勝者ワレオ・ナカムラ!」
ワレオとモックが対戦していた頃、アリーナの近くの林。
気絶している倒した男3人を見つめるハンキ。
エンドーはウニにこれまでの経緯を話しながら、倒した男3人の増幅器のカートリッジを回収し、所持品などを調べていた。
「モエルンダ財閥が関係してる根拠を示すのに苦労すると思ってたんだが、相手が無茶をしたおかげで楽に済みそうだ」
「エンドーさん、本当にありがとう。実戦用の増幅器を使わされたのは本当に驚いたよ……持った感じは全然変わらないから」
「まあ、そういうものだからな。おそらくマカリー先生が、君の使ってる増幅器のことをよく調べたんだろう」
「ハンキちゃんも、助けてくれてありがとう」
「合ったことありましたっけ……?」
「さて、本部と学長に連絡するか……んっ!? 2人とも気を付けろ! 誰か居る!」
次の瞬間、3人を狙った黄色く光る弾が連続で飛んでくる。
とっさにバリアを張るエンドー。ハンキも近くに居たウニと自分にバリアを張る。
3人は弾き飛ばされ、ハンキとウニ、そしてエンドー1人に二分されてしまう。
そしてハンキとウニの周りに様々な増幅器を持った覆面の人物が3人、エンドーの方にも同じような人物が3人駆け寄ってきて、増幅器を構え始めた。
反射的に両手を左右に少し伸ばし、自分とウニを囲むように緑色の球形のバリアを張るハンキ。
周りに居る3人の敵が、ハンキのバリアに攻撃を始める。
するとエンドーの叫び声が聞こえる。
「いいぞハンキ! そのままウニさんを守っててくれ! すぐ助けに行く!」
ハンキの視界の奥でエンドーが順調に周囲の敵を倒してはいるが、エンドーがこちらに来るまでにハンキのバリアは耐えられそうにない。
「無理い゛い゛い゛い゛、だずげでエンドーオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
「ハンキちゃん、今度はあたしが守るよ」
ハンキが横を見ると、いつの間にかウニがダボダボジャージ姿から、丈の短いショートパンツ姿に変わっていた。
少しすると、ウニの太ももから足首にかけてを青い光がまとい始める。
「(純レト念!?)」
そしてウニが動き出し、ハンキのバリアを飛び出したかと思うと、凄まじい速さで敵の1人に左足で膝蹴りを入れ、倒した。
更に、動揺して動きが止まった敵をもう1人、右足の回し蹴りで倒した。
「(助かった……ってなんじゃこりゃ!)」
しかし、ウニが敵の残り1人に背後を取られてしまう。敵の持った剣型増幅器が黄色い光をまとい、ウニの背中に迫る。
「後ろ! 危ない!」
思わず叫ぶハンキ。
それと同時に、敵に黄色い光が飛んできて命中し、敵は倒れた。
エンドーの方を見ると、こちらに向かって増幅器を構えている。彼の周りには最初の3人と合わせて6人もの人が倒れていた。
エンドーはすぐにダイダンエン用の連絡機器で本部に連絡を始める。
「本部、こちらエンドー。至急、レト念学園に大人数の応援を送ってくれ。ついさっき、モエルンダ財閥が雇っているうちの社員たちに襲われた。おそらく財閥がレトフェスで不正行為をして、それをもみ消すために危険行為をしている。繰り返す。至急、レト念学園に大人数の応援を送ってくれ。敵の数は不明。待ち伏せには十分注意してくれ」
そしてレト板を取り出し別の誰かに連絡を始める。
「シャロン学長、例の件の犯人が分かりました。キララさんに毒を盛ったのも、ウニさんに実戦用の増幅器を使わせたのも、おそらくモエルンダ財閥とマカリー先生です。モリゾーさんの関係者とマカリー先生を捕らえた後、トーナメントを中止してください。リンタローにも十分注意してください」
一方、学園のアリーナでは、いよいよ今年のトーナメントの決勝戦が行われようとしていた。
リンタローと共に競技エリアに向かうワレオ。
「(ウニさんの失格にも驚いたけど、モックさんに勝てたのも驚いたな。確かに射撃に純レト念は混ぜたけど……どうなってるのかなあ)」
なにもかもが怪しく感じたワレオは、周りを見回してみる。
すると、確かに様子がおかしい。VIP席のモリゾー・モエルンダは教師たちに取り押さえられているし、いつのまにか競技エリアに入ってきた職員たちが、こちらを見ているような気がする。
すると、もともと競技エリアに居たマカリー先生が、こちらに近寄りながら声をかけてくる。
「リンタローさん、ワレオさん、少しいいですか?」
言われるがまま、リンタローと共にマカリー先生に近づくワレオ。
ワレオにはよく聞こえなかったが、マカリー先生はリンタローになにか耳打ちをし始める。
「工作がバレたわ。彼を人質にして一緒に逃げるのを手伝って。どのみち私が捕まったら、全部あなたとお父さんの指示だってことをバラすわ」
顔が青ざめるリンタロー。
するとマカリー先生が、ウニから受け取っていた実戦用の増幅器をリンタローに渡し、次の瞬間、凄まじい身のこなしでワレオに掴みかかり、ワレオの増幅器を奪い捨てた後、ワレオを羽交い絞めにしてきた。
「えっ!? えっ!?」
訳が分からずあたふたするワレオ。
周りには職員が集まってきていて、こちらに向かって増幅器を構えていた。
そして、リンタローもマカリー先生から受け取った実戦用の剣型増幅器に黄色い光をまとわせ、ワレオに向かって構えている。
使い慣れていないものだとしても、無防備な状態でまともに攻撃されれば死んでしまうかも知れない。
「動くな! それ以上近づいたらこいつを殺す!」
職員たちに向かって叫ぶリンタロー。
「(おれ、人質にされてる!?)」
職員たちが手を出せない中、ワレオを捕らえたまま、少しずつ出口に向かっていくマカリー先生とリンタロー。
「(これはチャンスかも知れないぞ)」
ワレオは羽交い絞めにされながらもゆっくりと肘を曲げて、おぼつかないながらも増幅器を構えるようなポーズを取り始めた。
そして、せわしなく職員たちとワレオを交互に見ながら歩くリンタローに狙いを定める。
「(食らえ!)」
ワレオの手元から青い光の弾が飛び、リンタローの顔に直撃する。
衝撃で倒れるリンタロー。
周りの職員からリンタローに追撃が飛び、ワレオのもとにやってきた何人かの職員がマカリー先生を引き離す。
「(やっぱり、なにもかもがおかしかったな……)」
数分後、エンドーはダイダンエンの応援を待ちつつ、周囲を警戒していた。
しかし、これ以上敵が現れる様子はないようだ。
エンドーがふとハンキに質問する。
「ところでハンキ、ウニさんはお前の弟子なのか?」
「知らない人です……」
「そうなのか? でも、さっきのは……」
「……」
ウニはなぜか黙っている。
「分かったぞ。お前、ハンキのストーカーかなにかだな? 人を観察するのは得意そうだったしな」
「!!!」
ウニは分かりやすく焦ったような表情をしている。
「いつからだ?」
エンドーの問いに対し、ウニではなくハンキが口を開く。
「あれほどの純レト念を会得するには時間を要するはず。訓練方法の講義に学生は居なかった気がするし、いつ私の技を盗み見たんだろうなあ」
「うっ……」
「まあ、ハンキに絡む分には許してやろう。他の人はだめだぞ。見つけたら逮捕するからな」
少し嬉しそうな表情をするウニ。
ハンキがつぶやく。
「私の意見は……?」
第2章へ続く。
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