【第1章その1】
小説を書くのは初の試みです。
世界観は、魔法に頼ってたり、街が少なかったり、宝箱が眠る未開の自然があったりしますが、大体は現代日本をイメージしています。
話の「大筋」はシリアス寄り、細かいノリは緩めを目指しています。
とある秋の昼下がり、広い体育館のような場所の中央近くで、若い学生の男女が向かい合っている。二人の距離は10メートルほど。男の方は小銃のような武器を構え、女の方はオレンジ色に光る剣のような武器を右手に構えている。今にも戦闘が始まりそうな雰囲気だ。
髪はどちらも黒髪で、服装を見てみると、男の方は高級そうな白っぽいスーツで、それに見合う腕時計なんかも着けている。女の方は上に白いブラウス、下にダボダボの青いジャージを身に着けている。
他の学生たちや教師らしき女がフロアの端からそれを見ていて、教師らしき女が戦闘開始の合図を出した。
「リンタロー・モエルンダ 対 ウニ・バース、戦闘開始!」
開始早々、リンタローが武器から黄色く光る弾を次々に発射する。弾速は速くないが、連射速度はなかなかのもので、独特のうなり音と共に弾幕がウニに襲い掛かる。
ウニはそれを左に避けながら走って少しずつリンタローに近づいていく。
レト念という、不思議な光る魔法の力が蔓延って久しいこの世界。
この世界では人を含めあらゆる動物はレト念を発生させることができると言われていて、そのおかげか、刃物で斬られても浅い傷しかつかないなど、物理的な攻撃に対しては強い耐性を持っていた。
そんな中、争いに使われるのも「レト念」だ。
人や動物以外に対する影響は弱いものの、弾として飛ばして相手を攻撃したり、体の一部にまとわせて攻撃・防御したりと、戦闘に用いられてきた。
一部の危険動物は相手を死に追いやるほどの強力なレト念を扱える中、人は非常に弱いレト念しか扱うことができないのだが、近年ではとある技術を応用した携帯型のレト念増幅器を用いることで、人も戦闘用のレト念を扱うことができるようになった。
増幅器は物理的な武器のような形をしていて、読者の世界で言う銃のような形をした射撃タイプと、レト念を増幅器の一部にまとわせて相手を攻撃する、ナイフや剣の形をした格闘タイプがある。
リンタローは増幅器を右に向けて狙いを相手に追いつかせ、歩いて後退しながら更に弾を発射する。
ウニは弾幕を避けきれず、弾の接触を許してしまう。が、タイミングよく体にオレンジ色の光のバリアを張り、攻撃を防いだ。
体の周りにレト念バリアを張って防御する機能はほとんどの増幅器に備わっているのだ。
今度はウニが反対側に走って弾を避けながら再び少しずつリンタローに近づいていく。どうやらバリアで攻撃を防ぎ続けることはできないようだ。
このような攻防がしばらく続いたあと、リンタローが増幅器に付いたカートリッジを自分の腰のポーチに付いていた予備と素早く交換し始める。
増幅器は射撃・格闘・バリア、いずれも増幅用のカートリッジを消耗するが、射撃は比較的消耗が激しく、頻繁なカートリッジ交換が必要になるのだ。
するとウニがその期を逃すまいと真っすぐ相手との距離を詰め、ついに相手を攻撃範囲に捉えて斬りかかる。
勝負あったかと思われたが、リンタローはそれをすんでのところで躱し更にウニの右腕を掴み体勢を崩させると、装填の済んだ増幅器をウニに向け始める。
ウニは諦めず、少し得意気な表情で素早く左膝で蹴りを入れる。しかし、リンタローはほとんど体勢を崩さず、そのままウニに弾の連射を浴びせる。
光のバリアが張られたが弾けるような音と共にすぐに割れ、ウニは転げ倒れた。
「そこまで!!」教師らしき女が叫ぶと、リンタローは武器を下ろし、学生たちがざわめき始める。
ウニは倒れたまま何故か笑って呟く。「やっぱり、このままじゃだめか……」
いろいろ説明してきたが、戦闘時のレト念の出力、操る上手さなどは人によって実に様々。というか、増幅器をもってしても、実用レベルのレト念を扱える人は少数派だ。
ここはそんな中、レト念の発生量が比較的多めで見込みある者たちが集う巨大教育施設、「レト念学園」の訓練場。
レト念学園は一般的な教育施設と同じような教育内容に加えて、増幅器を用いてレト念を扱う技術も学ぶことができる、16年制の学園だ。
ここを卒業することができる者は、晴れて「レト念行使者」となり、それに応じた職業に就くことができる。
敷地内には先ほどの訓練場や、数百人以上収容できる寮やアリーナなど、綺麗で壮観な建物が並ぶ。
しかしそんな中、敷地の西の端の方にプレハブ小屋が並ぶ寂れた地帯があり、そこのとある二階建て小屋の二階のベッドに暇そうに寝転がっている、少し長い青髪の男が居た。
彼の名前はハンキ・ライト。一応レト念学園を数年前に卒業した人物だが、増幅器の扱いが非常に下手な上に学業に対して向上心もなく、劣等生だった。
今も学園に所属していて、臨時の講師や雑用などをやることもあるが、ほぼ無職と言っていい状態であり、仕事の頻度から考えて彼の生活費がどこから出ているのかは学園内では謎となっている。
今日も彼は心の中でつぶやく、
「(どうしたら純レト念がもっとチヤホヤされるのかなあ)」
純レト念というのは、増幅器なしで扱う戦闘用のレト念のことを、ハンキが勝手にそう呼んでいるものだ。
そう、なんとハンキは増幅器なしでも実用レベルのレト念を扱うことができるという、極めて珍しい人物だった。
(便宜上、筆者も増幅器なしで扱う戦闘用のレト念のことを「純レト念」と呼ぶことにする)
純レト念は、ハンキが幼少期から長年かけて(周りからやれと言われることはやらずに)強化してきたもので、
他の人は到底同レベルに扱うことができない、確かにすごいものだ。
しかし、威力は一般的なレト念行使者が訓練用の増幅器(威力が抑えられている)を使ったときと同レベルで、習得のタイパも悪く、世間的には見向きもされない技術でもある。
ハンキは自分の好きな技術ばかり探求し、あろうことかそれが周りにチヤホヤされないことを不満に思うという、どうしようもない人物だった。
「ピーヒョロピー!!!」
小屋の1階の入り口近くにある小鳥のオブジェから電子音のような音が鳴る。小屋への来訪者を知らせるチャイムだ。
こういった機器は「レト線機器」と呼ばれ、増幅器よりも前から人が使っているものだ。人ははるか昔に、開発した様々な装置と家畜由来のレト念を併用して「レト線」を張り巡らせ、灯りを点けたり仕掛けを動かしたり遠くの誰かと通話したり、なんとレト念を使って戦闘と無関係なインフラを敷くことに成功していた。
増幅器も、レト線の技術を応用した産物だと言われている。
「(え? 誰かな?)」
ハンキはベッドから起き上がり、急ぎ階段を下りていき、入り口にある靴を履く。
ハンキはコミュ障の気があるが、他者が自分を訪ねてくるのは好きだった。
特にやましいことがあるわけでも、仕事などに追われているわけでもないハンキを訪ねてくるということは、雑用などの頼み事がある場合がほとんどだからだ。
その場合、頼まれた自分の方が有利な立場である気分に浸れる上に暇つぶしになるため、心地よいのだ。
とはいえ、相手が誰か分からないので恐る恐る入り口のドアを開ける。
「こんにちは?」とドアを開け終わらないうちからハンキが声をかける。
訪ねてきたのは、おそらく学園の学生であろう見知らぬ男だった。大型の増幅器も入りそうな大きめのリュックを背負っていて、身長はハンキより少し低く、髪は茶髪で、整った顔立ちだが気弱そうな雰囲気を持っている。
申し訳なさそうに男が自己紹介を始めた。
「あ、失礼します。レト念学園14年生のワレオ・ナカムラと申します。ハンキさんに頼みがあって来ました」
やはり頼み事。しかもただの学生だったかと安心しつつ、ドアを手で押さえながらハンキが返す。
「ああ、私がハンキです。用件は?」
「えっと、増幅器なしでレト念を扱う技術について教えて欲しいんです」
どうせ雑用かなにかだろうと身構えていたハンキは嬉しくなったが、同時に驚いた。純レト念の扱い方など、普通は学生が学ぶメリットなど無いと客観視していたからだ。
「いいけど、どうして?」
「おれ、増幅器の扱いが下手で、レト念関連の科目の成績が悪くて……出力テストはいつも問題ないんですけど、そうしたら知り合いが、似たような卒業生が学園に居るって教えてくれて……」
「うーん、興味を持ってくれるのは嬉しいけど、増幅器なしでレト念を扱う技術があっても、成績にはあんまり影響しないような」
そう、レト念関連の科目では、増幅器や関連機器を使った結果が主に評価されるため、純レト念の技術は成績を良くするのにはほとんど使えない。
だからハンキも劣等生だったわけだ。
「いや、いいんです。正直、成績にはあんまりこだわってないっていうか、訓練でちょっと友達を驚かせたいっていうか、自分だけの何かが欲しかったっていうか・・・だから、もし可能なら、増幅器なしでレト念を扱う技術、教えてほしいです!」
「あー分かったよ、ただ、学業には支障が出ない程度にね。私はその、大体暇だから、好きなときに来て。最初のうちは、数時間とかまとまった時間が必要だから、忙しくないときにね」
「ありがとうございます! あの、今日はちょうどもう授業が無いんですけど、早速教えていただけませんか?」
「なるほど、分かった。やってみよう。もしかしたら才能あるかも知れないからね。トイレとかは大丈夫?」
「大丈夫です」
「ここの裏にちょうどいい訓練場があるから、そこへ行こう」
ハンキは靴を履き、入り口近くの収納棚をゴソゴソやって鍵を取り出すと外へ出て鍵を閉め、ワレオを小屋の裏にある空き地に連れて行く。
物干し竿などが置いてある道を少し歩くと、小屋の裏に着いた。小屋の裏にはフェンスと小屋に挟まれた広めのスペースがあり、フェンスの内側も外側も木が生えて薄暗い林のようになっていた。小屋のそばに木製の一人用イスが2つ置いてあるが、それ以外は何もない。
「(訓練場って言ってたけど、なんの設備もないな……)」とワレオは思った。
歩くのを止めて振り返ったハンキが話し出す。
「とりあえず、リュックはそこのイスに置いてもらえばいいかな?」
「はい。」とリュックをイスに置くワレオ。続けてハンキが話す。
「先に言っておくけど、純レト念、ああ、増幅器なしで扱うレト念のことね。純レト念を扱えるかどうかは、正直向き不向きによるところが大きいんだ。だから、あんまり期待しないでね」
ハンキの認識では、純レト念関連の技術は、才能に依存する部分が大きい。低学年時代、放課後に遊んだ(付き合わせた)多くの同級生の中でも目に見えるレト念を一瞬だけ放つことができたのが2人だけだった他、1年ほど前にとある教師の研究目的で優秀なレト念行使者10人に3日間かけて純レト念について教えさせられたときは、扱えるようになったのが1人だけだった上に、その威力も、受けた側が少し押された感覚がある程度の弱いものだった。
ちなみにその研究以降、純レト念の技術はわざわざ習得するに値しないものという学園内での評価が、より確固たるものになってしまった。
「分かりました」とワレオが答え、ハンキが説明を続ける。
「こういう木とか自然を感じるところがやりやすいんだ。まずは適当な木に向かって1時間、レト念による攻撃を放つイメージをし続けて。格闘タイプだと持続時間や発動タイミングのハードルが高いから、まずは射撃タイプのイメージで。やるときは童心に返ってね。振り払った手から放つイメージをするのもいいね。しばらく続けていると、誰かが自分を見て、何かを伝えようとしているような変な感覚があるかも知れない。なかったら更にやり続ける」
「分かりました」
ワレオは素直に頷きながら、ポケットから充レト式多機能携帯板、略してレト板を取り出し、1時間のアラームを設定する。それを見たハンキが思わず言う。
「え、1時間もそんな訳の分からないことをするのかって驚かないの?」
「いえ、驚きはしましたが、嘘をついているようには感じなかったので」
「そ、そうか」
一般的な増幅器使いからしたら冗談のような訓練方法にワレオが難色を示さなかったことに驚いたハンキだったが、そんなハンキをよそに、ワレオは木に向かって手を伸び縮みさせ始めた。
しばしの沈黙があったが、ハンキが声をかける。
「じゃあ、その変な感覚が起き始めたら教えて。私も近くで訓練してるから」
ハンキは少し離れたところで、木に向かってレト念による射撃タイプの遠距離攻撃を放ち始めた。
何もしないのも退屈だし、他者に純レト念のことを教えるにあたって、初心を思い出したいと考えたからだ。
ハンキが振り払った手から、緑色に光るレト念の弾が飛ぶ。
レト念による攻撃の色は、それを放つ人や動物によって変わるが、増幅器を使った場合は暖色、そうでない場合は寒色になると言われている。
幹に弾が当たった木は揺れもしないが、何度も弾が当たり続けた部分はほんの少しだけ皮が削れていた。
前述で少し触れたが、レト念による攻撃は、人や動物以外への影響はかなり控えめになるのだ。
ハンキが少し呼吸を整えてから、再び攻撃を放ち始める。
今度は放たれた弾が、木の幹をすり抜け、しばらく飛んだあとに消えた。
レト念による攻撃は、思いの力次第で、物理的な壁をすり抜けることもできるのだ。
二人はときどきお互いの様子を見ながら、訓練を続けた。
数十分ほど経った頃、ワレオが声を出す。
「これかな? ……ハンキさん、変な感覚、分かったかも知れません」
「本当か? どんな感覚?」
「手を振っていると、訓練する自分を見るようなイメージが頭に浮かんでくるんです。他の事を考えようとしても、強制的に」
ワレオから聞いた現象は、ハンキが低学年時代に純レト念を編み出し始めたときと一緒だった。
「おお、まさにそれだよ!そうしたら、世界がとび」
「世界がとびきり面白くなりますように!!」
ハンキが話し終える前に、ワレオがそう叫びながら手を振り払う。すると、青いレト念が放たれ、一瞬で消えた。




